第6章 兆し、赤眼が映すモノ W
ラミーがセイルによって後衛二人の元を離れた。それをチャンスと見て、十数人もの兵達が一気に駆けて来る。二人の顔に焦りが浮かんだ。しかしすぐに平静を取り戻しティマが兵達の前に踊り出た。
「氷舞槍!!」
槍の形状になっている部分に氷の粒と冷気をまとわせ、向かってくる敵に杖を回転させた後に突きの一撃を放つ。たとえ直接攻撃があたらなくても、武器にまとっている氷の粒が周囲に飛び散り兵の身体に突き刺さる。とはいっても、ラミーの銃弾ほどの威力はない。相手に多少ダメージを与えることができるだけ。だがその間にルビアが詠唱を終え次につなげる。
「ファイヤーボール!!」
ルビアにとっては使い慣れたこの術。詠唱も素早く、そして高い攻撃力をもつ。槍術を使えるティマと違い接近戦に弱いルビアは、まず相手に近づかれたくない。イラプションなどの広範囲を攻撃できる中級魔術もいいが、多少詠唱に時間がかかってしまうため、その間に敵により接近を許してしまう。ティマが前衛で動けるとはいえ、これだけの数を一度に相手できるほどの技量と余裕はない。それにこうすることで相手が怯み、隙が生まれることもある。だから少しずつでも確実に数を減らせる策に出た。それに他の兵の相手をしていたカイウスも彼らを倒し、2人に狙いを定めた兵達に気付きこちらに向かおうとしているのが見えた。
(カイウスが来てくれればこっちのものよ!)
ルビアがそう思った直後、彼女にむけて剣を振り上げる影が見えた。その相手との距離はかなり近く、ルビアの間にはティマもカイウスもいない。
「ッ! バリアー!」
詠唱を破棄して放った魔術の盾。本来であれば振り下ろされるその剣を弾き返し、ルビアの身を守るであろう盾。しかし、ルビアにとってあまりにも咄嗟の事態で心に乱れが生じたためだろうか、それは詠唱破棄したからとはいえ盾として頼りないものだった。辛うじてルビアの精神力で盾として機能し、斬撃を受け止めている状態だった。
「ルビア!!」
「行かせねぇぞ!!」
ティマは前方から迫り来る兵のせいでルビアを助けられない。カイウスがルビアの元に到着するにはあと少しかかる。とうとうバリアーは力で押され負け、ルビアの白い上着が刃で切り裂かれた。ルビアの髪よりも紅い血が宙を舞う。「きゃああっ!!」と短く悲鳴をあげ、ルビアはそのまま地面に倒れた。ティマはルビアの名を叫び、彼女を守ろうと必死だった。しかし他方向から襲いかかる兵達の足を止めるのが精一杯だ。兵が再び剣を振り上げ、ルビアにとどめをさそうと刃を光らせる。だが兵が剣を振り下ろすよりも先にカイウスの剣が疾った。瞳に激しい怒りを宿らせ、容赦なく相手の胴を切り裂く。そして相手が吐血して事切れる前に、もう一度下から上へとその身に斬撃をいれる。カイウスの剣がとおったあとから鮮血が噴き出し、兵は空を仰ぐようにして倒れた。カイウスはそのままの勢いで残った兵達にも剣を向け、ほぼ一瞬のうちに片付けた。その圧倒的な実力を目にし、ティマは助かったという安堵と、同時にルビアがやられてしまったという焦燥にかられた。すぐさまルビアの安否を確かめようと彼女に目を向ける。そしてカイウスとティマは見た。ルビアの純白の上着が紅く染まり、顔は苦痛で歪んでいる。カイウスはルビアの華奢な体を抱き上げ傷を見た。左腕と胴体を切り裂かれている。だが治癒術を使えばまだ助かる。ティマがすぐに治癒術を唱え始める。
