第5章 騎士と思い出 W
ガルザが首都に行って20日が過ぎた。その間、ロインは剣の練習場所をエルナの森に移し、魔物を相手に実戦経験をつんでいた。初日に比べ、大分動きはよくなった。戦況も冷静に見れるようになった。ただし、レベルの低い魔物相手に限るが…。彼が毎日の戦闘訓練を頑張るのには理由があった。初めてエルナの森に来た日にグレシアが見せた技、あれを早く習得したい、そして、次にガルザに会うまでに強くなって驚かせたい、と思ったからであった。
「よし!ここらでお昼にしよう。」
本日8体目の魔物を倒した時、グレシアがそう言った。ロインは額の汗を拭い、剣を収めた。そして、見習剣士から一人の子供へと変貌した。
「やった!今日のお昼は何?」
「ドーチェが作ってくれたサンドイッチ。」
グレシアはそこらへんに腰掛けると、バスケットを開けた。中から美味しそうなサンドイッチが見える。
「いただきまーす!」
待ちきれなかったように、サンドイッチに手を伸ばし、一気にかぶりついた。いつもながらドーチェの料理は美味しい。笑顔が溢れてくる。戦闘の疲れも一瞬にして吹き飛ぶ。ロインが2つ目にかぶりつこうとした時、グレシアがまだひとつもサンドイッチを口にしていないのに気がついた。ロインの食いしん坊の元となった彼女にしては珍しい光景だった。ただ一点をじっと見つめている。
「…いつまで潜んでるの?」
突然、グレシアは茂みに向かってそう言った。ロインは「え?」という顔でその方向を見た。すると、ガサガサという音と共に一人の人影が姿を現した。その人物に、ロインは驚きの声をあげた。
「ガルザ!!」
荷物を片手に、鎧を着た状態でガルザはそこに立っていた。ロインは嬉しそうに、ガルザの胸に飛び込んだ。
「おかえり、ガルザ!」
「久しぶりだな、ロイン。こんなところで何やってんだ?」
「魔物相手に戦闘の訓練させてたのよ。」
ロインが答える前にグレシアが口を開く。ロインは振り返り、母の顔を見た。その時、ほんの一瞬だったが、グレシアの目つきが鋭かった、そんな気がした。だが、それを確かめる前に、いつものグレシアに戻っていた。
「あんたこそ、コソコソと何してたのよ?こっち来て一緒にお昼食べない?」
「父さんの作ったサンドイッチ!美味しいよ!」
「そうか。じゃあ食べようかな。グレシアさんが作ったものじゃなさそうだし。」
「…それ、どういう意味か言ってもらうかしら?」
今にも抜刀してガルザに斬りかかりそうな剣幕のグレシアに、二人は冷や汗を浮かべながらも笑っていた。
彼といつまでもこうして笑っていられると、その時ロインは思っていた。
今までどおり、4人で仲良くあの穏やかな町で暮らしていられる、と―――
だが、彼の期待はこの後、無惨にも砕け散ることになる。
しかし今のロインは、そんなことになるなど想像すらしていなかった。
昼食を終えた三人はケノンに帰った。ロインが「午後の訓練は?」とグレシアに尋ねると「ガルザと遊びたいくせに」と言われてしまった。家に戻ると、ドーチェが嬉しそうにガルザを迎えた。ガルザもお久しぶりです、と笑顔を向けた。そんな中、ロインはまた、グレシアが鋭い視線をガルザに向けているのを感じた。気のせいじゃないと感じ、思わず声をかけようとした時だった。
「ガルザ、首都はどうだった?」
グレシアがそうガルザに問いかけた。先ほどの鋭い目つきは、もうなかった。
「相変わらず平和でしたよ。」
ガルザはそれに気付いていないのか、普段どおりの様子で答えた。
「変わった事はなかった?」
「いいえ。…どうかしましたか?」
「…そう。何でもないわ。しつこくて悪かったわね。」
それだけ尋ねると、グレシアは夕飯の買い物に行くといって家を出ていった。ガルザはそれを見送ると、荷物を片付けに行った。
「ロイン君、どうかしましたか?」
しばらくその場に突っ立っているロインに、ドーチェは声をかけた。
「な、何でもない!!」
ロインはそそくさとその場を去った。
(なんだろう…。)
ロインは今までになかった違和感を感じていた。
それが確信となって表れるのは、その日の夜の事だった。
「よし!ここらでお昼にしよう。」
本日8体目の魔物を倒した時、グレシアがそう言った。ロインは額の汗を拭い、剣を収めた。そして、見習剣士から一人の子供へと変貌した。
