第15章 継がれゆく灯火 W
思わぬ形でそれを手にしたロインは、驚きのあまり思わず硬直してしまう。だが、いつまでもそうしてはいられない。怪腕樹は再び枝を伸ばして襲いかかってきた。
今はこれに頼るしかない!
まだ僅かにためらいはあるものの決断し、勢いよく鞘から引き抜く。すると、長らく抜かれていなかったにも関わらず衰えを知らない白銀に輝く刃が顔を出した。
「リキュペレート!皆、今だ!」
同時にルキウスがプリセプツをフィールド全体に向けて放った。彼らを苦しめてきた封印が解かれ、体の内から力が甦ってくるのを感じる。
「受け取って!アグリゲットシャープ!」
力が戻った刹那、アーリアが前衛陣に補助の魔法をかける。その効果で力を増強した彼らは、一気に片をつけに出た。
「これで決める!ダスト・トレイル!」
「翔舞烈月華!」
「行くぞ!天翔連牙撃!」
「驟雨双破斬!」
ティルキスはトレント、フォレストはボア、カイウスとロインは2体いる怪腕樹それぞれに向けて渾身の一撃を叩きつけた。強烈な奥義を食らった魔物らは倒れた。するとボスのような存在が敗れ、状況が不利だと悟ったのか、スポットや雑魚共は蜘蛛の子を散らすように森の奥へと消えていった。
「た、助かったぁ…。」
ようやく終わりを告げた戦闘に、疲れきった声がティマからこぼれた。
「ラミー!」
だが緊張の糸が緩んでいられるのも束の間だった。ルキウスの焦った声が聞こえ、皆が振り返った。すると、ルキウスにもたれかかる形で倒れているラミーの姿があった。真っ先にアーリアが容態を確認しに駆け寄り、他の仲間たちも次々と3人のもとへと集まると少女の顔を覗き込んだ。そして脂汗をかき、ひどく青白い顔のままぴくりともしない彼女に、思わず息を呑んだ。
「ラミー!大丈夫、ラミー!?」
「落ち着つけ、ティマリア!…アーリア、どうだ?」
今にも取り乱しそうなティマをベディーが肩をつかんで落ち着くよう諭す。だが彼も、ティマにそう言うことで自らの気持ちを落ち着けようと必死なようだ。それをわかっているからか、他の仲間たちは焦りを感じつつも黙ってアーリアの言葉を待っていた。
「…ひどく消耗してるわ。とにかく休ませないと。」
そして口を開いたアーリアも、努めて冷静に皆に伝えた。
「こんなところにいるよりもケノンの方がいい。急げば今日中に辿り着ける。」
「俺が運ぼう。」
「頼む、フォレスト。」
それを聞き、瞳を細めたロイン。だが次にはいつもと変わらぬ口調で言い、それを聞いたフォレストが華奢な身体を背に負った。彼らの様子を見ながらティルキスは大剣を収め、カイウスへと目を向ける。
「みんな、急ごう!」
その意図を理解したカイウスはロインと共に先頭に立ち、仲間たちは2人に続いてケノンへと急いだ。
ケノンに着いた一行は、真っ先にリーサの宿屋へと向かった。エイバス家は相変わらずの様子だろうから、そんな場所でラミーを休ませるわけにはいかない。そう考えた結果、以前訪れた時よりもだいぶ大所帯となったことなど構わずに一行は足を運んだ。リーサとトルドはさすがに驚いていたものの、彼らを快く迎えてくれた。それから急いでラミーをベッドへと寝かせた後、すでに日が沈みきってしまっているということで、ロイン達もそれぞれに割与えられた部屋で休むことにした。
翌朝。ルビアは何か物音を聞いたような気がして目を覚ました。顔を横に向けてみると、ティマはまだ隣のベッドで眠い目をこすっていた。
「ふにゃあ?ルビアどうしたの?」
「ううん。なんでもないわ。おはよう、ティマ。」
「うーん…おはよー。」
起き上がる彼女の気配に、ティマはまだどこか寝ぼけた様子で尋ねた。その微笑ましい光景にくすっと口の端を上げながら答えると、ルビアはベッドから出て身支度を始めた。ティマも大きく欠伸をするとようやく起床し、彼女の身支度が整ったところで2人そろって部屋を出た。
