第6章 兆し、赤眼が映すモノ ]
このままでは何をされるかわからない。命に関わるような最悪の事態を想定し、四人は、特にラミーが、必死に抵抗した。しかし、それは報われず、そして四人は突然突き飛ばされた。痛みを堪えて顔をあげると、目の前には明かりの灯った空間、そして一人の男が座っていた。おそらく、ティマ達を捕らえた奴らの仲間だろう。
「なんだ?こいつらは。」
目の前の男の低い声が尋ねる。答えたのは後ろの男の一人だった。
「この地下をうろついてたから連れてきた。女のガキ2人は武器持ち。あとは手ぶらだ。」
そう言ってティマの杖を目の前に放り投げる。ティマがあっ、と叫んで掴もうとするよりも速く、男が杖を掴んだ。男は値踏みするようにティマの杖をじっと眺め、槍のようにになっている杖の先端を指でなぞった。その様子にティマの目つきがきつくなる。
「それを返しな!」
ラミーは立ち上がり、銃を構えて言った。だが、男はその様子を見てもピクリともしない。ラミーが引き金を引こうとしたその時、
「うわぁああ!!」
「武器を捨てな。全部だよ。でないと、こいつがひどい目にあうよ。」
チャークの悲鳴。振り返れば、涙目になっているチャークに女が刀を突きつけている。マリーとティマがそれを見て彼の名を悲鳴のように叫ぶ。ラミーは舌打ちをし、少し躊躇した後、2丁の銃と2本の短剣を地面に投げ、一歩後退した。男達はそれを拾い、座っている男に差し出した。その間も、女はチャークを人質に取っている。
「正しい判断だな。ドレスは冷徹な女だ。言う事聞かないと、そのガキは痛い目にあうぞ。」
男は感情を入れずに、今度はラミーの武器を手に取りながら言った。ラミーは立ち上がったまま、その男を睨んでいる。
(くっ。どうする?どうやって逃げ出す?)
ラミーは思考をめぐらせた。カイウス達が気付いてくれれば…。だがその可能性は低い。ここまで辿りつけるかどうか。それに、来たところで人質がいる。迂闊に手は出せないはずだ。状況は対して変わらない。だとすれば、自分とティマの2人でこの状況を打破するしかない。だがそれにはどうすればいい?ここで思考は振り出しに戻る。ちらっとティマとマリーを見る。マリーは囚われている我が子に釘付けになっている。ティマは、チャークと自分の武器、そして目の前の男達を交互に見ていた。
「…おい。その黒髪のガキが持ってるのはなんだ?」
「! や、やめて!!」
その時、男は何かに気付き、そばにいた別の男がティマの腕を乱暴に掴んだ。ティマは必死に抵抗した。ラミーは掴まれた手に何かが握られているのを見た。男がティマから奪ったのは、虹色に輝く貝殻のペンダントだった。ティマは必死に取り返そうとする。だが男の腕力に敵うはずなく、強く地面に突き飛ばされてしまった。
「ティマ!大丈夫か?」
「くっ…。返して!それは大事なものなの!!」
ラミーが気にかけるも、ティマは奪われたペンダントに意識がいっていた。そのペンダントは男の手に渡り、じっと観察されている。
何か思い出の品なのか?
