第5章 騎士と思い出 \
……どうしてこんなことに?
突然崩れた平和な日常
失った大切な人
それは幼いロインにとってあまりにも強い衝撃だった。
だが、いつまでも悲しんでいられなかった。俯いているヒマなどなかった。ロインは一刻も早く、この場から離れなければならなかった。そうしなければ、グレシアの遺した首飾りを狙って、いつまたガルザが襲ってくるかわからないからだ。
涙をぬぐい、ロインはグレシアに背を向けた。そして歩き出そうとした瞬間、雨音にまぎれて何かが動く音がした。草を踏み、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
魔物か?或いは…
ロインは最悪のケースを考えた。そして首飾りを隠し、剣を抜いた。全神経を音のするほうへ集中させる。草を掻き分け、ついに音の主は姿を現した。
「ト…トルドおじさん!?」
「ロイン!こんなとこにいたのか。」
ロインは驚いた。トルドはリーサの夫で、ロインとよく遊んでくれた人物だ。
一般人の彼が何故こんな場所に…?
ロインはわけがわからず、ただ呆然と立ち尽くしていた。
「全く。こんなとこに一人で来て…。ドーチェが心配してたぞ?」
トルドはそう言ってロインに近づいてくる。
(父さんがおじさんに頼んだのか…)
そう思ったロインは剣を下ろし、トルドに近寄ろうとした。だが、その足はすぐに止まった。トルドの右手にある物がロインにある疑問を抱かせたのだ。そしてその疑問は、傷ついたロインの心からさらに光を奪っていった。
「来るなっ!!!」
ロインはトルドに剣を向けた。その目つきは10歳に満たない少年のものとは思えないほど鋭く、全身から溢れる“気”は近づこうとするもの全てを拒絶していた。突然豹変したロインにトルドは驚愕した。驚き、足を止めた。
「…あんたも同じなんだろ?アイツみたいに!!オレを欺くつもりだろ!?」
「ロイン、一体どうした?落ち着け」
「うるさい!!!!」
トルドが一歩踏み出した途端、ロインは魔神剣を放った。トルドは顔色を変えながらもそれをかわした。そして再びロインを見たとき、その後ろにグレシアの姿を見つけた。血にまみれ、ピクリとも動かない。グレシアが死んだ。そう認識したトルドは、ロインとグレシアの身に何か起こったということに気付いた。その結果、ロインはこのような行動を起こしている。
「ぁああああぁああぁぁぁあああ!!!!!」
叫び声をあげながら、ロインは剣を振り下ろした。トルドは右手に持っていた長剣で受け止めた。受け止めながらロインを見た。トルドが知っている無邪気な笑顔は何処にもない。獣のようにただ目の前にいるモノに攻撃を仕掛ける。ロインはそれしか頭になかった。ロインは我を忘れていたのだ。そんな彼を見て、トルドは舌打ちした。
「仕方ねぇ。恨むなよ、ロイン!」
トルドはそう言って、彼の腹に拳を入れた。ロインはうっと呻き声をあげ、そのまま気絶した。その倒れる小さな身体を受け止め、トルドはロインの剣を収め、そして彼を抱えた。
「…悪い、グレシア。後でまた来る。」
トルドはグレシアの亡骸を一瞥し、エルナの森を急いで去った。
「…気がついたオレは、父さんといた。そして、ガルザから逃げるために町を出たこと知ったんだ。」
日が沈み始め、木漏れ日が旧エイバス家に差し込んでいた。ロインの話を、3人は黙って聞いていた。ティマもここまで詳しく聞いたのは初めてだった。かける言葉が見つからず、四人を静寂が包んだ。
「…ひとつ聞きたい。」
沈黙を破り、カイウスがロインに聞く。ロインの目が静かにカイウスを捉えた。
「他人嫌いのお前が、なんで昔話なんかする気になったんだ?」
その質問にティマとルビアははっとした。言われてみれば、今までの態度を見た限りでは、『ティマ一人に』ではなく、カイウスとルビアにもそんな話をするようなロインではなかった。それが何故…?カイウスと一緒に、二人もロインの返答を待った。そして、しばらくの沈黙の後、ロインは口を開いた。
「確かに他人はまだ信じられねぇ。…けど、お前らは別みたいだ。」
予想外の言葉に3人は目を丸くした。驚いて再び言葉を失った。
「ロイン、熱、ないよね?」
「当たり前だ。」
思わずルビアは聞いてしまい、ロインはややイラついた口調で答えた。
「これまで一緒にいて、お前らが危害を与えるような奴らじゃないことはわかった。それに…」
「それに?」
「それに、試したくなった。」