「あら、おはよう。朝食の用意はできているわよ。」
1階の食堂に降りると、リーサの笑顔と朝食の匂いが彼女たちを迎えた。テーブルにはティルキスにベディー、それにアーリア、フォレスト、ルキウスがすでにいた。
「みんな、おはよう。ロインは?」
「まだ見てないな。」
「カイウスと相部屋だろ?2人して珍しく寝過ごしてんじゃないのか?」
「カイウスはともかく、ロインが寝過ごすっていうのはなんだかイメージないわね。」
「ルビア、さすがに兄さんに悪いんじゃない?」
ティマが朝の挨拶と一緒に尋ねるとベディーが応え、その横でティルキスが「もしかして」と笑う。ルビアも会話に混じって笑い、彼女の言葉にルキウスは困ったような顔をしながらも笑っていた。
「ふぅ、弱ったなぁ。」
噂をすればカイウスとロインが食堂へと姿を現した。ただし、現れたのは2階に続く階段からではなく、宿屋の入口からだった。
「ロイン!?それにカイウスも!」
「こんな早くからどこかに出かけてたの!?」
てっきりまだ部屋で寝ているものだと思っていた仲間たちは椅子から飛び上がって驚き、一気に2人に問いかけた。あまりの勢いにカイウスの方も驚いてしまい、落ち着け、と仲間にジェスチャーをし、その隣でロインがぶっきらぼうに答えた。
「武器屋に行ってたんだよ。ほら、昨日の戦闘で折れちまっただろ?」
「それなら一言言ってからでも良かったじゃない。部屋にいると思ってたからびっくりしちゃったわよ!」
「こいつ、オレが気づかなきゃ、まーた一人で黙って行くとこだったんだぞ?それなのに声かけるひまなんてあるかよ。」
ルビアの言い分にカイウスは親指でロインを指しながら呆れた声で言う。が、当のロインはそんなことなどどこ吹く風のようだ。その様子を見て、ティマは重いため息を吐いた。
「それで、良い剣はあったの?」
アーリアが聞くと、それが、とカイウスは声を沈ませた。
「エルナの森の魔物がスポットのせいで凶悪化してただろ?そのせいで町の自警団が武器を買い込んで、剣は今在庫が切れてるんだと。」
「だから、しばらくはこの剣を借りるしかないってわけだ。」
ロインは言って、腰に下げている剣を軽く叩いた。その表情は、まだどこか納得しきれていないという感じだった。仕方がないとはいえ、形見の剣を使うことにまだためらいが残っているのだろう。だが長年の癖からか、僅かに眉間にシワを寄せる程度にしか感情を表に出さない彼の心境を察することができた者はおらず、仲間たちは2人を朝食の席につくよう促すだけだった。そしてカイウスとロインも、特に異を唱えることなくその声に従った。
「それで、どうする?」
一通り食事が済んだ頃、フォレストが口を開いた。ラミーが倒れたことは予定外だったが、この町を訪れることはもともと彼らの予定にあったことだ。図書館やロインの家に残されている可能性のあるホッポ遺跡、あるいは白晶岩に関する情報を集めること、それにアイテムの補充が、ここに来た目的だ。
「必要なのは、買い物と調べ物だったよね?それじゃあ、道具屋に図書館、あとロインの家のそれぞれに分かれた方が、効率がいいと思うのだけど。」
ティマが提案すると、ルビアがそれに頷いて言葉を続けた。
「たぶん、図書館はホッポ遺跡、ロインの家は白晶岩について、きっと何かあるはずよね。」
「そうだね。それじゃあティマの言うとおり3つのグループに手分けして…って、あれ?ロインは?」
さっきまでいた場所にロインの姿がない。ルキウスが気づいた時には、カランと店の扉についている鈴が鳴っていた。見れば、扉の向こう側へと消えていく金髪が一人。そして何が起きたか悟った瞬間、カイウスの肩がわなわなと震え出した。
「…だから、一人で勝手に行くなってぇえええええ!!!」
今はこれに頼るしかない!
