第19章 光と少年
ティマリア・ルル・マウディーラ様
あれから、もう半年。元気にしているか?
スポットは、おかげでだいぶ掃討が済んだようだな。
こっちは相変わらずだ。
軍や「女神の従者」の援助のおかげもあって、イーバオはだいぶ元に戻ってきた。マリワナおばさんもベディー――いや、クルーダと一緒に仲良く暮らしているよ。
そういえば、クルーダは「ベディー」のスディアナ事件の処罰が予想以上に軽かったことに、とても驚いていた。「ティマ」が何か王様たちに吹き込んだせいじゃないか、って言ってる。
そうだ。この前、カイウスとルビアから連絡がきたんだ。
あのあと、また世界を巡る旅に出ようとした二人に、ラミーがギルドを紹介したんだ。名前は……なんだったかな? 完全中立のギルドみたいで、今二人はいろんな経験を積むために、しばらくそこにやっかいになることを決めた、って言ってた。
ルキウスにフォレスト、それにパルナミスは変わらずジャンナで頑張っているようだ。アーリアは、またティルキスと一緒にセンシビアに渡ったって。
……って、外交の方は、お前の方がいろいろと知っていそうだな。
ラミーは、時々ヴァニアスさんと一緒にイーバオに来て、復興を手伝ってくれてるよ。
あいつから、ティマリアが姫として頑張ってる話を聞いてほっとしてる。
あの時は悪かったな。
オレは、「ティマ」はティマリアだから、遅かれ早かれ城に帰らなきゃいけないと思っていたんだ。
お前は、せめてイーバオに帰るまで猶予があるだろうと考えていただろうから、その分まだ城に帰りたくなかっただろうに。それを知ってても、宥めて、フレアと一緒に行かせるべきだと思ったんだ。
だから、一国の姫として頑張ってる、って聞いた時は安心した。
もしかしたら、城の中でも駄々こねてるんじゃないかって思ってたんだ。
近いうちに、騎士採用試験があるらしい。
約束を果たすその日までは、またこうして手紙を書くよ。
じゃあ、またな。
ロイン・エイバス
便箋の封を閉じ、ロインはその場で大きく伸びをした。椅子を少しだけ引き、日の光が差す窓の外を眺めた。見えるのは、不変の青を保つ見慣れたイーバオの海、そして、街の復興作業に励んでいる大人たちの姿だった。
すべてを終え、旅から帰還してからというもの、ロインは平和すぎる日々を送っていた。時々町のそばに現れる魔物を掃討し、復興を手伝い、マリワナを手伝ったり、何もせず潮風に吹かれたり……。
自分を引っ張り回す存在がいなくなり、彼は望むままの生活を送ることができていた。それなのに、彼は常にどこか浮かない顔をしていた。机の上にある封筒に視線を向け、頬杖をつく。
かつて父と住んでいたこの家は、一人では広すぎる。毎日のようにやって来ていた賑やかさは、今はもうここには来ない。ようやく笑顔を取り戻した彼の顔は、その家の中と同じで、また暗くなり始めていた。
(『約束の場所』にでも行くか)
暇を持て余すロインは手紙を手にし、私室を出た。トントンとリズミカルな音を立ててゆっくり階段を下り、一階の床に辿り着いた時だった。
コンコンと玄関の戸をノックする音が、静かなエイバス家に響いた。突然の客人だが、ロインは特に驚きはしない。旅から帰って以来、よくマリワナやラミーが顔を覗かせにやって来るのだ。どうせまた彼らだろう。安易な気持ちで、ロインは玄関を開けた。
「はい――」
「ロっイーーン!!」
「なっ!? うわあ!!」
その時だった。どこか聞き覚えのある明るい声が飛び込み、ロインはその主に押し倒された。そのまま床に頭をぶつけ、ロインの目に数個の星が映った。痛みに身をよじらせようとするが、身体の上には人の重みが乗っていて、ほとんど胸から上しか動かすことが出来ない。
「あっ。ごめん、大丈夫?」
その様子に気づいたのか、ロインにのしかかっていた人物は、そう言って彼の上から退けた。ロインは呻き、頭を押さえながらもようやく上半身を起こした。
そして、改めて目の前にいる人物を、翡翠の双眸に映した。
「ッ――! お前、ティマ…なのか……?」
「ふふっ。久しぶりね、ロイン」
