第6章 兆し、赤眼が映すモノ U
魔物を誘き寄せる撒き餌。黒髪の兵士。そして襲われた町。
(まさか…。)
ある推測が頭の中をよぎる。ロインはその兵士を求めて、町中をひたすら駆けた。何度か武装した兵と遭遇した。だが、相手が襲い掛かる前に剣を振るい、薙ぎ捨てた。他の奴にかまっている暇は無い、とでも言うように。そして、とうとう見つけた。因縁の黒髪の兵士…!
「ガルザ!!」
叫びながら剣を思いっきり振る。しかし、ガルザは一瞬驚きを見せたもののすぐに剣を抜き、ロインの攻撃を落ち着いて受け止めた。ロインは素早くバックステップで距離を保つ。
「また会ったな、ロイン。」
ロインにかけられた言葉は穏やかだった。しかし、ロインの全身からは怒りが溢れている。ガルザは表情を変えずに、ゆっくりと剣をロインに向ける。
「ロイン!」
その時、ロインの後ろからカイウス達が走ってきた。そして、ロインと対峙するガルザの姿を捉えた。刹那、旧エイバス家にあった写真の顔とロインの話が彼らの脳裏に浮かんだ。かつて、エイバス一家と家族のように親しんでいた黒髪の兵士。カイウス達は初めてその人物を目撃した。
「ほう?仲間がいたのか、ロイン。」
放たれたガルザの一言。同時に、カイウス達は各々武器を構えた。それを見たガルザはふっと笑みをこぼす。余裕の表情。カイウス達の実力を侮っているからなのか。あるいは…。
「! 後ろだ!!」
ラミーが突然叫び、直後キィインと金属同士がぶつかる音がした。見ると、ラミーの短剣が、背後から現れた別の兵の斬撃をギリギリ防いでいた。攻撃を仕掛けたその兵は、すぐにラミーから離れた。その横から他の兵がぞろぞろと現れる。ガルザの周囲にも兵が集まってくる。ロイン達は数十人の兵士に挟み撃ちにされていた。カイウスがチッと舌打ちをする。しながら状況を見た。
自分達を取り囲む兵らは殺気が出ている。が、それに比べるとガルザはそうでもない。おそらく、いますぐ自ら戦闘を行うつもりはないはずだ。そうなると、まずは他の兵を片付けるほうがいいはず。
そこまで考えたところで、一旦思考がブレーキをかけた。
ロイン。彼がガルザを目の前にして、何もしないはずが無い。
カイウスはちらりとロインを見た。思ったとおり、殺気がガルザに集中している。
おそらく今の彼では冷静な判断はできない。何を言ってもガルザに向かっていってしまうはずだ。それに、ガルザもただ傍観しているつもりはないだろう。隙を見つけた瞬間攻撃を仕掛けてくる可能性もある。となると、奴も放置することはできない。
「ルビア、ロインのサポートを頼む。オレとラミー、そしてティマで周りにいる兵を倒す。」
カイウスの言葉に、ルビアは何も言わずに頷いた。おそらく、彼女も同じことを考えていたのだろう。戦いに慣れているルビアなら、ロインを適切にフォローしてくれる。カイウスはそう信じていた。一方ルビアも、カイウスならすぐに兵を倒し、ロインの応援に来るだろうと信じていた。長年一緒にいる幼馴染だから、お互いを理解しているからそれ以上何も言わない。そして二人の意思疎通が完了した頃、とうとうロインがガルザ目掛けて駆け出した。それを合図にカイウスは号令をかけた。
「ティマ!オレとラミーの援護を!ラミー!一気に片付けるぞ!!」
「命令すんなよっ!ツインバレット!!」
カイウスは一気に敵との間合いをつめ、剣を振り下ろす。ラミーは啖呵をきりながら右手の短剣を拳銃に持ち替え、カイウスに続けて弾丸を放つ。ティマもロインのことが気になりながらも意識を集中させ詠唱を始めた。
「裂空斬!」
ロインの剣がガルザを斬り付ける。しかし、ガルザは依然落ち着いたままで、直後連続して切りかかるロインの剣を全て受け止めていた。連続攻撃がやみ、お互い力で剣をぶつけ合う。やはり力はガルザの方が強い。しかし、それに負けじとロインも押し返す。そんな二人のもとに、ロイン目掛けて迫ってくる数人の兵。武器を高く振り上げようとしたとき、彼らの頭上に炎の塊が出現した。
「フレイムランス!」