まだ僅かにためらいはあるものの決断し、勢いよく鞘から引き抜く。すると、長らく抜かれていなかったにも関わらず衰えを知らない白銀に輝く刃が顔を出した。
「リキュペレート!皆、今だ!」
同時にルキウスがプリセプツをフィールド全体に向けて放った。彼らを苦しめてきた封印が解かれ、体の内から力が甦ってくるのを感じる。
「受け取って!アグリゲットシャープ!」
力が戻った刹那、アーリアが前衛陣に補助の魔法をかける。その効果で力を増強した彼らは、一気に片をつけに出た。
「これで決める!ダスト・トレイル!」
「翔舞烈月華!」
「行くぞ!天翔連牙撃!」
「驟雨双破斬!」
ティルキスはトレント、フォレストはボア、カイウスとロインは2体いる怪腕樹それぞれに向けて渾身の一撃を叩きつけた。強烈な奥義を食らった魔物らは倒れた。するとボスのような存在が敗れ、状況が不利だと悟ったのか、スポットや雑魚共は蜘蛛の子を散らすように森の奥へと消えていった。
「た、助かったぁ…。」
ようやく終わりを告げた戦闘に、疲れきった声がティマからこぼれた。
「ラミー!」
だが緊張の糸が緩んでいられるのも束の間だった。ルキウスの焦った声が聞こえ、皆が振り返った。すると、ルキウスにもたれかかる形で倒れているラミーの姿があった。真っ先にアーリアが容態を確認しに駆け寄り、他の仲間たちも次々と3人のもとへと集まると少女の顔を覗き込んだ。そして脂汗をかき、ひどく青白い顔のままぴくりともしない彼女に、思わず息を呑んだ。
「ラミー!大丈夫、ラミー!?」
「落ち着つけ、ティマリア!…アーリア、どうだ?」
今にも取り乱しそうなティマをベディーが肩をつかんで落ち着くよう諭す。だが彼も、ティマにそう言うことで自らの気持ちを落ち着けようと必死なようだ。それをわかっているからか、他の仲間たちは焦りを感じつつも黙ってアーリアの言葉を待っていた。
「…ひどく消耗してるわ。とにかく休ませないと。」
そして口を開いたアーリアも、努めて冷静に皆に伝えた。
「こんなところにいるよりもケノンの方がいい。急げば今日中に辿り着ける。」
「俺が運ぼう。」
「頼む、フォレスト。」
それを聞き、瞳を細めたロイン。だが次にはいつもと変わらぬ口調で言い、それを聞いたフォレストが華奢な身体を背に負った。彼らの様子を見ながらティルキスは大剣を収め、カイウスへと目を向ける。
「みんな、急ごう!」
その意図を理解したカイウスはロインと共に先頭に立ち、仲間たちは2人に続いてケノンへと急いだ。
ケノンに着いた一行は、真っ先にリーサの宿屋へと向かった。エイバス家は相変わらずの様子だろうから、そんな場所でラミーを休ませるわけにはいかない。そう考えた結果、以前訪れた時よりもだいぶ大所帯となったことなど構わずに一行は足を運んだ。リーサとトルドはさすがに驚いていたものの、彼らを快く迎えてくれた。それから急いでラミーをベッドへと寝かせた後、すでに日が沈みきってしまっているということで、ロイン達もそれぞれに割与えられた部屋で休むことにした。
翌朝。ルビアは何か物音を聞いたような気がして目を覚ました。顔を横に向けてみると、ティマはまだ隣のベッドで眠い目をこすっていた。
「ふにゃあ?ルビアどうしたの?」
「ううん。なんでもないわ。おはよう、ティマ。」
「うーん…おはよー。」
起き上がる彼女の気配に、ティマはまだどこか寝ぼけた様子で尋ねた。その微笑ましい光景にくすっと口の端を上げながら答えると、ルビアはベッドから出て身支度を始めた。ティマも大きく欠伸をするとようやく起床し、彼女の身支度が整ったところで2人そろって部屋を出た。
「あら、おはよう。朝食の用意はできているわよ。」
1階の食堂に降りると、リーサの笑顔と朝食の匂いが彼女たちを迎えた。テーブルにはティルキスにベディー、それにアーリア、フォレスト、ルキウスがすでにいた。
「みんな、おはよう。ロインは?」
「まだ見てないな。」
「カイウスと相部屋だろ?2人して珍しく寝過ごしてんじゃないのか?」
「カイウスはともかく、ロインが寝過ごすっていうのはなんだかイメージないわね。」
「ルビア、さすがに兄さんに悪いんじゃない?」
ティマが朝の挨拶と一緒に尋ねるとベディーが応え、その横でティルキスが「もしかして」と笑う。ルビアも会話に混じって笑い、彼女の言葉にルキウスは困ったような顔をしながらも笑っていた。
「ふぅ、弱ったなぁ。」
噂をすればカイウスとロインが食堂へと姿を現した。ただし、現れたのは2階に続く階段からではなく、宿屋の入口からだった。
「ロイン!?それにカイウスも!」
「こんな早くからどこかに出かけてたの!?」
てっきりまだ部屋で寝ているものだと思っていた仲間たちは椅子から飛び上がって驚き、一気に2人に問いかけた。あまりの勢いにカイウスの方も驚いてしまい、落ち着け、と仲間にジェスチャーをし、その隣でロインがぶっきらぼうに答えた。
「武器屋に行ってたんだよ。ほら、昨日の戦闘で折れちまっただろ?」
「それなら一言言ってからでも良かったじゃない。部屋にいると思ってたからびっくりしちゃったわよ!」