ラミーはティマのただならぬ表情にそう思い、ペンダントを見つめた。確かに美しい貝殻だが、価値のあるものとは思えない。男も同じように考えているのか、ペンダントを丁寧とは言えない扱い方で見ている。やがて、男はペンダントをティマに投げ返した。ティマはすかさず手にとり、大事そうに胸の前で握りしめている。
「ダン。こいつらはどうするの?」
ドレスが尋ねた。するとダンは、今度はティマ達を観察するように見つめた。ラミーはその目を威嚇するように睨み返す。なんとか急いで逃げなければ。そうは思っても何も案は浮かばない。汗が静かに伝うのを感じた。
「…赤髪のガキは殺せ。あとは奴隷商人にでも売りつける。」
「「「!!」」」
ダンの言葉に、ラミー以外の3人は血の気が引いたようだった。
「? なんで一人だけ殺すんだ?」
他の男が剣を抜きながら聞く。ダンはその男を見て答えた。
「このガキは売れねえよ。気が強すぎる。あとはそう、『見せしめ』だ。」
ダンの言う通り、ラミーは処刑宣言を言い渡されても表情ひとつ崩していなかった。ダンの言葉で彼らのターゲットはラミー一人に絞られた。ドレスはチャークをマリーのもとに突き飛ばし、男達と同時に複数の方向からラミーに切りかかった。
「ラミー!」
ラミーは剣が振り下ろされるその瞬間まで動く素振りを見せなかった。だがティマがその名を叫んだ瞬間、ラミーは空中に飛んでいた。そして一回転をし、ダンの目の前に着地する。だが、そのまま立ち止まることはしない。岩壁に立てかけられていたダンの刀が横に払われ、ラミーは慌ててその場にしゃがんでやり過ごした。赤髪が少しハラハラと散ったのを見て、ラミーは舌打ちを打った。
「ちょっと、乙女の髪に何してくれんだよ?」
「ふん。すばしっこい奴だ。」
ダンは構わず刀を振り下ろす。背後からドレスらも切りかかってくる。一見逃れられそうにない状況。ダンらはラミーの死を確信し、ラミーの顔に汗が伝った。剣が振り下ろされる瞬間、ラミーは一か八か右へ飛んだ。そこにいた男はがら空きとなった胴にタックルを受け、呻き声をあげて倒れた。意外にもあっさりと上手くいき、ラミーはなるほど、という風に笑って見せた。
「そこまで戦い慣れてはいないってか?ま、商人ばかり狙ってりゃ戦う必要ねぇもんな。」
言いながら、向かってきた別の男の剣をやり過ごす。男はラミーの素早い動きについていけず、その細身の体から繰り出された強烈な回し蹴りを顔面にくらってしまった。力であれば、子供であるラミーが勝てる可能性は低いだろう。だが戦闘経験とスピードならこの大人達に負ける気はしない。甘いことに人質を放してしまった彼らに、ラミーは遠慮などしない。例え武器がなくとも身体1つで戦う事はできる。普段は短剣で繰り出す攻撃の型を両の拳で繰り出す。だがさすがに剣を素手で受け止めるわけにはいかず、剣で防御に出られると、なんとかそれをかわさなければいけない。そうは言ってもたやすくできる技ではない。ラミーはそうしたカウンターに何度かやられ、自身の血を流す羽目になった。ティマはその間、マリーとチャークの前に立ち、戦況を見ていた。そして奪われた二人の武器へ視線を向ける。武器は、あのドレスという女の近くに置かれている。なんとか取り戻せればティマも戦える。ティマは意を決して飛び込んだ。だがそれに気付いたドレスは刀をティマ目掛けて一閃させた。ティマは慌てて飛び退くが、ドレスの攻撃はかすかにティマの腹を切り裂いた。大した傷ではないが、ティマにとっては痛手だった。おかげでドレスに目をつけられてしまった。下手に動けば武器どころではない。ティマに向けられる冷たい殺気。おそらくドレスは戦い慣れている人間だ。その様子にラミーも気がつく。だが、ラミーの打撃では一瞬相手の動きを止める程度の攻撃にしかならない。モンクのように、素手で相手を叩きのめすほどの威力は持っていないのだ。おかげで男達から攻撃の雨を受け続けている。ティマ達を助けに向かう余裕などない。
(ロイン…!)
