外伝4 出会いの剣 U
ホッポ遺跡は、太古にこの地を治めていた者の宮殿だという説が一般的であり、中は広く、迷宮のように入り組んでいる。そしてフロアのところどころにある大広間のどこかに、ドーチェの目的とするものがあった。
「紅蓮剣!秋沙雨!」
だが、その道中は決して安全とは言えない。遺跡の中にはグールやスケルトンといった魔物が、そこいら中を蠢いていた。
「天地を焦がし、邪を焼き、我に仇為す全てに業火の裁きを!エクスプロード!」
剣撃の最中、グレシアは詠唱し、身を退くと共に目の前に巨大な火球を落とし爆発させた。それにより、多くの敵はその業火に身を包み、灰となって彼らの前から消えていった。
「すごいですね。詠唱には多大な集中力を必要とします。普通、剣で戦いながらできるものではありませんよ。」
ふう、とひとつ息をついて剣を収めたグレシアの後ろで、ドーチェは感心していた。通常、剣と術の関係は前衛と後衛に完璧に分かれる。剣に守られて、術は初めて形を為す。彼女が今やってのけたように、守りを必要としない術の形態はそう見られるものではない。
「魔法剣士って、プリセプツの詠唱中無防備になるでしょ?その隙を狙われちゃ、王族なんて守れない。そう思って訓練した賜物よ。たぶん、相当の手足れじゃなきゃこなせないでしょうね、“普通”は。」
彼女は興味ないというように言い、先へと進み始めた。だが、ドーチェはその言葉の裏に、彼女の壮絶な努力を垣間見た。17歳という若さで近衛騎士隊長になったというのも、その努力を糧に得た功績なのだろう。中途半端な思いでは達する事の出来ない領域に足を踏み込めたのだ。彼女の騎士に対する想いは、並大抵ではないのだろう。
「…『ウルノア』だから、ですか?」
「え?」
気がついた時には、ドーチェの口は勝手に言葉を紡いでいた。
「『ウルノア』の名を背負っているから、騎士になると宿命づけられているから、そこまでできるのですか?」
きょとんとした表情で振り返ったグレシアに、ドーチェはそう問いかけた。いつものような微笑みはなく、真っすぐに彼女を見つめる瞳が無意識のうちに答えるように促していた。その様子を目にし、グレシアの表情も少しばかり強張った。
「…三騎士は王家の信頼を得、その力の恩恵を受け、代償に忠誠を誓った。」
少しの沈黙の後、グレシアはドーチェではなく、宙を眺めながら口を開いた。そんな彼女へ、彼は視線を向け続ける。
「確かに、『ウルノア』の家系は三騎士の中でも、代々王族の命を直に守る重責を担った。その任を果たすためには、死ぬほど苦労したって物足りないんでしょうね。私の両親は、生まれた時から私を騎士として厳しく育て上げた。けど、私にとってそれはただの『義務』でしかなかった。『ウルノア』の名も、剣を磨くことも、何もかも…。」
ドーチェは黙って聞いていた。だが、その途中でグレシアは再び剣を抜き、彼の横へ魔神剣を放った。
「でも、それがそうじゃなくなったの。」
驚き振り返ったドーチェの目に、放たれた衝撃波によって動きを止めたスケルトンの姿が映った。そして次いで、グレシアの光に満ちた声が耳に入った。刹那、その声の主が横を通り過ぎ、炎を宿した剣で魔物を薙ぎ払った。
「今の后様が嫁ぐ前のことだったな。城内で偶然出会って、お互いが誰だかもわからないまま言葉を交わして、意気投合したの。慣れない場所を出歩くのは緊張するものだ、ってね。」
いたずらっぽい笑みを浮かべて、グレシアは彼の瞳を見つめた。少し昔の出来事を思い出し、懐かしみ楽しんでいた。
「再会したのはそれから間もなくでね、婚約が決まって私が守るべき存在の一人であると教えられた時だったな。慣れない城内の、数少ない友人。少なくとも私はそう思っていた。だから“守りたい”って、“力になる”って、本気で思えたの。身分は違っても、今でも彼女は変わらずに笑いかけてくれる。だから夢中で剣を磨いた。私にできる事って、戦う事で誰かを守ることだから。」
