第2章 萌える丘と蒼き海 ]
『女神の従者』を仕切るラミーという少女。姿こそ似ているが、性格は全く違っていた。どうやら他人の空似というものであったようだ。カイウスとルビアはその勘違いに気付き、彼女に頭を下げて詫びた。
「ま、そこまで心の狭い女じゃないからね。襲撃代だけでチャラにしてあげるわ。」
「って、金とるのかよ!?」
「当たり前じゃない。『雷嵐の波』に武器むけた代償は大きいわよ?むしろ、その程度で済んだんだから喜びなさいよ。」
食って掛かるカイウスをラミーはそう言いくるめた。だが、その発言の中に一つ気になることがあった。それに真っ先に気がついたのはティマだった。
「待って。今、『雷嵐の波』って言わなかった?」
途端に、ラミーはしまったというような表情を見せた。その様子に気づいたカイウスたちの冷たい視線を受け、ラミーは諦めたように頭を掻いた。
「はぁ、口が滑っちゃったよ。『雷嵐の波』っていうは海上ギルド『女神の従者』の裏の顔だよ。」
「つまり…あなた海賊の首領ってこと?」
「海賊ってなんだい!?あたいらは義賊だよ。お前らみたいな貧民襲ったって何も稼げやしないじゃないか。」
「…金は取るのにか?」
「そ、それとこれとは話が別だ。」
まだ幼さが抜けないぶん、理屈的な会話には負けるものの、それでも自分の主張を曲げようとはしない。そんなラミーに困った表情を見せる三人だったが、ロインだけは涼しい顔をしていた。
「金の代わりに『情報』ってのはどうだ?」
ラミーに歩み寄りながら、ロインはそう言った。ラミーはロインを観察するかのように眺めると、にやっとした笑みを浮かべた。
「いいね。どんな情報によるかだけど、それで話をつけようじゃないの。」
カイウス、ルビア、ティマの三人にとっては、それは意外な返答であった。だが、彼女が求める情報を提供できる確証はまだない。もし提供が不可能であればロインはどうするのだろう。そんなことを考えると、三人の頬を冷や汗が伝った。
「あたいが欲しいのは、マウディーラ王家に関する情報だ。どんな些細なことでも聞いてやるよ。」
ラミーの口から出た言葉に、三人は少し安堵した。それなら、イーバオでの出来事のことがある。カイウスがその件について話すと、ラミーは手を顎にあて、何か考え込むような仕草を見せた。
「何もない港町を襲撃した兵士…か。」
ボソッと呟いたラミーは、しばらく沈黙し、考え事をしていた。この情報では許してもらえないのだろうか。そんな不安がよぎった。
「ラミー様、そろそろお戻りください!」
その時、船の甲板から一人の男性が大声で叫んだ。ラミーはそれに答えると、今まで考え事をしていた時の様子が嘘のように消えた。
「ま、今日はこの情報で勘弁してやるよ。身の程をわきまえな。でないと、次はこんなんじゃ済まされないよ。」
ラミーはそう言い残し、船の中へと消えていった。ロインたちは、しばらくその場に立ち尽くしていた。やっと口を開いたのは、彼らの腹の虫がなった時だった。
「そういえば、お腹すいたなぁ。」
「だな。宿に戻ろうぜ。」
「賛成!ずっと野宿だったから、ふとんが恋しいよ〜。」
そんなことを口にしながら、彼らは宿へと向かった。
「とうとう動きだした…か。」
自身の船室へ向かいながら、ラミーはそう口にした。まん中分けになっている前髪を耳にかけ、白い結晶のピアスに触れる。船内の灯りに反射し、美しい輝きを放つ結晶を、彼女は愛しむように撫でた。その動作とは対照的に、獲物を狙うかのような鋭い眼差しがそこにあった。
「「「船がない!?」」」
宿に戻った一行に、厳しい現実が突きつけられた。情報を提供してくれた宿の主は、彼らの大声に戸惑いながらも、言葉を続けた。
