第14章 はじまりの真実 ]U
すべての話が終わって宿に戻る頃には、すでに日付が変わっていた。にも関わらず、宿には明かりが灯り、大きなものではないが話し声が飛び交っていた。
「…なら、旅の仲間がこれだけいるんだ。うまく戦力を分けて、全員の負担をできるだけ減らして進むっていうのはどうだ?」
「しかしティルキス様。カイウス達の話だと、終始魔物に襲われる可能性は考えた方がいいでしょう。不測の事態が起きた場合、その方法では特に疲労した仲間が足でまといとなり、全員を危機に招く可能性もあるのでは。」
「なぁ、ロイン。ケノンから遺跡までってどのくらいかかるんだ?」
「さあな。行ったことねぇのに知るかよ。」
そこで行われていた会話は、次の目的地へと向かうための段取りを決めるためのものだった。その次の目的地とは、ここスディアナとケノンの間にあるエルナの森の中、さらに奥深くに位置する呪われた遺跡と呼ばれる場所―――ホッポ遺跡だ。あの昼でも夜のごとく暗くて視界が悪く、魔物だらけで危険だったエルナの森と同等、あるいはそれ以上に危険な場所だと付近の住民からは言われており、誰も近づきたがらないという。
「けど、父さんは何度もその場所に行ってたんだよなぁ…。信じらんねぇ。」
「実は最強なんじゃねぇかお前の父さん!?」
だがそのような場所にわざわざ出向かなければならず、ロインが思わず嘆息してしまう理由が遺跡にはあった。
「ドーチェさんって、白晶岩のためならまさに火の中水の中な人だったのね…。」
ロインとカイウスの会話の内容に、ルビアもため息を吐くしかなかった。そして彼女の言った『白晶岩』の存在こそ、彼らがその地に向かわなければならない理由だった。最盛期の白き星の民と同等の力を持つティマであれば、この国内にいる分にはどこにいようともその魔力を引き出せるとゼガから聞いた。しかし、ティマ自身が白晶岩の在り処を知らなければ、引き出し場所がわからないために力を使うことが適わないと言う。そしてこの国の外に出てしまうと、物理的距離のために力を引き出せないらしい。そのため、彼らは白晶岩の在り処を知り、その欠片を手にするためにその地を巡る必要ができたのだ。マウディーラに存在する白晶岩は、全部で4つ。そのすべての位置はゼガから聞いた。そのうち、スディアナから最も近くにあるのがホッポ遺跡だった。それを聞いた彼らは、次の目的地をそこに決めた…までは良かった。
「けれど、こうも条件が厳しいとは思わなかったわ。ケノンで装備を十分整えないといけないわね。」
アーリアは腕を組みながら言い、窓の外を見上げた。その先には、ティマらのいる城からこぼれた明かりがほのかに見えている。明日はティマを迎えに行き、そして街を旅立つことを決めている。残ったメンバーでホッポ遺跡攻略の方法をいくらか考えてはみたものの、納得のいく案はまだ思い浮かばなかった。
「兄さん。今日はここまでにして、もう休もう。」
「そうだな。」
しかし、明日は早い。これ以上の夜更しは旅に支障をきたしてしまうだろう。ルキウスの判断に異を唱える者は誰もおらず、カイウスの声を合図に一行は解散した。そしてもともとその部屋に泊まる予定だったロインとカイウス以外のメンバーが次々と退室していった時だった。
「おい、待て。」
最後にそこから出ていこうとしたラミーとその父・ヴァニアスを、ロインが低い声で呼び止めた。ラミーは首を傾げたが、隣に立つヴァニアスは面白そうに含み笑いをして彼を振り返った。
「結局はぐらかされたままだったからな。このまま消える前に答えろ。あんた、どうして父さんのことを知っていた?」
視線が合うと、ロインはヴァニアスを睨みつけながらそう口にした。だがそんな少年とは対照的に、ヴァニアスは一瞬呆けた表情をした後、愉快そうに声を上げて笑い出した。
「ハハハッ!なんだ。覚えてないのか?」
「は?」
「いや。覚えてないならいい…クククッ。」
「親父、そのくらいにしとけって。ロインの奴、静かにキレ出してるから。」
次第に腹を抱えて笑い出したヴァニアス。一方で、ラミーとカイウスは比例するようにロインの周囲だけ空気が冷えていくのを感じとり、彼が今にも抜刀して飛びかかるのでは、と冷や汗を流し始めそうになっていた。そんな彼らの心境に気づいているのかどうか、ヴァニアスは笑いを堪えながら、ようやく少年の問いに答えたのだった。
「ははっ。悪い悪い。なぁに、お前のお袋さんから紹介されてたから顔なじみだった。それだけの話だ。納得したか?」
