第3章 首都の過去 \
「あっはははは!」
「んもう、笑ってないで何か考えてよ。」
「そ、そんなこと急に…ねえ?」
「うん。」
その夜、城での出来事を思い出したロインが、いつになく大声で笑っていた。カイウスとルビアはというと、ロインとは対照的に頭を抱えている。そして未だにむすっとした表情のティマが、これからの動きについての意見を求めていた。
「とりあえず、当事者に話を聞いていけばいいんじゃねぇか?」
「当事者って、王様達はあれ以上知らないでしょう。」
腹を抱えたままロインはそう言うが、ティマは渋った表情を見せる。だが、カイウスは何かを思い出したように頭をあげた。
「ウルノア…」
「え?」
「フレアさんが話してくれただろ?その、近衛騎士みたいな人。そのウルノアって人なら何か知らないかな。」
カイウスの言葉に、ティマとルビアははっとした。確かに、騎士として動いていた人物なら、何か知っているかもしれない。
「よし!じゃあ明日聞きに行こう。」
ティマがそう言うと同時に、ロインは立ち上がった。
「散歩に行ってくる。」
ただ一言そう言うと、ロインは部屋を出て行った。その時の彼の顔には、まだ笑いが残っていた。
「ロインって、ティマに関わることだと態度変わるよな。」
呆気にとられたような顔で、カイウスは思わず呟いた。
「あたしもそう思う。あんなに笑ってたの、初めて見たもの。」
「そう?私は何回か見たけど。」
((…だってティマじゃん。))
心の中で、カイウスとルビアは同時に呟いた。ティマはもちろんそのツッコミに気付かず、二人が自分を見つめている事に首をかしげていた。
宿を出たロインは、城に向かって歩いていた。そして昼間の事を思い出すたびに、まだ小さく噴き出していた。
(オレに決闘を申し込んできた時と、ほとんど同じだったな…。)
そんな事を思いながら歩いていると、前方から一人の影が向かってくるのが見えた。しだいに、ガシャガシャと鎧の音が近づき、そこにいる人物の顔が見えてきた。
「君、昼間の子だね。」
ロインにそう話し掛けたのは、15年前の過去を聞かせてくれたあのフレアという兵だった。だが、ロインはその声を無視し、通り過ぎようとした。
「ちょっと待って。君達に言いたいことがあったの。」
その一声で、ロインは立ち止まった。フレアの方を振り返ると、彼女は手招きして、近くの壁に寄りかかった。ロインはフレアから少し離れて、彼女の正面に立った。
「なんだ?」
「そんなむすっとしないで。バキラ様があなた達にハンデを与えるといって、伝言を残されたの。」
「…伝言?」
復唱するロインに、フレアは頷いた。
「当時近衛騎士隊長だったウルノア、彼女の所在よ。」
その言葉に、ロインは目を見開いた。その様子にフレアは笑みを浮かべ、言葉を続けた。
「ウルノアさんは、姫を守れなかった責任をとって騎士を辞めたの。そして、その後は家族と一緒に住んでるって話よ。その町の名前は…」
「「「ケノン?」」」
宿に戻ったロインは、三人にフレアから聞いた話を伝えた。
「ここから北東にある『エルナの森』を抜けた先にある田舎町だ。図書館もあるから、当時の資料も探せる。」
「そこにウルノアさんが住んでるの?」
「らしいな。」
ロインとティマが話している間、カイウスとルビアは地図を広げ、位置を確認していた。『ケノン』という町は、島のほぼ中央に位置し、近くにはロインの言った『エルナの森』の他に『ホッポ遺跡』という遺跡が存在している。
「ティマ、どうするんだ。」
「ケノンって町に行ってみる?」
カイウスとルビアが尋ねると、ティマは即座に頷いた。だが、ロインはそんなティマに「いいのか?」と口を出した。
「『エルナの森』は昼でも暗い場所だ。奇襲をかけようと思えば簡単にできる。もしかしたら、オレ達をはめようとして偽の情報を流したのかもしれないんだぜ。」
「私たちに奇襲をかける意味なんてあるの?」
「さあな。けど、意味なくイーバオを襲ってきたかもしれねぇ連中だ。何が起きてもおかしくねぇくらいに考えとかねぇと、死ぬぞ。」
そう言うロインの口調が、どこか厳しくなっているのに、三人は気付いた。最近は、カイウス達との衝突が減ってきたロインだが、まだ他人を信じられないでいる。そのことがはっきりと理解できる冷淡さを、三人は感じたのだ。
「大丈夫よ、ロイン。いざとなったらカイウスを身代りにするから♪」
「何でだよ!?」
「最近、ルビアの発言が過激になってきた気がするんだけど…。」
「…気のせいじゃないな、多分。」
そう同意を示すロインに、冷たさはなかった。目の前でシャレにならないことを口にするルビアにツッコむカイウス。一ヶ月にも満たない間に何度も見たこの光景は、ロインとティマにとってもお馴染みの光景となっていた。
「…確かに危険かもしれない。けど、手がかりがあるかもしれないなら、行ってみようぜ。」
ルビアの冗談で柔らかくなった空気の中、カイウスはロインの肩に手をおき、言った。
「…勝手にしろ。」
ロインは、冷めた態度でその手を突き放した。だが、カイウスの言葉に耳を傾け、それに同意する。その様子に、ティマとルビアは顔を見合わせ、僅かに笑顔を見せた。
「さあ!そうと決まったら、もう休まないと。明日、寝坊したら置いて行くわよ。」
「は〜い。」
ルビアの一言で、一行は眠りについた。
その旅先で待ち構えているものの存在など知らずに…。
