外伝1 「ママ」が「おばさん」になった日 U
「もう!!どうして今日は厄介ごとしか起きないかな!?」
「…マリワナちゃん、もしかして厄日?」
「知らないわよ!!」
私とハクは町の外に向かって走っていた。ティマが泣きながらイーバオの外に向かっていったのを見たという人がいた。町の外には魔物がいる。5歳の子供が一人で町の外なんかに出れば、襲われて命を落とすのは目に見えていた。
「二手に分かれよう。私はアルザイド洞窟の方、ハクはバオイの丘の方に行って!」
「わかった。もし見つけたらこれ、空に向かって投げて。」
そう言ってハクが手渡したのは黄色いボールのようなものだった。
「何これ?」
「ファイナスが作ってくれた。小型花火みたいなものだと。」
「わかった。頼んだわよ!」
私はそう言って、町の南にある洞窟にむかった。
子供の足でそう遠くまで行けるとは思えない。ティマが町を出てからそう時間はたってない。だとすればまだ周辺にいる可能性が高い。
私は無意識の内にそう考えていた。そして、胸の奥から溢れてくる感情を、必死に抑えていた。
「きゃあああああ!!」
悲鳴が聞こえた。私がむかっている方角から。女の子の声だった。―――ティマだ!私は確信した。全速力で悲鳴が聞こえた場所にむかうと、ティマがいた。まだ無事だった。でも、巨大な岩を背にして逃げ道はない。魔物達はじりじりと怯えるティマに近づいていく。
「やめ、ろぉ!!」
「!! ママ!!」
一番近くにいたオタオタを槍で薙ぎ払い、ティマのもとに駆け寄った。私の姿を見たティマは、目を輝かせて私を呼んだ。
「だから、『おばさん』、だってば!!」
飛び掛ってきたアックスビークを突き払いながら訂正する。こんな状況でもそんなことを言うなんて、もう口癖じゃん、とか思いながら今度はオタオタを突き飛ばす。とりあえず、集まってきた魔物は雑魚のみ。追い払えない数じゃない。
「ティマ、動くんじゃないよ!…瞬迅槍!!」
私は短くそう言って瞬速の突きを繰り出す。続けて、今魔物が吹き飛んだ場所にむかって突っ込み、槍のリーチの長さを生かして左から右へ薙ぎ払う。今ので大半の魔物が吹き飛んだ。それでもまだ数体襲ってくる。
「炎舞槍!!」
槍の先に炎をまとわせ、それを回転させて敵を攻撃する。何体かはそれで倒れるが、2・3体がそれをかわして爪や牙で襲い掛かった。それを避けようとしたが、腕をウルフの爪がかすってしまう。動きが鈍った。イーバオに来てから戦いから遠ざかっていたせいか。そんなこと思って舌打ちをし、その倒し損ねた魔物達をすぐに槍の柄で薙ぎ払う。ぎゃんという声をあげて魔物は吹っ飛んだ。今のが最後の魔物だった。ちらとティマを見ると、魔物が倒れる様子を見てひっと小さく悲鳴をあげていた。まあ、子供として当然の反応。
「ティマ、ケガは?」
「ない…よ。」
すこし怯えた声でティマは答えた。でもなんともなさそう。それを確認した私はほっと息をついた。
「そう。じゃあ帰りましょう。」
私がそう言ってもと来た道を戻ろうとすると、右腕が急に重くなった。見ると、右手にティマがその小さな体を寄せていた。私のほうを見ない。また怒られるとでも思っているのかもしれない。それでも、私のことを頼っていることだけは十分わかった。気がつくと、私はふっと微笑んでいた。
「いやぁ、見つかってよかった!!」
イーバオより少し東で、私たちはハクと合流した。一体どこを探していたのか、ハクには木の枝やくもの巣がくっついていた。ティマはそんなハクを見て「おじさんきたない…」と呟いていた。
「さ、帰るわよ。町についたら二人とも説教してやるんだから。」
「うっ…」