だが軽い口調のその返答にロインは不服に思ったのか、さらに彼を睨みつけた。しかし、ラミーそっくりの笑い顔を浮かべる目の前の男にそれ以上答える気がないことを理解したのか、殺気のように鋭くなっていた苛立った気を静かに収めていった。ヴァニアスも彼がとりあえずとは言え納得したことをいいことに、踵を返して部屋から出て行った。
「じゃあな、ロイン、カイウス!」
そしてその後を追って、ラミーも手を振りながら駆けて行った。その背をカイウスは手を振り返して、ロインは素知らぬ顔で彼女とは別の方向を向いたまま、姿が見えなくなるまで見送った。そして彼女からも2人の姿が見えなくなり、宿の外に出た父親の横に並ぶと、ラミーはそれまでのやり取りを面白がるように声をかけた。
「なぁ、親父?ロインが覚えてないって、何がだよ?」
「クククッ。いや、なんでもねぇよ。…それより、お前も俺に聞きたいことあんだろ、ん?」
しかし、その質問はラミーの思わぬ形で返されてしまった。そのことにラミーは少し動揺を覚え、そして下を向いて考え込んでしまった。ギルドの首領、そして自分の父親としての部分しか知らなかったヴァニアスのことについて、他人から様々な情報を耳にしてきた。その真偽を確かめようにも、当の本人が死んだと聞かされ、それは叶わないことなのだと諦めようとしていた。しかし、こうして生きているとわかった今、スポット騒動や次々と入ってくる様々な真実に頭がいっぱいで忘れていたが、彼に聞きたいことは山のようにあったのだ。
「…ここじゃなんだから、船長室でいいか?」
それをヴァニアスの一言によって思い出したラミーは、顔を上げると、彼にそう尋ね返した。ヴァニアスはそれに軽く笑って返すと、何事もなかったように船へと歩いて行った。
その頃。カイウスとロインは部屋へ戻り、それぞれベッドの上に寝転がっていた。
「それにしても大変なことになったなぁ。冥府の法で開いた分の“門”全部閉じるためには、マウディーラ中の白晶岩を回らなきゃいけないんだもんな。」
「良かったじゃねぇか。レイモーンの“門”が閉じてくれてて。じゃなきゃ足りなかったぞ、白晶岩。」
「なんでそう客観的なんだよ、お前は…。」
カイウスはそう言って呆れに近い表情をし、こちらに背を向けるロインに対しため息を吐いた。そのロインはというと、残されたもう一つの謎に考えを巡らせていた。それはラミーやグレシアら『白晶の装具』の装備者の身に起きた、生命力が弱まった時に身体能力や機能が増大するという現象についてである。国王やゼガらはその現象を認知していたものの、その理由までは把握できていなかったらしい。ただ、推測では『白晶の装具』から力が漏れ出て、それが装備者のステータスに影響を及ぼしたのではないか、ということだった。
「どのみち、ケノンに行かなきゃ何も進まねぇ、か。」
あの町に行けば、ドーチェの研究の痕跡が残っているはずだ。そう考えポツリとロインがこぼせば、独り言を聞き取ったカイウスが「ん?」と首を傾げた。しかしロインはそれを無視すると、襲い来る睡魔に素直に身を委ね、静かに眠りについたのだった。
「…なら、旅の仲間がこれだけいるんだ。うまく戦力を分けて、全員の負担をできるだけ減らして進むっていうのはどうだ?」
「しかしティルキス様。カイウス達の話だと、終始魔物に襲われる可能性は考えた方がいいでしょう。不測の事態が起きた場合、その方法では特に疲労した仲間が足でまといとなり、全員を危機に招く可能性もあるのでは。」
「なぁ、ロイン。ケノンから遺跡までってどのくらいかかるんだ?」
「さあな。行ったことねぇのに知るかよ。」
そこで行われていた会話は、次の目的地へと向かうための段取りを決めるためのものだった。その次の目的地とは、ここスディアナとケノンの間にあるエルナの森の中、さらに奥深くに位置する呪われた遺跡と呼ばれる場所―――ホッポ遺跡だ。あの昼でも夜のごとく暗くて視界が悪く、魔物だらけで危険だったエルナの森と同等、あるいはそれ以上に危険な場所だと付近の住民からは言われており、誰も近づきたがらないという。
「けど、父さんは何度もその場所に行ってたんだよなぁ…。信じらんねぇ。」
「実は最強なんじゃねぇかお前の父さん!?」
だがそのような場所にわざわざ出向かなければならず、ロインが思わず嘆息してしまう理由が遺跡にはあった。