剣を抜いたまま、彼女はドーチェに歩み寄りながら続けた。そして正面に立つと、くすっと笑顔を見せた。
「逆を言えば、彼女とそういう出会いがなかったら、今の私はなかったんだろうな、ってね。」
「…そうですか。」
彼女の答えに、ドーチェは満足そうに微笑んだ。初めは決められた道だったのかもしれない。だが、彼女は自身の意思でその道を歩いている。決心と誇りと共に。
「じゃあ、今度は私が聞く番!」
グレシアはそう言って、ドーチェの顔を下から覗きこむようにして見つめた。
「ドーチェは、何で研究を続けているの?こんな危険な場所に一人で来ようとしてまで。」
愛嬌のある瞳に見つめられ、少なからずドキッとしたドーチェ。だが、すぐにいつもの笑みを取り戻し、彼女に言葉を返した。
「それは、目的地に着いてからお話ししましょうか。」
「ええ〜、お預け?こっちは素直に話したのに〜!」
不服の声を上げるグレシア。だが、ドーチェはそれを可笑しそうに見つめるだけで、先へと歩を進めていった。
奥に進めば進むほど、遭遇する魔物の数が増えていった。さすがのグレシアにも疲れが見え始めるが、まだ余裕はあるらしい。難なく魔物を薙ぎ払っていった。
「すみません、グレシアさん。もう少しで目的地の広間です。」
少しでも早く目的地にたどり着こうと、2人は遺跡の中を駆けていた。ドーチェが敵を薙ぎ払うグレシアの少し後ろについて走りながら道を指示していく。彼女はそれに従いながら、行く先々にいる魔物を蹴散らし、道を切り開いていく。
「別に、これが仕事だもの。それにしては、やけにモンスターが多い気がするけど…!」
彼女は曲がり角を駆けながら、ドーチェに言った。そしてその途中で、彼女は言葉を失った。目の前に現れた光景に、思わず息をすることを忘れていた。
「…ここが、目的地ですよ。」
ドーチェはその隣に立つと、嬉しそうに笑みを浮かべた。彼らの前にあるのは、大広間の中央にそびえ立つ巨大な白い“岩”だった。それは淡く白い光を発光しているようで、ただそこにあるだけで幻想的だった。
「ドーチェ。これは?」
グレシアは初めて見るそれに、ただ呆然と立ち尽くしていた。ドーチェはゆっくりと歩を進め、その岩へと近づいていく。
「白晶岩と呼ばれています。マウディーラに数ヶ所だけ存在するもので、その詳細は明らかにされていません。」
その岩の傍らに膝をつき、彼は荷物の中から色々と道具を取り出し作業を始めた。グレシアは彼の隣へと歩いていき、その様子をじっと興味深げに見つめていた。
「先ほどの返事ですが」
作業の手を止めずに、ドーチェは静かに口を開いた。グレシアは視線を、彼の手元から顔へと移した。
「昔、考古学者だった母とここへ来て、大量の魔物に襲われました。2人とも、命辛々逃げ帰ることができましたが…。その時、僕はこの岩に魅入られたんです。どこか怪しく、そして美しい光を放つこの岩がなんなのか、知りたくて仕方がありませんでした。あらゆる資料が揃えられているケノンの図書館のどの文献にも、詳しいことは書かれていませんでした。その理由は、この岩が特に多く魔物の生息する場所にあるため、調査しようとしてもそう簡単にはいかないからだろうと僕は考えています。」
ドーチェは道具を設置しながら、手にしたカルテのようなものにデータを記して行く。
「この岩は魔物の死体、つまりその血肉によって生まれたものです。もともと、この場所は魔物の墓場だったのでしょう。やがて岩の基礎となる部分が生まれ、魔物たちはこの岩が放つ白い輝き、或いは人には関知できない特殊な臭いなどにある種の興奮状態を引き起こされ、集まり、そして互いを食い合い、白晶岩の糧となって吸収されていきました。そうした連鎖により、この岩は巨大化していきました。…これまでに僕が調べられたのは、これだけです。」