「んもう、笑ってないで何か考えてよ。」
「そ、そんなこと急に…ねえ?」
「うん。」
その夜、城での出来事を思い出したロインが、いつになく大声で笑っていた。カイウスとルビアはというと、ロインとは対照的に頭を抱えている。そして未だにむすっとした表情のティマが、これからの動きについての意見を求めていた。
「とりあえず、当事者に話を聞いていけばいいんじゃねぇか?」
「当事者って、王様達はあれ以上知らないでしょう。」
腹を抱えたままロインはそう言うが、ティマは渋った表情を見せる。だが、カイウスは何かを思い出したように頭をあげた。
「ウルノア…」
「え?」
「フレアさんが話してくれただろ?その、近衛騎士みたいな人。そのウルノアって人なら何か知らないかな。」
カイウスの言葉に、ティマとルビアははっとした。確かに、騎士として動いていた人物なら、何か知っているかもしれない。
「よし!じゃあ明日聞きに行こう。」
ティマがそう言うと同時に、ロインは立ち上がった。
「散歩に行ってくる。」
ただ一言そう言うと、ロインは部屋を出て行った。その時の彼の顔には、まだ笑いが残っていた。
「ロインって、ティマに関わることだと態度変わるよな。」
呆気にとられたような顔で、カイウスは思わず呟いた。
「あたしもそう思う。あんなに笑ってたの、初めて見たもの。」
「そう?私は何回か見たけど。」
((…だってティマじゃん。))
心の中で、カイウスとルビアは同時に呟いた。ティマはもちろんそのツッコミに気付かず、二人が自分を見つめている事に首をかしげていた。
宿を出たロインは、城に向かって歩いていた。そして昼間の事を思い出すたびに、まだ小さく噴き出していた。
(オレに決闘を申し込んできた時と、ほとんど同じだったな…。)
そんな事を思いながら歩いていると、前方から一人の影が向かってくるのが見えた。しだいに、ガシャガシャと鎧の音が近づき、そこにいる人物の顔が見えてきた。
「君、昼間の子だね。」
ロインにそう話し掛けたのは、15年前の過去を聞かせてくれたあのフレアという兵だった。だが、ロインはその声を無視し、通り過ぎようとした。
「ちょっと待って。君達に言いたいことがあったの。」
その一声で、ロインは立ち止まった。フレアの方を振り返ると、彼女は手招きして、近くの壁に寄りかかった。ロインはフレアから少し離れて、彼女の正面に立った。
「なんだ?」
「そんなむすっとしないで。バキラ様があなた達にハンデを与えるといって、伝言を残されたの。」
「…伝言?」
復唱するロインに、フレアは頷いた。
「当時近衛騎士隊長だったウルノア、彼女の所在よ。」
その言葉に、ロインは目を見開いた。その様子にフレアは笑みを浮かべ、言葉を続けた。
「ウルノアさんは、姫を守れなかった責任をとって騎士を辞めたの。そして、その後は家族と一緒に住んでるって話よ。その町の名前は…」
「「「ケノン?」」」
宿に戻ったロインは、三人にフレアから聞いた話を伝えた。
「ここから北東にある『エルナの森』を抜けた先にある田舎町だ。図書館もあるから、当時の資料も探せる。」
「そこにウルノアさんが住んでるの?」
「らしいな。」
ロインとティマが話している間、カイウスとルビアは地図を広げ、位置を確認していた。『ケノン』という町は、島のほぼ中央に位置し、近くにはロインの言った『エルナの森』の他に『ホッポ遺跡』という遺跡が存在している。
「ティマ、どうするんだ。」
「ケノンって町に行ってみる?」
カイウスとルビアが尋ねると、ティマは即座に頷いた。だが、ロインはそんなティマに「いいのか?」と口を出した。
「『エルナの森』は昼でも暗い場所だ。奇襲をかけようと思えば簡単にできる。もしかしたら、オレ達をはめようとして偽の情報を流したのかもしれないんだぜ。」
「私たちに奇襲をかける意味なんてあるの?」
「さあな。けど、意味なくイーバオを襲ってきたかもしれねぇ連中だ。何が起きてもおかしくねぇくらいに考えとかねぇと、死ぬぞ。」
そう言うロインの口調が、どこか厳しくなっているのに、三人は気付いた。最近は、カイウス達との衝突が減ってきたロインだが、まだ他人を信じられないでいる。そのことがはっきりと理解できる冷淡さを、三人は感じたのだ。
「大丈夫よ、ロイン。いざとなったらカイウスを身代りにするから♪」
「何でだよ!?」
「最近、ルビアの発言が過激になってきた気がするんだけど…。」
「…気のせいじゃないな、多分。」
そう同意を示すロインに、冷たさはなかった。目の前でシャレにならないことを口にするルビアにツッコむカイウス。一ヶ月にも満たない間に何度も見たこの光景は、ロインとティマにとってもお馴染みの光景となっていた。
「…確かに危険かもしれない。けど、手がかりがあるかもしれないなら、行ってみようぜ。」
ルビアの冗談で柔らかくなった空気の中、カイウスはロインの肩に手をおき、言った。
「…勝手にしろ。」
ロインは、冷めた態度でその手を突き放した。だが、カイウスの言葉に耳を傾け、それに同意する。その様子に、ティマとルビアは顔を見合わせ、僅かに笑顔を見せた。
「さあ!そうと決まったら、もう休まないと。明日、寝坊したら置いて行くわよ。」
「は〜い。」
ルビアの一言で、一行は眠りについた。
その旅先で待ち構えているものの存在など知らずに…。