第5章 騎士と思い出 V
「ここ、エルナの森だよね?」
ロインの声は少し怯えていた。昼間でも夜のように暗い森。魔物が現れるというので、今まで立ち入ることもなかった場所である。
こんなところで何をするつもりだろう?
先を歩く母を見つめ、そう疑問に思っていた時だった。正面の茂みが揺れ、オタオタが出現した。初めて見る魔物にロインは驚いた。それでも剣を抜き、オタオタ相手に構えてみせる。グレシアとの日ごろの訓練が自然と表れている。そんな息子に微笑みながら、グレシアは言った。
「ロイン、下がっていなさい。そしてよく見ていなさい。」
ロインはその言葉に従い、グレシアは剣を抜いた。
そして、一瞬の内に事は片付いた。
グレシアの剣から地面を駆ける斬撃が放たれ、オタオタはその一撃で倒れた。
本当に一瞬の出来事だった。
ロインはこの一瞬の出来事に興奮を覚えた。
今までに見たことがない技。
それを目にしたロインの胸は、今までにないくらい強く高鳴っていた。
「今のは『魔神剣』。大抵の剣士は使える基本的な技よ。」
剣を収めながらグレシアは言った。
「オレも、使えるようになるの?」
興奮を抑えながら、ロインは尋ねた。グレシアは彼の顔を見て頷いた。
「ちゃんと訓練さえすればね。」
その言葉でロインはよりやる気になったらしく、よしっというように拳を強く握り締めた。と同時に、一つ疑問が残った。
「そういえば母さん、なんでエルナの森に来たの?」
さっきの技を見せるだけなら、いつもの練習場所である裏庭でも事足りるはず。何故ここに来る必要があったのだろう。だが、グレシアがそれに答える前に、彼らの前に再びオタオタが出現した。うわぁと慌てる様子を見せるロイン。そんな彼の背をグレシアはポンと押し、前線へと送り出した。
「ええ!?か、母さん!?」
「いいから。構えないとやられるよ?」
グレシアの言う通り、オタオタはロイン目掛けて体当たりをしてきた。ロインは悲鳴をあげながらも、間一髪それを交わし、戸惑いながらも剣を抜き構えた。そして、再び体当たりをしてくる敵に向かって思いっきり剣を振った。その一撃で相手は倒れた。呆気なく戦闘が終わったことに、ロインはやや複雑な心境だった。だが、ロインはそんなことよりもグレシアに向かっていった。
「い、いきなり何するんだよ!!」
まだ肩で息をしているロインは、半泣きの状態でグレシアに言った。グレシアはというと、そんな彼の様子を見て笑っていた。
「そろそろあんたも実戦に入ってもいいかなと思って。」
「そ、それなら一言言ってよ!!」
「まぁまぁ。さ、次行くわよ。」
「つ、次!?」
「そ。あと5体魔物を倒すまで帰らないからね。」
そう言って、すたすたと森の奥へ向かおうとするグレシア。ロインはそんな彼女に反抗したいと思うも、こんな場所に一人にされてはたまらないと、渋々その後についていった。
「おやおや、大分汚れましたね。」
ボロボロで家に戻ったロインに、ドーチェはそう声をかけた。
「風呂の準備はできてますよ。汗を流して、服を着替えておいで。」
ドーチェに言われ、ロインは風呂場へと向かった。残ったグレシアにドーチェは微笑んだ。
「一体、どんな練習をしてきたんですか?それもこんな遅くまで。」
「エルナの森で魔物相手に実戦を、ね。」
「よくあれだけで済みましたね、ロイン君。」
「万が一に備えてグミを持っていったからね。酷い傷を負ってもなんとかなるわ。」
そう言って、カバンの中に入っているたくさんのグミをドーチェに見せた。その時、奥からガルザが顔を見せた。
「グレシアさん、お帰りなさい。夜食作ったんですけど、食べますか?」
「あら、悪いわねガルザ。明日また首都に戻るっていうのに。」
「いえ。また2週間ほどしたら、稽古をつけてもらいに来ますよ。」
ガルザは笑顔でそう言うと、夜食を運んだ。グレシアは荷を片付けると、イスに腰掛け夜食に手を伸ばした。その時だった。
「グレシアさん!!ロイン君が倒れてます!!」
ドーチェの叫び声が聞こえた。驚いた二人は慌てて駆けつけた。すると、床に大の字になって倒れているロインが目に入った。ガルザがロインを抱き上げると、すーすーと寝息が聞こえた。
「…寝てますね。」
「何よ、もう!驚かせて。」
「まぁまぁ、それだけ疲れていたんですよ。」
「部屋に連れて行きますね。」
ガルザはそう言って、ロインを抱えてその場を去った。
(それにしても、よく寝てるな。)
ロインをベッドに運んだガルザは、幼い寝顔に笑顔を見せた。そして、グレシアと同じ金髪の頭を優しく撫で、小さく「おやすみ」と言って静かに部屋を後にした。
(こりゃあ、明日の見送りはナシかな?)