「カイ…ウス……」
「ルビア!大丈夫か?」
「あたしはいい…から……ふた…りを…!」
ルビアは言いながらカイウスの手を強く握りしめた。痛みに顔を歪めながらも、瞳ははっきりと周囲を見ていた。戦闘を続けるロインとラミー。ロインはともかく、ラミーも戦いが長引いているように見えた。カイウスも気付いていないわけではなかった。
「…ごめん!」
カイウスはルビアを地面に寝かせ、そう言い放つと同時に駆け出した。唇を強く噛み、剣を振りかざしガルザへとむかっていく。ルビアはそんなカイウスの背を見てふっと微笑を見せた。
「癒しの力、ヒール!…ルビア、大丈夫?」
治癒術を唱えたティマが心配そうにルビアの顔を覗き込む。ティマの杖から放たれた優しい光がルビアの傷を癒していく。ルビアはゆっくりと起き上がった。傷は癒えた。しかし痛みがまだ残っている。立ち上がるのも精一杯だった。そんなルビアを見て、ティマは目つきを変えた。
「ルビア、もういいわ。あとは私がやる。」
「そんな…あなた1人じゃ」
「でもやるしかないよ!」
ルビアはもう一度周囲を見た。カイウスとロインは2人でガルザとやっと互角に戦えていた。ラミーは相手の速く重い斬撃に少しばかり苦戦をしているらしい。ガルザの部下であろう他の兵達はほぼ戦闘不能。もうティマとルビアを襲える者はいないだろう。しかし2つの戦局を1人が同時にカバーするのはそれなりに難しい。ルビアは少しの間目を閉じ、杖を強く握りしめた。
「…ティマ。あと一撃、大きいプリセプツを使うわ。あなたはロインとカイウスをサポートしてて。」
「で、でも…」
「大丈夫。いいわね?」
ルビアはそう言って立ち上がった。身体はまだ痛む。小さく呻き声をもらすが、それでもしっかりと立ち上がり顔をあげる。強力な魔法でガルザとセイルに同時に隙を作る。上手くいけば、それで3人は決着をつけられるだろう。
お願い…耐えて……!
ルビアは祈り、そして荒い息を落ち着けながら静かに詠唱を始めた。
「氷舞槍!!」
槍の形状になっている部分に氷の粒と冷気をまとわせ、向かってくる敵に杖を回転させた後に突きの一撃を放つ。たとえ直接攻撃があたらなくても、武器にまとっている氷の粒が周囲に飛び散り兵の身体に突き刺さる。とはいっても、ラミーの銃弾ほどの威力はない。相手に多少ダメージを与えることができるだけ。だがその間にルビアが詠唱を終え次につなげる。
「ファイヤーボール!!」
ルビアにとっては使い慣れたこの術。詠唱も素早く、そして高い攻撃力をもつ。槍術を使えるティマと違い接近戦に弱いルビアは、まず相手に近づかれたくない。イラプションなどの広範囲を攻撃できる中級魔術もいいが、多少詠唱に時間がかかってしまうため、その間に敵により接近を許してしまう。ティマが前衛で動けるとはいえ、これだけの数を一度に相手できるほどの技量と余裕はない。それにこうすることで相手が怯み、隙が生まれることもある。だから少しずつでも確実に数を減らせる策に出た。それに他の兵の相手をしていたカイウスも彼らを倒し、2人に狙いを定めた兵達に気付きこちらに向かおうとしているのが見えた。
(カイウスが来てくれればこっちのものよ!)
