第6章 兆し、赤眼が映すモノ T
目の前にあったのは、紅蓮の炎。草も、家も、なにもかもを燃やし尽くし、黒煙となって空に舞い上がる。その空も、重い灰色の雲に覆われている。その光景を目にしたロイン達は、ただ絶句した。そしてどこかで聞こえた悲鳴。彼らは急ぎその場へ向かう。そして目にしたのは、鎧を着た何者かに襲われている女性と子供。その剣が振り下ろされる瞬間、カイウスが間に割って入った。左手の篭手で剣を受け止め、鎧の間に剣を突き刺す。相手は倒れ、起き上がることはなかった。だが、それでほっとするのは早かった。燃え盛る町の中から次々と現れる凶暴な魔物たち。ロイン達は助けた二人を守るように陣を構え、ロイン、カイウス、ラミーの三人が前衛に立った。
それは約1時間前のこと。
ロイン達はラミーを仲間に加え、マウディーラ島の北にある港町『マウベロ』にむかっていた。
「なあ、おいラミー。なんでそのピアスをつけてるんだ?」
ケノンを出てしばらくしてカイウスが尋ねた。それは昨日から気になっていたこと。しかし、酒に酔ったラミーは、そのまま倒れるように眠ってしまい、話ができなかったのである。
「こいつ?物心ついた時からつけてたけど。…それより、15年前のスディアナ事件。若いレイモーンの民が姫を連れて、どうやって首都を出たか知ってるか?」
突然のラミーの質問に、4人は首を横に振る。フレアはそこまで語って聞かせてくれなかった。ラミーは歩きながら言葉を続ける。
「首都には港がある。ソイツはそこに泊まってた、ある船に乗り込んで姿を消した。そして、その船こそ、『女神の従者(マリアのしもべ)』のものだった。」
「「「「!!」」」」
4人は驚いて足を止めた。そしてティマが尋ねた。
「『女神の従者』はスディアナ事件に関わってたの?」
ラミーも立ち止まって答える。
「そうさ。先代の首領(ボス)がソイツから依頼を受けた。どうやら首都への移動手段としてウチのギルドを使ってたらしい。」
「先代…。そうだよな。その頃のお前は、まだ赤ん坊だもんな。」
「ああ。そして、その先代があたいの育ての親さ。」
「「「「!!」」」」
その発言に再び驚く4人。ラミーはそんな4人を置いて、先を歩き出した。
「その先代ってのはどこにいる?」
ラミーの後ろ姿にロインが問いかけた。ラミーは振り返ると「さあね」とぶっきらぼうに一言。
「少なくとも、『女神の従者』にはもういない。…どうだっていいだろ?さっさとマウベロに行こうぜ。」
ラミーはそれだけ言うと、何事もなかったかのように先に進み出した。どうやら、これ以上話す気はないらしい。4人も再び歩き始める。
だが、ラミーの話には気になる点がある。「育ての親」。ラミーは敢えてそう言った。彼女の「実の親」ではないのだろうか?それ以上口にしたくない、と言う事は、なにやら複雑な事情でもあるのだろう。だが、事が事だけにそれでは済まない。カイウス達は何度も、さりげなくその辺を聞き出そうとした。しかし、ラミーのガードは固かった。どうやら事件の首謀者でも見つけ出して聞き出さない限り、その疑問が解けることはなさそうだ。そう思いながら道を進んでいた時だった。
「! 何、あの雲…?」
ティマが遠くで何かを見つけた。一行がティマの視線の先を見ると、確かに周囲とは明らかに違う雲が浮かんでいた。その下に目を向けると大気が赤く染まっており、黒い点のようなものが大量に浮かんでいる。
「あの辺りは確か、『ルーロ』って町があったはずだ。」
眉をしかめながら、ロインが呟いた。それを聞いた瞬間、カイウス達の顔色が変わった。
「町だって!?まさか、なにかあったんじゃ…」
「行きましょう、カイウス!」
ルビアの一言で皆は駆け出した。
「五月雨!!」
連続突きの後に下から切り上げるカイウスの必殺技。その隣では、ラミーが銃を連射し、飛び掛ってくる魔物には右手に持った短剣で応戦している。
「ディープミスト!」
ルビアの補助魔法が発動する。直後、3体の魔物が別々の方向から同時にロインに襲いかかってきた。が、ディープミストのおかげで、その攻撃はことごとく外れていく。
「魔神剣!…遅え!裂空斬!!」
2体を魔神剣で倒し、残りの1体を裂空斬でしとめた。術が解けると、あとには魔物の死骸だけがあった。どうやら、今ので最後らしい。
「皆、大丈夫か?」
カイウスが仲間の無事を確かめた。ラミーとルビアは返事をし、ロインは無言で剣を鞘におさめる。前衛3人がルビアのもとに行くと、彼女の隣で、ティマが助けた2人にファーストエイドをかけていた。
「あ、ありがとうございます。」
傷が癒えた女性はティマに礼を述べた。ティマは女性に笑顔を見せ、そして尋ねた。
「いえ。それより、ここで何があったのか教えてもらえませんか?」
「…よくわかりません。あまりにも突然で…」
「オレ、見たよ!兵士がなんか匂いのするものまき散らして、その後で魔物がいっぱい来たんだ!それで魔物と一緒になって、町をこんなにしていったんだ!」
女性と一緒にいた子供が答えた。その目には悔しさと涙が浮かんでいた。
「兵…匂いのする……!その中に黒い髪の男はいたか!?」
その子の言葉を聞いた途端、ロインは物凄い剣幕で問いただした。その子はビクッと身体を強張らせながらも、こくりと頷いた。すると、ロインはチッと舌打ちをし、まだ炎が消えない町の中に向かって走っていった。
