第3章 首都の過去 Z
「…これが15年前に起きた王女誘拐事件、『スディアナ事件』です。」
ロイン達を応接間に案内した女兵フレアから聞かされた過去の事件。若きレイモーンの民がマウディーラの姫をさらったという事実に、四人は驚きを隠せなかった。
「何故レイモーンの民はお姫様をさらっていったのですか?」
ルビアが尋ねると、聞いた話だが、とフレアはゆっくり口を開いた。
「当時、大陸ではジャンナ事件によってリカンツ狩りが厳しくなり、それから逃れようとして、マウディーラに助けを求めにきたリカンツの集団がいたそうです。」
「ジャンナ事件?」
「16年前に、八人のレイモーンの民が、アレウーラの首都ジャンナを襲って、処刑されたと言われる事件よ。」
首をかしげるティマとロインに、ルビアが説明した。それにフレアは頷き、言葉を続けた。
「王はアレウーラとの関係を考え、リカンツを匿うことに躊躇っておりました。そんな時、この事件は起きました。首謀者の要求はリカンツの受け入れ。王は姫のためにそれを承諾し、リカンツを受け入れることになさいました。」
「それなのに、お姫様は帰ってこなかったって言うのか。」
今度はカイウスが質問し、フレアは首を縦に振った。
だから、レイモーンの民に対する扱いが酷かったのか。
四人は城に入ってすぐに受けた身体検査のことを思い出した。レイモーンの民の証であるザンクトゥの有無を調べる為に行われたあれには、そういう理由があったのだ。そして同時に、嫌な考えがふと頭の中をよぎった。その考えを、頭の外に追い出そうとしていると、思い出したかのようにフレアが呟いた。
「確か、イーバオはリカンツが多く住む港でしたね。もしかして此度の襲撃は、リカンツ狩りの一種だったのでは…」
「やめて!!」
フレアの言葉を遮るように、ティマは今にも泣き出しそうな顔で、その仮説を否定した。
「私を育ててくれたのは、そのレイモーンの民なのよ。血は繋がってなくても、私を実の子のように愛してくれた。町に住んでた人だって、皆良い人ばっかりだったわ。それに、普通のヒトだって住んでいたのよ。それを見境なく殺しておいて…あれを『リカンツ狩り』で済ませないでください!」
ティマは身体を震わせていた。マリワナに育てられ、彼らの辛い境遇を知る彼女は、やり場のない怒りを抱いていたに違いない。だがロインは、その仮説を否定できなかった。もし否定すれば、イーバオ襲撃の理由がティマになってしまう。仮に、ティマが15年前にさらわれた姫本人なら、その報復として町が襲われる可能性はある。それを知れば、ティマはとても悲しむはず。ロインは、そんな顔のティマを見たくなかったのだ。
その時、応接間の外から扉をノックする音が聞こえ、一人の兵が入ってきた。
「お待たせいたしました。皆様、玉座の間へどうぞ。」
そう声が聞こえると、ロイン達は立ち上がり、フレアを先頭にして部屋を出た。
ロイン達を応接間に案内した女兵フレアから聞かされた過去の事件。若きレイモーンの民がマウディーラの姫をさらったという事実に、四人は驚きを隠せなかった。
「何故レイモーンの民はお姫様をさらっていったのですか?」
ルビアが尋ねると、聞いた話だが、とフレアはゆっくり口を開いた。
「当時、大陸ではジャンナ事件によってリカンツ狩りが厳しくなり、それから逃れようとして、マウディーラに助けを求めにきたリカンツの集団がいたそうです。」
「ジャンナ事件?」
「16年前に、八人のレイモーンの民が、アレウーラの首都ジャンナを襲って、処刑されたと言われる事件よ。」
首をかしげるティマとロインに、ルビアが説明した。それにフレアは頷き、言葉を続けた。
「王はアレウーラとの関係を考え、リカンツを匿うことに躊躇っておりました。そんな時、この事件は起きました。首謀者の要求はリカンツの受け入れ。王は姫のためにそれを承諾し、リカンツを受け入れることになさいました。」
「それなのに、お姫様は帰ってこなかったって言うのか。」
今度はカイウスが質問し、フレアは首を縦に振った。
だから、レイモーンの民に対する扱いが酷かったのか。
四人は城に入ってすぐに受けた身体検査のことを思い出した。レイモーンの民の証であるザンクトゥの有無を調べる為に行われたあれには、そういう理由があったのだ。そして同時に、嫌な考えがふと頭の中をよぎった。その考えを、頭の外に追い出そうとしていると、思い出したかのようにフレアが呟いた。
「確か、イーバオはリカンツが多く住む港でしたね。もしかして此度の襲撃は、リカンツ狩りの一種だったのでは…」
「やめて!!」
フレアの言葉を遮るように、ティマは今にも泣き出しそうな顔で、その仮説を否定した。
「私を育ててくれたのは、そのレイモーンの民なのよ。血は繋がってなくても、私を実の子のように愛してくれた。町に住んでた人だって、皆良い人ばっかりだったわ。それに、普通のヒトだって住んでいたのよ。それを見境なく殺しておいて…あれを『リカンツ狩り』で済ませないでください!」
ティマは身体を震わせていた。マリワナに育てられ、彼らの辛い境遇を知る彼女は、やり場のない怒りを抱いていたに違いない。だがロインは、その仮説を否定できなかった。もし否定すれば、イーバオ襲撃の理由がティマになってしまう。仮に、ティマが15年前にさらわれた姫本人なら、その報復として町が襲われる可能性はある。それを知れば、ティマはとても悲しむはず。ロインは、そんな顔のティマを見たくなかったのだ。
その時、応接間の外から扉をノックする音が聞こえ、一人の兵が入ってきた。
「お待たせいたしました。皆様、玉座の間へどうぞ。」
そう声が聞こえると、ロイン達は立ち上がり、フレアを先頭にして部屋を出た。