「ああ。中央の『マウディーラ』との海域に、最近巨大な魔物が出没するようになってね。首都へ向かうルートは封鎖されて、船はその魔物に壊されてしまったんだ。」
「船が出るようになるまで、早くてどのくらいかかりますか?」
「悪いが、2、3ヶ月はかかるだろうね。中央からの定期便を待つにしても、1ヶ月は見ないと。」
「そ…そんなぁ。」
その言葉に、彼らは意気消沈し、暗いオーラをまといながら部屋へ戻った。首都へ使者としていくのに、そんなに長い時間はかけてられない。だが、イーバオは船と船乗りを多く失ってしまい、セビアは魔物に船を破壊されてしまった。この島に二つしかない交通手段がすべて機能しない。そうなると、彼らに打つ手はなかった。
「どうする?イカダでも作って海を渡るか?」
「カイウス、それ本気で言ってるの?」
「まさか。けど、そうでもしなきゃ1ヶ月も立ち往生するんだぜ?」
「そうですよね。」
三人が部屋で悩んでいる中、ロインは一人ベッドに横になり、物思いにふけっていた。その様子に気づいたティマが、ロインの傍により、声をかけた。
「ねぇロイン、何かいい方法ない?このまま一ヶ月も足止め食らってられないよ。」
「『三人寄れば文殊の知恵』。お前ら三人で考えればいいだろ。」
「思いつかないから聞いてるの!」
ティマがそういうと同時に、ロインは何か嫌な気配を感じた。まるで、ティマに修羅が乗り移ったかのような、そんなある意味恐ろしい気配だ。その気に負けたロインは、ため息を一つこぼすと、頭を掻きながら起き上がった。そして、数秒ほどして、面倒そうに口を開いた。
「ッたく…さっきのギルドに依頼すりゃいいじゃねぇか。」
「『女神の従者』?でも、あれって海賊じゃない。」
「本業にしろ副業にしろ、ギルドとしての顔を持ってるんだ。報酬さえ渡せば平気だろ。」
報酬さえあればなんでもやる。
内容にもよるだろうが、確かに大抵のギルドはそういうものだ。先ほど、ロインがラミーに情報を提供したように。
「あれ?そういえば…」
その時、ルビアが何かを思い出したように口を開いた。
「ロイン、やけにラミーとは自然だったよね?あたし達には全然気を許さないのに。」
やや嫉妬気味の口調でルビアはそう言った。それを聞いたティマとカイウスも、そういえば、というようにはっとした顔でロインの方を見た。
「お前らの、あの敵意むき出しの状態よりはマシだ。」
答えるのが面倒だとでもいうように、ロインはそういい捨てて、再び横になってしまった。ティマがそんなロインを起こして理由を吐かそうとすると、彼はうっとおしそうにして部屋を出ていってしまった。残された三人は、わけがわからず唖然としていた。
「これは…あたし達の知らないところで何かあるわね。」
「な、何かってなんだよ?」
「さあ?それはロインに聞かなきゃ。」
「…いい加減な事言うなよ。」
またいつもの、だがどこか久々な、カイウスとルビアのくだらない言い合いが始まった。だが、ティマはそれを止めようとせず、スクッと立ち上がると、部屋の戸へと向かって行った。
「…私、『女神の従者』にお願いしてきます。」
そう言うと、ティマは勢いよく扉を閉め、部屋をでていってしまった。取り残された二人は、しばらく沈黙していた。
「…もしかして、地雷踏んだか?」
「かもね。あ〜あ。カイウスがティマ怒らせた〜。」
「ルビアが話題ふったんだろうが!?」
月が見え始めた頃にロインが戻ってくるまで、二人は言い争いを続けていた。それが終わったのはティマがロインよりも少し遅れて戻ってきた時だった。そして彼らは、ティマがラミーと交渉した結果、明後日の朝に船を出してもらえることになった。
「ま、そこまで心の狭い女じゃないからね。襲撃代だけでチャラにしてあげるわ。」
「って、金とるのかよ!?」
「当たり前じゃない。『雷嵐の波』に武器むけた代償は大きいわよ?むしろ、その程度で済んだんだから喜びなさいよ。」