そこにいたのは、幼馴染の少女だった。髪は少し伸び、以前よりも綺麗な衣服に身を包んでいた。とはいえ、王女の階級の物というほどではなく、年頃の女の子が少しはりきっておしゃれしたようなものだ。しかし、ロインに向けられる屈託のない笑顔は、半年前の別れから変わっていなかった。
「お前、なんでここに? まさか、城から抜け出してきたんじゃないだろうな?」
突然の再会に喜びはあれど、ロインはそれ以上に、なぜ彼女がこの場にいるのかが気になっていた。そして浮かび上がった一つの可能性に眉をひそめる。ティマはそんなロインに「失礼ね!」と言わんばかりの表情で、その説を否定した。
「違うよ! ちゃんと許可をもらってイーバオに来たんだから。それに、私ひとりじゃないよ。何人か使者として、お供の人が付いてきてるわ」
「使者?」
「あっ、そうだった! 私、ロインやおばさんに話があってきたの」
ロインが首を傾げると、ティマは思い出したように話題を変えた。そしてその場に正座し、彼とまっすぐ向き合った。
「あのね、私――」
「ロイン、いるかー?」
彼女が真剣な様子で切り出した、まさにその時だった。場違いな明るい声が開きっぱなしのエイバス家の扉の向こうから飛び込み、誰かが駆け込んできた。それに驚き、ティマの肩は大きく飛び上がる。その様子に気づいたかどうかはわからないが、新たな訪問者は彼女を目にした途端、更に大きな声をあげて飛びついた。
「ティマじゃん! 久しぶり! 元気だったか?」
「きゃあ! ……えっ、ラミー?」
赤毛の訪問者――ラミーは、にかっと歯を見せて微笑みかける。突然のことに驚いていたティマだったが、それは懐かしさへ様変わりし、瞳を輝かせて再会を喜んだ。
「うわぁ! 久しぶりね。どうしてイーバオに?」
「そりゃこっちのセリフだよ。ティマ、何しに来たんだ? ひょっとして、お城の暮らしが退屈で抜け出してきた、とか?」
「なっ! 違うわよ! もう、ロインと同じようなこと言って……」
「あはは! 悪かった。『女神の従者』の仕事で用があってきたんだけど、途中でデカイ獲物をしとめたから、皆で戦利品を分けようと思って誘いに来たんだ。良かったら、ティマも行かない?」
「本当!? 行っていいの?」
「もちろん!」
「やったぁ! 行く行く!」
「ちょっと待て。用があって来たんじゃなかったのかよ?」
すっかり会話が弾み、そのまま外へ飛び出して行きそうなティマ。その背中に、ロインは呆れながらも声をかけた。すると、二人の少女はロインの存在を思い出したように「あっ」と足を止め、くるりと苦笑しながら向き直った。
「わ、悪い悪い。ロインも一緒に行こうぜ、なっ?」
「そういう意味じゃない。それと、オレはティマに聞いたんだ。要件があるって来たのに、当の本人がそれを放ってどこに行くって言うんだよ」
「そ、そうデシタ……」
まるで非難するような眼差しを向ければ、ティマはそれから逃げるように視線をそらす。それでも告げるべきことを話そうと、彼女はひとつ深呼吸し、再びロインと向き合った。
「あのね、迎えに来たの」
「迎え?」
「うん。この前、私に直属の近衛騎士が付く話が出て、それならロインを、ってお願いしたの」
「お願いって……。オレはまだ近衛騎士じゃないんだぞ? だいたい、オレは騎士になるって誓ったんだから、城で大人しく待ってればいずれそうできるだろ?」
「だって、近衛騎士って言っても知らない人だから不安になるんだもん! それならロインが良いって――」
「駄々をこねたってわけか」
「ちーがーうー!」
ティマは必死に否定を紡ぐも、もはやロインはため息を吐かずにいられなかった。
「だから、お願いして来たの! ロインの実力を試して、使者が許したら特例で認めるって!」
「……まず、そこにオレの意思ねえだろ、それ」
「でも……でも、そうしたらおばさんにも会えるかなって。私、ちゃんとお別れできないでスディアナに行っちゃったから、挨拶くらいしたくて」
必死に説得しようとするティマの声は、徐々にか細くなっていった。
おそらく、まったく面識のない者より彼を選びたいと思ったのも事実だ。だがそれだけではなく、“門”を閉じた後、麓でフレアと遭遇してしまい、そのままスディアナへ向かうしかなくなった彼女の唯一の願いも、同時に含まれていたのだろう。
