第6章 兆し、赤眼が映すモノ Y
「澄み渡る明光よ、罪深きものに壮麗たる裁きを降らせよ!」
その時、ルビアの詠唱が完了した。未だ消えない痛みと戦いながら腕を空に掲げる。その手に光が集束し球体を為した。
「レイ!!」
その言葉と同時に閃光がガルザとセイルの身を襲う。スピードに自信のあるセイルでも光速には勝てない。光にその身を焦がし叫び声をあげる。
今だ!!
3人はこの機会を逃さず、とどめを刺しに出た。
「くらいな!閃空衝裂破!!」
「これで終わりだ!斬光時雨!!」
「風迅剣!!」
セイルはラミーの二つの短剣で切り裂かれ、ガルザはカイウスの猛攻とロインの突きの攻撃を食らい、その場に膝をついた。セイルの剣は音をたててセイルの手から離れた。肩で息をするセイルにラミーは武器を目の前に突きつけた。唇が切れるほど強く噛み、ラミーを見上げるセイル。勝負ありだった。ガルザも剣を支えに倒れまいとするので精一杯と見えた。そんなガルザにロインはゆっくり近づいた。瞳は鋭く、剣は再び強く握られている。そしてその剣をガルザの前に突き出す。何をしようとしているかは明白だった。カイウスは一瞬躊躇したが、ロインを止めることはしなかった。
「…終わりだ。ガルザ。」
ロインは静かに剣を振り上げる。ガルザはそれを見ても微動だにしない。ただ荒々しく息をする音だけがあった。
(これでいい。仇を討つんだ。)
より剣を強く握り締める。7年間夢見た瞬間がまもなく訪れる。ロインの心は意外にも落ち着いていた。
この剣を振り下ろせば全てが終わるのだ…。
しかし突然、ごおおおう、と凄まじい音が響き渡った。それも一回だけではなく、続けて何度も聞こえてくる。その場にいた皆が驚いた。ロインも驚き、注意をガルザからはなしてしまった。ガルザはその瞬間を逃さなかった。残った力でロインに体当たりを食らわし、そして剣を持って彼から距離をとった。突き飛ばされたロインはカイウスに受け止められた。その間もごおおう、という大地を振動させる音はやまない。しかも段々近づいている。そして現れたのは複数の“獣”だった。
「ぐぁああああっ!!」
「や、やめろっ!!…ぎゃああああああ!!」
カイウス達が戦闘不能にした兵士達が“獣”に襲われていく。動けない身体を、鎧をまとっているのにも関わらず、軽々と持ち上げ地に強く叩きつける。骨が砕ける音がした。その身体がただの肉塊となるまで殴られる者もいた。まだ息の根の止まっていない兵を見つけるたびに、こうした惨殺が行われる。やがてその目はガルザやロインたちに向けられた。一体がセイルとラミー目掛けて駆け出す。ラミーはその光景に、そして襲い来る“獣”の姿に恐怖していた。ただバカみたいにその場に立ち尽くしている。そんなラミーをセイルは突き飛ばし、自身の剣を拾った。そして目の前にやってくる奴の体に剣を突き刺した。
「ああっ!」
その光景を見たラミーは思わず悲鳴を上げた。剣に貫かれもがき苦しむ“獣”に、セイルはとどめをさす。仲間の死を見た“獣”がまたセイルに襲い掛かる。セイルは出血と傷を無視して剣を振るう。その度に“獣”の悲鳴が、断末魔が響き渡る。ガルザも同じように、自分に向かってくる“獣”はなぎ倒していた。ロインとカイウスは戦おうとはせず、ひたすら攻撃を避けていた。だが“獣”の攻撃は重く、しかも速い。一撃でもまともに食らえば、よくて重傷、最悪あの世行きだ。
「止めろ!オレ達は敵じゃない!!」
カイウスが必死にそう叫ぶのが聞こえる。だが“獣”に声は届いていないらしい。
「皆、こっちへ!!」
ティマの声が聞こえた。カイウスはロインの手を引いて、ラミーもなんとか立ち上がってティマとルビアのもとに駆けた。
「フィールドバリアー!」