「って俺も!?」
「当たり前よ。あとファイナスも。」
「マジかよ〜…。」
若干青ざめるハク。私はそれを無視してイーバオにむかって歩き出した。その時、私は背後からかすかに殺気を感じた。振り返ると、遠くから何かがむかって来るのが見えた。ハクも気がついたらしく、同じ方角を見ている。やがて、その姿がはっきりとわかると、私は背筋がぞっとしたのを感じた。ものすごい勢いでむかってくる3体のサイノッサス。それを見たハクは「ひぃい!」と悲鳴をあげていた。
「や、やばい!さっきの奴らだ!」
「どういうこと!?」
「バオイの丘でサイノッサスの群れに出くわして、なんか知らないけど刺激しちゃったみたいなんだよ。んで必死で逃げてこの様…」
「こんのアホハクー!!」
私はハクに一発鉄拳をくらわし、サイノッサスにむけて槍を構えた。確かにハクの言う通り気が立っているみたいだった。その中の1体が突進してくる。私はティマを脇に抱えて横に避けた。ハクも相変わらず悲鳴をあげながらもそれをかわす。お世辞にも戦闘はできそうにないハクだが、あれでもレイモーンの民。嫌でも体がちゃんと反応してくれる。レイモーンの民の中に眠る『獣』の本能のおかげかもしれないが…。
「ハク!ティマを頼むわ!!」
私はハクの元に行き、ティマを預けた。その時ティマがまた「ママ」と呼んだ気がしたが、今度はそれにかまってられない。いくら戦いなれた私でも気を抜けばやられる。3体のサイノッサスは私に注意を向け、私もサイノッサス達に集中する。
「行くわよ!炎舞槍!!」
槍の先に炎をまとわせ、回転させて攻撃する。攻撃範囲が広いから敵が多いときには有効な技だ。だが、それだけで簡単に倒れるような相手じゃない。先ほど戦った雑魚より断然タフだ。一度に複数の敵を倒すのに槍だけではやや不十分だった。同じように広範囲に攻撃できるプリセプツを唱えようにも援護がない。
「雷迅槍!!」
やむを得ない。1体ずつ確実に倒すしかない。そう思い、一番近くにいたサイノッサス目掛けて雷をまとった突きを繰り出す。相手はそれで少し吹き飛んだが、それだけだった。致命傷になるような傷を負わせていない。舌打ちをし、すぐに態勢を立て直す。でも、別の2体が突進してきて私は宙に投げ出された。
「ぐあっ!!」
「ママ!!」
「マリワナちゃん!!」
地面に背中から落ち、ティマとハクの声が聞こえた。痛みを堪えて立ち上がろうとした。でもその時、すぐ傍までサイノッサスが来ていた。ティマが「ママ!ママ!」と叫びつづけているのが聞こえる。
だから……『ママ』じゃないってのに!!
「ぁぁああああああっ!!!」
空を仰いで叫んだ。体の奥から全身に広がる力。それと同時に体がいくらか軽くなる。再び地上に目をむければ3体の魔物。でももう敵じゃない。私は飛んだ。そして槍を敵目掛けて突き刺す。敵の血が飛び散り何滴か頬に付着した。でも気にしない。槍は突き刺したままにして次の敵にむかう。敵が次の動きに入る前に拳をいれる。遅い。敵が悲鳴をあげる前にもう一撃。そうしてまた一撃。今度は蹴りだ。そうして殴り続けているともう1体がむかってくる。私はそれを飛んでかわす。敵同士で衝突する。遅い。私は落下の勢いに任せて突進してきた敵に蹴りをいれる。倒れた。でもまだ息がある。槍を引き抜き急所目掛けて突き刺す。そこから血が噴出す。そして敵は動かなくなった。私はまた空を仰いで咆哮した。全身を巡る血がまだ熱い。でもそれを無理矢理落ち着かせる。全身に広がっていた力は胸の奥に消えた。代わりに戻ってきたのはティマとハクを気にする余裕。
「二人とも、大丈夫?」
