第3章 首都の過去 [
再び玉座の間に足を踏み入れると、落ち着きを取り戻した王と后が一行を待っていた。ただ、その場にいる者のティマを見る目が、先までとは異なっていた。
「先ほどは取り乱してしまって、すまなかったね。」
部屋を出る前と同じ慈愛に満ちた声で王は言った。
「仕方有りませんよ。それより、ひとつお伺いしたいことがあります。」
カイウスはそう言って、一度ティマの方に目を向けた。ティマが小さく頷くと、カイウスは王と后に視線を戻した。
「単刀直入に聞きます。マウディーラでは、『リカンツ狩り』が続いていますか?そして、イーバオの一件はその活動の一端ではありませんか?」
はっきりとした声で、二人に問う。『リカンツ狩り』という言葉がカイウスの口から出た時、二人は一瞬驚いたような顔を見せた。だがすぐに平静になり、王がその問いに答えた。
「『リカンツ狩り』ではないが、15年前のリカンツを捜索し続けてはいる。そのために、ある年齢以上のリカンツを対象に尋問を行ったりしている。」
「レイモーンの民に対して迫害行動を行ったことは?」
「ない。最も、事件の首謀者に対する処罰は別に考えているが。」
あくまでもレイモーンの民に対する見方が厳しいだけ。王はそう主張した。
その時、彼らの後ろの扉が勢いよく開かれた。振り返ると、そこには白い服に身を包んだ一人の老人が立っていた。
「ティ…ティマリア様がお帰りになられたと、お聞きしたもので…」
しゃがれた声で、息を切らせながら老人は言った。そして、目の前にいるロイン達一人一人に視線を向けた。そしてティマをその瞳に映すと、目を大きく見開き、大股で彼女に近寄り、しわだらけの手で触れようとした。だが、ロインがティマを庇うようにして立ちはだかり、老人を鋭く睨みつけた。老人はその睨みに怯み、数歩後ずさりした。
「二人とも、落ち着きなさい。」
王がそのやりとりを見て声を上げる。
「突然申し訳ない。この者は大司祭のバキラ・キャッドリー。姫のことを可愛がってくれていた一人なのだ。」
王はロイン達にそう紹介すると、バキラの方に目を向けた。
「バキラ、まだティマリアかどうかはわからないのだ。ただ、よく似た名前と年齢のお嬢さんがいらしただけなのだよ。」
「ティマリア様では…ない?」
その言葉に、急に気が抜けたように、バキラの瞳から輝きが消えた。ロインが道をあけると、バキラはゆっくりと再びティマに近づき、彼女の前髪をかきあげる。そして、ゆっくり息を吐いた。
「…ティマリア様ではなかろう。『白晶の耳飾(クリスタル・ピアス)』をしておらん。」
沈んだ声でバキラは言い、ティマから離れた。その様子に、四人以外の者が希望を失ったかのように俯いた。
「白晶の…耳飾?」
「王家に代々受け継がれている品です。さらわれた当時のティマリア姫が身につけておられました。」
ティマの疑問の声に、フレアが答えた。それがないから、ティマは王家と関係はない。そう判断されたのだ。そんなことを考えている時、バキラの口が再び開いた。
「…やはり、あの汚らわしい輩に殺されてしまったのじゃろうか。」
呟くように放たれた一言。そこには、明らかにレイモーンの民に対する憎悪の感情がこめられてた。
「レイモーンの民は、汚らわしくなんかない!!!」
沈黙が続いた広間に、ティマの怒鳴り声が響いた。その声に皆が驚き、怯んでいる隙に、ティマはバキラに近づき、彼の目を真っ直ぐ見た。
「確かに、お姫様をさらったレイモーンの民は酷いことをしています。けど、だからって全てのレイモーンの民が醜いみたいな言い方、止めてください!」
「な…なんじゃ、この娘は!?」
「なんじゃ、じゃありません!『汚らわしい輩』っていった事、取り消してください!」
ものすごい勢いでバキラに食って掛かるティマの姿に、ロインを除いたその場にいる全員が唖然としていた。
さっきからレイモーンの民が汚らわしい奴呼ばわりされて、相当頭にきてたからなぁ…
ロインが心の片隅でそんなことを考えている間に、ティマとバキラの口喧嘩はかなり発展していた。カイウスとルビアは、そんなティマを落ち着かせようと焦っていた。次の瞬間、予想外の言葉が彼らの耳に届いた。
「わかりました!そんなに言うなら、私がお姫様か誘拐犯見つけ出して、この事件の裏を暴いて見せます!!」
「ふん。それができたなら、先ほどの発言は取り消してやるわい。」
まさかの事態に皆の目が丸くなった。カイウスとルビアはますます焦り、ティマに発言を取り消すよう言っていた。だが、ティマは頑として首を縦に振らなかった。
「王、勝手ながらこの者に姫と首謀者の男の行方を探させます。よろしいでしょうか。」