「調べられたって…どうやって?まさか、昨日みたいに単身乗り込んで?」
まさか、というような目で、グレシアは尋ねた。ここに辿り着くだけでもかなりの魔物と遭遇してきた。非戦闘員であるドーチェが一人で来られるような場所ではない。
「いえ。トルドに手伝ってもらって、ですよ。ただ、さすがに付き合いきれなくなったようで、グレシアさんに協力して頂いたというわけです。」
作業の手を止め、ドーチェは彼女に微笑んで答えた。その笑みに、グレシアはただならぬ何かを感じ取った。穏やかな物腰とは正反対の積極的な行動力。そのギャップに、思わず呆れ以上の何かを胸中に抱いてしまいそうだった。その一方で、彼の生き方に憧れに近い何かも感じていた。
「自由なのね。」
「そうでしょうか?」
「私にはそう感じる。」
「では、そうなのでしょうね。」
静かに口を開いたグレシア。その言葉に対し、ドーチェはただ微笑んでいた。と、その時、白晶岩が淡い光を放ち始めた。同時に、グレシアの胸元で同様の光が輝きだしたのだ。
「なに!?」
突然の事に驚き、思わず身体を硬直させたグレシア。だがすぐに、その光の正体を目の前に引っ張り出した。それは小さな白い結晶。彼女の首から下がっていた小さな白い結晶だった。
「それは…?」
「『白晶の首飾(クリスタル・ペンダント)』。『ウルノア』の名を継ぐ者に、代々受け継がれている宝よ。けど、こんなこと初めて…。」
共に同じ光を、まるで互いを呼んでいるように、呼吸をしているように放ち続ける二つの白い結晶。彼らの脳に浮かび上がったのは、共鳴という現象の名。それが起きると言う事は、この2つは同じ物質である可能性が限りなく高い。2人は口に出さずともその理解を共にし、共鳴を止めた2つの結晶をそのまましばらく交互に眺めていた。
「紅蓮剣!秋沙雨!」
だが、その道中は決して安全とは言えない。遺跡の中にはグールやスケルトンといった魔物が、そこいら中を蠢いていた。
「天地を焦がし、邪を焼き、我に仇為す全てに業火の裁きを!エクスプロード!」
剣撃の最中、グレシアは詠唱し、身を退くと共に目の前に巨大な火球を落とし爆発させた。それにより、多くの敵はその業火に身を包み、灰となって彼らの前から消えていった。
「すごいですね。詠唱には多大な集中力を必要とします。普通、剣で戦いながらできるものではありませんよ。」
ふう、とひとつ息をついて剣を収めたグレシアの後ろで、ドーチェは感心していた。通常、剣と術の関係は前衛と後衛に完璧に分かれる。剣に守られて、術は初めて形を為す。彼女が今やってのけたように、守りを必要としない術の形態はそう見られるものではない。
「魔法剣士って、プリセプツの詠唱中無防備になるでしょ?その隙を狙われちゃ、王族なんて守れない。そう思って訓練した賜物よ。たぶん、相当の手足れじゃなきゃこなせないでしょうね、“普通”は。」
彼女は興味ないというように言い、先へと進み始めた。だが、ドーチェはその言葉の裏に、彼女の壮絶な努力を垣間見た。17歳という若さで近衛騎士隊長になったというのも、その努力を糧に得た功績なのだろう。中途半端な思いでは達する事の出来ない領域に足を踏み込めたのだ。彼女の騎士に対する想いは、並大抵ではないのだろう。
「…『ウルノア』だから、ですか?」
「え?」
気がついた時には、ドーチェの口は勝手に言葉を紡いでいた。
「『ウルノア』の名を背負っているから、騎士になると宿命づけられているから、そこまでできるのですか?」