私の問いかけに、ハクは頷いた。ティマは、ハクに抱かれながら俯いて震えていた。
「…マリワナちゃん、もしかして厄日?」
「知らないわよ!!」
私とハクは町の外に向かって走っていた。ティマが泣きながらイーバオの外に向かっていったのを見たという人がいた。町の外には魔物がいる。5歳の子供が一人で町の外なんかに出れば、襲われて命を落とすのは目に見えていた。
「二手に分かれよう。私はアルザイド洞窟の方、ハクはバオイの丘の方に行って!」
「わかった。もし見つけたらこれ、空に向かって投げて。」
そう言ってハクが手渡したのは黄色いボールのようなものだった。
「何これ?」
「ファイナスが作ってくれた。小型花火みたいなものだと。」
「わかった。頼んだわよ!」
私はそう言って、町の南にある洞窟にむかった。
子供の足でそう遠くまで行けるとは思えない。ティマが町を出てからそう時間はたってない。だとすればまだ周辺にいる可能性が高い。
私は無意識の内にそう考えていた。そして、胸の奥から溢れてくる感情を、必死に抑えていた。
「きゃあああああ!!」
悲鳴が聞こえた。私がむかっている方角から。女の子の声だった。―――ティマだ!私は確信した。全速力で悲鳴が聞こえた場所にむかうと、ティマがいた。まだ無事だった。でも、巨大な岩を背にして逃げ道はない。魔物達はじりじりと怯えるティマに近づいていく。
「やめ、ろぉ!!」
「!! ママ!!」
一番近くにいたオタオタを槍で薙ぎ払い、ティマのもとに駆け寄った。私の姿を見たティマは、目を輝かせて私を呼んだ。
「だから、『おばさん』、だってば!!」
飛び掛ってきたアックスビークを突き払いながら訂正する。こんな状況でもそんなことを言うなんて、もう口癖じゃん、とか思いながら今度はオタオタを突き飛ばす。とりあえず、集まってきた魔物は雑魚のみ。追い払えない数じゃない。
「ティマ、動くんじゃないよ!…瞬迅槍!!」
私は短くそう言って瞬速の突きを繰り出す。続けて、今魔物が吹き飛んだ場所にむかって突っ込み、槍のリーチの長さを生かして左から右へ薙ぎ払う。今ので大半の魔物が吹き飛んだ。それでもまだ数体襲ってくる。
「炎舞槍!!」
槍の先に炎をまとわせ、それを回転させて敵を攻撃する。何体かはそれで倒れるが、2・3体がそれをかわして爪や牙で襲い掛かった。それを避けようとしたが、腕をウルフの爪がかすってしまう。動きが鈍った。イーバオに来てから戦いから遠ざかっていたせいか。そんなこと思って舌打ちをし、その倒し損ねた魔物達をすぐに槍の柄で薙ぎ払う。ぎゃんという声をあげて魔物は吹っ飛んだ。今のが最後の魔物だった。ちらとティマを見ると、魔物が倒れる様子を見てひっと小さく悲鳴をあげていた。まあ、子供として当然の反応。
「ティマ、ケガは?」
「ない…よ。」
すこし怯えた声でティマは答えた。でもなんともなさそう。それを確認した私はほっと息をついた。
「そう。じゃあ帰りましょう。」
私がそう言ってもと来た道を戻ろうとすると、右腕が急に重くなった。見ると、右手にティマがその小さな体を寄せていた。私のほうを見ない。また怒られるとでも思っているのかもしれない。それでも、私のことを頼っていることだけは十分わかった。気がつくと、私はふっと微笑んでいた。
「いやぁ、見つかってよかった!!」
イーバオより少し東で、私たちはハクと合流した。一体どこを探していたのか、ハクには木の枝やくもの巣がくっついていた。ティマはそんなハクを見て「おじさんきたない…」と呟いていた。
「さ、帰るわよ。町についたら二人とも説教してやるんだから。」
「うっ…」
「って俺も!?」
「当たり前よ。あとファイナスも。」
