第3章 首都の過去 X
翌日、ロイン達四人は、太陽がほぼ真上に昇る頃に城門へとやって来た。そこには、昨日と同じように、数人の白い鎧をまとった警備兵がいた。
「すみません。昨日、マウディーラ王に謁見をお願いした者ですが…」
ティマが近くにいた兵に尋ねると、「ああ、君達か」と言ってすんなり城の中に入れてくれた。あまりにもトントン拍子に事が進むので少し拍子抜けした彼らだったが、小難しい手続きをするよりはマシだと思うことにした。
城内は予想以上に広く、地図でもなければ迷ってしまうのではないかと思うほどであった。しばらく長い回廊を進むと、案内の兵が、とある一室の前で立ち止まった。
「男子はここで身体検査を受けるように。女子はこの隣の部屋だ。」
そう言われ、ロインとカイウスは一度ティマとルビアと別れ、部屋の中へと入っていった。
数分後、彼らは無事検査を終え、いよいよ王に会えることとなった。ティマは緊張し、カイウスとルビアはそんな彼女をリラックスさせようとしている。だが、ロインは違った。彼はカイウスに「ザンクトゥ」がなかったことに疑問を抱いていた。
獣人化の力を持つレイモーンの民にはザンクトゥがある。
そう聞いていたロインにとって、ザンクトゥのないカイウスが獣人化できることは、とても不思議なことに思えて仕方がなかったのだ。
彼はヒトなのだろうか。それとも…
そんなことを考えている間に、四人は玉座のある間へと通された。玉座にはマウディーラの王と后が、部屋の両端には、王の護衛であろうさまざまな色の鎧をまとった兵が数名おり、緊張した空気が張り巡らされていた。
「あなた達が、私達に話があるという者ですか?」
女王の口から、穏やかな、張り詰めた空気を優しく包み込むような声が聞こえた。その問いかけに、ティマが一歩前進して答えた。
「初めまして。お忙しい中、時間をつくって頂き、真にありがとうございます。私は、西にある港町イーバオに住む…」
畏まった挨拶をするティマを、王は手を前に出して制した。
「そんなに堅くならなくても良い。私たちにも、ちょうど君達ぐらいになる娘がいた。君の話しやすい言い方で構わないよ。」
王は笑顔で、まるで父親のように声をかけた。ティマは一瞬戸惑ったような顔を見せたが、すぐに笑顔で返答した。
「では、お言葉に甘えさせていただきます。」
そう言って、すうっと深呼吸を一つする。それからティマは、真剣な表情になった。
「先日、私の故郷が数人の兵士によって襲撃されました。町の人の多くが負傷し、死人も出ました。兵は普段、王家を守るためにあるはずです。それが何故、私の住む町を襲ったのか、理由を聞きたくて会いに来ました。」
一息にそこまで言い切ると、王と后をはじめ、その部屋にいる皆が驚き、ざわつき始めた。口々に「そんなことが?」「そんな命が下されたなんて聞いてないぞ。」等と話している。再び王が手を上げ、周りが静かになった。
「それは、事実かね?」
「オレ達が証人です。」
王の問いに、ティマの代わりにカイウスが答えた。
「オレとルビアは各地を旅している際中、偶然イーバオに通りかかりました。その時、町からは血の臭いがして、武器を持った兵が町中をうろついていました。そして、兵に襲われていた二人と出会いました。」
カイウスの証言に、三人は頷いた。その言葉に嘘はないと感じたのか、王はなるほどと呟き、深く息を吐いた。そして、王と目を合わせた后が口を開いた。
「わかりました。何故、貴女の故郷がそのようなことになってしまったのか、こちらで詮索し、報告いたしましょう。事によっては、復興の援助も出しましょう。」
その言葉に、ティマの表情が明るくなった。
「ありがとうございます!」
「良かったわね、ティマ。」
「ええ。」
二人の少女が喜びの声をあげた瞬間、王と后が驚きの表情を見せた。
「…お嬢さん、今なんて?」
「え、え?」
震える声で女王は問い、二人の様子に驚くルビアは声を失い、答えることができなかった。すると、青色の鎧の兵がティマのもとへと近づいてきた。
「失礼します。貴女の名を窺ってもよろしいでしょうか。」
「ティ、ティマ・コレンド、です。」
「…!」
ロイン、カイウス、ルビアを除いたその部屋にいた者全員が、ティマの名を聞いて驚きの声を上げた。突然の事態にティマは混乱し始めた。
「…ティマに何かあるのですか?」
そんな中、一人冷静を保っていたロインが尋ねた。すると、ティマに名を聞いた兵が、ロインの方を向いて答えた。
「彼女は、亡くなられたはずの姫様と年齢と名前が似ているのです。それで、少し驚いてしまって。」
「亡くなられた『はず』?それはどういう…」
兵のひっかかる言い方に、今度はカイウスが尋ねた。だが、今度はその兵は答えず、しばらく沈黙が続いた。
「…あの子は15年前、汚らわしい一族の男と海賊の手によって行方不明になり、そして…」
静寂を割って后が口を開くも、その目から涙をこぼし、嗚咽し、言葉を続けることができなかった。そんな彼女の肩を王は優しく抱いた。
「すまないが、詳しいことはその者から聞いて欲しい。フレア、こちらが落ち着くまで、その子達には応接間で待ってもらうよう頼む。」
「承知いたしました。」