ルビアが鋭く叫び、炎の塊―――否、炎の槍が空から兵たちを襲う。フレイムランスに貫かれた兵達は断末魔の叫びをあげて炎に包まれる。
「ロインの邪魔はさせないわよ。」
ルビアは呟くように言い、再び詠唱の体勢に入る。だが詠唱中は無防備となる。その瞬間を狙って、兵がルビアを狙おうとする。しかしその時、ダンダンッと複数の鉛の塊が兵に襲い掛かる。倒れていく兵を見ながら、ラミーはにやっと微笑を浮かべている。
「詠唱の邪魔もさせないっての!」
そう言って、また別の方向から向かってくる兵に銃口を向ける。弾はうまい具合に鎧の部分を避け、相手の動きを封じる。詠唱の中断を防ぐためならそれで十分効果があった。それでも攻撃の勢いを緩めなければ、今度は至近距離で威力の高い弾が兵の体を貫く。そして勢いに身を任せて倒れる兵士たちの身体を、避け飛び越えて、ラミーはまた次の標的へ狙いを定めて行く。後衛のルビアとティマを守りつつ、上手く戦うラミー。そんな彼女が何度も仇の姿と重なった。ルビアはそれに心を動かされまいと、より詠唱に集中する。それでも胸の奥で微妙な気持ちが脈打っていた。それはラミーに似た姿の仇ロミーへの憎しみの情ではなく、むしろ逆の感情だった。
かつては明るく優しい性格だと仲間から聞いていた。それが突然変わり、破壊と残虐な行為を好むようになってしまったロミー。もしも彼女が「闇」に食われなければ、仇として憎むことはなく、ラミーのように共に戦う仲間になっていたのかもしれない。「彼」のように…。
(こんな時に…。)
そう思いながらも、ルビアはどこかでそう考えてしまっていた。ラミーをちらっと見る。顔には戦える喜びなのか、或いは余裕の証なのか、笑みが浮かんでいる。しかし仲間に危険が及ぶことが無い限り、本気で命を奪おうとしているようには見えない。その戦い方を見ると、さらに胸の奥がざわついた。
カイウスも同じことを思っているのだろうか…
自分の背後で敵をなぎ倒す幼馴染を一瞬想った。が、すぐに気持ちを切り替える。
「シャドウエッジ!」
「ヒール!」
ティマは闇の刃で敵を貫く術を、ルビアはロインに中級治癒術をかけた。兵の数は確実に減っていた。
(まさか…。)
ある推測が頭の中をよぎる。ロインはその兵士を求めて、町中をひたすら駆けた。何度か武装した兵と遭遇した。だが、相手が襲い掛かる前に剣を振るい、薙ぎ捨てた。他の奴にかまっている暇は無い、とでも言うように。そして、とうとう見つけた。因縁の黒髪の兵士…!
「ガルザ!!」
叫びながら剣を思いっきり振る。しかし、ガルザは一瞬驚きを見せたもののすぐに剣を抜き、ロインの攻撃を落ち着いて受け止めた。ロインは素早くバックステップで距離を保つ。
「また会ったな、ロイン。」
ロインにかけられた言葉は穏やかだった。しかし、ロインの全身からは怒りが溢れている。ガルザは表情を変えずに、ゆっくりと剣をロインに向ける。
「ロイン!」
その時、ロインの後ろからカイウス達が走ってきた。そして、ロインと対峙するガルザの姿を捉えた。刹那、旧エイバス家にあった写真の顔とロインの話が彼らの脳裏に浮かんだ。かつて、エイバス一家と家族のように親しんでいた黒髪の兵士。カイウス達は初めてその人物を目撃した。
「ほう?仲間がいたのか、ロイン。」
放たれたガルザの一言。同時に、カイウス達は各々武器を構えた。それを見たガルザはふっと笑みをこぼす。余裕の表情。カイウス達の実力を侮っているからなのか。あるいは…。
「! 後ろだ!!」
ラミーが突然叫び、直後キィインと金属同士がぶつかる音がした。見ると、ラミーの短剣が、背後から現れた別の兵の斬撃をギリギリ防いでいた。攻撃を仕掛けたその兵は、すぐにラミーから離れた。その横から他の兵がぞろぞろと現れる。ガルザの周囲にも兵が集まってくる。ロイン達は数十人の兵士に挟み撃ちにされていた。カイウスがチッと舌打ちをする。しながら状況を見た。
自分達を取り囲む兵らは殺気が出ている。が、それに比べるとガルザはそうでもない。おそらく、いますぐ自ら戦闘を行うつもりはないはずだ。そうなると、まずは他の兵を片付けるほうがいいはず。
そこまで考えたところで、一旦思考がブレーキをかけた。
