第4章 復讐の闇 Y
一方その頃、カイウス達は、まだ戻らないロインを待ち、各々時間を潰していた。カイウスは周辺をウロウロ歩き回り、ルビアは杖の手入れをしたりと、やや退屈そうにしていた。そしてティマは、ロインが姿を消す前に見つめていた何かの正体を探るかのように、広間の中央で体育座りをしていた。この「エルナの森」に向かっていた頃から、どこかおかしかったロインの様子。自分が知らないロインの過去が、この場所に存在しているのではないか、ティマはそう考えていた。
「……ォ…ィ……け…テ…」
「…え?」
その時、どこからか風が吹き、その風に乗って微かに人の声のようなものが聞こえた。ティマは顔を上げ、あたりを見回すが、カイウスとルビア以外の人影は見当たらない。もちろん魔物の気配も。気のせいだろうか。そう思った刹那、再び風が吹き、ティマの横を通り抜けていった。
「………ォ願い……たスケテ…!!」
再び風に乗って聞こえた謎の声。今度ははっきりとティマの耳に届いた―――否、直接頭に響いたという方がより正確であろう。聞き覚えのない女性らしいその声に、ティマは衝撃を受けたように、風の吹いてきた方角を向いた。それは少し前にロインが姿を消した方角と一致していた。
ただの偶然か、それとも…。
「! ティマ、どこに行くの?」
「わかんない!!」
妙な胸騒ぎを感じたティマは、いつの間にかその方向へ走り出していた。助けを求める謎の声に導かれるように、足がひとりでに動き出していたのだ。…だが、カイウスとルビアには、その謎の声は聞こえていなかった。急に駆け出したティマに二人はわけが分からず、しかし、それでも彼女を一人にするのは危険と判断し、後を追って駆け出した。
「瞬迅剣!!」
ガルザの剣が振り下ろされる瞬間、ロインは地を強く蹴り、彼の懐に飛び込み、反撃に出た。ガキィンと剣と鎧とがぶつかり合う音が響き、ガルザはその場から数メートル後ろへ飛ばされた。
「…何のつもりだ?」
突然の衝撃に顔を歪めながら、ガルザは言った。
「誰がおとなしく殺されるって言った?勝手に決めてんじゃねぇよ!!」
ロインは瞳と剣を真っ直ぐガルザに向け、答えた。
力の差は歴然。勝ち目などない。それでも、生きてこの場を切り向ける。自分にはまだ、やることがあるのだから。
そんな想いを胸に、ロインは再びガルザへと向かっていった。ガルザも剣を構え、攻撃に備えた。だが、そんな二人の前に一人の若い兵士が割って入った。
「ここは自分が。隊長が手を下すまでもありません。」
兵士はそう言いながら、腰に下げてある剣をゆっくり抜き、ロインに向けた。かと思うと、一瞬にして間合いを詰め、ロインに鋭い突きの一撃を食らわせた。ロインは衝撃音と共に吹き飛ばされ、そして付近の樹に叩きつけられ、痛みに顔を歪ませ、血を吐いた。そんなロインの姿に、兵士は彼を見下すように剣をおろした。
「所詮はガキ。この程度か。」
「な…ん……ゴホッ!!」
そう言い捨てる兵士に、ロインは言葉を発そうとした。だが、出てくるのは血反吐のみで、言葉にはならなかった。先の一撃だけで、大分ダメージをおったようだ。痛みを堪えて立ち上がるのがやっとである。そんなロインに、兵士はゆっくりと近づいてきた。
「隊長。このガキ、殺してもいいですか?」
「だがセイル、そいつはもう動けまい。ほっといても魔物に食われて死ぬだろう。」
「手負いの相手ほど厄介だと言うじゃないですか。それとも、そんなにこのガキが大事ですか?」
セイルという名のその兵士の言葉に、ガルザは言葉を詰まらせた。そして、突きを食らった部位を手で抑えるようにして立っているロインに目を向けた。苦しそうに息をしている彼を見つめるガルザを、ロインは未だに鋭い目つきで見ていた。
「…好きにしろ。」
ガルザはそう言うと、目を伏せ、ロインに背を向け、他の兵士達を引き連れ、姿を消してしまった。
「待て!どこ行く…ゲホッ!!」
「生憎、隊長はガキの最後を見届けられるほどヒマじゃない。そう言うわけだ。今楽にしてやるよ。」
