第2章 萌える丘と蒼き海 X
サイノッサスの群れと遭遇して以来、彼らは魔物と出会わなかった。ひたすらセビアのある東に向かって歩きつづけ、ティマとルビアとの合流を目指した。だが、その日の太陽は沈み、これ以上進むことが困難になってしまった。カイウスはいつものように野宿に適した場所を見つけ、その準備を始めた。その時、いつもと違い、ロインが野宿の準備を手伝いだしたのだった。昼間に再び感じた「溝」は気のせいだったのかもしれない。カイウスはそんなことを考えた。
「サンキュー、ロイン。助かる。」
「…お前一人に準備させて、後で面倒になるのが嫌なだけだ。」
…前言撤回。
ロインの相変わらず冷たい言動に、カイウスはそう思った。やはり、ロインとの溝は変わらずに在るのだ。カイウスはそう確信した。ティマの話を最後まで聞けなかっただけに、カイウスは余計にロインの心を開く方法が知りたくなった。
月が昇り、雲ひとつない夜空に星が輝く。焚き火をして暖をとりながら、二人の少女は、はぐれた仲間の安否を気にしていた。
「大丈夫よ、ティマ。ロインはカイウスが連れてきてくれるって。」
ルビアが励ますも、ティマに元気は戻らない。イーバオを出てから、ティマがこんなに暗い顔をしているのは、これが初めてだった。
「仮にロインとカイウスが合流できても、二人が仲良くできるとは思えないよ…。」
「う〜ん。その心配はわかるかも。」
ロインは出会ってから、まだ一度も二人の名前を呼んだことがなかった。それは彼が心を閉ざしている証拠でもあった。そんな状態の彼とカイウスが共にいるなんて、ある意味自殺行為としか言いようがなかった。
「今頃喧嘩でもしてなきゃいいけど。」
「喧嘩してるほうがまだマシです…。」
「確かに。『喧嘩するほど仲がいい』っていうもんね。」
「ええ。」
二人は重い溜息をついた。だがその直後、二人に緊張が走った。目の前にある茂みから、何かが近づいてくる気配がしたからだ。
「…ロイン、いるの?」
「ティマ、違うわ。この感じ…魔物よ!!」
ルビアの叫びと同時に、数体の魔物が二人に襲い掛かってきた。だが、遠距離タイプのルビアは急襲に対応できなかった。すぐに詠唱を始めるものの、間にあうはずがなかった。
「はぁ!!」
その時、ティマは持っていた杖を魔物に向かって突き刺した。それは襲い掛かってきた魔物の一体にあたり、絶命させた。
「ティ、ティマすごい!」
「一応、おばさんから槍術を習っていたの。前衛は任せて。」
ティマの杖先が槍のようになっていたのは、このためだったのか。ルビアはそう思った。そして、ティマに前衛を任せ、自身は詠唱に集中した。だが、頭の片隅で一つ気になることがあった。
カイウスとロインも、自分達と同じように、魔物に襲われていなければいいけれど…。
「散沙雨!!」
連続で繰り出される突きによって、倒れていく魔物。熾した火が目印となったのか、ロインとカイウスの周りに魔物が集まってきたのだった。剣を抜き、応戦する二人だったが、その息は全く合っていなかった。いつも通りロインがカイウスを無視して攻撃を仕掛けていくので、カイウスは必然的にそのフォローにまわされていた。
「ロイン!お前、少しは味方のこと意識して戦え!死にてぇのか!?」
背後で別の魔物の相手をしているロインに向かって、カイウスは怒鳴った。だが、ロインはそれに応じず、ただ目の前の敵を倒すことだけに集中していた。そんなロインに苛立ちを見せるカイウス。だが、彼も集中しなければ魔物にやられてしまう。
「くそ、これじゃ話にならねぇ。」
痺れを切らしたカイウスは、魔物から少し距離をおくと、その場にいる者全てを畏怖させるような咆哮をした。そこから異常な力を感じたロインは、目の前の敵から離れ、カイウスの方を見た。次の瞬間だった。
「…目覚めろ、俺の中の野生の魂!!!」
その言葉と共に、カイウスの姿が光に包まれる。ロインは自身の目を疑った。そこに、獣のような、どこか見知った存在が現れたのだ。
「…カ……カイ…ウス…?」
