第18章 そして影は消え…… W
圧倒的だった。
それは相手が人外だからではない。宙を漂い、瞬間移動が可能だからではない。ただただ、力が及ばないのだ。
「くそっ! バイティングエッジ! サーペントレイブ!」
ジオートへ剣撃を繰り出し続けるも、鞭のように長い腕に弾かれるばかりで決定打は与えられない。焦りと苛立ちは募るばかりで、ラミーは険しい表情で舌を打った。
「ラミー! 焦っちゃだめ!」
「んなこと、わかってんだ、よ!」
ティマの言葉に反発しながら一発、弾を撃ち込む。だが、それすらも軽々と防がれ、彼女の顔は悔しさに歪む一方だ。ならばせめて反撃の機会を与えまいと、彼女と入れ替わるようにロインが距離をつめた。
「メギドフレイム!」
「ブラックホール!」
一方で、ルビアとアーリアはアーレスを狙ってプリセプツを放つが、彼女は浮遊しながら、まるで踊るようにかわしていく。
「メテオスウォーム」
そして妖艶に微笑み、囁くようにプリセプツを口にした。発動したそれは彼女の口調に反して、宮を破壊せんばかりの威力の隕石が、彼らに襲いかかった。
「うわあああっ!」
「きゃああっ!」
避けようにも逃げ道を塞ぐほどの隕石が降り注ぎ、避けることができない。ジオートを集中的に相手にしていたロインたちをも巻き込んで、為す術なく悲鳴を上げる彼らの姿に、アーレスは愉快そうに笑い声をあげた。
「うそ、こんなのって……!」
服と共に皮膚までもが焼ける臭いに包まれる。熱か痛覚かも判別のつきにくい苦痛をこらえ、アーリアはジオート、そしてアーレスを睨みつけた。
いくらなんでも圧倒的すぎる。ウォールスの時ですら、ここまで苦戦はしなかった。あの時よりも力をつけたはずなのに、なぜここまで手も足も出ないのか。
思わず奥歯を鳴らしながら、アーリアはふと視線をそらした。
その時、彼女の目に“門”が映った。瞬間、彼女ははっと、ある仮説を思いついた。
二年前も“門”は開いていた。だが、あの時は開いてからまだ間もなかった。こちらの世界は、スポットにとって居心地が悪いらしい。そのため、長年こちらの世界に囚われていたウォールスは、力を取り戻しつつある中にいたが、本来の力に至っていたとは言い難かった。
だが、アーレスは違う。彼女は向こうの世界から来たばかりだ。それも、世界が侵食を始めてからのことだ。それも、スポットらにとって住みよい世界へと理が変わってきている。そのせいで、こちらが力を発揮できなくなっているのだ。おそらく、この宮の中に入った時から、すでに。
「それなら……!」
そういうことならば、対策はできる。この空間の理を、こちらの世界に戻せばいいのだ。
アーリアはすぐさまプリセプツの構築を始めた。しかし、それに気づいたのだろう。アーレスは眉をひそめ、手を高く掲げた。
「小賢しい」
そして次の瞬間、敵を焼き尽くそうとする閃光が、アーリアに向けて落とされた。
「きゃあああっ!」
「アーリア!」
その場に崩れ落ちた仲間の姿に、カイウスが切羽詰まった顔で駆け寄った。彼女は杖を支えに、辛うじて倒れずにいるといった様子だった。
カイウスがアーリアを支える間、ルビアは再び、アーレス相手にファイアーボールで牽制をかけていた。だが、アーレスは舞う如く優雅な所作で、飛んでくる火球をかわしていった。そのままくすくすと笑いながら、彼女は一行を見下ろしていた。
ところが、それもしばらく経つと、彼女は遊びに飽きたように息を吐き、片腕を前へ突き出した。
「もうよい」
おそらく、ロイン達をこれ以上放置したところで、彼女自身を楽しませる余地はないと判断したようだ。そう口にしたアーレスの手中から、闇に蠢く小宇宙が生まれた。それは彼女の手から離れると、途端に天井を覆い尽くすほどに広がった。
警戒を強めるロインたちの目は、次の瞬間、信じられないものを見るものへと変わっていった。
まるで太陽そのもののように、巨大な灼熱の火の玉が宇宙の中からのぞき出てきたのだ。こちらに迫るように、徐々に全貌が明らかになってくる。その規模から容易に想像できた。
あんなものを食らったら、ひとたまりもない!