「ドーチェさんって、白晶岩のためならまさに火の中水の中な人だったのね…。」
ロインとカイウスの会話の内容に、ルビアもため息を吐くしかなかった。そして彼女の言った『白晶岩』の存在こそ、彼らがその地に向かわなければならない理由だった。最盛期の白き星の民と同等の力を持つティマであれば、この国内にいる分にはどこにいようともその魔力を引き出せるとゼガから聞いた。しかし、ティマ自身が白晶岩の在り処を知らなければ、引き出し場所がわからないために力を使うことが適わないと言う。そしてこの国の外に出てしまうと、物理的距離のために力を引き出せないらしい。そのため、彼らは白晶岩の在り処を知り、その欠片を手にするためにその地を巡る必要ができたのだ。マウディーラに存在する白晶岩は、全部で4つ。そのすべての位置はゼガから聞いた。そのうち、スディアナから最も近くにあるのがホッポ遺跡だった。それを聞いた彼らは、次の目的地をそこに決めた…までは良かった。
「けれど、こうも条件が厳しいとは思わなかったわ。ケノンで装備を十分整えないといけないわね。」
アーリアは腕を組みながら言い、窓の外を見上げた。その先には、ティマらのいる城からこぼれた明かりがほのかに見えている。明日はティマを迎えに行き、そして街を旅立つことを決めている。残ったメンバーでホッポ遺跡攻略の方法をいくらか考えてはみたものの、納得のいく案はまだ思い浮かばなかった。
「兄さん。今日はここまでにして、もう休もう。」
「そうだな。」
しかし、明日は早い。これ以上の夜更しは旅に支障をきたしてしまうだろう。ルキウスの判断に異を唱える者は誰もおらず、カイウスの声を合図に一行は解散した。そしてもともとその部屋に泊まる予定だったロインとカイウス以外のメンバーが次々と退室していった時だった。
「おい、待て。」
最後にそこから出ていこうとしたラミーとその父・ヴァニアスを、ロインが低い声で呼び止めた。ラミーは首を傾げたが、隣に立つヴァニアスは面白そうに含み笑いをして彼を振り返った。
「結局はぐらかされたままだったからな。このまま消える前に答えろ。あんた、どうして父さんのことを知っていた?」
視線が合うと、ロインはヴァニアスを睨みつけながらそう口にした。だがそんな少年とは対照的に、ヴァニアスは一瞬呆けた表情をした後、愉快そうに声を上げて笑い出した。
「ハハハッ!なんだ。覚えてないのか?」
「は?」
「いや。覚えてないならいい…クククッ。」
「親父、そのくらいにしとけって。ロインの奴、静かにキレ出してるから。」
次第に腹を抱えて笑い出したヴァニアス。一方で、ラミーとカイウスは比例するようにロインの周囲だけ空気が冷えていくのを感じとり、彼が今にも抜刀して飛びかかるのでは、と冷や汗を流し始めそうになっていた。そんな彼らの心境に気づいているのかどうか、ヴァニアスは笑いを堪えながら、ようやく少年の問いに答えたのだった。
「ははっ。悪い悪い。なぁに、お前のお袋さんから紹介されてたから顔なじみだった。それだけの話だ。納得したか?」
だが軽い口調のその返答にロインは不服に思ったのか、さらに彼を睨みつけた。しかし、ラミーそっくりの笑い顔を浮かべる目の前の男にそれ以上答える気がないことを理解したのか、殺気のように鋭くなっていた苛立った気を静かに収めていった。ヴァニアスも彼がとりあえずとは言え納得したことをいいことに、踵を返して部屋から出て行った。
「じゃあな、ロイン、カイウス!」
そしてその後を追って、ラミーも手を振りながら駆けて行った。その背をカイウスは手を振り返して、ロインは素知らぬ顔で彼女とは別の方向を向いたまま、姿が見えなくなるまで見送った。そして彼女からも2人の姿が見えなくなり、宿の外に出た父親の横に並ぶと、ラミーはそれまでのやり取りを面白がるように声をかけた。
「なぁ、親父?ロインが覚えてないって、何がだよ?」
「クククッ。いや、なんでもねぇよ。…それより、お前も俺に聞きたいことあんだろ、ん?」
しかし、その質問はラミーの思わぬ形で返されてしまった。そのことにラミーは少し動揺を覚え、そして下を向いて考え込んでしまった。ギルドの首領、そして自分の父親としての部分しか知らなかったヴァニアスのことについて、他人から様々な情報を耳にしてきた。その真偽を確かめようにも、当の本人が死んだと聞かされ、それは叶わないことなのだと諦めようとしていた。しかし、こうして生きているとわかった今、スポット騒動や次々と入ってくる様々な真実に頭がいっぱいで忘れていたが、彼に聞きたいことは山のようにあったのだ。