きょとんとした表情で振り返ったグレシアに、ドーチェはそう問いかけた。いつものような微笑みはなく、真っすぐに彼女を見つめる瞳が無意識のうちに答えるように促していた。その様子を目にし、グレシアの表情も少しばかり強張った。
「…三騎士は王家の信頼を得、その力の恩恵を受け、代償に忠誠を誓った。」
少しの沈黙の後、グレシアはドーチェではなく、宙を眺めながら口を開いた。そんな彼女へ、彼は視線を向け続ける。
「確かに、『ウルノア』の家系は三騎士の中でも、代々王族の命を直に守る重責を担った。その任を果たすためには、死ぬほど苦労したって物足りないんでしょうね。私の両親は、生まれた時から私を騎士として厳しく育て上げた。けど、私にとってそれはただの『義務』でしかなかった。『ウルノア』の名も、剣を磨くことも、何もかも…。」
ドーチェは黙って聞いていた。だが、その途中でグレシアは再び剣を抜き、彼の横へ魔神剣を放った。
「でも、それがそうじゃなくなったの。」
驚き振り返ったドーチェの目に、放たれた衝撃波によって動きを止めたスケルトンの姿が映った。そして次いで、グレシアの光に満ちた声が耳に入った。刹那、その声の主が横を通り過ぎ、炎を宿した剣で魔物を薙ぎ払った。
「今の后様が嫁ぐ前のことだったな。城内で偶然出会って、お互いが誰だかもわからないまま言葉を交わして、意気投合したの。慣れない場所を出歩くのは緊張するものだ、ってね。」
いたずらっぽい笑みを浮かべて、グレシアは彼の瞳を見つめた。少し昔の出来事を思い出し、懐かしみ楽しんでいた。
「再会したのはそれから間もなくでね、婚約が決まって私が守るべき存在の一人であると教えられた時だったな。慣れない城内の、数少ない友人。少なくとも私はそう思っていた。だから“守りたい”って、“力になる”って、本気で思えたの。身分は違っても、今でも彼女は変わらずに笑いかけてくれる。だから夢中で剣を磨いた。私にできる事って、戦う事で誰かを守ることだから。」
剣を抜いたまま、彼女はドーチェに歩み寄りながら続けた。そして正面に立つと、くすっと笑顔を見せた。
「逆を言えば、彼女とそういう出会いがなかったら、今の私はなかったんだろうな、ってね。」
「…そうですか。」
彼女の答えに、ドーチェは満足そうに微笑んだ。初めは決められた道だったのかもしれない。だが、彼女は自身の意思でその道を歩いている。決心と誇りと共に。
「じゃあ、今度は私が聞く番!」
グレシアはそう言って、ドーチェの顔を下から覗きこむようにして見つめた。
「ドーチェは、何で研究を続けているの?こんな危険な場所に一人で来ようとしてまで。」
愛嬌のある瞳に見つめられ、少なからずドキッとしたドーチェ。だが、すぐにいつもの笑みを取り戻し、彼女に言葉を返した。
「それは、目的地に着いてからお話ししましょうか。」
「ええ〜、お預け?こっちは素直に話したのに〜!」
不服の声を上げるグレシア。だが、ドーチェはそれを可笑しそうに見つめるだけで、先へと歩を進めていった。
奥に進めば進むほど、遭遇する魔物の数が増えていった。さすがのグレシアにも疲れが見え始めるが、まだ余裕はあるらしい。難なく魔物を薙ぎ払っていった。
「すみません、グレシアさん。もう少しで目的地の広間です。」
少しでも早く目的地にたどり着こうと、2人は遺跡の中を駆けていた。ドーチェが敵を薙ぎ払うグレシアの少し後ろについて走りながら道を指示していく。彼女はそれに従いながら、行く先々にいる魔物を蹴散らし、道を切り開いていく。
「別に、これが仕事だもの。それにしては、やけにモンスターが多い気がするけど…!」
彼女は曲がり角を駆けながら、ドーチェに言った。そしてその途中で、彼女は言葉を失った。目の前に現れた光景に、思わず息をすることを忘れていた。
「…ここが、目的地ですよ。」
