第6章 兆し、赤眼が映すモノ [
数分後、トクナガは再び大空へと飛び立った。それを見送ってから、一行は再び街道を歩き出す。すると、ラミーの言うとおり洞窟が見えてきた。中に入ると、それまであった日光は失われ、洞窟独特の暗闇が彼らを迎え入れる。道幅はそれなりに広く、魔物に襲われても戦えるくらいのスペースはあった。
「あーー。ママ、面白いよ!オレの声響いてる!」
チャークは面白がってそうやって何回か無駄に大声を出した。それが原因で魔物に襲われてしかられると、今度は洞窟の岩壁を叩いてみたり、地面に転がっているただの石ころを投げたりして遊びだす。マリーが「おとなしくしなさい!」とチャークをしかると、またその声に反応してバットなどが出てくる。
「あっははは。2人だけで来なくてよかったね。」
ラミーはそんな親子の様子が面白いらしく、たとえそれで魔物がやってこようとも気にしない。悪気があって言ったつもりはなかったのだが、その言葉にマリーは赤面してしまい、それを見たルビアがラミーの頭を一発殴る。その様子を見てカイウスが苦笑する。
「ったく、いつまで騒いでんだ、こいつらは?」
「いいじゃない。楽しいんだし。」
「楽しけりゃいいのかよ?」
一方のロインは呆れてしまっている。呆れながら、背後から迫っていたゲコゲコに魔神剣を一発お見舞いする。「ゲコー!」と情けない声を出してゲコゲコは吹き飛ばされていった。洞窟の中は分かれ道が多く、マウベロへはまっすぐ進めばいいらしいので迷うことはないが、他の通路から魔物が次々と現れるのである。それに、またしてもチャークが面白がってちょこちょこと他の道に顔を出して、わざわざ魔物とご対面する機会を作ってくれる。魔物と遭遇するとわかっていても、マリーや他のメンバーが目を離すと、本人は好奇心に任せて行動してしまうのだった。しかもラミーが悪乗りしてしまっている。静かに動けば魔物に狙われることもないだろうに、と5人が思っても、この2人のおかげでそれはできそうにない。そんな2人の動きが唯一静かになるのは、食事と休眠の時だけだった。
「ラミーとチャーク、もう眠ってるぜ?」
「あんだけはしゃげば当然よ。」
チャークは大の字になって眠っている。その姿は、チャークがここが安全な家ではないこと忘れているのではないかと思わせた。その隣でラミーも寝息を立てていた。そんな2人を見て、カイウスとルビアはくすくすと笑っていた。聞けば、チャークはこうして遠出をするのは初めてらしい。カイウスはなんとなく、チャークがはしゃぐ理由がわかる気がした。それは、カイウスが15歳になるまで一度も隣町にすら連れて行ってもらえなかったことが理由だった。
ルビアだって首都に連れて行ってもらったことがあるのに、自分だけが村に閉じ込められている。カイウスは何度も養父に頼んだが、それは養父がリカンツ狩りで捕まってしまうまで叶うことはなかった。今思えば、それはレイモーンの民である自分の身を守るためだったのだろう。それでも、その時の悔しさが消えるわけではない。
チャークも言っていた。「パパは姉ちゃんしか一緒に連れてけないって言うんだ。」と。だが、故郷があのようになってしまったのにも関わらずこんなにはしゃいでいられるというのは、ある意味すごい神経の持ち主だ、と感心せざるを得ない。
(ま、それを忘れられるだけ、初めての『冒険』が楽しいのかもしれないな。)
そう思い、カイウスはチャークから目をはなした。すると、ティマ以外の全員が眠りに着き始めているのに気がついた。そのティマと目が合うと、ティマは小声で言った。
「あ。私が見張ってるから、カイウスは休んでて。」
「そうか?じゃあ頼むよ。眠くなったら交代するから、起こしてくれよな。」
「はい。」