食って掛かるカイウスをラミーはそう言いくるめた。だが、その発言の中に一つ気になることがあった。それに真っ先に気がついたのはティマだった。
「待って。今、『雷嵐の波』って言わなかった?」
途端に、ラミーはしまったというような表情を見せた。その様子に気づいたカイウスたちの冷たい視線を受け、ラミーは諦めたように頭を掻いた。
「はぁ、口が滑っちゃったよ。『雷嵐の波』っていうは海上ギルド『女神の従者』の裏の顔だよ。」
「つまり…あなた海賊の首領ってこと?」
「海賊ってなんだい!?あたいらは義賊だよ。お前らみたいな貧民襲ったって何も稼げやしないじゃないか。」
「…金は取るのにか?」
「そ、それとこれとは話が別だ。」
まだ幼さが抜けないぶん、理屈的な会話には負けるものの、それでも自分の主張を曲げようとはしない。そんなラミーに困った表情を見せる三人だったが、ロインだけは涼しい顔をしていた。
「金の代わりに『情報』ってのはどうだ?」
ラミーに歩み寄りながら、ロインはそう言った。ラミーはロインを観察するかのように眺めると、にやっとした笑みを浮かべた。
「いいね。どんな情報によるかだけど、それで話をつけようじゃないの。」
カイウス、ルビア、ティマの三人にとっては、それは意外な返答であった。だが、彼女が求める情報を提供できる確証はまだない。もし提供が不可能であればロインはどうするのだろう。そんなことを考えると、三人の頬を冷や汗が伝った。
「あたいが欲しいのは、マウディーラ王家に関する情報だ。どんな些細なことでも聞いてやるよ。」
ラミーの口から出た言葉に、三人は少し安堵した。それなら、イーバオでの出来事のことがある。カイウスがその件について話すと、ラミーは手を顎にあて、何か考え込むような仕草を見せた。
「何もない港町を襲撃した兵士…か。」
ボソッと呟いたラミーは、しばらく沈黙し、考え事をしていた。この情報では許してもらえないのだろうか。そんな不安がよぎった。
「ラミー様、そろそろお戻りください!」
その時、船の甲板から一人の男性が大声で叫んだ。ラミーはそれに答えると、今まで考え事をしていた時の様子が嘘のように消えた。
「ま、今日はこの情報で勘弁してやるよ。身の程をわきまえな。でないと、次はこんなんじゃ済まされないよ。」
ラミーはそう言い残し、船の中へと消えていった。ロインたちは、しばらくその場に立ち尽くしていた。やっと口を開いたのは、彼らの腹の虫がなった時だった。
「そういえば、お腹すいたなぁ。」
「だな。宿に戻ろうぜ。」
「賛成!ずっと野宿だったから、ふとんが恋しいよ〜。」
そんなことを口にしながら、彼らは宿へと向かった。
「とうとう動きだした…か。」
自身の船室へ向かいながら、ラミーはそう口にした。まん中分けになっている前髪を耳にかけ、白い結晶のピアスに触れる。船内の灯りに反射し、美しい輝きを放つ結晶を、彼女は愛しむように撫でた。その動作とは対照的に、獲物を狙うかのような鋭い眼差しがそこにあった。
「「「船がない!?」」」
宿に戻った一行に、厳しい現実が突きつけられた。情報を提供してくれた宿の主は、彼らの大声に戸惑いながらも、言葉を続けた。
「ああ。中央の『マウディーラ』との海域に、最近巨大な魔物が出没するようになってね。首都へ向かうルートは封鎖されて、船はその魔物に壊されてしまったんだ。」
「船が出るようになるまで、早くてどのくらいかかりますか?」
「悪いが、2、3ヶ月はかかるだろうね。中央からの定期便を待つにしても、1ヶ月は見ないと。」
「そ…そんなぁ。」