ルビアの杖先から光が放たれ、2人を包み込んでいく。カイウス、ロイン、ラミーもその中へ滑るように入り込む。そして、ドームのような形状のバリアーが5人の周囲に展開された。一体の“獣”がそのバリアーを拳で叩いた。が、びくともしない。それでも何度も殴りつける。
「止めて!!私達は敵じゃない!!攻撃しないで!!」
ティマが必死の形相で叫ぶ。だがやはり、ティマの声も届かない。だが突然攻撃の雨がやんだ。“獣”はくるりと向きを変え、ガルザのほうへと駆け出す。その時ティマは見た。“獣”の仲間がガルザに斬られ倒れる姿を。そして、その後を追うようにしてティマ達を攻撃していた“獣”も血飛沫を上げて倒れる光景を。やがて、あたりにはガルザの部下と、彼らを襲った“獣”の血と死体でいっぱいになった。
「……あなたたち、なんてことをっ!!」
フィールドバリアーが解かれ、ティマは怒りに満ちた顔でガルザとセイルに叫んだ。先の戦いですでに重傷を負っていたガルザらは荒い息をしていた。だが“獣”を掃討するのに苦労しなかったようで、返り血は浴びているが、新たに傷は負っていないようだった。
「ならば、黙って殺されろ、とでも?」
「あんな“リカンツ”共に同情か?おかしなガキだぜ。」
ガルザは静かに剣を収めながら、セイルはせせら笑うように言った。その言葉にティマだけでなく、カイウスやラミーも怒りを露にする。ロインは怒り以上の感情を抱いている。
「ガルザ!!」
叫びながらロインは走り出す。だがその時、ガルザの横につむじ風が発生した。ロインは警戒して足を止める。やがてやんだつむじ風の中から、見たことのある顔が現れた。スディアナの城で出会った女兵士、フレアだった。
「隊長…これは一体?」
突然現れたフレアは、血と炎で真っ赤に染まった町を見渡し、そして傷だらけのガルザとセイル、すでに屍となった多くの仲間を見て説明を求めた。だがガルザは説明不要とでもいうような仕草をする。その行動を見たロインはフレアの立ち位置を理解した。
「てめぇ、ガルザの仲間か!」
きつくフレアを睨み、剣を構える。フレアはそれを見て少し悲しそうな表情を向けた後、ガルザに何か囁いた。
「今日はこれまでだ。」
フレアの話を聞き終えたガルザが言った。次の瞬間、ガルザ、セイル、フレアの3人がつむじ風に包まれる。それを見たロインは「待て!」と走り出す。その背後でラミーの叫ぶ声が聞こえた。
「ガルザ!!てめぇどういうつもりだ!?」
「…ただの命令だ。」
その言葉の直後、3人の姿が完全につむじ風に包まれた。ロインは思いっきり剣を振ったが、遅かった。3人は、ガルザは風と共に姿を消していた。
「…くそっ!ガルザーーーーー!!!」
ロインは空を仰いで叫んだ。こみ上げてくるのは仇を討ち損ねた悔しさと無情なガルザの行為に対する怒り。だがそれはすぐに消え去った。
「ルビア!!」
ティマの声が聞こえた。振り返ると、ティマに抱かれて倒れているルビアが目に入った。痛みの残る身体で上級魔法を放ち、その上我を失った獣人化したレイモーンの民から守るためにと魔力も大量に消費した。限界がきたのだろう。意識が無いらしく、ティマが身体を揺さぶっても、カイウスの声にも反応しない。ロインは急いでカイウス達のもとに戻った。その時、近くの家が焼け崩れた。火の手が近くまで迫っていることに今気が付いた。
「このままだと危険だ。町の外に出よう。」
カイウスはルビアを背負い、ロイン、ティマ、ラミーに言った。3人は頷き、その場を去った。あとには無惨な死体だけが残された。
その時、ルビアの詠唱が完了した。未だ消えない痛みと戦いながら腕を空に掲げる。その手に光が集束し球体を為した。
「レイ!!」
その言葉と同時に閃光がガルザとセイルの身を襲う。スピードに自信のあるセイルでも光速には勝てない。光にその身を焦がし叫び声をあげる。
今だ!!
