第2章 萌える丘と蒼き海 U
カイウスとルビアの口喧嘩は、ティマが夕食の準備を終えるまで続いた。その間、ロインはずっと木に寄りかかった状態で見張りをしており、二人には全く関心を示さなかった。ティマはそんなロインに困った顔をしながら、カイウスとルビアの喧嘩を仲裁したのだった。
「おいし〜♪」
ティマの作った料理を口にして、ルビアがそう言った。
「本当にティマって料理上手だよね。」
「よく、おばさんのお手伝いしてたから…。」
「そっか。オレも村にいた頃は、よく父さんの手伝いしてたっけ。」
「ロインも料理上手いんですよ。一人暮らしが長いから。」
「え、そうなの?旅に出てから、ご飯支度やってくれないから、できないんだと思ってた。」
ルビアの発言と同時に、三人がロインに視線を向けると、ロインは彼らから目を逸らした。その態度にティマとカイウスが困った表情をするのに対し、ルビアは負けじとロインににじり寄った。
「ねぇ、明日のご飯、ロインが作ってよ。あたし、ロインの作る料理食べてみたいなぁ。」
ルビアは、物をねだるような口調でロインに言った。だが、ロインの首は縦に振られなかった。それどころか、食事を済ませてしまうと、何も言わずに一人でどこかへ行ってしまった。彼の姿が闇に消えてしまうと、ティマはうつむいてルビアに謝った。
「…ごめんなさい、ルビア。ロインったら、あんな態度ばっかりで。」
「ううん、気にしないで。」
「それにしても、酷い嫌われようだな…。ティマはどうやってロインと仲良くなれたんだ?」
「え?」
「あ!あたしも気になる!ティマ、教えてよ。」
ティマは二人にそう尋ねられ、一瞬、驚きと焦りの表情を見せた。だが、しばらくしてから頷き、周囲にロインがいないことを確認した。
「ええっと、どこから話せばいいのかな…」
「じゃあ、あいつと仲良くなったきっかけを話してくれよ。」
「いいですよ。」
ティマは笑顔で答え、カイウスとルビアの正面に座りなおした。二人は好奇心で満たされた顔で、ティマを見つめた。
「きっかけは、ロインがイーバオに来てから3ヶ月経った頃にした、ある約束でした…」
カイウス達から一人離れたロインは、目的もなく周囲を歩きつづけていた。カイウスとルビアと一緒に居たくない。その心だけが彼を突き動かしていた。しばらく歩きつづけると、彼の目に、暗闇の中に光る白い物体が映った。近くへ行くと、それは、この丘に数個ある巨大な白い岩うちの一つであることがわかった。月光に反射して白い光を放つその岩に、ロインはどこか引き付けられ、そっと触れた。岩は吹き渡る夜風よりもヒンヤリと冷たく、周囲の静寂が、彼に岩と一体になっているような感覚を与えた。その感覚が心地よいのか、彼の顔に僅かに笑みが見られた。
だがその笑みは、風向きが変わった瞬間に消えた。
自分が歩いてきた方角から複数の気配を感じ、ロインは腰にある剣に手をまわした。草むらから飛び出した影は、狼のような姿をした魔物ウルフだった。何の迷いもなく、一直線にロインめがけて駆けてくるウルフ達を、彼は躊躇なく切り倒していく。数は多いが、イーバオを襲った兵ほどではない。ロインは斬撃を放ち、次々とウルフを倒していく。
だが、なにか様子がおかしかった。獲物を求めてやって来たにしては数が多すぎる。しかも、四方から次々と別の魔物まで出現しだし、ロインに襲い掛かってくる。次第に、ロインに疲れが見え出し、動きが鈍くなる。
この場所に何かがあるのか?
そう思った時、背後から一匹のウルフが襲いかかり、その鋭い牙がロインの肩に突き刺さった。呻き声を上げながらも、剣を振るい、ウルフを薙倒す。その瞬間、キンッという高い音がして、何かが地面に転がり落ちた。それが何かを確かめようとするが、すぐに別の魔物が飛び掛ってくる。再び魔神剣を放とうと構えた瞬間、彼の目の前を別の斬撃が疾った。
「ロイン、大丈夫か!?」
声のする方向をみると、そこには、剣を構えてこちらに駆け寄ってくるカイウスの姿があった。それに気がついた魔物は、ターゲットをカイウスに変え、彼に襲いかかっていった。だが、カイウスは臆することなく、さらに勢いをつけ、空中に飛び上がった。
「飛天翔駆!!」
カイウスはそのまま魔物の群れへと急降下し、魔物を倒していく。その様子をロインはじっと見つめ、改めて彼と自分との経験の差を感じた。
「大丈夫か…って、肩のケガひどいぞ!?」
ようやく魔物の姿が見えなくなり、カイウスはロインの元へたどり着いた。ロインはその場に膝をつき、負傷した肩を抑えていた。
「…うるせぇ。」
「意地張ってる場合かよ。とりあえず、応急処置だけでもしてやるから」
「うるせぇ!!誰が『助けろ』だなんて言った!?オレに構うな!!」
手当てをしようと近づくカイウスを、ロインは怒鳴り声をあげて拒絶した。その瞳には、イーバオで初めて対峙した時の、あの殺気に似たものがあった。だが、カイウスはそれに怯むことはなかった。それどころか、出血しつづけている彼の肩を気にし、手当てをしようという姿勢を変えなかった。ロインも抵抗を止めようとはせず、カイウスをにらみつける。しばらく硬直状態が続いた後、カイウスの口から溜息が漏れた。
「埒があかないな。悪いが、その傷をほっといたら、オレがルビアに怒鳴られちまうから…な!」
