第4章 復讐の闇 V
1日中歩きつづけ日がくれた頃、彼らの目に巨大な木々がそびえるのが見えた。うっそうとした雰囲気が流れ、奥から不気味な声が聞こえてきそうな「エルナの森」であった。ロインの助言に従い、一行は森の前で野宿をし、明日日が昇ってから進む事にした。
「そういえば、似たような事があったよな?」
野宿の支度をしながら、カイウスがふとルビアに尋ねた。ルビアは懐かしそうな表情を浮かべながら頷いた。その様子にティマは興味を惹かれ、二人に何があったのかを尋ねると、ルビアはティマに近づき、百物語でもやりそうな口調で話した。
「アレウーラ大陸にアンデッドが出る怖〜い森があってね、昼間のうちに通り抜けようとしたんだけど、追っ手がいたせいで夜の森を移動しなきゃならなかったことがあるの。そしたら、あたしたちアンデッドに囲まれてもう少しで死ぬとこだったの。」
「ほ、本当!?」
「『死ぬとこだった』って、ルビアが疲れて動けなくなっただけだろ。」
ルビアの話に、カイウスは反抗するかのように声を上げた。そんなカイウスをルビアはきつく睨み返した。
「そんなことないわ。あの時、お兄様たちが通りかからなかったらどうなっていたか。」
「お兄様?」
その言葉を聞いたティマが疑問の声を上げた。途端、さっきまで一触即発状態だった二人は懐かしそうな表情になり、その質問に答えた。
「二年前、一緒に旅をしていた仲間のことさ。そのうちの一人をルビアはそう呼んでいたんだ。」
西の小国の王子と彼の従者であるレイモーンの民。二人と初めて出会ったのは、ちょうど「エルナの森」のような場所であった。
「…喋ってないで手動かせよ。」
二年前を思い出しながら、その話で三人が和んでいた時だった。横から不満そうなロインの声が聞こえ、見ると、彼一人が野宿の準備をしていた。三人は慌てて準備に戻り、ロインはその様子に一人溜息をついた。
「けどさ、ティルキス達今ごろどうしてるかな?」
準備をしながら、カイウスは再びルビアに話し掛けた。
「そうね。アーリア、お兄様と一緒なのかしら。」
「もしかしたらジャンナに帰ってるかもな。」
暗闇が広がり、辛うじて物の影がとらえられる中を歩くものが一人。その匂いをかぎつけ、腹をすかせたものが数匹。気配を消し、息を殺し、獲物に気付かれないよう接近する。草を踏む音は、不気味な風音で掻き消され、獲物は自分が近づくのに気がついていない。その距離があと数メートルまで縮まったところで、一気に獲物に飛びつく。そして、辺りに真っ赤な液体が飛び散った。…だが、それは獲物のではなかった。一瞬で腹を切り裂かれ、絶命した魔物がドサっと落ちる音が何回かした後、かすかに差し込む月光に、血にぬれた銀色の刃物が見えた。その血をぬぐい、おさめると、何事もなかったかのように、その人は再び歩き出した。その様子を見ていた他の魔物達は、命が惜しいものは影をひそめ、その腹を満たしたいものは生暖かさの残る死体へと群がった。歩きつづけるその人は、ふと、足に何かがあたるのを感じ、その場に跪いた。その足元にあるものの正体を知ると、なんともいえない不気味な表情を見せた。
「…そうか、ここだったか。『彼女』の死に場所は。」
そう言い、立ち上がって再び歩き出す。今までその人がいた場所を、わずかに月光が照らし出すと、そこには、コケのついた大きい石にイニシャルであろう文字が刻まれており、その下に同じ文字の入った剣がおいてあった。
再び日が昇り、森の中が僅かに明るくなった頃、同じ場所を通りかかり、その石に花を供える影があった。剣の主に冥福を祈るその人がいなくなり、さらに明るくなった頃、遠くで剣の音と叫ぶ声が響いた。
「そういえば、似たような事があったよな?」
野宿の支度をしながら、カイウスがふとルビアに尋ねた。ルビアは懐かしそうな表情を浮かべながら頷いた。その様子にティマは興味を惹かれ、二人に何があったのかを尋ねると、ルビアはティマに近づき、百物語でもやりそうな口調で話した。
「アレウーラ大陸にアンデッドが出る怖〜い森があってね、昼間のうちに通り抜けようとしたんだけど、追っ手がいたせいで夜の森を移動しなきゃならなかったことがあるの。そしたら、あたしたちアンデッドに囲まれてもう少しで死ぬとこだったの。」
「ほ、本当!?」
「『死ぬとこだった』って、ルビアが疲れて動けなくなっただけだろ。」
ルビアの話に、カイウスは反抗するかのように声を上げた。そんなカイウスをルビアはきつく睨み返した。
「そんなことないわ。あの時、お兄様たちが通りかからなかったらどうなっていたか。」
「お兄様?」
その言葉を聞いたティマが疑問の声を上げた。途端、さっきまで一触即発状態だった二人は懐かしそうな表情になり、その質問に答えた。
「二年前、一緒に旅をしていた仲間のことさ。そのうちの一人をルビアはそう呼んでいたんだ。」
西の小国の王子と彼の従者であるレイモーンの民。二人と初めて出会ったのは、ちょうど「エルナの森」のような場所であった。
「…喋ってないで手動かせよ。」
二年前を思い出しながら、その話で三人が和んでいた時だった。横から不満そうなロインの声が聞こえ、見ると、彼一人が野宿の準備をしていた。三人は慌てて準備に戻り、ロインはその様子に一人溜息をついた。
「けどさ、ティルキス達今ごろどうしてるかな?」
準備をしながら、カイウスは再びルビアに話し掛けた。
「そうね。アーリア、お兄様と一緒なのかしら。」
「もしかしたらジャンナに帰ってるかもな。」
暗闇が広がり、辛うじて物の影がとらえられる中を歩くものが一人。その匂いをかぎつけ、腹をすかせたものが数匹。気配を消し、息を殺し、獲物に気付かれないよう接近する。草を踏む音は、不気味な風音で掻き消され、獲物は自分が近づくのに気がついていない。その距離があと数メートルまで縮まったところで、一気に獲物に飛びつく。そして、辺りに真っ赤な液体が飛び散った。…だが、それは獲物のではなかった。一瞬で腹を切り裂かれ、絶命した魔物がドサっと落ちる音が何回かした後、かすかに差し込む月光に、血にぬれた銀色の刃物が見えた。その血をぬぐい、おさめると、何事もなかったかのように、その人は再び歩き出した。その様子を見ていた他の魔物達は、命が惜しいものは影をひそめ、その腹を満たしたいものは生暖かさの残る死体へと群がった。歩きつづけるその人は、ふと、足に何かがあたるのを感じ、その場に跪いた。その足元にあるものの正体を知ると、なんともいえない不気味な表情を見せた。
「…そうか、ここだったか。『彼女』の死に場所は。」
そう言い、立ち上がって再び歩き出す。今までその人がいた場所を、わずかに月光が照らし出すと、そこには、コケのついた大きい石にイニシャルであろう文字が刻まれており、その下に同じ文字の入った剣がおいてあった。
再び日が昇り、森の中が僅かに明るくなった頃、同じ場所を通りかかり、その石に花を供える影があった。剣の主に冥福を祈るその人がいなくなり、さらに明るくなった頃、遠くで剣の音と叫ぶ声が響いた。