ルビアがそう思った直後、彼女にむけて剣を振り上げる影が見えた。その相手との距離はかなり近く、ルビアの間にはティマもカイウスもいない。
「ッ! バリアー!」
詠唱を破棄して放った魔術の盾。本来であれば振り下ろされるその剣を弾き返し、ルビアの身を守るであろう盾。しかし、ルビアにとってあまりにも咄嗟の事態で心に乱れが生じたためだろうか、それは詠唱破棄したからとはいえ盾として頼りないものだった。辛うじてルビアの精神力で盾として機能し、斬撃を受け止めている状態だった。
「ルビア!!」
「行かせねぇぞ!!」
ティマは前方から迫り来る兵のせいでルビアを助けられない。カイウスがルビアの元に到着するにはあと少しかかる。とうとうバリアーは力で押され負け、ルビアの白い上着が刃で切り裂かれた。ルビアの髪よりも紅い血が宙を舞う。「きゃああっ!!」と短く悲鳴をあげ、ルビアはそのまま地面に倒れた。ティマはルビアの名を叫び、彼女を守ろうと必死だった。しかし他方向から襲いかかる兵達の足を止めるのが精一杯だ。兵が再び剣を振り上げ、ルビアにとどめをさそうと刃を光らせる。だが兵が剣を振り下ろすよりも先にカイウスの剣が疾った。瞳に激しい怒りを宿らせ、容赦なく相手の胴を切り裂く。そして相手が吐血して事切れる前に、もう一度下から上へとその身に斬撃をいれる。カイウスの剣がとおったあとから鮮血が噴き出し、兵は空を仰ぐようにして倒れた。カイウスはそのままの勢いで残った兵達にも剣を向け、ほぼ一瞬のうちに片付けた。その圧倒的な実力を目にし、ティマは助かったという安堵と、同時にルビアがやられてしまったという焦燥にかられた。すぐさまルビアの安否を確かめようと彼女に目を向ける。そしてカイウスとティマは見た。ルビアの純白の上着が紅く染まり、顔は苦痛で歪んでいる。カイウスはルビアの華奢な体を抱き上げ傷を見た。左腕と胴体を切り裂かれている。だが治癒術を使えばまだ助かる。ティマがすぐに治癒術を唱え始める。
「カイ…ウス……」
「ルビア!大丈夫か?」
「あたしはいい…から……ふた…りを…!」
ルビアは言いながらカイウスの手を強く握りしめた。痛みに顔を歪めながらも、瞳ははっきりと周囲を見ていた。戦闘を続けるロインとラミー。ロインはともかく、ラミーも戦いが長引いているように見えた。カイウスも気付いていないわけではなかった。
「…ごめん!」
カイウスはルビアを地面に寝かせ、そう言い放つと同時に駆け出した。唇を強く噛み、剣を振りかざしガルザへとむかっていく。ルビアはそんなカイウスの背を見てふっと微笑を見せた。
「癒しの力、ヒール!…ルビア、大丈夫?」
治癒術を唱えたティマが心配そうにルビアの顔を覗き込む。ティマの杖から放たれた優しい光がルビアの傷を癒していく。ルビアはゆっくりと起き上がった。傷は癒えた。しかし痛みがまだ残っている。立ち上がるのも精一杯だった。そんなルビアを見て、ティマは目つきを変えた。
「ルビア、もういいわ。あとは私がやる。」
「そんな…あなた1人じゃ」
「でもやるしかないよ!」
ルビアはもう一度周囲を見た。カイウスとロインは2人でガルザとやっと互角に戦えていた。ラミーは相手の速く重い斬撃に少しばかり苦戦をしているらしい。ガルザの部下であろう他の兵達はほぼ戦闘不能。もうティマとルビアを襲える者はいないだろう。しかし2つの戦局を1人が同時にカバーするのはそれなりに難しい。ルビアは少しの間目を閉じ、杖を強く握りしめた。
「…ティマ。あと一撃、大きいプリセプツを使うわ。あなたはロインとカイウスをサポートしてて。」
「で、でも…」
「大丈夫。いいわね?」
ルビアはそう言って立ち上がった。身体はまだ痛む。小さく呻き声をもらすが、それでもしっかりと立ち上がり顔をあげる。強力な魔法でガルザとセイルに同時に隙を作る。上手くいけば、それで3人は決着をつけられるだろう。
お願い…耐えて……!
ルビアは祈り、そして荒い息を落ち着けながら静かに詠唱を始めた。