フレアと呼ばれたその兵は、「こちらです」と言って、ロイン達を案内した。部屋を後にする時、后のすすり泣く声が彼らの頭から離れなかった。
「すみません。昨日、マウディーラ王に謁見をお願いした者ですが…」
ティマが近くにいた兵に尋ねると、「ああ、君達か」と言ってすんなり城の中に入れてくれた。あまりにもトントン拍子に事が進むので少し拍子抜けした彼らだったが、小難しい手続きをするよりはマシだと思うことにした。
城内は予想以上に広く、地図でもなければ迷ってしまうのではないかと思うほどであった。しばらく長い回廊を進むと、案内の兵が、とある一室の前で立ち止まった。
「男子はここで身体検査を受けるように。女子はこの隣の部屋だ。」
そう言われ、ロインとカイウスは一度ティマとルビアと別れ、部屋の中へと入っていった。
数分後、彼らは無事検査を終え、いよいよ王に会えることとなった。ティマは緊張し、カイウスとルビアはそんな彼女をリラックスさせようとしている。だが、ロインは違った。彼はカイウスに「ザンクトゥ」がなかったことに疑問を抱いていた。
獣人化の力を持つレイモーンの民にはザンクトゥがある。
そう聞いていたロインにとって、ザンクトゥのないカイウスが獣人化できることは、とても不思議なことに思えて仕方がなかったのだ。
彼はヒトなのだろうか。それとも…
そんなことを考えている間に、四人は玉座のある間へと通された。玉座にはマウディーラの王と后が、部屋の両端には、王の護衛であろうさまざまな色の鎧をまとった兵が数名おり、緊張した空気が張り巡らされていた。
「あなた達が、私達に話があるという者ですか?」
女王の口から、穏やかな、張り詰めた空気を優しく包み込むような声が聞こえた。その問いかけに、ティマが一歩前進して答えた。
「初めまして。お忙しい中、時間をつくって頂き、真にありがとうございます。私は、西にある港町イーバオに住む…」
畏まった挨拶をするティマを、王は手を前に出して制した。
「そんなに堅くならなくても良い。私たちにも、ちょうど君達ぐらいになる娘がいた。君の話しやすい言い方で構わないよ。」
王は笑顔で、まるで父親のように声をかけた。ティマは一瞬戸惑ったような顔を見せたが、すぐに笑顔で返答した。
「では、お言葉に甘えさせていただきます。」
そう言って、すうっと深呼吸を一つする。それからティマは、真剣な表情になった。
「先日、私の故郷が数人の兵士によって襲撃されました。町の人の多くが負傷し、死人も出ました。兵は普段、王家を守るためにあるはずです。それが何故、私の住む町を襲ったのか、理由を聞きたくて会いに来ました。」
一息にそこまで言い切ると、王と后をはじめ、その部屋にいる皆が驚き、ざわつき始めた。口々に「そんなことが?」「そんな命が下されたなんて聞いてないぞ。」等と話している。再び王が手を上げ、周りが静かになった。
「それは、事実かね?」
「オレ達が証人です。」
王の問いに、ティマの代わりにカイウスが答えた。
「オレとルビアは各地を旅している際中、偶然イーバオに通りかかりました。その時、町からは血の臭いがして、武器を持った兵が町中をうろついていました。そして、兵に襲われていた二人と出会いました。」
カイウスの証言に、三人は頷いた。その言葉に嘘はないと感じたのか、王はなるほどと呟き、深く息を吐いた。そして、王と目を合わせた后が口を開いた。
「わかりました。何故、貴女の故郷がそのようなことになってしまったのか、こちらで詮索し、報告いたしましょう。事によっては、復興の援助も出しましょう。」
その言葉に、ティマの表情が明るくなった。
「ありがとうございます!」
「良かったわね、ティマ。」
「ええ。」
二人の少女が喜びの声をあげた瞬間、王と后が驚きの表情を見せた。
「…お嬢さん、今なんて?」
「え、え?」
震える声で女王は問い、二人の様子に驚くルビアは声を失い、答えることができなかった。すると、青色の鎧の兵がティマのもとへと近づいてきた。
「失礼します。貴女の名を窺ってもよろしいでしょうか。」
「ティ、ティマ・コレンド、です。」
「…!」
ロイン、カイウス、ルビアを除いたその部屋にいた者全員が、ティマの名を聞いて驚きの声を上げた。突然の事態にティマは混乱し始めた。
「…ティマに何かあるのですか?」
そんな中、一人冷静を保っていたロインが尋ねた。すると、ティマに名を聞いた兵が、ロインの方を向いて答えた。
「彼女は、亡くなられたはずの姫様と年齢と名前が似ているのです。それで、少し驚いてしまって。」
「亡くなられた『はず』?それはどういう…」
兵のひっかかる言い方に、今度はカイウスが尋ねた。だが、今度はその兵は答えず、しばらく沈黙が続いた。
「…あの子は15年前、汚らわしい一族の男と海賊の手によって行方不明になり、そして…」
静寂を割って后が口を開くも、その目から涙をこぼし、嗚咽し、言葉を続けることができなかった。そんな彼女の肩を王は優しく抱いた。
「すまないが、詳しいことはその者から聞いて欲しい。フレア、こちらが落ち着くまで、その子達には応接間で待ってもらうよう頼む。」
「承知いたしました。」
フレアと呼ばれたその兵は、「こちらです」と言って、ロイン達を案内した。部屋を後にする時、后のすすり泣く声が彼らの頭から離れなかった。