「ロイン!?」
「っ!あいつ、また一人で行きやがって!!」
ティマとカイウスも、そんな彼の後を追って駆け出す。
「な、なんだよ突然?」
「説明は後よ。…すぐ戻ります。安全なところに隠れていてください。」
ルビアは2人に優しくそう言い、そしてラミーと共に3人の後を追った。
それは約1時間前のこと。
ロイン達はラミーを仲間に加え、マウディーラ島の北にある港町『マウベロ』にむかっていた。
「なあ、おいラミー。なんでそのピアスをつけてるんだ?」
ケノンを出てしばらくしてカイウスが尋ねた。それは昨日から気になっていたこと。しかし、酒に酔ったラミーは、そのまま倒れるように眠ってしまい、話ができなかったのである。
「こいつ?物心ついた時からつけてたけど。…それより、15年前のスディアナ事件。若いレイモーンの民が姫を連れて、どうやって首都を出たか知ってるか?」
突然のラミーの質問に、4人は首を横に振る。フレアはそこまで語って聞かせてくれなかった。ラミーは歩きながら言葉を続ける。
「首都には港がある。ソイツはそこに泊まってた、ある船に乗り込んで姿を消した。そして、その船こそ、『女神の従者(マリアのしもべ)』のものだった。」
「「「「!!」」」」
4人は驚いて足を止めた。そしてティマが尋ねた。
「『女神の従者』はスディアナ事件に関わってたの?」
ラミーも立ち止まって答える。
「そうさ。先代の首領(ボス)がソイツから依頼を受けた。どうやら首都への移動手段としてウチのギルドを使ってたらしい。」
「先代…。そうだよな。その頃のお前は、まだ赤ん坊だもんな。」
「ああ。そして、その先代があたいの育ての親さ。」
「「「「!!」」」」
その発言に再び驚く4人。ラミーはそんな4人を置いて、先を歩き出した。
「その先代ってのはどこにいる?」
ラミーの後ろ姿にロインが問いかけた。ラミーは振り返ると「さあね」とぶっきらぼうに一言。
「少なくとも、『女神の従者』にはもういない。…どうだっていいだろ?さっさとマウベロに行こうぜ。」
ラミーはそれだけ言うと、何事もなかったかのように先に進み出した。どうやら、これ以上話す気はないらしい。4人も再び歩き始める。
だが、ラミーの話には気になる点がある。「育ての親」。ラミーは敢えてそう言った。彼女の「実の親」ではないのだろうか?それ以上口にしたくない、と言う事は、なにやら複雑な事情でもあるのだろう。だが、事が事だけにそれでは済まない。カイウス達は何度も、さりげなくその辺を聞き出そうとした。しかし、ラミーのガードは固かった。どうやら事件の首謀者でも見つけ出して聞き出さない限り、その疑問が解けることはなさそうだ。そう思いながら道を進んでいた時だった。
「! 何、あの雲…?」
ティマが遠くで何かを見つけた。一行がティマの視線の先を見ると、確かに周囲とは明らかに違う雲が浮かんでいた。その下に目を向けると大気が赤く染まっており、黒い点のようなものが大量に浮かんでいる。
「あの辺りは確か、『ルーロ』って町があったはずだ。」
眉をしかめながら、ロインが呟いた。それを聞いた瞬間、カイウス達の顔色が変わった。
「町だって!?まさか、なにかあったんじゃ…」
「行きましょう、カイウス!」
ルビアの一言で皆は駆け出した。
「五月雨!!」
連続突きの後に下から切り上げるカイウスの必殺技。その隣では、ラミーが銃を連射し、飛び掛ってくる魔物には右手に持った短剣で応戦している。
「ディープミスト!」
ルビアの補助魔法が発動する。直後、3体の魔物が別々の方向から同時にロインに襲いかかってきた。が、ディープミストのおかげで、その攻撃はことごとく外れていく。
「魔神剣!…遅え!裂空斬!!」
2体を魔神剣で倒し、残りの1体を裂空斬でしとめた。術が解けると、あとには魔物の死骸だけがあった。どうやら、今ので最後らしい。
「皆、大丈夫か?」
カイウスが仲間の無事を確かめた。ラミーとルビアは返事をし、ロインは無言で剣を鞘におさめる。前衛3人がルビアのもとに行くと、彼女の隣で、ティマが助けた2人にファーストエイドをかけていた。
「あ、ありがとうございます。」
傷が癒えた女性はティマに礼を述べた。ティマは女性に笑顔を見せ、そして尋ねた。
「いえ。それより、ここで何があったのか教えてもらえませんか?」
「…よくわかりません。あまりにも突然で…」
「オレ、見たよ!兵士がなんか匂いのするものまき散らして、その後で魔物がいっぱい来たんだ!それで魔物と一緒になって、町をこんなにしていったんだ!」
女性と一緒にいた子供が答えた。その目には悔しさと涙が浮かんでいた。
「兵…匂いのする……!その中に黒い髪の男はいたか!?」
その子の言葉を聞いた途端、ロインは物凄い剣幕で問いただした。その子はビクッと身体を強張らせながらも、こくりと頷いた。すると、ロインはチッと舌打ちをし、まだ炎が消えない町の中に向かって走っていった。
「ロイン!?」
「っ!あいつ、また一人で行きやがって!!」
ティマとカイウスも、そんな彼の後を追って駆け出す。
「な、なんだよ突然?」
「説明は後よ。…すぐ戻ります。安全なところに隠れていてください。」
ルビアは2人に優しくそう言い、そしてラミーと共に3人の後を追った。