その言葉に、彼らは意気消沈し、暗いオーラをまといながら部屋へ戻った。首都へ使者としていくのに、そんなに長い時間はかけてられない。だが、イーバオは船と船乗りを多く失ってしまい、セビアは魔物に船を破壊されてしまった。この島に二つしかない交通手段がすべて機能しない。そうなると、彼らに打つ手はなかった。
「どうする?イカダでも作って海を渡るか?」
「カイウス、それ本気で言ってるの?」
「まさか。けど、そうでもしなきゃ1ヶ月も立ち往生するんだぜ?」
「そうですよね。」
三人が部屋で悩んでいる中、ロインは一人ベッドに横になり、物思いにふけっていた。その様子に気づいたティマが、ロインの傍により、声をかけた。
「ねぇロイン、何かいい方法ない?このまま一ヶ月も足止め食らってられないよ。」
「『三人寄れば文殊の知恵』。お前ら三人で考えればいいだろ。」
「思いつかないから聞いてるの!」
ティマがそういうと同時に、ロインは何か嫌な気配を感じた。まるで、ティマに修羅が乗り移ったかのような、そんなある意味恐ろしい気配だ。その気に負けたロインは、ため息を一つこぼすと、頭を掻きながら起き上がった。そして、数秒ほどして、面倒そうに口を開いた。
「ッたく…さっきのギルドに依頼すりゃいいじゃねぇか。」
「『女神の従者』?でも、あれって海賊じゃない。」
「本業にしろ副業にしろ、ギルドとしての顔を持ってるんだ。報酬さえ渡せば平気だろ。」
報酬さえあればなんでもやる。
内容にもよるだろうが、確かに大抵のギルドはそういうものだ。先ほど、ロインがラミーに情報を提供したように。
「あれ?そういえば…」
その時、ルビアが何かを思い出したように口を開いた。
「ロイン、やけにラミーとは自然だったよね?あたし達には全然気を許さないのに。」
やや嫉妬気味の口調でルビアはそう言った。それを聞いたティマとカイウスも、そういえば、というようにはっとした顔でロインの方を見た。
「お前らの、あの敵意むき出しの状態よりはマシだ。」
答えるのが面倒だとでもいうように、ロインはそういい捨てて、再び横になってしまった。ティマがそんなロインを起こして理由を吐かそうとすると、彼はうっとおしそうにして部屋を出ていってしまった。残された三人は、わけがわからず唖然としていた。
「これは…あたし達の知らないところで何かあるわね。」
「な、何かってなんだよ?」
「さあ?それはロインに聞かなきゃ。」
「…いい加減な事言うなよ。」
またいつもの、だがどこか久々な、カイウスとルビアのくだらない言い合いが始まった。だが、ティマはそれを止めようとせず、スクッと立ち上がると、部屋の戸へと向かって行った。
「…私、『女神の従者』にお願いしてきます。」
そう言うと、ティマは勢いよく扉を閉め、部屋をでていってしまった。取り残された二人は、しばらく沈黙していた。
「…もしかして、地雷踏んだか?」
「かもね。あ〜あ。カイウスがティマ怒らせた〜。」
「ルビアが話題ふったんだろうが!?」
月が見え始めた頃にロインが戻ってくるまで、二人は言い争いを続けていた。それが終わったのはティマがロインよりも少し遅れて戻ってきた時だった。そして彼らは、ティマがラミーと交渉した結果、明後日の朝に船を出してもらえることになった。
■作者メッセージ
おまけスキット
【ロミーって?】
ティマ「あの、ルビア。ロミーって誰なの?」
ルビア「…。」
カイウス「オレたちの親の仇だ。まさか、あんなにそっくりな奴がいるとは思ってなかったけどな。」
ティマ「あ…。ごめんなさい。」
カイウス「気にするなよ。もう昔の話だ。気持ちの整理もついてる。」
【ロミーって?】
ティマ「あの、ルビア。ロミーって誰なの?」
ルビア「…。」
カイウス「オレたちの親の仇だ。まさか、あんなにそっくりな奴がいるとは思ってなかったけどな。」
ティマ「あ…。ごめんなさい。」
カイウス「気にするなよ。もう昔の話だ。気持ちの整理もついてる。」