そう言ってセイルが剣を向けようとした瞬間、彼の頬を斬撃がかすった。それは、立っているのもやっとのはずのロインが、ガルザに対する執念から繰り出した一撃であった。
「…止めだ。」
頬から流れる血を手でぬぐいながら、そう呟くが早いか、セイルはロインを殴りつけ、倒れた彼の頭を思いっきり踏みつけた。
「ぐあっ!!」
「一思いに、と思ったが止めだ。お前は十分痛めつけてから殺す。」
先ほどもまでとは打って変わって残忍な表情になったセイルが、そういってロインの頭や腹を強く蹴り飛ばした。呻き声をあげるロインを、下品な笑い声を発しながら殴りつけていく。もはや抗う体力の残っていない彼は、腕で頭や腹を庇うことしかできなかった。
その時、セイルの肩に急に痛みが走った。驚いたセイルは、自身の肩を見ると、短剣のような物が彼の肩に刺さっていた。それを抜き取り、地面に投げ捨てると、セイルはロインに背を向け、周囲を見回した。
「どこ見てんだい、このろくでなし!」
突如、彼の後ろからそう声が聞こえ、振り向くと、そこには赤髪を風になびかせる少女と、彼女よりも年上の体格のいい男性が一人立っていた。突然姿を現した二人に驚き、セイルはある程度距離をとり、剣を構えなおした。
「…何者だ?」
「はっ。てめぇみたいな野郎に名乗る必要なんかないね。」
「なんだと…!?」
「こいつはあたいが預かる。さっきの胸くそ悪い隊長殿にそう報告でもしとくんだな。アインス!!」
少女が一緒にいる男の名を呼ぶと、アインスは重傷のロインを担ぎだした。それを目にしたセイルが、逃がすか、と一行に斬りかかって来る。が、少女は冷静に、脚に隠してあった2丁の短銃を出し、セイルに向かって発砲した。それに足止めを食らっている間に、アインスはロインを抱えたままその場から離れていった。
「てめぇは少し昼寝でもしてな!ピコハン!!」
いつの間に詠唱を終えたのか、少女は仲間が離れた頃合に、セイルの頭上に巨大なハンマーを出現させ、直撃させた。ピコッと可愛らしい効果音とは裏腹に、凄まじい力で殴られたセイルは、少しふらついた後にバッタリと倒れ、目を回していた。その様子を目にした彼女は、鼻で笑うと、先を行った仲間の後を追いかけていった。
「……ォ…ィ……け…テ…」
「…え?」
その時、どこからか風が吹き、その風に乗って微かに人の声のようなものが聞こえた。ティマは顔を上げ、あたりを見回すが、カイウスとルビア以外の人影は見当たらない。もちろん魔物の気配も。気のせいだろうか。そう思った刹那、再び風が吹き、ティマの横を通り抜けていった。
「………ォ願い……たスケテ…!!」
再び風に乗って聞こえた謎の声。今度ははっきりとティマの耳に届いた―――否、直接頭に響いたという方がより正確であろう。聞き覚えのない女性らしいその声に、ティマは衝撃を受けたように、風の吹いてきた方角を向いた。それは少し前にロインが姿を消した方角と一致していた。
ただの偶然か、それとも…。
「! ティマ、どこに行くの?」
「わかんない!!」
妙な胸騒ぎを感じたティマは、いつの間にかその方向へ走り出していた。助けを求める謎の声に導かれるように、足がひとりでに動き出していたのだ。…だが、カイウスとルビアには、その謎の声は聞こえていなかった。急に駆け出したティマに二人はわけが分からず、しかし、それでも彼女を一人にするのは危険と判断し、後を追って駆け出した。
「瞬迅剣!!」
ガルザの剣が振り下ろされる瞬間、ロインは地を強く蹴り、彼の懐に飛び込み、反撃に出た。ガキィンと剣と鎧とがぶつかり合う音が響き、ガルザはその場から数メートル後ろへ飛ばされた。
「…何のつもりだ?」
突然の衝撃に顔を歪めながら、ガルザは言った。
「誰がおとなしく殺されるって言った?勝手に決めてんじゃねぇよ!!」
ロインは瞳と剣を真っ直ぐガルザに向け、答えた。
力の差は歴然。勝ち目などない。それでも、生きてこの場を切り向ける。自分にはまだ、やることがあるのだから。