ティマが笑顔で返事をすると、カイウスも微笑み、そして横になった。
(…大丈夫だよ、カイウス。眠れないんだもん。)
自分以外の全員の目が閉じられているのを確認すると、途端にティマの表情が曇った。そして彼女の脳裏に浮かぶのは、目の前で繰り広げられた惨劇。イーバオの時は直接目にしなかった光景。故郷の人々は、何のためらいも無しに斬られていったあのレイモーンの民のように殺されていったのだろうか。ティマは少しだけ遠い記憶になったあの事件を思い返した。
あの日、ロインの家に遊びに行くと港から変な音がした。不審に思った2人は、武器を持って港に向かった。するとあの謎の兵士達が船を、船員達を襲った後だった。兵に追われ、ロインに手を引かれて逃げた先は砂浜。そして、カイウスとルビアに助けられた。
「何が起きているの…?おばさん、私、なんだか怖いよ…。」
自分の体を強く抱きしめ、思わず声を漏らす。レイモーンの住む町が二ヶ所も襲われた。このマウディーラで何かが起きているのは確かだろう。ティマがその事実を認識した時、イーバオを旅発つときに感じた、あの嫌な予感が再びしたのだ。それが何を気にしているのかは判らないのだ。その夜、ティマはそうしてわけのわからない怯えと戦って過ごした。
「隊長!こっちに光るコケがあります!」
「お、本当?」
目覚めたチャークとラミーは、また『探検ごっこ』を始めた。何をやっても止まらないだろう、と他の5人は止めさせるのを諦め始めていた。実際、この洞窟に生息する魔物で手強いのはあんまりいないようなので、出たら出たで倒していくことにした。だがよく見ると、その戦闘をラミーが楽しみにしているように見える。
「ラミー、あなた戦いたくてわざとやってる?」
ティマがまさかと思って尋ねる。そして、あまり聞きたくない答えが返ってきた。
「当たり前じゃん!船の上じゃ退屈だし、動きが鈍るでしょ?こうやって体動かさなきゃ!」
「…戦闘バカがここにいるぜ……」
ロインの冷たい視線がラミーを捕らえる。だがラミーは気にせず、チャークと先を歩いていく。どうやらロインはラミーとは相性が悪いようだ―――いや、もしかしたら誰もラミーには敵わないかもしれない。
「もう、チャーク!あまり皆さんを困らせるんじゃありません!」
「ラミーも!あなたはよくても私たちが困るじゃないの。」
マリーとティマがチャークとラミーを諌めようと駆け寄った。その時だった。
「う、うわぁああ!!」
「きゃあああ!?」
「! チャーク!?ラミー!?」
「マリーさん!?ティマ!!」
突然4人の足もとが抜け、そのまま落下していったのだ。その場に取り残されたロイン、カイウス、ルビアがその穴を覗き込む。暗くてよく見えないが、声は案外近い。4人それぞれのうめき声が聞こえる。
「だ、大丈夫ですか!?」
カイウスが穴に向かって叫ぶ。声は穴の中で反響した。
「平気だよ。皆無事さ。」
返ってきたのはラミーの声。突然の事に驚いてはいるようだが、とりあえず元気そうだった。
「あがって来れそうか?」
「無理だな。…あー、降りないほうがいいぞ?それなりに深いからな。」
「どこか上に出れる道があるはずです。私達はそれを探します。」
「わかりました。あたし達もそれを探してみます。」
そう言って立ち上がり、3人が急いで下と繋がっている道を探そうとした時だった。
「ロイン!カイウスとルビアとケンカしちゃダメよー?」
聞こえてきたのはティマの声だった。ロインは不意を衝かれたらしく、少し動揺していた。
「う、うるせぇよ。お前こそ、しっかりそいつらを守れよ?」
「うん。任せて!」
返ってきた声は明るかった。それを聞くと、ロインは走り出した。カイウスとルビアもその後を追う。
「くす。ロインってばキョドってたわよ。可愛い♪」
「…ルビア、お前ロインに殺されるぞ?」