そう考えるガルザの顔はどこか残念そうにしていた。
ロインの声は少し怯えていた。昼間でも夜のように暗い森。魔物が現れるというので、今まで立ち入ることもなかった場所である。
こんなところで何をするつもりだろう?
先を歩く母を見つめ、そう疑問に思っていた時だった。正面の茂みが揺れ、オタオタが出現した。初めて見る魔物にロインは驚いた。それでも剣を抜き、オタオタ相手に構えてみせる。グレシアとの日ごろの訓練が自然と表れている。そんな息子に微笑みながら、グレシアは言った。
「ロイン、下がっていなさい。そしてよく見ていなさい。」
ロインはその言葉に従い、グレシアは剣を抜いた。
そして、一瞬の内に事は片付いた。
グレシアの剣から地面を駆ける斬撃が放たれ、オタオタはその一撃で倒れた。
本当に一瞬の出来事だった。
ロインはこの一瞬の出来事に興奮を覚えた。
今までに見たことがない技。
それを目にしたロインの胸は、今までにないくらい強く高鳴っていた。
「今のは『魔神剣』。大抵の剣士は使える基本的な技よ。」
剣を収めながらグレシアは言った。
「オレも、使えるようになるの?」
興奮を抑えながら、ロインは尋ねた。グレシアは彼の顔を見て頷いた。
「ちゃんと訓練さえすればね。」
その言葉でロインはよりやる気になったらしく、よしっというように拳を強く握り締めた。と同時に、一つ疑問が残った。
「そういえば母さん、なんでエルナの森に来たの?」
さっきの技を見せるだけなら、いつもの練習場所である裏庭でも事足りるはず。何故ここに来る必要があったのだろう。だが、グレシアがそれに答える前に、彼らの前に再びオタオタが出現した。うわぁと慌てる様子を見せるロイン。そんな彼の背をグレシアはポンと押し、前線へと送り出した。
「ええ!?か、母さん!?」
「いいから。構えないとやられるよ?」
グレシアの言う通り、オタオタはロイン目掛けて体当たりをしてきた。ロインは悲鳴をあげながらも、間一髪それを交わし、戸惑いながらも剣を抜き構えた。そして、再び体当たりをしてくる敵に向かって思いっきり剣を振った。その一撃で相手は倒れた。呆気なく戦闘が終わったことに、ロインはやや複雑な心境だった。だが、ロインはそんなことよりもグレシアに向かっていった。
「い、いきなり何するんだよ!!」
まだ肩で息をしているロインは、半泣きの状態でグレシアに言った。グレシアはというと、そんな彼の様子を見て笑っていた。
「そろそろあんたも実戦に入ってもいいかなと思って。」
「そ、それなら一言言ってよ!!」
「まぁまぁ。さ、次行くわよ。」
「つ、次!?」
「そ。あと5体魔物を倒すまで帰らないからね。」
そう言って、すたすたと森の奥へ向かおうとするグレシア。ロインはそんな彼女に反抗したいと思うも、こんな場所に一人にされてはたまらないと、渋々その後についていった。
「おやおや、大分汚れましたね。」
ボロボロで家に戻ったロインに、ドーチェはそう声をかけた。
「風呂の準備はできてますよ。汗を流して、服を着替えておいで。」
ドーチェに言われ、ロインは風呂場へと向かった。残ったグレシアにドーチェは微笑んだ。
「一体、どんな練習をしてきたんですか?それもこんな遅くまで。」
「エルナの森で魔物相手に実戦を、ね。」
「よくあれだけで済みましたね、ロイン君。」
「万が一に備えてグミを持っていったからね。酷い傷を負ってもなんとかなるわ。」
そう言って、カバンの中に入っているたくさんのグミをドーチェに見せた。その時、奥からガルザが顔を見せた。
「グレシアさん、お帰りなさい。夜食作ったんですけど、食べますか?」
「あら、悪いわねガルザ。明日また首都に戻るっていうのに。」
「いえ。また2週間ほどしたら、稽古をつけてもらいに来ますよ。」
ガルザは笑顔でそう言うと、夜食を運んだ。グレシアは荷を片付けると、イスに腰掛け夜食に手を伸ばした。その時だった。
「グレシアさん!!ロイン君が倒れてます!!」
ドーチェの叫び声が聞こえた。驚いた二人は慌てて駆けつけた。すると、床に大の字になって倒れているロインが目に入った。ガルザがロインを抱き上げると、すーすーと寝息が聞こえた。
「…寝てますね。」
「何よ、もう!驚かせて。」
「まぁまぁ、それだけ疲れていたんですよ。」
「部屋に連れて行きますね。」
ガルザはそう言って、ロインを抱えてその場を去った。
(それにしても、よく寝てるな。)
ロインをベッドに運んだガルザは、幼い寝顔に笑顔を見せた。そして、グレシアと同じ金髪の頭を優しく撫で、小さく「おやすみ」と言って静かに部屋を後にした。
(こりゃあ、明日の見送りはナシかな?)
そう考えるガルザの顔はどこか残念そうにしていた。