第5章 騎士と思い出 Y
どれだけ進んだのだろうか。右も左もわからない状態で、心細くなりながらもロインは歩きつづけた。そして、遠くに一筋の光が見えた。何かに導かれるように、ロインはその光目指して進んだ。すると、その光のほうからだろうか、剣と剣がぶつかり合う音が響いているのが聞こえた。
きっと母さんとガルザが訓練してるんだ。
そう思ったロインは二人を見つけたことを喜び、急ぎ足でその場所へ向かった。そして、その場所へ顔をだそうとした時、その脚が止まった。そして自分でも気付かないうちに身を隠していた。
確かに、その場所に二人はいた。いつものように剣をぶつけ、訓練をしているように見えた。でも何かが違った。よく見れば、グレシアはいつもは身につけない防具をつけている。ガルザもその剣に殺気がこもっている。状況が見えてくると同時に、ロインは目の前の光景を疑った。だが、幼いロインでも嫌でもわかってしまった。
二人は殺し合いをしている。
少なくとも、ガルザはその気だ。何が起きて、どうしてこうなったのかまではわからない。ロインはその理由を知ろうともしなかった。ただ目の前で起きていることを否定したかった。兄のように慕っていたガルザが母を殺そうとしているなど、あんなに仲の良かった二人が殺しあっているなど、現実であって欲しくなかった。
「………………」
「…………!!」
「………」
二人が何かを叫んでいるのが聞こえる。ロインには何を言っているのか耳に入っていなかった。ただ二人のことを黙って見ていた。すると、ガルザは空中に何かを放り投げた。そして投げられた何かが弾け、異臭を放ち、周囲に漂った。ロインはそれが何かわからず、事の成り行きを見守っていた。すると、周囲から何かが押し寄せて来るような気配がした。それも大勢。ロインはその気配に恐怖し、思わず身を隠した。それとほぼ同時に、たくさんの魔物が四方八方からガルザ達にいる場所へと押し寄せてきた。オタオタのような雑魚を始め、ウルフ、それ以上に強い魔物もいる。先ほど発生した異臭が魔物達を引き寄せたに違いない、あれは撒き餌の一種だったのだ、ロインはそう理解した。そうしている間にも魔物は集まり、グレシア達に襲い掛かっていた。
だが、さすがに雑魚相手に一撃で倒れるはずもなく、グレシアは次々に襲い掛かってくる魔物を薙ぎ払い、葬っていく。背後から突然襲ってくる相手すら、顔色一つ変えずに斬り捨てていく。
強い。
こんな状況にもかかわらず、ロインは母に尊敬の念を抱いていた。やがて雨が降り出し、ふと我に返ったロインはガルザの姿を探した。すると、彼は魔物の襲撃を受けず、グレシアのことを不気味ともいえる笑みで見ていた。何故彼が魔物に襲われないのか、ロインは驚き疑問に思った。ガルザの姿を捕らえつづけていると、彼はゆっくりとグレシアに歩み寄り出した。急いでグレシアに視線を戻すと、彼女に疲労の色が見え始めていた。わずかだが、ところどころに傷も負っている。敵が多過ぎるのだ。疲れ、傷付き、動きが鈍くなる彼女に、ガルザは剣をしっかりと握り、ゆっくり近づく。それを見た刹那、ロインは駆け出していた。
世界が、時が止まって見えた
全力で走っているのに追いつけない
大切なものが手からこぼれてしまう
そんな絶望が心を満たした瞬間
白く光る刃は振り下ろされ
鮮血が夜空に舞った
きっと母さんとガルザが訓練してるんだ。
そう思ったロインは二人を見つけたことを喜び、急ぎ足でその場所へ向かった。そして、その場所へ顔をだそうとした時、その脚が止まった。そして自分でも気付かないうちに身を隠していた。
確かに、その場所に二人はいた。いつものように剣をぶつけ、訓練をしているように見えた。でも何かが違った。よく見れば、グレシアはいつもは身につけない防具をつけている。ガルザもその剣に殺気がこもっている。状況が見えてくると同時に、ロインは目の前の光景を疑った。だが、幼いロインでも嫌でもわかってしまった。
二人は殺し合いをしている。
少なくとも、ガルザはその気だ。何が起きて、どうしてこうなったのかまではわからない。ロインはその理由を知ろうともしなかった。ただ目の前で起きていることを否定したかった。兄のように慕っていたガルザが母を殺そうとしているなど、あんなに仲の良かった二人が殺しあっているなど、現実であって欲しくなかった。
「………………」
「…………!!」
「………」
二人が何かを叫んでいるのが聞こえる。ロインには何を言っているのか耳に入っていなかった。ただ二人のことを黙って見ていた。すると、ガルザは空中に何かを放り投げた。そして投げられた何かが弾け、異臭を放ち、周囲に漂った。ロインはそれが何かわからず、事の成り行きを見守っていた。すると、周囲から何かが押し寄せて来るような気配がした。それも大勢。ロインはその気配に恐怖し、思わず身を隠した。それとほぼ同時に、たくさんの魔物が四方八方からガルザ達にいる場所へと押し寄せてきた。オタオタのような雑魚を始め、ウルフ、それ以上に強い魔物もいる。先ほど発生した異臭が魔物達を引き寄せたに違いない、あれは撒き餌の一種だったのだ、ロインはそう理解した。そうしている間にも魔物は集まり、グレシア達に襲い掛かっていた。
だが、さすがに雑魚相手に一撃で倒れるはずもなく、グレシアは次々に襲い掛かってくる魔物を薙ぎ払い、葬っていく。背後から突然襲ってくる相手すら、顔色一つ変えずに斬り捨てていく。
強い。
こんな状況にもかかわらず、ロインは母に尊敬の念を抱いていた。やがて雨が降り出し、ふと我に返ったロインはガルザの姿を探した。すると、彼は魔物の襲撃を受けず、グレシアのことを不気味ともいえる笑みで見ていた。何故彼が魔物に襲われないのか、ロインは驚き疑問に思った。ガルザの姿を捕らえつづけていると、彼はゆっくりとグレシアに歩み寄り出した。急いでグレシアに視線を戻すと、彼女に疲労の色が見え始めていた。わずかだが、ところどころに傷も負っている。敵が多過ぎるのだ。疲れ、傷付き、動きが鈍くなる彼女に、ガルザは剣をしっかりと握り、ゆっくり近づく。それを見た刹那、ロインは駆け出していた。
世界が、時が止まって見えた
全力で走っているのに追いつけない
大切なものが手からこぼれてしまう
そんな絶望が心を満たした瞬間
白く光る刃は振り下ろされ
鮮血が夜空に舞った