ロインは立ち上がり、3人を見つめた。
「『レイモーンに育てられたヒト』『ザンクトゥのない可笑しなレイモーン』『レイモーンと一緒にいる物好きなヒト』。変な連中ばっかだ。そんなお前らが今後何してくれるのか、見てみたくなった。」
ロインは微笑を浮かべながら言った。その言葉にカイウス達は何ともいえない表情になった。
ロインは、自分達を信用してもいいと言った。
しかし、逆にいえば、今後ロインが他人を前にどう出るか、自分たち次第で決まってしまうと言う事でもあった。
それを考えると緊張した。
そうして3人が固まっている間に、ロインは外に出ようとしていた。
「お、おい!どこいくんだ!?」
カイウスが慌てて声をかけた。
「今夜の宿を探すんだよ。ここは埃臭くて泊まれないだろ。」
「だから黙ってどこかに行く癖なおせって!」
そう言って先に二人は出て行った。その様子をティマとルビアは静かに見ていた。
「…変わったね、ロイン。」
「うん。」
「最初にイーバオで会ったときなんか殺気だしまくりだったのに。」
ルビアはくすっと笑った。ティマもつられて笑った。
「さ、あたし達も行こう。おいてかれちゃうわ。」
「うん。」
突然崩れた平和な日常
失った大切な人
それは幼いロインにとってあまりにも強い衝撃だった。
だが、いつまでも悲しんでいられなかった。俯いているヒマなどなかった。ロインは一刻も早く、この場から離れなければならなかった。そうしなければ、グレシアの遺した首飾りを狙って、いつまたガルザが襲ってくるかわからないからだ。
涙をぬぐい、ロインはグレシアに背を向けた。そして歩き出そうとした瞬間、雨音にまぎれて何かが動く音がした。草を踏み、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
魔物か?或いは…
ロインは最悪のケースを考えた。そして首飾りを隠し、剣を抜いた。全神経を音のするほうへ集中させる。草を掻き分け、ついに音の主は姿を現した。
「ト…トルドおじさん!?」
「ロイン!こんなとこにいたのか。」
ロインは驚いた。トルドはリーサの夫で、ロインとよく遊んでくれた人物だ。
一般人の彼が何故こんな場所に…?
ロインはわけがわからず、ただ呆然と立ち尽くしていた。
「全く。こんなとこに一人で来て…。ドーチェが心配してたぞ?」
トルドはそう言ってロインに近づいてくる。
(父さんがおじさんに頼んだのか…)
そう思ったロインは剣を下ろし、トルドに近寄ろうとした。だが、その足はすぐに止まった。トルドの右手にある物がロインにある疑問を抱かせたのだ。そしてその疑問は、傷ついたロインの心からさらに光を奪っていった。
「来るなっ!!!」
ロインはトルドに剣を向けた。その目つきは10歳に満たない少年のものとは思えないほど鋭く、全身から溢れる“気”は近づこうとするもの全てを拒絶していた。突然豹変したロインにトルドは驚愕した。驚き、足を止めた。
「…あんたも同じなんだろ?アイツみたいに!!オレを欺くつもりだろ!?」
「ロイン、一体どうした?落ち着け」
「うるさい!!!!」
トルドが一歩踏み出した途端、ロインは魔神剣を放った。トルドは顔色を変えながらもそれをかわした。そして再びロインを見たとき、その後ろにグレシアの姿を見つけた。血にまみれ、ピクリとも動かない。グレシアが死んだ。そう認識したトルドは、ロインとグレシアの身に何か起こったということに気付いた。その結果、ロインはこのような行動を起こしている。
「ぁああああぁああぁぁぁあああ!!!!!」
叫び声をあげながら、ロインは剣を振り下ろした。トルドは右手に持っていた長剣で受け止めた。受け止めながらロインを見た。トルドが知っている無邪気な笑顔は何処にもない。獣のようにただ目の前にいるモノに攻撃を仕掛ける。ロインはそれしか頭になかった。ロインは我を忘れていたのだ。そんな彼を見て、トルドは舌打ちした。
「仕方ねぇ。恨むなよ、ロイン!」
トルドはそう言って、彼の腹に拳を入れた。ロインはうっと呻き声をあげ、そのまま気絶した。その倒れる小さな身体を受け止め、トルドはロインの剣を収め、そして彼を抱えた。
「…悪い、グレシア。後でまた来る。」
トルドはグレシアの亡骸を一瞥し、エルナの森を急いで去った。
「…気がついたオレは、父さんといた。そして、ガルザから逃げるために町を出たこと知ったんだ。」