「…ここじゃなんだから、船長室でいいか?」
それをヴァニアスの一言によって思い出したラミーは、顔を上げると、彼にそう尋ね返した。ヴァニアスはそれに軽く笑って返すと、何事もなかったように船へと歩いて行った。
その頃。カイウスとロインは部屋へ戻り、それぞれベッドの上に寝転がっていた。
「それにしても大変なことになったなぁ。冥府の法で開いた分の“門”全部閉じるためには、マウディーラ中の白晶岩を回らなきゃいけないんだもんな。」
「良かったじゃねぇか。レイモーンの“門”が閉じてくれてて。じゃなきゃ足りなかったぞ、白晶岩。」
「なんでそう客観的なんだよ、お前は…。」
カイウスはそう言って呆れに近い表情をし、こちらに背を向けるロインに対しため息を吐いた。そのロインはというと、残されたもう一つの謎に考えを巡らせていた。それはラミーやグレシアら『白晶の装具』の装備者の身に起きた、生命力が弱まった時に身体能力や機能が増大するという現象についてである。国王やゼガらはその現象を認知していたものの、その理由までは把握できていなかったらしい。ただ、推測では『白晶の装具』から力が漏れ出て、それが装備者のステータスに影響を及ぼしたのではないか、ということだった。
「どのみち、ケノンに行かなきゃ何も進まねぇ、か。」
あの町に行けば、ドーチェの研究の痕跡が残っているはずだ。そう考えポツリとロインがこぼせば、独り言を聞き取ったカイウスが「ん?」と首を傾げた。しかしロインはそれを無視すると、襲い来る睡魔に素直に身を委ね、静かに眠りについたのだった。
■作者メッセージ
おまけスキット
【王族の自覚】
アーリア「『一国の姫を、わざわざ戦いに出向かせるなど言語道断!』…だそうよ?ティルキス。」
フォレスト「アーリア。今更何を言っても無駄だ。わかっているだろう。」
ティルキス「あ、ははは…。」
ロイン「まっ、そうは言ってもティマだって王族だなんて自覚ねぇんだし。いい勝負だろ。」
ティマ「し、仕方ないでしょ!?ティルキスと違って、こっちは庶民育ちなんだから!」
カイウス「ははっ!確かにな。」
ルキウス「そういう兄さんも、忘れてない?ボクらの母さんだって、レイモーン王家の末裔だよ?」
ルビア「そういえばそうね。ルキウスは品があるからいいとして…カイウスはどうかしらね?」
カイウス「なんだよ!まるでオレには品がないみたいな言い方しやがって…。それならルビアだって同じだろ?一緒にフェルンで育ったんだからな。」
ルビア「あら。あたしは立派なレディとして育ってきたから、カイウスとは違うわよ。」
カイウス「こんな可愛げのないレディがどこにいるんだよ。」
ルビア「なんですって!?」
ラミー「まぁ、カイウスはともかく、ティマは本気で自覚しねぇとやばいんじゃないか?あのまま王位継承する気かよ?」
ベディー「ははっ。ギルドの首領やってるあんたに言われたらおしまいだな。」
ラミー「ハッ!その元凶のくせに、よく言うよ。」
【王族の自覚】
アーリア「『一国の姫を、わざわざ戦いに出向かせるなど言語道断!』…だそうよ?ティルキス。」
フォレスト「アーリア。今更何を言っても無駄だ。わかっているだろう。」
ティルキス「あ、ははは…。」
ロイン「まっ、そうは言ってもティマだって王族だなんて自覚ねぇんだし。いい勝負だろ。」
ティマ「し、仕方ないでしょ!?ティルキスと違って、こっちは庶民育ちなんだから!」
カイウス「ははっ!確かにな。」
ルキウス「そういう兄さんも、忘れてない?ボクらの母さんだって、レイモーン王家の末裔だよ?」
ルビア「そういえばそうね。ルキウスは品があるからいいとして…カイウスはどうかしらね?」
カイウス「なんだよ!まるでオレには品がないみたいな言い方しやがって…。それならルビアだって同じだろ?一緒にフェルンで育ったんだからな。」
ルビア「あら。あたしは立派なレディとして育ってきたから、カイウスとは違うわよ。」
カイウス「こんな可愛げのないレディがどこにいるんだよ。」
ルビア「なんですって!?」
ラミー「まぁ、カイウスはともかく、ティマは本気で自覚しねぇとやばいんじゃないか?あのまま王位継承する気かよ?」
ベディー「ははっ。ギルドの首領やってるあんたに言われたらおしまいだな。」
ラミー「ハッ!その元凶のくせに、よく言うよ。」