ロイン。彼がガルザを目の前にして、何もしないはずが無い。
カイウスはちらりとロインを見た。思ったとおり、殺気がガルザに集中している。
おそらく今の彼では冷静な判断はできない。何を言ってもガルザに向かっていってしまうはずだ。それに、ガルザもただ傍観しているつもりはないだろう。隙を見つけた瞬間攻撃を仕掛けてくる可能性もある。となると、奴も放置することはできない。
「ルビア、ロインのサポートを頼む。オレとラミー、そしてティマで周りにいる兵を倒す。」
カイウスの言葉に、ルビアは何も言わずに頷いた。おそらく、彼女も同じことを考えていたのだろう。戦いに慣れているルビアなら、ロインを適切にフォローしてくれる。カイウスはそう信じていた。一方ルビアも、カイウスならすぐに兵を倒し、ロインの応援に来るだろうと信じていた。長年一緒にいる幼馴染だから、お互いを理解しているからそれ以上何も言わない。そして二人の意思疎通が完了した頃、とうとうロインがガルザ目掛けて駆け出した。それを合図にカイウスは号令をかけた。
「ティマ!オレとラミーの援護を!ラミー!一気に片付けるぞ!!」
「命令すんなよっ!ツインバレット!!」
カイウスは一気に敵との間合いをつめ、剣を振り下ろす。ラミーは啖呵をきりながら右手の短剣を拳銃に持ち替え、カイウスに続けて弾丸を放つ。ティマもロインのことが気になりながらも意識を集中させ詠唱を始めた。
「裂空斬!」
ロインの剣がガルザを斬り付ける。しかし、ガルザは依然落ち着いたままで、直後連続して切りかかるロインの剣を全て受け止めていた。連続攻撃がやみ、お互い力で剣をぶつけ合う。やはり力はガルザの方が強い。しかし、それに負けじとロインも押し返す。そんな二人のもとに、ロイン目掛けて迫ってくる数人の兵。武器を高く振り上げようとしたとき、彼らの頭上に炎の塊が出現した。
「フレイムランス!」
ルビアが鋭く叫び、炎の塊―――否、炎の槍が空から兵たちを襲う。フレイムランスに貫かれた兵達は断末魔の叫びをあげて炎に包まれる。
「ロインの邪魔はさせないわよ。」
ルビアは呟くように言い、再び詠唱の体勢に入る。だが詠唱中は無防備となる。その瞬間を狙って、兵がルビアを狙おうとする。しかしその時、ダンダンッと複数の鉛の塊が兵に襲い掛かる。倒れていく兵を見ながら、ラミーはにやっと微笑を浮かべている。
「詠唱の邪魔もさせないっての!」
そう言って、また別の方向から向かってくる兵に銃口を向ける。弾はうまい具合に鎧の部分を避け、相手の動きを封じる。詠唱の中断を防ぐためならそれで十分効果があった。それでも攻撃の勢いを緩めなければ、今度は至近距離で威力の高い弾が兵の体を貫く。そして勢いに身を任せて倒れる兵士たちの身体を、避け飛び越えて、ラミーはまた次の標的へ狙いを定めて行く。後衛のルビアとティマを守りつつ、上手く戦うラミー。そんな彼女が何度も仇の姿と重なった。ルビアはそれに心を動かされまいと、より詠唱に集中する。それでも胸の奥で微妙な気持ちが脈打っていた。それはラミーに似た姿の仇ロミーへの憎しみの情ではなく、むしろ逆の感情だった。
かつては明るく優しい性格だと仲間から聞いていた。それが突然変わり、破壊と残虐な行為を好むようになってしまったロミー。もしも彼女が「闇」に食われなければ、仇として憎むことはなく、ラミーのように共に戦う仲間になっていたのかもしれない。「彼」のように…。
(こんな時に…。)
そう思いながらも、ルビアはどこかでそう考えてしまっていた。ラミーをちらっと見る。顔には戦える喜びなのか、或いは余裕の証なのか、笑みが浮かんでいる。しかし仲間に危険が及ぶことが無い限り、本気で命を奪おうとしているようには見えない。その戦い方を見ると、さらに胸の奥がざわついた。
カイウスも同じことを思っているのだろうか…
自分の背後で敵をなぎ倒す幼馴染を一瞬想った。が、すぐに気持ちを切り替える。
「シャドウエッジ!」
「ヒール!」
ティマは闇の刃で敵を貫く術を、ルビアはロインに中級治癒術をかけた。兵の数は確実に減っていた。