3人はこの機会を逃さず、とどめを刺しに出た。
「くらいな!閃空衝裂破!!」
「これで終わりだ!斬光時雨!!」
「風迅剣!!」
セイルはラミーの二つの短剣で切り裂かれ、ガルザはカイウスの猛攻とロインの突きの攻撃を食らい、その場に膝をついた。セイルの剣は音をたててセイルの手から離れた。肩で息をするセイルにラミーは武器を目の前に突きつけた。唇が切れるほど強く噛み、ラミーを見上げるセイル。勝負ありだった。ガルザも剣を支えに倒れまいとするので精一杯と見えた。そんなガルザにロインはゆっくり近づいた。瞳は鋭く、剣は再び強く握られている。そしてその剣をガルザの前に突き出す。何をしようとしているかは明白だった。カイウスは一瞬躊躇したが、ロインを止めることはしなかった。
「…終わりだ。ガルザ。」
ロインは静かに剣を振り上げる。ガルザはそれを見ても微動だにしない。ただ荒々しく息をする音だけがあった。
(これでいい。仇を討つんだ。)
より剣を強く握り締める。7年間夢見た瞬間がまもなく訪れる。ロインの心は意外にも落ち着いていた。
この剣を振り下ろせば全てが終わるのだ…。
しかし突然、ごおおおう、と凄まじい音が響き渡った。それも一回だけではなく、続けて何度も聞こえてくる。その場にいた皆が驚いた。ロインも驚き、注意をガルザからはなしてしまった。ガルザはその瞬間を逃さなかった。残った力でロインに体当たりを食らわし、そして剣を持って彼から距離をとった。突き飛ばされたロインはカイウスに受け止められた。その間もごおおう、という大地を振動させる音はやまない。しかも段々近づいている。そして現れたのは複数の“獣”だった。
「ぐぁああああっ!!」
「や、やめろっ!!…ぎゃああああああ!!」
カイウス達が戦闘不能にした兵士達が“獣”に襲われていく。動けない身体を、鎧をまとっているのにも関わらず、軽々と持ち上げ地に強く叩きつける。骨が砕ける音がした。その身体がただの肉塊となるまで殴られる者もいた。まだ息の根の止まっていない兵を見つけるたびに、こうした惨殺が行われる。やがてその目はガルザやロインたちに向けられた。一体がセイルとラミー目掛けて駆け出す。ラミーはその光景に、そして襲い来る“獣”の姿に恐怖していた。ただバカみたいにその場に立ち尽くしている。そんなラミーをセイルは突き飛ばし、自身の剣を拾った。そして目の前にやってくる奴の体に剣を突き刺した。
「ああっ!」
その光景を見たラミーは思わず悲鳴を上げた。剣に貫かれもがき苦しむ“獣”に、セイルはとどめをさす。仲間の死を見た“獣”がまたセイルに襲い掛かる。セイルは出血と傷を無視して剣を振るう。その度に“獣”の悲鳴が、断末魔が響き渡る。ガルザも同じように、自分に向かってくる“獣”はなぎ倒していた。ロインとカイウスは戦おうとはせず、ひたすら攻撃を避けていた。だが“獣”の攻撃は重く、しかも速い。一撃でもまともに食らえば、よくて重傷、最悪あの世行きだ。
「止めろ!オレ達は敵じゃない!!」
カイウスが必死にそう叫ぶのが聞こえる。だが“獣”に声は届いていないらしい。
「皆、こっちへ!!」
ティマの声が聞こえた。カイウスはロインの手を引いて、ラミーもなんとか立ち上がってティマとルビアのもとに駆けた。
「フィールドバリアー!」