「アッハハ! 消し飛ぶがよい! ディザスター・ノヴァ!」
みるみる絶望に染まっていく彼らの表情に、アーレスは口元を愉悦に歪ませ術を発動させた。巨大な火球が、追って闇の中に飲み込まんと小宇宙が、彼らを押しつぶそうと迫ってくる。
「アンチマジック!」
刹那、術から皆をかばうようにルビアが前に出た。そして一瞬のうちに、六人全員を覆う障壁を生み出す。
だが、プリセプツ同士がぶつかり合った途端、壁はじわじわと溶け消え、同時にヒビが入ってしまう。必死にこらえようと杖に力を込めるも、状況は変わらない。
「だめ! 逃げて!!」
「もう、遅いわ!」
ルビアは顔色を変え、切羽詰まった声で叫んだ。だが、アーレスは彼女の抵抗を嘲笑い、術の威力を増幅させるように腕を振り下ろした。同時に、ルビアのプリセプツが完全に破られた。
次の瞬間、ロインたちは灼熱と悲鳴に全てを覆われた。
それは相手が人外だからではない。宙を漂い、瞬間移動が可能だからではない。ただただ、力が及ばないのだ。
「くそっ! バイティングエッジ! サーペントレイブ!」
ジオートへ剣撃を繰り出し続けるも、鞭のように長い腕に弾かれるばかりで決定打は与えられない。焦りと苛立ちは募るばかりで、ラミーは険しい表情で舌を打った。
「ラミー! 焦っちゃだめ!」
「んなこと、わかってんだ、よ!」
ティマの言葉に反発しながら一発、弾を撃ち込む。だが、それすらも軽々と防がれ、彼女の顔は悔しさに歪む一方だ。ならばせめて反撃の機会を与えまいと、彼女と入れ替わるようにロインが距離をつめた。
「メギドフレイム!」
「ブラックホール!」
一方で、ルビアとアーリアはアーレスを狙ってプリセプツを放つが、彼女は浮遊しながら、まるで踊るようにかわしていく。
「メテオスウォーム」
そして妖艶に微笑み、囁くようにプリセプツを口にした。発動したそれは彼女の口調に反して、宮を破壊せんばかりの威力の隕石が、彼らに襲いかかった。
「うわあああっ!」
「きゃああっ!」
避けようにも逃げ道を塞ぐほどの隕石が降り注ぎ、避けることができない。ジオートを集中的に相手にしていたロインたちをも巻き込んで、為す術なく悲鳴を上げる彼らの姿に、アーレスは愉快そうに笑い声をあげた。
「うそ、こんなのって……!」
服と共に皮膚までもが焼ける臭いに包まれる。熱か痛覚かも判別のつきにくい苦痛をこらえ、アーリアはジオート、そしてアーレスを睨みつけた。
いくらなんでも圧倒的すぎる。ウォールスの時ですら、ここまで苦戦はしなかった。あの時よりも力をつけたはずなのに、なぜここまで手も足も出ないのか。
思わず奥歯を鳴らしながら、アーリアはふと視線をそらした。
その時、彼女の目に“門”が映った。瞬間、彼女ははっと、ある仮説を思いついた。
二年前も“門”は開いていた。だが、あの時は開いてからまだ間もなかった。こちらの世界は、スポットにとって居心地が悪いらしい。そのため、長年こちらの世界に囚われていたウォールスは、力を取り戻しつつある中にいたが、本来の力に至っていたとは言い難かった。
だが、アーレスは違う。彼女は向こうの世界から来たばかりだ。それも、世界が侵食を始めてからのことだ。それも、スポットらにとって住みよい世界へと理が変わってきている。そのせいで、こちらが力を発揮できなくなっているのだ。おそらく、この宮の中に入った時から、すでに。
「それなら……!」
そういうことならば、対策はできる。この空間の理を、こちらの世界に戻せばいいのだ。
アーリアはすぐさまプリセプツの構築を始めた。しかし、それに気づいたのだろう。アーレスは眉をひそめ、手を高く掲げた。
「小賢しい」
そして次の瞬間、敵を焼き尽くそうとする閃光が、アーリアに向けて落とされた。
「きゃあああっ!」
「アーリア!」
その場に崩れ落ちた仲間の姿に、カイウスが切羽詰まった顔で駆け寄った。彼女は杖を支えに、辛うじて倒れずにいるといった様子だった。
カイウスがアーリアを支える間、ルビアは再び、アーレス相手にファイアーボールで牽制をかけていた。だが、アーレスは舞う如く優雅な所作で、飛んでくる火球をかわしていった。そのままくすくすと笑いながら、彼女は一行を見下ろしていた。
ところが、それもしばらく経つと、彼女は遊びに飽きたように息を吐き、片腕を前へ突き出した。
「もうよい」
おそらく、ロイン達をこれ以上放置したところで、彼女自身を楽しませる余地はないと判断したようだ。そう口にしたアーレスの手中から、闇に蠢く小宇宙が生まれた。それは彼女の手から離れると、途端に天井を覆い尽くすほどに広がった。
警戒を強めるロインたちの目は、次の瞬間、信じられないものを見るものへと変わっていった。
まるで太陽そのもののように、巨大な灼熱の火の玉が宇宙の中からのぞき出てきたのだ。こちらに迫るように、徐々に全貌が明らかになってくる。その規模から容易に想像できた。
あんなものを食らったら、ひとたまりもない!
「アッハハ! 消し飛ぶがよい! ディザスター・ノヴァ!」
みるみる絶望に染まっていく彼らの表情に、アーレスは口元を愉悦に歪ませ術を発動させた。巨大な火球が、追って闇の中に飲み込まんと小宇宙が、彼らを押しつぶそうと迫ってくる。
「アンチマジック!」
刹那、術から皆をかばうようにルビアが前に出た。そして一瞬のうちに、六人全員を覆う障壁を生み出す。
だが、プリセプツ同士がぶつかり合った途端、壁はじわじわと溶け消え、同時にヒビが入ってしまう。必死にこらえようと杖に力を込めるも、状況は変わらない。
「だめ! 逃げて!!」
「もう、遅いわ!」
ルビアは顔色を変え、切羽詰まった声で叫んだ。だが、アーレスは彼女の抵抗を嘲笑い、術の威力を増幅させるように腕を振り下ろした。同時に、ルビアのプリセプツが完全に破られた。
次の瞬間、ロインたちは灼熱と悲鳴に全てを覆われた。