しかし幸か不幸か、ルビアの言葉はロインの耳に入っていなかった。
(待ってろ。今行くからな…)
ロインはただ、下へ通じる道を探すのに必死だった。
「あーー。ママ、面白いよ!オレの声響いてる!」
チャークは面白がってそうやって何回か無駄に大声を出した。それが原因で魔物に襲われてしかられると、今度は洞窟の岩壁を叩いてみたり、地面に転がっているただの石ころを投げたりして遊びだす。マリーが「おとなしくしなさい!」とチャークをしかると、またその声に反応してバットなどが出てくる。
「あっははは。2人だけで来なくてよかったね。」
ラミーはそんな親子の様子が面白いらしく、たとえそれで魔物がやってこようとも気にしない。悪気があって言ったつもりはなかったのだが、その言葉にマリーは赤面してしまい、それを見たルビアがラミーの頭を一発殴る。その様子を見てカイウスが苦笑する。
「ったく、いつまで騒いでんだ、こいつらは?」
「いいじゃない。楽しいんだし。」
「楽しけりゃいいのかよ?」
一方のロインは呆れてしまっている。呆れながら、背後から迫っていたゲコゲコに魔神剣を一発お見舞いする。「ゲコー!」と情けない声を出してゲコゲコは吹き飛ばされていった。洞窟の中は分かれ道が多く、マウベロへはまっすぐ進めばいいらしいので迷うことはないが、他の通路から魔物が次々と現れるのである。それに、またしてもチャークが面白がってちょこちょこと他の道に顔を出して、わざわざ魔物とご対面する機会を作ってくれる。魔物と遭遇するとわかっていても、マリーや他のメンバーが目を離すと、本人は好奇心に任せて行動してしまうのだった。しかもラミーが悪乗りしてしまっている。静かに動けば魔物に狙われることもないだろうに、と5人が思っても、この2人のおかげでそれはできそうにない。そんな2人の動きが唯一静かになるのは、食事と休眠の時だけだった。
「ラミーとチャーク、もう眠ってるぜ?」
「あんだけはしゃげば当然よ。」
チャークは大の字になって眠っている。その姿は、チャークがここが安全な家ではないこと忘れているのではないかと思わせた。その隣でラミーも寝息を立てていた。そんな2人を見て、カイウスとルビアはくすくすと笑っていた。聞けば、チャークはこうして遠出をするのは初めてらしい。カイウスはなんとなく、チャークがはしゃぐ理由がわかる気がした。それは、カイウスが15歳になるまで一度も隣町にすら連れて行ってもらえなかったことが理由だった。
ルビアだって首都に連れて行ってもらったことがあるのに、自分だけが村に閉じ込められている。カイウスは何度も養父に頼んだが、それは養父がリカンツ狩りで捕まってしまうまで叶うことはなかった。今思えば、それはレイモーンの民である自分の身を守るためだったのだろう。それでも、その時の悔しさが消えるわけではない。
チャークも言っていた。「パパは姉ちゃんしか一緒に連れてけないって言うんだ。」と。だが、故郷があのようになってしまったのにも関わらずこんなにはしゃいでいられるというのは、ある意味すごい神経の持ち主だ、と感心せざるを得ない。
(ま、それを忘れられるだけ、初めての『冒険』が楽しいのかもしれないな。)
そう思い、カイウスはチャークから目をはなした。すると、ティマ以外の全員が眠りに着き始めているのに気がついた。そのティマと目が合うと、ティマは小声で言った。
「あ。私が見張ってるから、カイウスは休んでて。」
「そうか?じゃあ頼むよ。眠くなったら交代するから、起こしてくれよな。」
「はい。」
ティマが笑顔で返事をすると、カイウスも微笑み、そして横になった。
(…大丈夫だよ、カイウス。眠れないんだもん。)
