第4章 復讐の闇 W
「もう!!なんなの、この数!?」
そんな叫び声を上げたのは、花形の杖を胸の前で構えているルビアだった。「エルナの森」に足を踏み入れたロイン達だったが、そこで思わぬ歓迎を受け、彼らはその対応に追われていた。周囲には、円を描くようにして魔物が集まっており、その一体一体はそれほど強くない所謂雑魚ばかりだったが、塵も積もればなんとやらで、一度に襲われると対処できない程になっていた。
「文句言ってないで手伝え!」
そう叱責するカイウスは、近くにいる魔物に連続の突き、散沙雨を食らわしていた。ルビアはブツブツ文句を言いながらも詠唱に入り、その横で、ティマは詠唱を終え、周囲の風を一点に集中させていた。
「ウィンドカッター!!」
「散葉塵!!」
ティマがそう言い放つと、弾けるようにして風の刃が疾り、魔物を空中に吹き飛ばしていく。それが地面に落ちる前に、ロインは高速の剣を繰り出し、止めを刺していく。まさに絶妙なコンビネーション技である。しかし、それでも数えるほどしか倒せず、目の前の魔物の数が減っているようには見えなかった。
「このままじゃ埒があかない。ティマ、さっきの術頼む。強行突破するぞ!」
カイウスの声にティマは頷き、詠唱を始める。そして、一番魔物の壁が弱くなっていそうな部分を見つけ、そこに向かってウィンドカッターを放つ。そして魔物達が吹き飛ばされ、道が切り開かれた刹那、「いまだ!」という掛け声に続き、四人は思いっきり駆け抜けた。その途中、詠唱を終えたルビアはアイシクルを使い、そこにいる魔物達が追ってこられないよう、逃げ道を封鎖していった。
どのくらい走り続けただろうか、森の奥深くまで来た一行は、周囲に魔物の気配がないのを確認すると、ようやくその足を止めた。
「な、何あれ!?なんであんなに襲い掛かってくるの!?」
地面に座り込みながら、ティマが言った。だが、三人ともその問いに答えることはできず、ただ首を横に振るだけであった。ルビアが全員に回復術をかけ、ようやく息が静まった頃だった。
「とにかく、急いでここを抜けたほうが良さそうだな。『バオイの丘』と違って、ここは視界が悪い。夜に奇襲されたらまずいからな。」
周囲を警戒しながらカイウスがそう言った。その言葉に頷き、ティマは立ち上がって、一行は再び歩き出した。
(おかしい…。)
隊の一番後ろを歩きながら、ロインは心の中で呟いた。
(一度にあんなに大量の魔物に襲われるなんて、今までなかった。一体なんで…。)
「ねえロイン、あそこ見て。」
突如ティマの声が耳に入り、ロインは考えるのをやめ、彼女が指す方向を見た。すると、暗い森の中に光が差しているのが見えた。カイウス、ルビア、ティマは不思議に思い、その場所へ向かって歩き出した。しかし、ロインは立ち止まり、何かを思い出した顔をしながら、しばらくその場所を眺めていた。やがて、意を決したように拳を握ると、ゆっくり歩き始め、三人のもとへと向かった。
そこは、少し広い空間があり、日の光が直に地面まで届いていた。木々はその周りを取り囲み、生い茂る葉で作られた木陰が風と共に揺れ動くのがわかった。先にたどり着いた三人は、異空間に放り出されたのではないかと思うほど、この光景に驚いていた。
「こんな場所もあるんだな。」
「『黒の森』にはない光景よね。」
「自然の風景って感じがするね。」
口々に感想を言っていく中、ロインもこの場所に足を踏み入れた。ティマは笑顔でロインに駆け寄っていくが、ロインの目に彼女は映っていなかった。彼の目は、この場所の中央にある何かを、目には見えない何かをとらえていた。
「…ロイン?」
何か様子のおかしいロインを見て、ティマは声をかけた。だが、ロインはその声に気付かず、その翡翠色の瞳が写す場所に近づき、そっと地面に手を触れた。そうしている間に、いつのまにか、ロインは悲、虚、憎などの負が入り混じった形相になっていたが、俯く彼の背中を見ていた三人はそのことに気付かなかった。
「…少し、一人にさせてくれ。」
立ち上がったロインはそう言うと、一人暗い森の中へと戻っていった。ティマはその後を追おうとしたが、ルビアに止められ、断念した。
「…あった。」
先ほどの広間からそう離れてない場所。忌まわしき記憶を辿ってやって来たその場所には、あのコケのついた石があった。ゆっくり歩み寄ると、そこに花が供えられているのに気がついた。誰がしたことなのか気になりながら、ロインはその石の前にしゃがみこみ、静かに目を閉じ、合掌した。
「…久しぶり。」
悲しそうな、それでいて懐かしそうな表情で、ロインはその石に語りかけた。石が返答するはずはなかったが、代わりに、周囲の木々が風でざわめく音がしばらく鳴っていた。それがおさまると、ロインは立ち上がり、踵を返し来た道を戻ろうとした。
その時だった。
再び風がざわめき始め、ロインは何かの存在を感じた。後ろを振り向くと、何かの音と共に2・3人の影が近づいてくる。ロインは凍ってしまったように、ただその場に立ち尽くしていた。そして、相手の姿がわかる距離まできた時、彼は目を見開き、手が震えていた。
