第1章 影と少年 Z
マリワナの家を後にしたロイン。外の空気はやや冷たく、先ほどの興奮を冷ますのにちょうど良かった。
「ティマを迎えに行くか…。」
ポツリと呟くと、彼は砂浜に向かって歩き出した。
昼間、ティマと二人で兵を相手にした浜辺。近くにある灯台が、何もない沖を明るく照らしている。その灯台と浜辺の間には崖があり、そのふもとにあたる部分に洞穴があった。
そこがティマとの『約束の場所』。
ティマはそこで夜空が映し出された海を眺めていた。そこへロインが近づいてくるのに気がつくと、ティマは嬉しそうに手を振って彼を迎えた。
「寒くないか。」
「平気。それより見て。綺麗だよ。」
ロインはティマの横に腰を下ろし、彼女と同じ景色を見つめた。何もない。だが、どこか神秘的なイーバオの海。ロインがこの町にやってきてから、何一つ変わっていなかった。
「…おばさんから聞いた?私が首都に行くって。」
静寂な空気を断ち、ティマが話し始めた。ロインが頷くと、ティマは少し悲しげな表情になった。
「明日、イーバオを出ようと思うの。もしかしたら、もうここに帰ってこれないかも。」
「帰ってこれないって?」
「そんな予感がするだけ。だから…」
そこまで言いかけて、ティマは閉口し、下を向いてしまった。ロインは、その様子をちらっと見ただけで、目の前の海へと視線を戻した。
「…おばさんから聞いてないか?オレも首都に行くって。」
「え?」
それを聞いて、ティマは顔をあげ、ロインの横顔を見た。
「今の言い方、まるでオレと『これでお別れだ』って感じだったけど、オレはお前の護衛として、一緒に首都に行く。…さっき、おばさんに頼まれたからな。」
ティマが狙われているかもしれない、という推測の話は伏せ、ロインはそう話した。
「な〜んだ。私てっきり、おばさんが、私とロインがもう会えなくなるかもしれないっていう話をするために呼んだんだと思った。」
ティマの顔に、いつもの明るさが戻った。それを見たロインも微笑み、その場に立ち上がった。
「明日出発だってな。じゃあそろそろ戻って休もうぜ。」
「そうだね。」
そう言ってティマも立ち上がり、二人は『約束の場所』を後にした。
「じゃあ、明日の朝また来る。」
マリワナの家の前で、ロインはそう言って立ち去ろうとした。だが、そんな彼をティマは呼び止めた。
「うちに、泊まらないの?」
「…明日の準備もしなきゃならないんだ。自分の家に戻るよ。」
「そ、そう…。」
「おやすみ、ティマ。」
「…おやすみなさい。」
暗闇の中に消えゆくロインを見送りながら、ティマは胸の前で手を強く握った。
「…何言ってるんだろ、私。うちに泊まっても、ロインが嫌な思いをするだけなのに…ね。」
彼の姿が完全に見えなくなった頃、ティマはそう呟き、家の中へと入っていった。
「ティマを迎えに行くか…。」
ポツリと呟くと、彼は砂浜に向かって歩き出した。
昼間、ティマと二人で兵を相手にした浜辺。近くにある灯台が、何もない沖を明るく照らしている。その灯台と浜辺の間には崖があり、そのふもとにあたる部分に洞穴があった。
そこがティマとの『約束の場所』。
ティマはそこで夜空が映し出された海を眺めていた。そこへロインが近づいてくるのに気がつくと、ティマは嬉しそうに手を振って彼を迎えた。
「寒くないか。」
「平気。それより見て。綺麗だよ。」
ロインはティマの横に腰を下ろし、彼女と同じ景色を見つめた。何もない。だが、どこか神秘的なイーバオの海。ロインがこの町にやってきてから、何一つ変わっていなかった。
「…おばさんから聞いた?私が首都に行くって。」
静寂な空気を断ち、ティマが話し始めた。ロインが頷くと、ティマは少し悲しげな表情になった。
「明日、イーバオを出ようと思うの。もしかしたら、もうここに帰ってこれないかも。」
「帰ってこれないって?」
「そんな予感がするだけ。だから…」
そこまで言いかけて、ティマは閉口し、下を向いてしまった。ロインは、その様子をちらっと見ただけで、目の前の海へと視線を戻した。
「…おばさんから聞いてないか?オレも首都に行くって。」
「え?」
それを聞いて、ティマは顔をあげ、ロインの横顔を見た。
「今の言い方、まるでオレと『これでお別れだ』って感じだったけど、オレはお前の護衛として、一緒に首都に行く。…さっき、おばさんに頼まれたからな。」
ティマが狙われているかもしれない、という推測の話は伏せ、ロインはそう話した。
「な〜んだ。私てっきり、おばさんが、私とロインがもう会えなくなるかもしれないっていう話をするために呼んだんだと思った。」
ティマの顔に、いつもの明るさが戻った。それを見たロインも微笑み、その場に立ち上がった。
「明日出発だってな。じゃあそろそろ戻って休もうぜ。」
「そうだね。」
そう言ってティマも立ち上がり、二人は『約束の場所』を後にした。
「じゃあ、明日の朝また来る。」
マリワナの家の前で、ロインはそう言って立ち去ろうとした。だが、そんな彼をティマは呼び止めた。
「うちに、泊まらないの?」
「…明日の準備もしなきゃならないんだ。自分の家に戻るよ。」
「そ、そう…。」
「おやすみ、ティマ。」
「…おやすみなさい。」
暗闇の中に消えゆくロインを見送りながら、ティマは胸の前で手を強く握った。
「…何言ってるんだろ、私。うちに泊まっても、ロインが嫌な思いをするだけなのに…ね。」
彼の姿が完全に見えなくなった頃、ティマはそう呟き、家の中へと入っていった。