第2章 萌える丘と蒼き海 [
一行がセビアに到着したのは、日が沈み始めた頃だった。だが、イーバオと違い、町にはまだ活気が残っていた。ガス灯がつき始め、帰宅する人々でにぎわう港町に、ロインとティマはどこか懐かしさと寂しさを感じていた。
「オレ、先に宿とってくるから、お前ら後で来いよ。」
「あ、じゃああたしは首都に向かう船の便を調べてくるね。」
そんな二人の様子を察したのか、カイウス達はそう言って町の中を駆けていった。残された二人は、しばらくその場に立ち尽くしていた。
「ねぇ、海見に行かない?」
その一言で、やっと二人は動き出した。そういえばこの4日間ほど、あの心地よい潮風にあたっていない。そんなことを考えながら、二人は港に向かった。
船着場が見え、海独特の香りが漂い始めた頃、妙に人が集まっていることにロインとティマは気がついた。そこには、一艘の巨大で頑丈そうな船が泊まっており、人々は好奇の眼差しで何かを見ていた。ロインはその船をどこかで見た気がした。人ごみを掻き分け、その中心に行くと、彼らの目にどこか見覚えのある印が見えた。それは…
「「『雷嵐の波(ストーム・ウェーブ)』の旗!?」」
ロインの父が生きていた頃から、漁の手伝いなどで沖に出ると見かけた、稲妻と荒れ狂う波とが描かれた旗。それは、マウディーラでは比較的有名な海賊の証だった。イーバオの漁師や船乗りの中に、「雷嵐の波」の被害にあった者はいないが、危険なので近づくな、と大人たちによく言われたものだった。そして、ロインは「バオイの丘」を抜けたところでこの旗が目に入ったのを思い出した。だが、この町の雰囲気は、海賊に襲われているというよりは、むしろ歓迎しているように見えた。船の近くで、町の代表者らしき人物と海賊の一員らしき人物が何やら話していたのが見え、ロインとティマはその会話を聞こうと、さらに人ごみの中を進んでいった。
「…、『女神の従者(マリアのしもべ)』には、いつも…てますよ!」
「いいえ。…たら、また…してください。」
野次馬で会話が掻き消される中、辛うじて一部だけが聞こえた。代表者であろう帽子を被った中年の男性が言った『女神の従者』。『雷嵐の波』とは違う存在なのだろうか?船員の一人であろう人物は、マントのようなものを被っているため、顔がよく見えなかった。
「なんだろうね、この人だかり。」
不意に聞きなれた声が後ろからして、二人は振り返った。そこには、赤髪の仲間が二人の間から顔をのぞかせていた。
「ルビア!船の事は聞けたの?」
「それが、そういう事情に詳しい人がこっちにいるっていうのよ。」
どこか面倒そうな表情をしながら、ルビアは二人の代表者を見つめていた。だが、マントを被った人物がこちらに顔を向けた瞬間、ルビアの表情が一変した。その緑の瞳からは、今までに感じたことのない憎悪が表れ、全身は高ぶる感情で小刻みに震えていた。ロインとティマを含め彼女の周囲にいる人々は、その禍禍しいオーラに気付き、自然と彼女から距離をおき始めた。
「ルビア、どうかしたの?」
ティマが恐る恐る声をかけるも、ルビアの全意識は視線の先に向けられていて、仲間の心配に気がつかなかった。そして、彼女の中で何かが弾けた。
「ロミーーーーー!!!!」
ロインが反応できない程の素早さで彼の剣を抜き取り、自然と開かれた道を駆け抜け、その剣をマントの人物へと向け、力の限り振り下ろした。キィンと金属同士がぶつかり合う音が響き、マントの人物はバックステップでルビアと距離をとった。どこに隠されていたのか、いつの間にか右手に小刀のようなものが握られていた。それでルビアの太刀筋を受け止めたのだった。
「ルビア!」