「マジかよ〜…。」
若干青ざめるハク。私はそれを無視してイーバオにむかって歩き出した。その時、私は背後からかすかに殺気を感じた。振り返ると、遠くから何かがむかって来るのが見えた。ハクも気がついたらしく、同じ方角を見ている。やがて、その姿がはっきりとわかると、私は背筋がぞっとしたのを感じた。ものすごい勢いでむかってくる3体のサイノッサス。それを見たハクは「ひぃい!」と悲鳴をあげていた。
「や、やばい!さっきの奴らだ!」
「どういうこと!?」
「バオイの丘でサイノッサスの群れに出くわして、なんか知らないけど刺激しちゃったみたいなんだよ。んで必死で逃げてこの様…」
「こんのアホハクー!!」
私はハクに一発鉄拳をくらわし、サイノッサスにむけて槍を構えた。確かにハクの言う通り気が立っているみたいだった。その中の1体が突進してくる。私はティマを脇に抱えて横に避けた。ハクも相変わらず悲鳴をあげながらもそれをかわす。お世辞にも戦闘はできそうにないハクだが、あれでもレイモーンの民。嫌でも体がちゃんと反応してくれる。レイモーンの民の中に眠る『獣』の本能のおかげかもしれないが…。
「ハク!ティマを頼むわ!!」
私はハクの元に行き、ティマを預けた。その時ティマがまた「ママ」と呼んだ気がしたが、今度はそれにかまってられない。いくら戦いなれた私でも気を抜けばやられる。3体のサイノッサスは私に注意を向け、私もサイノッサス達に集中する。
「行くわよ!炎舞槍!!」
槍の先に炎をまとわせ、回転させて攻撃する。攻撃範囲が広いから敵が多いときには有効な技だ。だが、それだけで簡単に倒れるような相手じゃない。先ほど戦った雑魚より断然タフだ。一度に複数の敵を倒すのに槍だけではやや不十分だった。同じように広範囲に攻撃できるプリセプツを唱えようにも援護がない。
「雷迅槍!!」
やむを得ない。1体ずつ確実に倒すしかない。そう思い、一番近くにいたサイノッサス目掛けて雷をまとった突きを繰り出す。相手はそれで少し吹き飛んだが、それだけだった。致命傷になるような傷を負わせていない。舌打ちをし、すぐに態勢を立て直す。でも、別の2体が突進してきて私は宙に投げ出された。
「ぐあっ!!」
「ママ!!」
「マリワナちゃん!!」
地面に背中から落ち、ティマとハクの声が聞こえた。痛みを堪えて立ち上がろうとした。でもその時、すぐ傍までサイノッサスが来ていた。ティマが「ママ!ママ!」と叫びつづけているのが聞こえる。
だから……『ママ』じゃないってのに!!
「ぁぁああああああっ!!!」
空を仰いで叫んだ。体の奥から全身に広がる力。それと同時に体がいくらか軽くなる。再び地上に目をむければ3体の魔物。でももう敵じゃない。私は飛んだ。そして槍を敵目掛けて突き刺す。敵の血が飛び散り何滴か頬に付着した。でも気にしない。槍は突き刺したままにして次の敵にむかう。敵が次の動きに入る前に拳をいれる。遅い。敵が悲鳴をあげる前にもう一撃。そうしてまた一撃。今度は蹴りだ。そうして殴り続けているともう1体がむかってくる。私はそれを飛んでかわす。敵同士で衝突する。遅い。私は落下の勢いに任せて突進してきた敵に蹴りをいれる。倒れた。でもまだ息がある。槍を引き抜き急所目掛けて突き刺す。そこから血が噴出す。そして敵は動かなくなった。私はまた空を仰いで咆哮した。全身を巡る血がまだ熱い。でもそれを無理矢理落ち着かせる。全身に広がっていた力は胸の奥に消えた。代わりに戻ってきたのはティマとハクを気にする余裕。
「二人とも、大丈夫?」
私の問いかけに、ハクは頷いた。ティマは、ハクに抱かれながら俯いて震えていた。