第5章 騎士と思い出 U
緑に囲まれた家。その裏には、剣の稽古をしている9歳くらいの男の子と女性がいた。そして、その様子を見守る青年が一人、地面に座っていた。
「やあっ!たあっ!」
男の子は力いっぱい剣を振り下ろすが、女性はそれを軽々と受け流していく。それがしばらく続くと、男の子は疲れ、動きが鈍くなりだした。女性は木刀を横に振ると、男の子はその一撃で簡単に倒れてしまった。
「ここまでね。ロイン、一回休憩しなさい。」
「…はぁい。」
「ガルザ、次はあなたよ。」
「お願いします、グレシアさん。」
グレシアはそう言うと、木刀を腰にさし、両刃の剣を抜いた。ロインは悔しそうに剣を鞘に収めると、ガルザが座っていたところまで歩いた。その頭を、ガルザはクシャクシャにした。
「残念だったな。」
「や、やめてよ!次こそ母さんから一本取ってやるよ。」
ガルザの手を払い、強がるロイン。ガルザは笑いながら「頑張れ」と一言いうと、グレシアと対峙した。彼女の合図で、二人は剣をぶつけ合った。
ガルザは兵士で、母さんに剣の稽古をつけてもらっていた。母さんは、兵士のガルザよりも強かった。それがなんでなのか疑問に思ったことはなかった。ただ、母さんが現役の兵士よりも強いこと、それが誇らしく感じられた。
「…いつか、母さんにもガルザにも負けないくらい強くなってやる。」
そんな二人の様子を見ながら、ロインは呟いた。
「皆さん、お昼の準備ができましたよ。」
その時、窓からエプロン姿の男性が三人を呼んだ。その声を聞いたグレシアとガルザは手合わせを止め、ロインはぱっと笑顔になった。
「母さん、ガルザ、早く行こう!!」
「全くロインったら。」
グレシアはそう言いながら笑っていた。
「ごちそうさま!」
「ロイン、もう食べ終わったのか?」
「うん!」
「はは、ロイン君は食いしん坊だからね。」
「ドーチェ、おかわりないの?」
「え、グレシアさんまだ食べるんですか?」
「ロインが食いしん坊なのはグレシアさんに似たんだな。」
食卓を囲んで、四人は笑っていた。家事のほとんどは、ロインの父ドーチェが担っていた。ガルザも稽古をつけてくれるお礼に、と彼を手伝っている。一方、グレシアは買い物担当で家事をやっているところは見たことがない。一度、ロインは「母さんは家事を手伝わないの?」と聞いたことがあるが、その時グレシアは赤面し、ドーチェとガルザが苦笑しただけで何も答えてくれなかった。そんな温かい関係がエイバス家にあった。
「グレシアさん、今度ロインに技を見せてやってもいいですか?」
「どうして?」
その問いにガルザはロインを見ながら答えた。
「この子は将来、きっと有力な剣士になれます。今のうちから術技の一つでも習得させておいてもいいんじゃないかと。」
「…その時期は私が決めること。あなたが気にする必要はないわ。」
グレシアがそう言うと、ガルザは「すみません」と頭を下げた。ロインは、その時のグレシアが冷たく見えた。そして、母親ではない別の顔があるような気さえした。
「ロイン、先に裏庭に行ってなさい。準備をしたら、母さんもすぐに行くから。」
「わかった。」
そうロインに行ったグレシアは、いつもの母親としての彼女だった。先に食事を終えたロインは、素直に従って外へと飛び出して行った。
準備ってなんだろう?