「やった!今日のお昼は何?」
「ドーチェが作ってくれたサンドイッチ。」
グレシアはそこらへんに腰掛けると、バスケットを開けた。中から美味しそうなサンドイッチが見える。
「いただきまーす!」
待ちきれなかったように、サンドイッチに手を伸ばし、一気にかぶりついた。いつもながらドーチェの料理は美味しい。笑顔が溢れてくる。戦闘の疲れも一瞬にして吹き飛ぶ。ロインが2つ目にかぶりつこうとした時、グレシアがまだひとつもサンドイッチを口にしていないのに気がついた。ロインの食いしん坊の元となった彼女にしては珍しい光景だった。ただ一点をじっと見つめている。
「…いつまで潜んでるの?」
突然、グレシアは茂みに向かってそう言った。ロインは「え?」という顔でその方向を見た。すると、ガサガサという音と共に一人の人影が姿を現した。その人物に、ロインは驚きの声をあげた。
「ガルザ!!」
荷物を片手に、鎧を着た状態でガルザはそこに立っていた。ロインは嬉しそうに、ガルザの胸に飛び込んだ。
「おかえり、ガルザ!」
「久しぶりだな、ロイン。こんなところで何やってんだ?」
「魔物相手に戦闘の訓練させてたのよ。」
ロインが答える前にグレシアが口を開く。ロインは振り返り、母の顔を見た。その時、ほんの一瞬だったが、グレシアの目つきが鋭かった、そんな気がした。だが、それを確かめる前に、いつものグレシアに戻っていた。
「あんたこそ、コソコソと何してたのよ?こっち来て一緒にお昼食べない?」
「父さんの作ったサンドイッチ!美味しいよ!」
「そうか。じゃあ食べようかな。グレシアさんが作ったものじゃなさそうだし。」
「…それ、どういう意味か言ってもらうかしら?」
今にも抜刀してガルザに斬りかかりそうな剣幕のグレシアに、二人は冷や汗を浮かべながらも笑っていた。
彼といつまでもこうして笑っていられると、その時ロインは思っていた。
今までどおり、4人で仲良くあの穏やかな町で暮らしていられる、と―――
だが、彼の期待はこの後、無惨にも砕け散ることになる。
しかし今のロインは、そんなことになるなど想像すらしていなかった。
昼食を終えた三人はケノンに帰った。ロインが「午後の訓練は?」とグレシアに尋ねると「ガルザと遊びたいくせに」と言われてしまった。家に戻ると、ドーチェが嬉しそうにガルザを迎えた。ガルザもお久しぶりです、と笑顔を向けた。そんな中、ロインはまた、グレシアが鋭い視線をガルザに向けているのを感じた。気のせいじゃないと感じ、思わず声をかけようとした時だった。
「ガルザ、首都はどうだった?」
グレシアがそうガルザに問いかけた。先ほどの鋭い目つきは、もうなかった。
「相変わらず平和でしたよ。」
ガルザはそれに気付いていないのか、普段どおりの様子で答えた。
「変わった事はなかった?」
「いいえ。…どうかしましたか?」
「…そう。何でもないわ。しつこくて悪かったわね。」
それだけ尋ねると、グレシアは夕飯の買い物に行くといって家を出ていった。ガルザはそれを見送ると、荷物を片付けに行った。
「ロイン君、どうかしましたか?」
しばらくその場に突っ立っているロインに、ドーチェは声をかけた。
「な、何でもない!!」
ロインはそそくさとその場を去った。
(なんだろう…。)
ロインは今までになかった違和感を感じていた。
それが確信となって表れるのは、その日の夜の事だった。
■作者メッセージ
おまけスキット
【やめとけって・その2】
ロイン「父さん。母さんはなんで家事ができないの?」
ドーチェ「グレシアさんはお仕事の関係で家事から遠ざかっていましたから、やり方を忘れてしまってるだけですよ。別に家事ができないというわけじゃ」
グレシア「そうよ!見てなさい、ロイン!私だってその気になれば…ってきゃぁああ!!?」
ロイン「か、母さん!?」
ガルザ「だからよした方がいいって…(汗)」
【やめとけって・その2】
ロイン「父さん。母さんはなんで家事ができないの?」
ドーチェ「グレシアさんはお仕事の関係で家事から遠ざかっていましたから、やり方を忘れてしまってるだけですよ。別に家事ができないというわけじゃ」
グレシア「そうよ!見てなさい、ロイン!私だってその気になれば…ってきゃぁああ!!?」
ロイン「か、母さん!?」
ガルザ「だからよした方がいいって…(汗)」