突然の事態に驚きながらも、ティマは慌てて彼女の元へと駆け寄った。ティマが近づくと、ルビアの息は荒れ、全身から殺気が溢れていた。そこまで敵意を向ける相手が誰なのか、ティマには想像できなかった。
「オレ、先に宿とってくるから、お前ら後で来いよ。」
「あ、じゃああたしは首都に向かう船の便を調べてくるね。」
そんな二人の様子を察したのか、カイウス達はそう言って町の中を駆けていった。残された二人は、しばらくその場に立ち尽くしていた。
「ねぇ、海見に行かない?」
その一言で、やっと二人は動き出した。そういえばこの4日間ほど、あの心地よい潮風にあたっていない。そんなことを考えながら、二人は港に向かった。
船着場が見え、海独特の香りが漂い始めた頃、妙に人が集まっていることにロインとティマは気がついた。そこには、一艘の巨大で頑丈そうな船が泊まっており、人々は好奇の眼差しで何かを見ていた。ロインはその船をどこかで見た気がした。人ごみを掻き分け、その中心に行くと、彼らの目にどこか見覚えのある印が見えた。それは…
「「『雷嵐の波(ストーム・ウェーブ)』の旗!?」」
ロインの父が生きていた頃から、漁の手伝いなどで沖に出ると見かけた、稲妻と荒れ狂う波とが描かれた旗。それは、マウディーラでは比較的有名な海賊の証だった。イーバオの漁師や船乗りの中に、「雷嵐の波」の被害にあった者はいないが、危険なので近づくな、と大人たちによく言われたものだった。そして、ロインは「バオイの丘」を抜けたところでこの旗が目に入ったのを思い出した。だが、この町の雰囲気は、海賊に襲われているというよりは、むしろ歓迎しているように見えた。船の近くで、町の代表者らしき人物と海賊の一員らしき人物が何やら話していたのが見え、ロインとティマはその会話を聞こうと、さらに人ごみの中を進んでいった。
「…、『女神の従者(マリアのしもべ)』には、いつも…てますよ!」
「いいえ。…たら、また…してください。」
野次馬で会話が掻き消される中、辛うじて一部だけが聞こえた。代表者であろう帽子を被った中年の男性が言った『女神の従者』。『雷嵐の波』とは違う存在なのだろうか?船員の一人であろう人物は、マントのようなものを被っているため、顔がよく見えなかった。
「なんだろうね、この人だかり。」
不意に聞きなれた声が後ろからして、二人は振り返った。そこには、赤髪の仲間が二人の間から顔をのぞかせていた。
「ルビア!船の事は聞けたの?」
「それが、そういう事情に詳しい人がこっちにいるっていうのよ。」
どこか面倒そうな表情をしながら、ルビアは二人の代表者を見つめていた。だが、マントを被った人物がこちらに顔を向けた瞬間、ルビアの表情が一変した。その緑の瞳からは、今までに感じたことのない憎悪が表れ、全身は高ぶる感情で小刻みに震えていた。ロインとティマを含め彼女の周囲にいる人々は、その禍禍しいオーラに気付き、自然と彼女から距離をおき始めた。
「ルビア、どうかしたの?」
ティマが恐る恐る声をかけるも、ルビアの全意識は視線の先に向けられていて、仲間の心配に気がつかなかった。そして、彼女の中で何かが弾けた。
「ロミーーーーー!!!!」
ロインが反応できない程の素早さで彼の剣を抜き取り、自然と開かれた道を駆け抜け、その剣をマントの人物へと向け、力の限り振り下ろした。キィンと金属同士がぶつかり合う音が響き、マントの人物はバックステップでルビアと距離をとった。どこに隠されていたのか、いつの間にか右手に小刀のようなものが握られていた。それでルビアの太刀筋を受け止めたのだった。
「ルビア!」
突然の事態に驚きながらも、ティマは慌てて彼女の元へと駆け寄った。ティマが近づくと、ルビアの息は荒れ、全身から殺気が溢れていた。そこまで敵意を向ける相手が誰なのか、ティマには想像できなかった。