バキラは王にそう尋ねる。王と后は戸惑った表情で顔を見合わせると、仕方がないとでも言うように、首を縦に振った。
「先ほどは取り乱してしまって、すまなかったね。」
部屋を出る前と同じ慈愛に満ちた声で王は言った。
「仕方有りませんよ。それより、ひとつお伺いしたいことがあります。」
カイウスはそう言って、一度ティマの方に目を向けた。ティマが小さく頷くと、カイウスは王と后に視線を戻した。
「単刀直入に聞きます。マウディーラでは、『リカンツ狩り』が続いていますか?そして、イーバオの一件はその活動の一端ではありませんか?」
はっきりとした声で、二人に問う。『リカンツ狩り』という言葉がカイウスの口から出た時、二人は一瞬驚いたような顔を見せた。だがすぐに平静になり、王がその問いに答えた。
「『リカンツ狩り』ではないが、15年前のリカンツを捜索し続けてはいる。そのために、ある年齢以上のリカンツを対象に尋問を行ったりしている。」
「レイモーンの民に対して迫害行動を行ったことは?」
「ない。最も、事件の首謀者に対する処罰は別に考えているが。」
あくまでもレイモーンの民に対する見方が厳しいだけ。王はそう主張した。
その時、彼らの後ろの扉が勢いよく開かれた。振り返ると、そこには白い服に身を包んだ一人の老人が立っていた。
「ティ…ティマリア様がお帰りになられたと、お聞きしたもので…」
しゃがれた声で、息を切らせながら老人は言った。そして、目の前にいるロイン達一人一人に視線を向けた。そしてティマをその瞳に映すと、目を大きく見開き、大股で彼女に近寄り、しわだらけの手で触れようとした。だが、ロインがティマを庇うようにして立ちはだかり、老人を鋭く睨みつけた。老人はその睨みに怯み、数歩後ずさりした。
「二人とも、落ち着きなさい。」
王がそのやりとりを見て声を上げる。
「突然申し訳ない。この者は大司祭のバキラ・キャッドリー。姫のことを可愛がってくれていた一人なのだ。」
王はロイン達にそう紹介すると、バキラの方に目を向けた。
「バキラ、まだティマリアかどうかはわからないのだ。ただ、よく似た名前と年齢のお嬢さんがいらしただけなのだよ。」
「ティマリア様では…ない?」
その言葉に、急に気が抜けたように、バキラの瞳から輝きが消えた。ロインが道をあけると、バキラはゆっくりと再びティマに近づき、彼女の前髪をかきあげる。そして、ゆっくり息を吐いた。
「…ティマリア様ではなかろう。『白晶の耳飾(クリスタル・ピアス)』をしておらん。」
沈んだ声でバキラは言い、ティマから離れた。その様子に、四人以外の者が希望を失ったかのように俯いた。
「白晶の…耳飾?」
「王家に代々受け継がれている品です。さらわれた当時のティマリア姫が身につけておられました。」
ティマの疑問の声に、フレアが答えた。それがないから、ティマは王家と関係はない。そう判断されたのだ。そんなことを考えている時、バキラの口が再び開いた。
「…やはり、あの汚らわしい輩に殺されてしまったのじゃろうか。」
呟くように放たれた一言。そこには、明らかにレイモーンの民に対する憎悪の感情がこめられてた。
「レイモーンの民は、汚らわしくなんかない!!!」
沈黙が続いた広間に、ティマの怒鳴り声が響いた。その声に皆が驚き、怯んでいる隙に、ティマはバキラに近づき、彼の目を真っ直ぐ見た。
「確かに、お姫様をさらったレイモーンの民は酷いことをしています。けど、だからって全てのレイモーンの民が醜いみたいな言い方、止めてください!」
「な…なんじゃ、この娘は!?」
「なんじゃ、じゃありません!『汚らわしい輩』っていった事、取り消してください!」
ものすごい勢いでバキラに食って掛かるティマの姿に、ロインを除いたその場にいる全員が唖然としていた。
さっきからレイモーンの民が汚らわしい奴呼ばわりされて、相当頭にきてたからなぁ…
ロインが心の片隅でそんなことを考えている間に、ティマとバキラの口喧嘩はかなり発展していた。カイウスとルビアは、そんなティマを落ち着かせようと焦っていた。次の瞬間、予想外の言葉が彼らの耳に届いた。
「わかりました!そんなに言うなら、私がお姫様か誘拐犯見つけ出して、この事件の裏を暴いて見せます!!」
「ふん。それができたなら、先ほどの発言は取り消してやるわい。」
まさかの事態に皆の目が丸くなった。カイウスとルビアはますます焦り、ティマに発言を取り消すよう言っていた。だが、ティマは頑として首を縦に振らなかった。
「王、勝手ながらこの者に姫と首謀者の男の行方を探させます。よろしいでしょうか。」
バキラは王にそう尋ねる。王と后は戸惑った表情で顔を見合わせると、仕方がないとでも言うように、首を縦に振った。