第3章 首都の過去 W
「大きい〜〜!!」
それが、首都『スディアナ』に到着したティマの第一声であった。彼らの目の前には、噴水のある広場、2・3階建ての建物が並ぶ住宅街、そして、昨日キャンプした場所からも見えていた白く美しい巨大な城があった。街の人々も、皆がおだやかな優しい笑顔をしており、平和そのものの風景が広がっていた。
この風景を見ていると、ロイン達はますますイーバオ襲撃の真相が気になった。首都は平和そのもの。あんな田舎の港を襲う理由など、まるで何処にもない。
(まさか…本当にティマを狙って?)
ロインは出発前夜にマリワナに言われた言葉を思い出し、思わずティマに視線を向けた。
無邪気に、初めて訪れた首都に感動を表しているティマ。海を愛し、イーバオの皆に愛されている明るい幼なじみ。そんな彼女を、誰が、何故狙うのであろう。
そんな疑問を抱いていると、ティマがロインの視線に気付いた。
「ロイン、どうかしたの?」
そう声をかけられ、ロインの意識は現実へと引き戻された。
「な、なんでもない。」
「本当〜?」
「ああ。それより、王に会いに行くんだろう。」
「あ、うん。でも、どうやったら会えるのかしら。」
その言葉にロイン達は、そういえば、とでも言いたげな表情になった。過去に、カイウスとルビアもアレウーラ大陸で王に次ぐ地位の人物に会いに行こうとしたことがあったが、その時は結局、彼に会えずして終わってしまったのであった。正式に取り次ぐ方法もわからず、どうしたらよいか途方にくれていた。
「悩んだって仕方ないわ。とりあえず、お城に行ってみましょう。」
ルビアの発言に三人は同意し、街の奥にそびえる城へと向かった。
遠くで見ても大きいと感じるその城は、間近で見るとすさまじいものであった。天辺を見上げようとすれば、首をつってしまうのではないかと思うほどである。そんな城の前の門に、数人の警備兵がいた。ロイン達はそのうちの一人に声をかけた。
「マウディーラ王に謁見したい?」
「はい。私の故郷の事で、どうしてもお伺いしたいことがありまして。」
「悪いが、今すぐと言うわけには…。」
「できるだけ早く会いたいんです!お願いします。」
ティマが必死に頼み、頭を下げる。三人もそれに続いて頭を下げた。その様子に、兵は困ったように頭を掻いた。そして、少しの沈黙の後、兵は再び口を開いた。
「…わかった。明日また来るといい。王には私から伝えよう。」
「本当ですか!」
「ただし、全員の身体検査をさせてもらう。それで良いな。」
「身体…検査?」
疑問に思い復唱するティマに、兵は頷いた。
「おまえ達が危険物を持ち込まないよう、それにリカンツではないかを調べる為だ。」
それを聞いて、ティマをはじめ、カイウスとルビアの表情が強張った。「リカンツ」。「レイモーンの民」をそう呼ぶということは、彼らに対し、少なからずマイナスの印象を持っているということが多いからだ。
「レイモーンの民が…どうかしたんですか?」
震えた声でティマは兵に尋ねる。兵は彼女の声の調子が変わったことに気がつかない様子で、相変わらずの調子で答えた。
「そうか。君達くらいの年の子は、『あのこと』を知らないんだったな。」
「『あのこと』って?」
「いや、気にする必要はない。とにかく、リカンツどもは危険だから、近づけないようにしているだけさ。」
「レイモーンの民が…危険?」
「さあ、もう帰りなさい。明日、王に謁見できるようにしておくから。」
まるで子供をあやすかのように、兵はそう言って彼らを城から遠ざけた。しばらく歩き、警備兵達に声が届かない距離まで来ると、ティマは突然足を止めた。
「ティマ、どうした?」
カイウスが心配して声をかけた。ティマは俯き、拳を強く握り締めていた。
「…ない」
「え?」
「…レイモーンの民は危険なんかじゃない!!」
ティマは全身から怒りを露に見せ、兵の言葉を全面否定した。その様子に三人は驚き、その場に立ち尽くした。
「おかしいよ…あの人たちだって、同じヒトなのに。特別な力があるからって、危険だなんて!!」
そういうと、ティマはしばらく沈黙した。三人が不安そうな顔でいると、突然きっとした顔でティマは正面を向いた。
「決めた!私、明日王様にレイモーンの民の事も言う!」
ティマはそうはっきりと言い切ると、宿屋に向かってズンズンと歩き出した。そんな彼女に、ルビアは別の意味で不安な表情を見せ、彼女の後を急いで追っていった。
「くっははは。あいつらしいな。」
ロインはそんなティマの様子を見て久々に笑い声をあげ、二人の後に続いた。カイウスもその後に続いた。そしてティマに、心のどこかで感謝していた。
自分の中にも流れる「レイモーンの民」の血。拒絶するものもいれば、こうして温かく受け入れてくれる者もいる。その存在が、今まで大陸から虐げられてきた者にとっては、どんなにありがたいか…
そんな想いを秘め、カイウスは彼らの後を歩いていた。
それが、首都『スディアナ』に到着したティマの第一声であった。彼らの目の前には、噴水のある広場、2・3階建ての建物が並ぶ住宅街、そして、昨日キャンプした場所からも見えていた白く美しい巨大な城があった。街の人々も、皆がおだやかな優しい笑顔をしており、平和そのものの風景が広がっていた。
この風景を見ていると、ロイン達はますますイーバオ襲撃の真相が気になった。首都は平和そのもの。あんな田舎の港を襲う理由など、まるで何処にもない。
(まさか…本当にティマを狙って?)