ロインは素振りをしてグレシアを待ちながら、ふと不思議に思った。剣の稽古なら、さっきまでやっていたのだから準備など要らないはず。さきほどガルザが口に出した内容と関係あるのだろうか。
「お待たせ。」
母の声が聞こえ、ロインは後ろを向く。すると、そこには剣の他に小さなカバンを持ったグレシアがいた。稽古の時に、そのカバンを持ってきたことはなかった。
「母さん、それ何?」
「すぐわかるわ。さ、行くわよ。」
グレシアはそう言うと、ロインに背を向け歩き出した。
「え?ど、どこに行くの?」
ロインは戸惑いながらも剣を収め、グレシアの後を追いかけた。
「やあっ!たあっ!」
男の子は力いっぱい剣を振り下ろすが、女性はそれを軽々と受け流していく。それがしばらく続くと、男の子は疲れ、動きが鈍くなりだした。女性は木刀を横に振ると、男の子はその一撃で簡単に倒れてしまった。
「ここまでね。ロイン、一回休憩しなさい。」
「…はぁい。」
「ガルザ、次はあなたよ。」
「お願いします、グレシアさん。」
グレシアはそう言うと、木刀を腰にさし、両刃の剣を抜いた。ロインは悔しそうに剣を鞘に収めると、ガルザが座っていたところまで歩いた。その頭を、ガルザはクシャクシャにした。
「残念だったな。」
「や、やめてよ!次こそ母さんから一本取ってやるよ。」
ガルザの手を払い、強がるロイン。ガルザは笑いながら「頑張れ」と一言いうと、グレシアと対峙した。彼女の合図で、二人は剣をぶつけ合った。
ガルザは兵士で、母さんに剣の稽古をつけてもらっていた。母さんは、兵士のガルザよりも強かった。それがなんでなのか疑問に思ったことはなかった。ただ、母さんが現役の兵士よりも強いこと、それが誇らしく感じられた。
「…いつか、母さんにもガルザにも負けないくらい強くなってやる。」
そんな二人の様子を見ながら、ロインは呟いた。
「皆さん、お昼の準備ができましたよ。」
その時、窓からエプロン姿の男性が三人を呼んだ。その声を聞いたグレシアとガルザは手合わせを止め、ロインはぱっと笑顔になった。
「母さん、ガルザ、早く行こう!!」
「全くロインったら。」
グレシアはそう言いながら笑っていた。
「ごちそうさま!」
「ロイン、もう食べ終わったのか?」
「うん!」
「はは、ロイン君は食いしん坊だからね。」
「ドーチェ、おかわりないの?」
「え、グレシアさんまだ食べるんですか?」
「ロインが食いしん坊なのはグレシアさんに似たんだな。」
食卓を囲んで、四人は笑っていた。家事のほとんどは、ロインの父ドーチェが担っていた。ガルザも稽古をつけてくれるお礼に、と彼を手伝っている。一方、グレシアは買い物担当で家事をやっているところは見たことがない。一度、ロインは「母さんは家事を手伝わないの?」と聞いたことがあるが、その時グレシアは赤面し、ドーチェとガルザが苦笑しただけで何も答えてくれなかった。そんな温かい関係がエイバス家にあった。
「グレシアさん、今度ロインに技を見せてやってもいいですか?」
「どうして?」
その問いにガルザはロインを見ながら答えた。
「この子は将来、きっと有力な剣士になれます。今のうちから術技の一つでも習得させておいてもいいんじゃないかと。」
「…その時期は私が決めること。あなたが気にする必要はないわ。」
グレシアがそう言うと、ガルザは「すみません」と頭を下げた。ロインは、その時のグレシアが冷たく見えた。そして、母親ではない別の顔があるような気さえした。
「ロイン、先に裏庭に行ってなさい。準備をしたら、母さんもすぐに行くから。」
「わかった。」
そうロインに行ったグレシアは、いつもの母親としての彼女だった。先に食事を終えたロインは、素直に従って外へと飛び出して行った。
準備ってなんだろう?
ロインは素振りをしてグレシアを待ちながら、ふと不思議に思った。剣の稽古なら、さっきまでやっていたのだから準備など要らないはず。さきほどガルザが口に出した内容と関係あるのだろうか。
「お待たせ。」
母の声が聞こえ、ロインは後ろを向く。すると、そこには剣の他に小さなカバンを持ったグレシアがいた。稽古の時に、そのカバンを持ってきたことはなかった。
「母さん、それ何?」
「すぐわかるわ。さ、行くわよ。」
グレシアはそう言うと、ロインに背を向け歩き出した。
「え?ど、どこに行くの?」
ロインは戸惑いながらも剣を収め、グレシアの後を追いかけた。
■作者メッセージ
おまけスキット
【やめとけって】
ロイン「ねえ、ガルザ。母さんって家事できないの?」
ガルザ「ロ、ロイン。それは…」
グレシア「そ、そんなことないわよ!私だって料理の一つや二つ…きゃぁああ!?」
ロイン「うわ!母さん!大丈夫!?」
ガルザ「あ〜あ…。」
【やめとけって】
ロイン「ねえ、ガルザ。母さんって家事できないの?」
ガルザ「ロ、ロイン。それは…」
グレシア「そ、そんなことないわよ!私だって料理の一つや二つ…きゃぁああ!?」
ロイン「うわ!母さん!大丈夫!?」
ガルザ「あ〜あ…。」