ドーチェはその隣に立つと、嬉しそうに笑みを浮かべた。彼らの前にあるのは、大広間の中央にそびえ立つ巨大な白い“岩”だった。それは淡く白い光を発光しているようで、ただそこにあるだけで幻想的だった。
「ドーチェ。これは?」
グレシアは初めて見るそれに、ただ呆然と立ち尽くしていた。ドーチェはゆっくりと歩を進め、その岩へと近づいていく。
「白晶岩と呼ばれています。マウディーラに数ヶ所だけ存在するもので、その詳細は明らかにされていません。」
その岩の傍らに膝をつき、彼は荷物の中から色々と道具を取り出し作業を始めた。グレシアは彼の隣へと歩いていき、その様子をじっと興味深げに見つめていた。
「先ほどの返事ですが」
作業の手を止めずに、ドーチェは静かに口を開いた。グレシアは視線を、彼の手元から顔へと移した。
「昔、考古学者だった母とここへ来て、大量の魔物に襲われました。2人とも、命辛々逃げ帰ることができましたが…。その時、僕はこの岩に魅入られたんです。どこか怪しく、そして美しい光を放つこの岩がなんなのか、知りたくて仕方がありませんでした。あらゆる資料が揃えられているケノンの図書館のどの文献にも、詳しいことは書かれていませんでした。その理由は、この岩が特に多く魔物の生息する場所にあるため、調査しようとしてもそう簡単にはいかないからだろうと僕は考えています。」
ドーチェは道具を設置しながら、手にしたカルテのようなものにデータを記して行く。
「この岩は魔物の死体、つまりその血肉によって生まれたものです。もともと、この場所は魔物の墓場だったのでしょう。やがて岩の基礎となる部分が生まれ、魔物たちはこの岩が放つ白い輝き、或いは人には関知できない特殊な臭いなどにある種の興奮状態を引き起こされ、集まり、そして互いを食い合い、白晶岩の糧となって吸収されていきました。そうした連鎖により、この岩は巨大化していきました。…これまでに僕が調べられたのは、これだけです。」
「調べられたって…どうやって?まさか、昨日みたいに単身乗り込んで?」
まさか、というような目で、グレシアは尋ねた。ここに辿り着くだけでもかなりの魔物と遭遇してきた。非戦闘員であるドーチェが一人で来られるような場所ではない。
「いえ。トルドに手伝ってもらって、ですよ。ただ、さすがに付き合いきれなくなったようで、グレシアさんに協力して頂いたというわけです。」
作業の手を止め、ドーチェは彼女に微笑んで答えた。その笑みに、グレシアはただならぬ何かを感じ取った。穏やかな物腰とは正反対の積極的な行動力。そのギャップに、思わず呆れ以上の何かを胸中に抱いてしまいそうだった。その一方で、彼の生き方に憧れに近い何かも感じていた。
「自由なのね。」
「そうでしょうか?」
「私にはそう感じる。」
「では、そうなのでしょうね。」
静かに口を開いたグレシア。その言葉に対し、ドーチェはただ微笑んでいた。と、その時、白晶岩が淡い光を放ち始めた。同時に、グレシアの胸元で同様の光が輝きだしたのだ。
「なに!?」
突然の事に驚き、思わず身体を硬直させたグレシア。だがすぐに、その光の正体を目の前に引っ張り出した。それは小さな白い結晶。彼女の首から下がっていた小さな白い結晶だった。
「それは…?」
「『白晶の首飾(クリスタル・ペンダント)』。『ウルノア』の名を継ぐ者に、代々受け継がれている宝よ。けど、こんなこと初めて…。」
共に同じ光を、まるで互いを呼んでいるように、呼吸をしているように放ち続ける二つの白い結晶。彼らの脳に浮かび上がったのは、共鳴という現象の名。それが起きると言う事は、この2つは同じ物質である可能性が限りなく高い。2人は口に出さずともその理解を共にし、共鳴を止めた2つの結晶をそのまましばらく交互に眺めていた。