その言葉と同時に、カイウスの拳がロインの腹に深く入り込んだ。その一撃でロインは気を失い、その場に崩れるように倒れた。
「おいし〜♪」
ティマの作った料理を口にして、ルビアがそう言った。
「本当にティマって料理上手だよね。」
「よく、おばさんのお手伝いしてたから…。」
「そっか。オレも村にいた頃は、よく父さんの手伝いしてたっけ。」
「ロインも料理上手いんですよ。一人暮らしが長いから。」
「え、そうなの?旅に出てから、ご飯支度やってくれないから、できないんだと思ってた。」
ルビアの発言と同時に、三人がロインに視線を向けると、ロインは彼らから目を逸らした。その態度にティマとカイウスが困った表情をするのに対し、ルビアは負けじとロインににじり寄った。
「ねぇ、明日のご飯、ロインが作ってよ。あたし、ロインの作る料理食べてみたいなぁ。」
ルビアは、物をねだるような口調でロインに言った。だが、ロインの首は縦に振られなかった。それどころか、食事を済ませてしまうと、何も言わずに一人でどこかへ行ってしまった。彼の姿が闇に消えてしまうと、ティマはうつむいてルビアに謝った。
「…ごめんなさい、ルビア。ロインったら、あんな態度ばっかりで。」
「ううん、気にしないで。」
「それにしても、酷い嫌われようだな…。ティマはどうやってロインと仲良くなれたんだ?」
「え?」
「あ!あたしも気になる!ティマ、教えてよ。」
ティマは二人にそう尋ねられ、一瞬、驚きと焦りの表情を見せた。だが、しばらくしてから頷き、周囲にロインがいないことを確認した。
「ええっと、どこから話せばいいのかな…」
「じゃあ、あいつと仲良くなったきっかけを話してくれよ。」
「いいですよ。」
ティマは笑顔で答え、カイウスとルビアの正面に座りなおした。二人は好奇心で満たされた顔で、ティマを見つめた。
「きっかけは、ロインがイーバオに来てから3ヶ月経った頃にした、ある約束でした…」
カイウス達から一人離れたロインは、目的もなく周囲を歩きつづけていた。カイウスとルビアと一緒に居たくない。その心だけが彼を突き動かしていた。しばらく歩きつづけると、彼の目に、暗闇の中に光る白い物体が映った。近くへ行くと、それは、この丘に数個ある巨大な白い岩うちの一つであることがわかった。月光に反射して白い光を放つその岩に、ロインはどこか引き付けられ、そっと触れた。岩は吹き渡る夜風よりもヒンヤリと冷たく、周囲の静寂が、彼に岩と一体になっているような感覚を与えた。その感覚が心地よいのか、彼の顔に僅かに笑みが見られた。
だがその笑みは、風向きが変わった瞬間に消えた。
自分が歩いてきた方角から複数の気配を感じ、ロインは腰にある剣に手をまわした。草むらから飛び出した影は、狼のような姿をした魔物ウルフだった。何の迷いもなく、一直線にロインめがけて駆けてくるウルフ達を、彼は躊躇なく切り倒していく。数は多いが、イーバオを襲った兵ほどではない。ロインは斬撃を放ち、次々とウルフを倒していく。
だが、なにか様子がおかしかった。獲物を求めてやって来たにしては数が多すぎる。しかも、四方から次々と別の魔物まで出現しだし、ロインに襲い掛かってくる。次第に、ロインに疲れが見え出し、動きが鈍くなる。
この場所に何かがあるのか?
そう思った時、背後から一匹のウルフが襲いかかり、その鋭い牙がロインの肩に突き刺さった。呻き声を上げながらも、剣を振るい、ウルフを薙倒す。その瞬間、キンッという高い音がして、何かが地面に転がり落ちた。それが何かを確かめようとするが、すぐに別の魔物が飛び掛ってくる。再び魔神剣を放とうと構えた瞬間、彼の目の前を別の斬撃が疾った。
「ロイン、大丈夫か!?」
声のする方向をみると、そこには、剣を構えてこちらに駆け寄ってくるカイウスの姿があった。それに気がついた魔物は、ターゲットをカイウスに変え、彼に襲いかかっていった。だが、カイウスは臆することなく、さらに勢いをつけ、空中に飛び上がった。
「飛天翔駆!!」
カイウスはそのまま魔物の群れへと急降下し、魔物を倒していく。その様子をロインはじっと見つめ、改めて彼と自分との経験の差を感じた。
「大丈夫か…って、肩のケガひどいぞ!?」
ようやく魔物の姿が見えなくなり、カイウスはロインの元へたどり着いた。ロインはその場に膝をつき、負傷した肩を抑えていた。
「…うるせぇ。」
「意地張ってる場合かよ。とりあえず、応急処置だけでもしてやるから」
「うるせぇ!!誰が『助けろ』だなんて言った!?オレに構うな!!」
手当てをしようと近づくカイウスを、ロインは怒鳴り声をあげて拒絶した。その瞳には、イーバオで初めて対峙した時の、あの殺気に似たものがあった。だが、カイウスはそれに怯むことはなかった。それどころか、出血しつづけている彼の肩を気にし、手当てをしようという姿勢を変えなかった。ロインも抵抗を止めようとはせず、カイウスをにらみつける。しばらく硬直状態が続いた後、カイウスの口から溜息が漏れた。
「埒があかないな。悪いが、その傷をほっといたら、オレがルビアに怒鳴られちまうから…な!」
その言葉と同時に、カイウスの拳がロインの腹に深く入り込んだ。その一撃でロインは気を失い、その場に崩れるように倒れた。