自分以外の全員の目が閉じられているのを確認すると、途端にティマの表情が曇った。そして彼女の脳裏に浮かぶのは、目の前で繰り広げられた惨劇。イーバオの時は直接目にしなかった光景。故郷の人々は、何のためらいも無しに斬られていったあのレイモーンの民のように殺されていったのだろうか。ティマは少しだけ遠い記憶になったあの事件を思い返した。
あの日、ロインの家に遊びに行くと港から変な音がした。不審に思った2人は、武器を持って港に向かった。するとあの謎の兵士達が船を、船員達を襲った後だった。兵に追われ、ロインに手を引かれて逃げた先は砂浜。そして、カイウスとルビアに助けられた。
「何が起きているの…?おばさん、私、なんだか怖いよ…。」
自分の体を強く抱きしめ、思わず声を漏らす。レイモーンの住む町が二ヶ所も襲われた。このマウディーラで何かが起きているのは確かだろう。ティマがその事実を認識した時、イーバオを旅発つときに感じた、あの嫌な予感が再びしたのだ。それが何を気にしているのかは判らないのだ。その夜、ティマはそうしてわけのわからない怯えと戦って過ごした。
「隊長!こっちに光るコケがあります!」
「お、本当?」
目覚めたチャークとラミーは、また『探検ごっこ』を始めた。何をやっても止まらないだろう、と他の5人は止めさせるのを諦め始めていた。実際、この洞窟に生息する魔物で手強いのはあんまりいないようなので、出たら出たで倒していくことにした。だがよく見ると、その戦闘をラミーが楽しみにしているように見える。
「ラミー、あなた戦いたくてわざとやってる?」
ティマがまさかと思って尋ねる。そして、あまり聞きたくない答えが返ってきた。
「当たり前じゃん!船の上じゃ退屈だし、動きが鈍るでしょ?こうやって体動かさなきゃ!」
「…戦闘バカがここにいるぜ……」
ロインの冷たい視線がラミーを捕らえる。だがラミーは気にせず、チャークと先を歩いていく。どうやらロインはラミーとは相性が悪いようだ―――いや、もしかしたら誰もラミーには敵わないかもしれない。
「もう、チャーク!あまり皆さんを困らせるんじゃありません!」
「ラミーも!あなたはよくても私たちが困るじゃないの。」
マリーとティマがチャークとラミーを諌めようと駆け寄った。その時だった。
「う、うわぁああ!!」
「きゃあああ!?」
「! チャーク!?ラミー!?」
「マリーさん!?ティマ!!」
突然4人の足もとが抜け、そのまま落下していったのだ。その場に取り残されたロイン、カイウス、ルビアがその穴を覗き込む。暗くてよく見えないが、声は案外近い。4人それぞれのうめき声が聞こえる。
「だ、大丈夫ですか!?」
カイウスが穴に向かって叫ぶ。声は穴の中で反響した。
「平気だよ。皆無事さ。」
返ってきたのはラミーの声。突然の事に驚いてはいるようだが、とりあえず元気そうだった。
「あがって来れそうか?」
「無理だな。…あー、降りないほうがいいぞ?それなりに深いからな。」
「どこか上に出れる道があるはずです。私達はそれを探します。」
「わかりました。あたし達もそれを探してみます。」
そう言って立ち上がり、3人が急いで下と繋がっている道を探そうとした時だった。
「ロイン!カイウスとルビアとケンカしちゃダメよー?」
聞こえてきたのはティマの声だった。ロインは不意を衝かれたらしく、少し動揺していた。
「う、うるせぇよ。お前こそ、しっかりそいつらを守れよ?」
「うん。任せて!」
返ってきた声は明るかった。それを聞くと、ロインは走り出した。カイウスとルビアもその後を追う。
「くす。ロインってばキョドってたわよ。可愛い♪」
「…ルビア、お前ロインに殺されるぞ?」
しかし幸か不幸か、ルビアの言葉はロインの耳に入っていなかった。
(待ってろ。今行くからな…)
ロインはただ、下へ通じる道を探すのに必死だった。