そんな想いを胸に、ロインは再びガルザへと向かっていった。ガルザも剣を構え、攻撃に備えた。だが、そんな二人の前に一人の若い兵士が割って入った。
「ここは自分が。隊長が手を下すまでもありません。」
兵士はそう言いながら、腰に下げてある剣をゆっくり抜き、ロインに向けた。かと思うと、一瞬にして間合いを詰め、ロインに鋭い突きの一撃を食らわせた。ロインは衝撃音と共に吹き飛ばされ、そして付近の樹に叩きつけられ、痛みに顔を歪ませ、血を吐いた。そんなロインの姿に、兵士は彼を見下すように剣をおろした。
「所詮はガキ。この程度か。」
「な…ん……ゴホッ!!」
そう言い捨てる兵士に、ロインは言葉を発そうとした。だが、出てくるのは血反吐のみで、言葉にはならなかった。先の一撃だけで、大分ダメージをおったようだ。痛みを堪えて立ち上がるのがやっとである。そんなロインに、兵士はゆっくりと近づいてきた。
「隊長。このガキ、殺してもいいですか?」
「だがセイル、そいつはもう動けまい。ほっといても魔物に食われて死ぬだろう。」
「手負いの相手ほど厄介だと言うじゃないですか。それとも、そんなにこのガキが大事ですか?」
セイルという名のその兵士の言葉に、ガルザは言葉を詰まらせた。そして、突きを食らった部位を手で抑えるようにして立っているロインに目を向けた。苦しそうに息をしている彼を見つめるガルザを、ロインは未だに鋭い目つきで見ていた。
「…好きにしろ。」
ガルザはそう言うと、目を伏せ、ロインに背を向け、他の兵士達を引き連れ、姿を消してしまった。
「待て!どこ行く…ゲホッ!!」
「生憎、隊長はガキの最後を見届けられるほどヒマじゃない。そう言うわけだ。今楽にしてやるよ。」
そう言ってセイルが剣を向けようとした瞬間、彼の頬を斬撃がかすった。それは、立っているのもやっとのはずのロインが、ガルザに対する執念から繰り出した一撃であった。
「…止めだ。」
頬から流れる血を手でぬぐいながら、そう呟くが早いか、セイルはロインを殴りつけ、倒れた彼の頭を思いっきり踏みつけた。
「ぐあっ!!」
「一思いに、と思ったが止めだ。お前は十分痛めつけてから殺す。」
先ほどもまでとは打って変わって残忍な表情になったセイルが、そういってロインの頭や腹を強く蹴り飛ばした。呻き声をあげるロインを、下品な笑い声を発しながら殴りつけていく。もはや抗う体力の残っていない彼は、腕で頭や腹を庇うことしかできなかった。
その時、セイルの肩に急に痛みが走った。驚いたセイルは、自身の肩を見ると、短剣のような物が彼の肩に刺さっていた。それを抜き取り、地面に投げ捨てると、セイルはロインに背を向け、周囲を見回した。
「どこ見てんだい、このろくでなし!」
突如、彼の後ろからそう声が聞こえ、振り向くと、そこには赤髪を風になびかせる少女と、彼女よりも年上の体格のいい男性が一人立っていた。突然姿を現した二人に驚き、セイルはある程度距離をとり、剣を構えなおした。
「…何者だ?」
「はっ。てめぇみたいな野郎に名乗る必要なんかないね。」
「なんだと…!?」
「こいつはあたいが預かる。さっきの胸くそ悪い隊長殿にそう報告でもしとくんだな。アインス!!」
少女が一緒にいる男の名を呼ぶと、アインスは重傷のロインを担ぎだした。それを目にしたセイルが、逃がすか、と一行に斬りかかって来る。が、少女は冷静に、脚に隠してあった2丁の短銃を出し、セイルに向かって発砲した。それに足止めを食らっている間に、アインスはロインを抱えたままその場から離れていった。
「てめぇは少し昼寝でもしてな!ピコハン!!」
いつの間に詠唱を終えたのか、少女は仲間が離れた頃合に、セイルの頭上に巨大なハンマーを出現させ、直撃させた。ピコッと可愛らしい効果音とは裏腹に、凄まじい力で殴られたセイルは、少しふらついた後にバッタリと倒れ、目を回していた。その様子を目にした彼女は、鼻で笑うと、先を行った仲間の後を追いかけていった。