ロインは出発前夜にマリワナに言われた言葉を思い出し、思わずティマに視線を向けた。
無邪気に、初めて訪れた首都に感動を表しているティマ。海を愛し、イーバオの皆に愛されている明るい幼なじみ。そんな彼女を、誰が、何故狙うのであろう。
そんな疑問を抱いていると、ティマがロインの視線に気付いた。
「ロイン、どうかしたの?」
そう声をかけられ、ロインの意識は現実へと引き戻された。
「な、なんでもない。」
「本当〜?」
「ああ。それより、王に会いに行くんだろう。」
「あ、うん。でも、どうやったら会えるのかしら。」
その言葉にロイン達は、そういえば、とでも言いたげな表情になった。過去に、カイウスとルビアもアレウーラ大陸で王に次ぐ地位の人物に会いに行こうとしたことがあったが、その時は結局、彼に会えずして終わってしまったのであった。正式に取り次ぐ方法もわからず、どうしたらよいか途方にくれていた。
「悩んだって仕方ないわ。とりあえず、お城に行ってみましょう。」
ルビアの発言に三人は同意し、街の奥にそびえる城へと向かった。
遠くで見ても大きいと感じるその城は、間近で見るとすさまじいものであった。天辺を見上げようとすれば、首をつってしまうのではないかと思うほどである。そんな城の前の門に、数人の警備兵がいた。ロイン達はそのうちの一人に声をかけた。
「マウディーラ王に謁見したい?」
「はい。私の故郷の事で、どうしてもお伺いしたいことがありまして。」
「悪いが、今すぐと言うわけには…。」
「できるだけ早く会いたいんです!お願いします。」
ティマが必死に頼み、頭を下げる。三人もそれに続いて頭を下げた。その様子に、兵は困ったように頭を掻いた。そして、少しの沈黙の後、兵は再び口を開いた。
「…わかった。明日また来るといい。王には私から伝えよう。」
「本当ですか!」
「ただし、全員の身体検査をさせてもらう。それで良いな。」
「身体…検査?」
疑問に思い復唱するティマに、兵は頷いた。
「おまえ達が危険物を持ち込まないよう、それにリカンツではないかを調べる為だ。」
それを聞いて、ティマをはじめ、カイウスとルビアの表情が強張った。「リカンツ」。「レイモーンの民」をそう呼ぶということは、彼らに対し、少なからずマイナスの印象を持っているということが多いからだ。
「レイモーンの民が…どうかしたんですか?」
震えた声でティマは兵に尋ねる。兵は彼女の声の調子が変わったことに気がつかない様子で、相変わらずの調子で答えた。
「そうか。君達くらいの年の子は、『あのこと』を知らないんだったな。」
「『あのこと』って?」
「いや、気にする必要はない。とにかく、リカンツどもは危険だから、近づけないようにしているだけさ。」
「レイモーンの民が…危険?」
「さあ、もう帰りなさい。明日、王に謁見できるようにしておくから。」
まるで子供をあやすかのように、兵はそう言って彼らを城から遠ざけた。しばらく歩き、警備兵達に声が届かない距離まで来ると、ティマは突然足を止めた。
「ティマ、どうした?」
カイウスが心配して声をかけた。ティマは俯き、拳を強く握り締めていた。
「…ない」
「え?」
「…レイモーンの民は危険なんかじゃない!!」
ティマは全身から怒りを露に見せ、兵の言葉を全面否定した。その様子に三人は驚き、その場に立ち尽くした。
「おかしいよ…あの人たちだって、同じヒトなのに。特別な力があるからって、危険だなんて!!」
そういうと、ティマはしばらく沈黙した。三人が不安そうな顔でいると、突然きっとした顔でティマは正面を向いた。
「決めた!私、明日王様にレイモーンの民の事も言う!」
ティマはそうはっきりと言い切ると、宿屋に向かってズンズンと歩き出した。そんな彼女に、ルビアは別の意味で不安な表情を見せ、彼女の後を急いで追っていった。
「くっははは。あいつらしいな。」
ロインはそんなティマの様子を見て久々に笑い声をあげ、二人の後に続いた。カイウスもその後に続いた。そしてティマに、心のどこかで感謝していた。
自分の中にも流れる「レイモーンの民」の血。拒絶するものもいれば、こうして温かく受け入れてくれる者もいる。その存在が、今まで大陸から虐げられてきた者にとっては、どんなにありがたいか…
そんな想いを秘め、カイウスは彼らの後を歩いていた。