そんなティマの心境を思いながら、ロインはふっと息を吐いた。
「やなこった」
「なっ――!?」
「いちいちお前のわがままに付き合ってたら、身がもたねえよ。今回は我慢して、城で大人しく待ってろ」
「ひっどーい! 人がこんなに頼んでるのに?」
「お前の頼みは『頼み』って言わねえ」
「そういうこと言う!?」
「お、おい。ロイン?」
だが、次に出たロインの淡々とした言葉に、ティマは一瞬のしおらしさが嘘のように、みるみる顔を赤く染めていった。まるで以前のように冷めた態度をとる彼に、思わずラミーも仲裁に入ろうとするが、遅かった。
「もういい! そんなに言うなら、力尽くで納得させる!」
「それ、納得させる手段かよ?」
「うるさい! 私が勝ったら、大人しくスディアナまで来てもらうからね!」
びしっとロインを指差し、啖呵を切るティマ。彼はそれに少し考える素振りを見せた後、さらに挑発するような言葉を放った。
「いいぜ。オレが勝ったら、二度とわがまま言って城から出たりするなよ?」
「上等!」
「お、おい! 待てよ、ティマ!」
ティマは肩を怒らせて外へ出ていき、ラミーも慌てて追いかけていってしまった。そのため、ロインが意地悪い笑みを浮かべていたことに気付いた者は、誰もいなかった。
しばらくして、イーバオの広場は住民の懐かしそうにざわめく声と、一騎打ち特有の息遣いに包まれた。その中心に立つ二人は、姿勢こそ緊張していたが、どこか楽しそうに口角を上げていた。
あれから、もう半年。元気にしているか?
スポットは、おかげでだいぶ掃討が済んだようだな。
こっちは相変わらずだ。
軍や「女神の従者」の援助のおかげもあって、イーバオはだいぶ元に戻ってきた。マリワナおばさんもベディー――いや、クルーダと一緒に仲良く暮らしているよ。
そういえば、クルーダは「ベディー」のスディアナ事件の処罰が予想以上に軽かったことに、とても驚いていた。「ティマ」が何か王様たちに吹き込んだせいじゃないか、って言ってる。
そうだ。この前、カイウスとルビアから連絡がきたんだ。
あのあと、また世界を巡る旅に出ようとした二人に、ラミーがギルドを紹介したんだ。名前は……なんだったかな? 完全中立のギルドみたいで、今二人はいろんな経験を積むために、しばらくそこにやっかいになることを決めた、って言ってた。
ルキウスにフォレスト、それにパルナミスは変わらずジャンナで頑張っているようだ。アーリアは、またティルキスと一緒にセンシビアに渡ったって。
……って、外交の方は、お前の方がいろいろと知っていそうだな。
ラミーは、時々ヴァニアスさんと一緒にイーバオに来て、復興を手伝ってくれてるよ。
あいつから、ティマリアが姫として頑張ってる話を聞いてほっとしてる。
あの時は悪かったな。
オレは、「ティマ」はティマリアだから、遅かれ早かれ城に帰らなきゃいけないと思っていたんだ。
お前は、せめてイーバオに帰るまで猶予があるだろうと考えていただろうから、その分まだ城に帰りたくなかっただろうに。それを知ってても、宥めて、フレアと一緒に行かせるべきだと思ったんだ。
だから、一国の姫として頑張ってる、って聞いた時は安心した。
もしかしたら、城の中でも駄々こねてるんじゃないかって思ってたんだ。
近いうちに、騎士採用試験があるらしい。
約束を果たすその日までは、またこうして手紙を書くよ。
じゃあ、またな。
ロイン・エイバス
便箋の封を閉じ、ロインはその場で大きく伸びをした。椅子を少しだけ引き、日の光が差す窓の外を眺めた。見えるのは、不変の青を保つ見慣れたイーバオの海、そして、街の復興作業に励んでいる大人たちの姿だった。
すべてを終え、旅から帰還してからというもの、ロインは平和すぎる日々を送っていた。時々町のそばに現れる魔物を掃討し、復興を手伝い、マリワナを手伝ったり、何もせず潮風に吹かれたり……。
自分を引っ張り回す存在がいなくなり、彼は望むままの生活を送ることができていた。それなのに、彼は常にどこか浮かない顔をしていた。机の上にある封筒に視線を向け、頬杖をつく。