そんな叫び声を上げたのは、花形の杖を胸の前で構えているルビアだった。「エルナの森」に足を踏み入れたロイン達だったが、そこで思わぬ歓迎を受け、彼らはその対応に追われていた。周囲には、円を描くようにして魔物が集まっており、その一体一体はそれほど強くない所謂雑魚ばかりだったが、塵も積もればなんとやらで、一度に襲われると対処できない程になっていた。
「文句言ってないで手伝え!」
そう叱責するカイウスは、近くにいる魔物に連続の突き、散沙雨を食らわしていた。ルビアはブツブツ文句を言いながらも詠唱に入り、その横で、ティマは詠唱を終え、周囲の風を一点に集中させていた。
「ウィンドカッター!!」
「散葉塵!!」
ティマがそう言い放つと、弾けるようにして風の刃が疾り、魔物を空中に吹き飛ばしていく。それが地面に落ちる前に、ロインは高速の剣を繰り出し、止めを刺していく。まさに絶妙なコンビネーション技である。しかし、それでも数えるほどしか倒せず、目の前の魔物の数が減っているようには見えなかった。
「このままじゃ埒があかない。ティマ、さっきの術頼む。強行突破するぞ!」
カイウスの声にティマは頷き、詠唱を始める。そして、一番魔物の壁が弱くなっていそうな部分を見つけ、そこに向かってウィンドカッターを放つ。そして魔物達が吹き飛ばされ、道が切り開かれた刹那、「いまだ!」という掛け声に続き、四人は思いっきり駆け抜けた。その途中、詠唱を終えたルビアはアイシクルを使い、そこにいる魔物達が追ってこられないよう、逃げ道を封鎖していった。
どのくらい走り続けただろうか、森の奥深くまで来た一行は、周囲に魔物の気配がないのを確認すると、ようやくその足を止めた。
「な、何あれ!?なんであんなに襲い掛かってくるの!?」
地面に座り込みながら、ティマが言った。だが、三人ともその問いに答えることはできず、ただ首を横に振るだけであった。ルビアが全員に回復術をかけ、ようやく息が静まった頃だった。
「とにかく、急いでここを抜けたほうが良さそうだな。『バオイの丘』と違って、ここは視界が悪い。夜に奇襲されたらまずいからな。」
周囲を警戒しながらカイウスがそう言った。その言葉に頷き、ティマは立ち上がって、一行は再び歩き出した。
(おかしい…。)
隊の一番後ろを歩きながら、ロインは心の中で呟いた。
(一度にあんなに大量の魔物に襲われるなんて、今までなかった。一体なんで…。)
「ねえロイン、あそこ見て。」
突如ティマの声が耳に入り、ロインは考えるのをやめ、彼女が指す方向を見た。すると、暗い森の中に光が差しているのが見えた。カイウス、ルビア、ティマは不思議に思い、その場所へ向かって歩き出した。しかし、ロインは立ち止まり、何かを思い出した顔をしながら、しばらくその場所を眺めていた。やがて、意を決したように拳を握ると、ゆっくり歩き始め、三人のもとへと向かった。
そこは、少し広い空間があり、日の光が直に地面まで届いていた。木々はその周りを取り囲み、生い茂る葉で作られた木陰が風と共に揺れ動くのがわかった。先にたどり着いた三人は、異空間に放り出されたのではないかと思うほど、この光景に驚いていた。
「こんな場所もあるんだな。」
「『黒の森』にはない光景よね。」
「自然の風景って感じがするね。」
口々に感想を言っていく中、ロインもこの場所に足を踏み入れた。ティマは笑顔でロインに駆け寄っていくが、ロインの目に彼女は映っていなかった。彼の目は、この場所の中央にある何かを、目には見えない何かをとらえていた。
「…ロイン?」
何か様子のおかしいロインを見て、ティマは声をかけた。だが、ロインはその声に気付かず、その翡翠色の瞳が写す場所に近づき、そっと地面に手を触れた。そうしている間に、いつのまにか、ロインは悲、虚、憎などの負が入り混じった形相になっていたが、俯く彼の背中を見ていた三人はそのことに気付かなかった。
「…少し、一人にさせてくれ。」
立ち上がったロインはそう言うと、一人暗い森の中へと戻っていった。ティマはその後を追おうとしたが、ルビアに止められ、断念した。
「…あった。」
先ほどの広間からそう離れてない場所。忌まわしき記憶を辿ってやって来たその場所には、あのコケのついた石があった。ゆっくり歩み寄ると、そこに花が供えられているのに気がついた。誰がしたことなのか気になりながら、ロインはその石の前にしゃがみこみ、静かに目を閉じ、合掌した。
「…久しぶり。」
悲しそうな、それでいて懐かしそうな表情で、ロインはその石に語りかけた。石が返答するはずはなかったが、代わりに、周囲の木々が風でざわめく音がしばらく鳴っていた。それがおさまると、ロインは立ち上がり、踵を返し来た道を戻ろうとした。
その時だった。
再び風がざわめき始め、ロインは何かの存在を感じた。後ろを振り向くと、何かの音と共に2・3人の影が近づいてくる。ロインは凍ってしまったように、ただその場に立ち尽くしていた。そして、相手の姿がわかる距離まできた時、彼は目を見開き、手が震えていた。