日が沈み始め、木漏れ日が旧エイバス家に差し込んでいた。ロインの話を、3人は黙って聞いていた。ティマもここまで詳しく聞いたのは初めてだった。かける言葉が見つからず、四人を静寂が包んだ。
「…ひとつ聞きたい。」
沈黙を破り、カイウスがロインに聞く。ロインの目が静かにカイウスを捉えた。
「他人嫌いのお前が、なんで昔話なんかする気になったんだ?」
その質問にティマとルビアははっとした。言われてみれば、今までの態度を見た限りでは、『ティマ一人に』ではなく、カイウスとルビアにもそんな話をするようなロインではなかった。それが何故…?カイウスと一緒に、二人もロインの返答を待った。そして、しばらくの沈黙の後、ロインは口を開いた。
「確かに他人はまだ信じられねぇ。…けど、お前らは別みたいだ。」
予想外の言葉に3人は目を丸くした。驚いて再び言葉を失った。
「ロイン、熱、ないよね?」
「当たり前だ。」
思わずルビアは聞いてしまい、ロインはややイラついた口調で答えた。
「これまで一緒にいて、お前らが危害を与えるような奴らじゃないことはわかった。それに…」
「それに?」
「それに、試したくなった。」
ロインは立ち上がり、3人を見つめた。
「『レイモーンに育てられたヒト』『ザンクトゥのない可笑しなレイモーン』『レイモーンと一緒にいる物好きなヒト』。変な連中ばっかだ。そんなお前らが今後何してくれるのか、見てみたくなった。」
ロインは微笑を浮かべながら言った。その言葉にカイウス達は何ともいえない表情になった。
ロインは、自分達を信用してもいいと言った。
しかし、逆にいえば、今後ロインが他人を前にどう出るか、自分たち次第で決まってしまうと言う事でもあった。
それを考えると緊張した。
そうして3人が固まっている間に、ロインは外に出ようとしていた。
「お、おい!どこいくんだ!?」
カイウスが慌てて声をかけた。
「今夜の宿を探すんだよ。ここは埃臭くて泊まれないだろ。」
「だから黙ってどこかに行く癖なおせって!」
そう言って先に二人は出て行った。その様子をティマとルビアは静かに見ていた。
「…変わったね、ロイン。」
「うん。」
「最初にイーバオで会ったときなんか殺気だしまくりだったのに。」
ルビアはくすっと笑った。ティマもつられて笑った。
「さ、あたし達も行こう。おいてかれちゃうわ。」
「うん。」
■作者メッセージ
おまけスキット
【ハーフ少年】
ティマ「…あれ?『ザンクトゥのない可笑しなレイモーン』ってどういうこと?」
カイウス「ティマ、聞いてないのか?」
ティマ「聞いてないよ!もしかしてカイウスのことなの?なんで今まで言わなかったの!?」
カイウス「いや、てっきりロインが話してるんだと…」
ロイン「どうでもいい奴のことなんか話さねえし。」
ティマ「どうでもよくない!!ねえ、なんでザンクトゥがないの?」
ルビア「カイウスは、レイモーンの民とヒトの間に生まれたの。つまりハーフね。」
ティマ「だからザンクトゥがないの?」
ロイン「良かったな。ハーフじゃなきゃ、今頃牢屋の中だぜ。」
カイウス「そ、そういうこと言うなよ…。」
【エイバス家】
ルビア「…ックシュン!」
カイウス「ルビア、風邪か?」
ルビア「ううん。埃のせいみたい。」
カイウス「あ〜。ロインの家、すごい埃だったもんな。」
ルビア「うん。7年間ほっとかれたままだったみたいだもんね。」
カイウス「ああ。…なんか、寂しいな。」
ルビア「…うん。」
【ハーフ少年】
ティマ「…あれ?『ザンクトゥのない可笑しなレイモーン』ってどういうこと?」
カイウス「ティマ、聞いてないのか?」
ティマ「聞いてないよ!もしかしてカイウスのことなの?なんで今まで言わなかったの!?」
カイウス「いや、てっきりロインが話してるんだと…」
ロイン「どうでもいい奴のことなんか話さねえし。」
ティマ「どうでもよくない!!ねえ、なんでザンクトゥがないの?」
ルビア「カイウスは、レイモーンの民とヒトの間に生まれたの。つまりハーフね。」
ティマ「だからザンクトゥがないの?」
ロイン「良かったな。ハーフじゃなきゃ、今頃牢屋の中だぜ。」
カイウス「そ、そういうこと言うなよ…。」
【エイバス家】
ルビア「…ックシュン!」
カイウス「ルビア、風邪か?」
ルビア「ううん。埃のせいみたい。」
カイウス「あ〜。ロインの家、すごい埃だったもんな。」
ルビア「うん。7年間ほっとかれたままだったみたいだもんね。」
カイウス「ああ。…なんか、寂しいな。」
ルビア「…うん。」