「こいつ、オレが気づかなきゃ、まーた一人で黙って行くとこだったんだぞ?それなのに声かけるひまなんてあるかよ。」
ルビアの言い分にカイウスは親指でロインを指しながら呆れた声で言う。が、当のロインはそんなことなどどこ吹く風のようだ。その様子を見て、ティマは重いため息を吐いた。
「それで、良い剣はあったの?」
アーリアが聞くと、それが、とカイウスは声を沈ませた。
「エルナの森の魔物がスポットのせいで凶悪化してただろ?そのせいで町の自警団が武器を買い込んで、剣は今在庫が切れてるんだと。」
「だから、しばらくはこの剣を借りるしかないってわけだ。」
ロインは言って、腰に下げている剣を軽く叩いた。その表情は、まだどこか納得しきれていないという感じだった。仕方がないとはいえ、形見の剣を使うことにまだためらいが残っているのだろう。だが長年の癖からか、僅かに眉間にシワを寄せる程度にしか感情を表に出さない彼の心境を察することができた者はおらず、仲間たちは2人を朝食の席につくよう促すだけだった。そしてカイウスとロインも、特に異を唱えることなくその声に従った。
「それで、どうする?」
一通り食事が済んだ頃、フォレストが口を開いた。ラミーが倒れたことは予定外だったが、この町を訪れることはもともと彼らの予定にあったことだ。図書館やロインの家に残されている可能性のあるホッポ遺跡、あるいは白晶岩に関する情報を集めること、それにアイテムの補充が、ここに来た目的だ。
「必要なのは、買い物と調べ物だったよね?それじゃあ、道具屋に図書館、あとロインの家のそれぞれに分かれた方が、効率がいいと思うのだけど。」
ティマが提案すると、ルビアがそれに頷いて言葉を続けた。
「たぶん、図書館はホッポ遺跡、ロインの家は白晶岩について、きっと何かあるはずよね。」
「そうだね。それじゃあティマの言うとおり3つのグループに手分けして…って、あれ?ロインは?」
さっきまでいた場所にロインの姿がない。ルキウスが気づいた時には、カランと店の扉についている鈴が鳴っていた。見れば、扉の向こう側へと消えていく金髪が一人。そして何が起きたか悟った瞬間、カイウスの肩がわなわなと震え出した。
「…だから、一人で勝手に行くなってぇえええええ!!!」
■作者メッセージ
おまけスキット
【これでも海賊の首領】
ティルキス「ルキウス、どうしてプリセプツが使えるように?スポットのせいで術技は封じられていたんじゃなかったか?」
ルキウス「たぶん、あの場所から離れすぎたせいだと思う。ラミーについて行ってプリセプツの効力が届かない範囲に出たことで、術技が使えるようになったんだろう。」
ティルキス「ラミーは、そこまで計算を?」
ルキウス「どうだろう?正直、あの状態でそんなことまで考えついていたとは思えないな。」
ベディー「その考えこそどうだろうな。あいつはあのヴァニアスさんの娘だ。テキトーなところは目立つが、戦いにおいては頭のキレる奴だぞ。」
ティルキス「なるほど。海賊首領の名は伊達じゃない、ってことか。」
【似た者同士・その2】
ルビア「それにしても、お兄様とベディーってなんだか息が合って見えるわ。」
ティルキス「ん?そうか?」
フォレスト「うむ。それは私も感じていました。こう、目を離せないというところとか。」
ルビア「そうそう!すぐに無茶しそうなイメージがあるのよね。それにあたし達と話している時の受け答えとかもちょっと似てると思うわ。」
ベディー「そうかな?別に似せようって思ってるつもりはないんだが…なぁ、ティルキス?」
ティルキス「そうそう。きっと年が近いからだろう、気のせいだって。」
ルビア「…気のせい、じゃないわよね?」
フォレスト「うむ。先が思いやられる気がしてならない…。」
【これでも海賊の首領】
ティルキス「ルキウス、どうしてプリセプツが使えるように?スポットのせいで術技は封じられていたんじゃなかったか?」
ルキウス「たぶん、あの場所から離れすぎたせいだと思う。ラミーについて行ってプリセプツの効力が届かない範囲に出たことで、術技が使えるようになったんだろう。」
ティルキス「ラミーは、そこまで計算を?」
ルキウス「どうだろう?正直、あの状態でそんなことまで考えついていたとは思えないな。」
ベディー「その考えこそどうだろうな。あいつはあのヴァニアスさんの娘だ。テキトーなところは目立つが、戦いにおいては頭のキレる奴だぞ。」
ティルキス「なるほど。海賊首領の名は伊達じゃない、ってことか。」
【似た者同士・その2】
ルビア「それにしても、お兄様とベディーってなんだか息が合って見えるわ。」
ティルキス「ん?そうか?」
フォレスト「うむ。それは私も感じていました。こう、目を離せないというところとか。」
ルビア「そうそう!すぐに無茶しそうなイメージがあるのよね。それにあたし達と話している時の受け答えとかもちょっと似てると思うわ。」
ベディー「そうかな?別に似せようって思ってるつもりはないんだが…なぁ、ティルキス?」
ティルキス「そうそう。きっと年が近いからだろう、気のせいだって。」
ルビア「…気のせい、じゃないわよね?」
フォレスト「うむ。先が思いやられる気がしてならない…。」