思わずその名を呼ぶロイン。しかし、そこにいる者はその声に答えなかった。代わりに、周囲の魔物が声を上げて次々に倒れていく光景が、ロインの目に映った。その者は桁違いの強さを見せ、その場にいた全ての魔物を薙倒したのだった。
「サンキュー、ロイン。助かる。」
「…お前一人に準備させて、後で面倒になるのが嫌なだけだ。」
…前言撤回。
ロインの相変わらず冷たい言動に、カイウスはそう思った。やはり、ロインとの溝は変わらずに在るのだ。カイウスはそう確信した。ティマの話を最後まで聞けなかっただけに、カイウスは余計にロインの心を開く方法が知りたくなった。
月が昇り、雲ひとつない夜空に星が輝く。焚き火をして暖をとりながら、二人の少女は、はぐれた仲間の安否を気にしていた。
「大丈夫よ、ティマ。ロインはカイウスが連れてきてくれるって。」
ルビアが励ますも、ティマに元気は戻らない。イーバオを出てから、ティマがこんなに暗い顔をしているのは、これが初めてだった。
「仮にロインとカイウスが合流できても、二人が仲良くできるとは思えないよ…。」
「う〜ん。その心配はわかるかも。」
ロインは出会ってから、まだ一度も二人の名前を呼んだことがなかった。それは彼が心を閉ざしている証拠でもあった。そんな状態の彼とカイウスが共にいるなんて、ある意味自殺行為としか言いようがなかった。
「今頃喧嘩でもしてなきゃいいけど。」
「喧嘩してるほうがまだマシです…。」
「確かに。『喧嘩するほど仲がいい』っていうもんね。」
「ええ。」
二人は重い溜息をついた。だがその直後、二人に緊張が走った。目の前にある茂みから、何かが近づいてくる気配がしたからだ。
「…ロイン、いるの?」
「ティマ、違うわ。この感じ…魔物よ!!」
ルビアの叫びと同時に、数体の魔物が二人に襲い掛かってきた。だが、遠距離タイプのルビアは急襲に対応できなかった。すぐに詠唱を始めるものの、間にあうはずがなかった。
「はぁ!!」
その時、ティマは持っていた杖を魔物に向かって突き刺した。それは襲い掛かってきた魔物の一体にあたり、絶命させた。
「ティ、ティマすごい!」
「一応、おばさんから槍術を習っていたの。前衛は任せて。」
ティマの杖先が槍のようになっていたのは、このためだったのか。ルビアはそう思った。そして、ティマに前衛を任せ、自身は詠唱に集中した。だが、頭の片隅で一つ気になることがあった。
カイウスとロインも、自分達と同じように、魔物に襲われていなければいいけれど…。
「散沙雨!!」
連続で繰り出される突きによって、倒れていく魔物。熾した火が目印となったのか、ロインとカイウスの周りに魔物が集まってきたのだった。剣を抜き、応戦する二人だったが、その息は全く合っていなかった。いつも通りロインがカイウスを無視して攻撃を仕掛けていくので、カイウスは必然的にそのフォローにまわされていた。
「ロイン!お前、少しは味方のこと意識して戦え!死にてぇのか!?」
背後で別の魔物の相手をしているロインに向かって、カイウスは怒鳴った。だが、ロインはそれに応じず、ただ目の前の敵を倒すことだけに集中していた。そんなロインに苛立ちを見せるカイウス。だが、彼も集中しなければ魔物にやられてしまう。
「くそ、これじゃ話にならねぇ。」
痺れを切らしたカイウスは、魔物から少し距離をおくと、その場にいる者全てを畏怖させるような咆哮をした。そこから異常な力を感じたロインは、目の前の敵から離れ、カイウスの方を見た。次の瞬間だった。
「…目覚めろ、俺の中の野生の魂!!!」
その言葉と共に、カイウスの姿が光に包まれる。ロインは自身の目を疑った。そこに、獣のような、どこか見知った存在が現れたのだ。
「…カ……カイ…ウス…?」
思わずその名を呼ぶロイン。しかし、そこにいる者はその声に答えなかった。代わりに、周囲の魔物が声を上げて次々に倒れていく光景が、ロインの目に映った。その者は桁違いの強さを見せ、その場にいた全ての魔物を薙倒したのだった。