かつて父と住んでいたこの家は、一人では広すぎる。毎日のようにやって来ていた賑やかさは、今はもうここには来ない。ようやく笑顔を取り戻した彼の顔は、その家の中と同じで、また暗くなり始めていた。
(『約束の場所』にでも行くか)
暇を持て余すロインは手紙を手にし、私室を出た。トントンとリズミカルな音を立ててゆっくり階段を下り、一階の床に辿り着いた時だった。
コンコンと玄関の戸をノックする音が、静かなエイバス家に響いた。突然の客人だが、ロインは特に驚きはしない。旅から帰って以来、よくマリワナやラミーが顔を覗かせにやって来るのだ。どうせまた彼らだろう。安易な気持ちで、ロインは玄関を開けた。
「はい――」
「ロっイーーン!!」
「なっ!? うわあ!!」
その時だった。どこか聞き覚えのある明るい声が飛び込み、ロインはその主に押し倒された。そのまま床に頭をぶつけ、ロインの目に数個の星が映った。痛みに身をよじらせようとするが、身体の上には人の重みが乗っていて、ほとんど胸から上しか動かすことが出来ない。
「あっ。ごめん、大丈夫?」
その様子に気づいたのか、ロインにのしかかっていた人物は、そう言って彼の上から退けた。ロインは呻き、頭を押さえながらもようやく上半身を起こした。
そして、改めて目の前にいる人物を、翡翠の双眸に映した。
「ッ――! お前、ティマ…なのか……?」
「ふふっ。久しぶりね、ロイン」
そこにいたのは、幼馴染の少女だった。髪は少し伸び、以前よりも綺麗な衣服に身を包んでいた。とはいえ、王女の階級の物というほどではなく、年頃の女の子が少しはりきっておしゃれしたようなものだ。しかし、ロインに向けられる屈託のない笑顔は、半年前の別れから変わっていなかった。
「お前、なんでここに? まさか、城から抜け出してきたんじゃないだろうな?」
突然の再会に喜びはあれど、ロインはそれ以上に、なぜ彼女がこの場にいるのかが気になっていた。そして浮かび上がった一つの可能性に眉をひそめる。ティマはそんなロインに「失礼ね!」と言わんばかりの表情で、その説を否定した。
「違うよ! ちゃんと許可をもらってイーバオに来たんだから。それに、私ひとりじゃないよ。何人か使者として、お供の人が付いてきてるわ」
「使者?」
「あっ、そうだった! 私、ロインやおばさんに話があってきたの」
ロインが首を傾げると、ティマは思い出したように話題を変えた。そしてその場に正座し、彼とまっすぐ向き合った。
「あのね、私――」
「ロイン、いるかー?」
彼女が真剣な様子で切り出した、まさにその時だった。場違いな明るい声が開きっぱなしのエイバス家の扉の向こうから飛び込み、誰かが駆け込んできた。それに驚き、ティマの肩は大きく飛び上がる。その様子に気づいたかどうかはわからないが、新たな訪問者は彼女を目にした途端、更に大きな声をあげて飛びついた。
「ティマじゃん! 久しぶり! 元気だったか?」
「きゃあ! ……えっ、ラミー?」
赤毛の訪問者――ラミーは、にかっと歯を見せて微笑みかける。突然のことに驚いていたティマだったが、それは懐かしさへ様変わりし、瞳を輝かせて再会を喜んだ。
「うわぁ! 久しぶりね。どうしてイーバオに?」
「そりゃこっちのセリフだよ。ティマ、何しに来たんだ? ひょっとして、お城の暮らしが退屈で抜け出してきた、とか?」
「なっ! 違うわよ! もう、ロインと同じようなこと言って……」
「あはは! 悪かった。『女神の従者』の仕事で用があってきたんだけど、途中でデカイ獲物をしとめたから、皆で戦利品を分けようと思って誘いに来たんだ。良かったら、ティマも行かない?」
「本当!? 行っていいの?」
「もちろん!」
「やったぁ! 行く行く!」
「ちょっと待て。用があって来たんじゃなかったのかよ?」
すっかり会話が弾み、そのまま外へ飛び出して行きそうなティマ。その背中に、ロインは呆れながらも声をかけた。すると、二人の少女はロインの存在を思い出したように「あっ」と足を止め、くるりと苦笑しながら向き直った。
「わ、悪い悪い。ロインも一緒に行こうぜ、なっ?」
「そういう意味じゃない。それと、オレはティマに聞いたんだ。要件があるって来たのに、当の本人がそれを放ってどこに行くって言うんだよ」