ルビアの杖先から光が放たれ、2人を包み込んでいく。カイウス、ロイン、ラミーもその中へ滑るように入り込む。そして、ドームのような形状のバリアーが5人の周囲に展開された。一体の“獣”がそのバリアーを拳で叩いた。が、びくともしない。それでも何度も殴りつける。
「止めて!!私達は敵じゃない!!攻撃しないで!!」
ティマが必死の形相で叫ぶ。だがやはり、ティマの声も届かない。だが突然攻撃の雨がやんだ。“獣”はくるりと向きを変え、ガルザのほうへと駆け出す。その時ティマは見た。“獣”の仲間がガルザに斬られ倒れる姿を。そして、その後を追うようにしてティマ達を攻撃していた“獣”も血飛沫を上げて倒れる光景を。やがて、あたりにはガルザの部下と、彼らを襲った“獣”の血と死体でいっぱいになった。
「……あなたたち、なんてことをっ!!」
フィールドバリアーが解かれ、ティマは怒りに満ちた顔でガルザとセイルに叫んだ。先の戦いですでに重傷を負っていたガルザらは荒い息をしていた。だが“獣”を掃討するのに苦労しなかったようで、返り血は浴びているが、新たに傷は負っていないようだった。
「ならば、黙って殺されろ、とでも?」
「あんな“リカンツ”共に同情か?おかしなガキだぜ。」
ガルザは静かに剣を収めながら、セイルはせせら笑うように言った。その言葉にティマだけでなく、カイウスやラミーも怒りを露にする。ロインは怒り以上の感情を抱いている。
「ガルザ!!」
叫びながらロインは走り出す。だがその時、ガルザの横につむじ風が発生した。ロインは警戒して足を止める。やがてやんだつむじ風の中から、見たことのある顔が現れた。スディアナの城で出会った女兵士、フレアだった。
「隊長…これは一体?」
突然現れたフレアは、血と炎で真っ赤に染まった町を見渡し、そして傷だらけのガルザとセイル、すでに屍となった多くの仲間を見て説明を求めた。だがガルザは説明不要とでもいうような仕草をする。その行動を見たロインはフレアの立ち位置を理解した。
「てめぇ、ガルザの仲間か!」
きつくフレアを睨み、剣を構える。フレアはそれを見て少し悲しそうな表情を向けた後、ガルザに何か囁いた。
「今日はこれまでだ。」
フレアの話を聞き終えたガルザが言った。次の瞬間、ガルザ、セイル、フレアの3人がつむじ風に包まれる。それを見たロインは「待て!」と走り出す。その背後でラミーの叫ぶ声が聞こえた。
「ガルザ!!てめぇどういうつもりだ!?」
「…ただの命令だ。」
その言葉の直後、3人の姿が完全につむじ風に包まれた。ロインは思いっきり剣を振ったが、遅かった。3人は、ガルザは風と共に姿を消していた。
「…くそっ!ガルザーーーーー!!!」
ロインは空を仰いで叫んだ。こみ上げてくるのは仇を討ち損ねた悔しさと無情なガルザの行為に対する怒り。だがそれはすぐに消え去った。
「ルビア!!」
ティマの声が聞こえた。振り返ると、ティマに抱かれて倒れているルビアが目に入った。痛みの残る身体で上級魔法を放ち、その上我を失った獣人化したレイモーンの民から守るためにと魔力も大量に消費した。限界がきたのだろう。意識が無いらしく、ティマが身体を揺さぶっても、カイウスの声にも反応しない。ロインは急いでカイウス達のもとに戻った。その時、近くの家が焼け崩れた。火の手が近くまで迫っていることに今気が付いた。
「このままだと危険だ。町の外に出よう。」
カイウスはルビアを背負い、ロイン、ティマ、ラミーに言った。3人は頷き、その場を去った。あとには無惨な死体だけが残された。