「そ、そうデシタ……」
まるで非難するような眼差しを向ければ、ティマはそれから逃げるように視線をそらす。それでも告げるべきことを話そうと、彼女はひとつ深呼吸し、再びロインと向き合った。
「あのね、迎えに来たの」
「迎え?」
「うん。この前、私に直属の近衛騎士が付く話が出て、それならロインを、ってお願いしたの」
「お願いって……。オレはまだ近衛騎士じゃないんだぞ? だいたい、オレは騎士になるって誓ったんだから、城で大人しく待ってればいずれそうできるだろ?」
「だって、近衛騎士って言っても知らない人だから不安になるんだもん! それならロインが良いって――」
「駄々をこねたってわけか」
「ちーがーうー!」
ティマは必死に否定を紡ぐも、もはやロインはため息を吐かずにいられなかった。
「だから、お願いして来たの! ロインの実力を試して、使者が許したら特例で認めるって!」
「……まず、そこにオレの意思ねえだろ、それ」
「でも……でも、そうしたらおばさんにも会えるかなって。私、ちゃんとお別れできないでスディアナに行っちゃったから、挨拶くらいしたくて」
必死に説得しようとするティマの声は、徐々にか細くなっていった。
おそらく、まったく面識のない者より彼を選びたいと思ったのも事実だ。だがそれだけではなく、“門”を閉じた後、麓でフレアと遭遇してしまい、そのままスディアナへ向かうしかなくなった彼女の唯一の願いも、同時に含まれていたのだろう。
そんなティマの心境を思いながら、ロインはふっと息を吐いた。
「やなこった」
「なっ――!?」
「いちいちお前のわがままに付き合ってたら、身がもたねえよ。今回は我慢して、城で大人しく待ってろ」
「ひっどーい! 人がこんなに頼んでるのに?」
「お前の頼みは『頼み』って言わねえ」
「そういうこと言う!?」
「お、おい。ロイン?」
だが、次に出たロインの淡々とした言葉に、ティマは一瞬のしおらしさが嘘のように、みるみる顔を赤く染めていった。まるで以前のように冷めた態度をとる彼に、思わずラミーも仲裁に入ろうとするが、遅かった。
「もういい! そんなに言うなら、力尽くで納得させる!」
「それ、納得させる手段かよ?」
「うるさい! 私が勝ったら、大人しくスディアナまで来てもらうからね!」
びしっとロインを指差し、啖呵を切るティマ。彼はそれに少し考える素振りを見せた後、さらに挑発するような言葉を放った。
「いいぜ。オレが勝ったら、二度とわがまま言って城から出たりするなよ?」
「上等!」
「お、おい! 待てよ、ティマ!」
ティマは肩を怒らせて外へ出ていき、ラミーも慌てて追いかけていってしまった。そのため、ロインが意地悪い笑みを浮かべていたことに気付いた者は、誰もいなかった。
しばらくして、イーバオの広場は住民の懐かしそうにざわめく声と、一騎打ち特有の息遣いに包まれた。その中心に立つ二人は、姿勢こそ緊張していたが、どこか楽しそうに口角を上げていた。
■作者メッセージ
「Tales of the Tempest もう一つの魔法」これにて完結です。
執筆開始からほぼ五年。ようやく完結しましたが、いやー長かった。笑
当初学生だった私も、いよいよ社会人です。その関係上(というか完全に私の都合で)最後は駆け足の投稿にさせていただきました。
ところで、本編の隣にある目次一覧。横に数字が並んでいますよね?
それで見ると……
Σなんと187話分!?
自分でびっくりですよ。よく書いたもんだこんな長編……
というわけで
最後までお付き合いくださり、本当にありがとうございました。
執筆開始からほぼ五年。ようやく完結しましたが、いやー長かった。笑
当初学生だった私も、いよいよ社会人です。その関係上(というか完全に私の都合で)最後は駆け足の投稿にさせていただきました。
ところで、本編の隣にある目次一覧。横に数字が並んでいますよね?
それで見ると……
Σなんと187話分!?
自分でびっくりですよ。よく書いたもんだこんな長編……
というわけで
最後までお付き合いくださり、本当にありがとうございました。