ティマはペンダントを強く握りしめた。
「…ティマ?」
ロインは突然足を止め、呟いた。同時に、ロインの後ろを走っていたカイウスとルビアの足も止まる。
「どうした?」
「…いや。行くぞ。」
ロインはそう答え再び走り出した。だが、またすぐに足を止める。目の前に魔物の姿を見つけたからだ。しかし、魔物はロインらに目を向けても襲ってこない。それどころか、背を向けて奥へと消えていってしまった。
(なんだ、今の…)
ロインは何故かその魔物の行動が気にかかった。別に人間を見かけても襲い掛かってこないことだってある。不思議な光景ではないはず…だった。
「! なんだ、あれ!?」
そう叫んだのはカイウス。彼が見たのは一箇所に群がっていく何十体もの、それも様々な魔物だった。同種の魔物が群れをなして行動することはあるだろう。だが、ここまでバラバラの魔物が同時に動くなどそうそうないはず。カイウス達の背後からも数体がその群れに加わっていく。カイウスらに目もくれず、だ。さすがにこの光景は異様だった。
「…まさか、チャークがまた騒いで呼び集めちゃったんじゃ。」
「それならオレ達にも反応するはずだ。…けど、呼び集められてるって言うのはありえそうだ。そうでもなきゃ異常だぜ、これは。」
「おい、行くぞ!」
そう言ってロインは魔物達の後を追った。カイウスとルビアもすぐ後に続いた。
「なんだ?こいつらは。」
目の前の男の低い声が尋ねる。答えたのは後ろの男の一人だった。
「この地下をうろついてたから連れてきた。女のガキ2人は武器持ち。あとは手ぶらだ。」
そう言ってティマの杖を目の前に放り投げる。ティマがあっ、と叫んで掴もうとするよりも速く、男が杖を掴んだ。男は値踏みするようにティマの杖をじっと眺め、槍のようにになっている杖の先端を指でなぞった。その様子にティマの目つきがきつくなる。
「それを返しな!」
ラミーは立ち上がり、銃を構えて言った。だが、男はその様子を見てもピクリともしない。ラミーが引き金を引こうとしたその時、
「うわぁああ!!」
「武器を捨てな。全部だよ。でないと、こいつがひどい目にあうよ。」
チャークの悲鳴。振り返れば、涙目になっているチャークに女が刀を突きつけている。マリーとティマがそれを見て彼の名を悲鳴のように叫ぶ。ラミーは舌打ちをし、少し躊躇した後、2丁の銃と2本の短剣を地面に投げ、一歩後退した。男達はそれを拾い、座っている男に差し出した。その間も、女はチャークを人質に取っている。
「正しい判断だな。ドレスは冷徹な女だ。言う事聞かないと、そのガキは痛い目にあうぞ。」
男は感情を入れずに、今度はラミーの武器を手に取りながら言った。ラミーは立ち上がったまま、その男を睨んでいる。
(くっ。どうする?どうやって逃げ出す?)
ラミーは思考をめぐらせた。カイウス達が気付いてくれれば…。だがその可能性は低い。ここまで辿りつけるかどうか。それに、来たところで人質がいる。迂闊に手は出せないはずだ。状況は対して変わらない。だとすれば、自分とティマの2人でこの状況を打破するしかない。だがそれにはどうすればいい?ここで思考は振り出しに戻る。ちらっとティマとマリーを見る。マリーは囚われている我が子に釘付けになっている。ティマは、チャークと自分の武器、そして目の前の男達を交互に見ていた。
「…おい。その黒髪のガキが持ってるのはなんだ?」
「! や、やめて!!」
その時、男は何かに気付き、そばにいた別の男がティマの腕を乱暴に掴んだ。ティマは必死に抵抗した。ラミーは掴まれた手に何かが握られているのを見た。男がティマから奪ったのは、虹色に輝く貝殻のペンダントだった。ティマは必死に取り返そうとする。だが男の腕力に敵うはずなく、強く地面に突き飛ばされてしまった。
「ティマ!大丈夫か?」
「くっ…。返して!それは大事なものなの!!」
ラミーが気にかけるも、ティマは奪われたペンダントに意識がいっていた。そのペンダントは男の手に渡り、じっと観察されている。
何か思い出の品なのか?
ラミーはティマのただならぬ表情にそう思い、ペンダントを見つめた。確かに美しい貝殻だが、価値のあるものとは思えない。男も同じように考えているのか、ペンダントを丁寧とは言えない扱い方で見ている。やがて、男はペンダントをティマに投げ返した。ティマはすかさず手にとり、大事そうに胸の前で握りしめている。
「ダン。こいつらはどうするの?」
ドレスが尋ねた。するとダンは、今度はティマ達を観察するように見つめた。ラミーはその目を威嚇するように睨み返す。なんとか急いで逃げなければ。そうは思っても何も案は浮かばない。汗が静かに伝うのを感じた。
「…赤髪のガキは殺せ。あとは奴隷商人にでも売りつける。」
「「「!!」」」
ダンの言葉に、ラミー以外の3人は血の気が引いたようだった。
「? なんで一人だけ殺すんだ?」
他の男が剣を抜きながら聞く。ダンはその男を見て答えた。
「このガキは売れねえよ。気が強すぎる。あとはそう、『見せしめ』だ。」
ダンの言う通り、ラミーは処刑宣言を言い渡されても表情ひとつ崩していなかった。ダンの言葉で彼らのターゲットはラミー一人に絞られた。ドレスはチャークをマリーのもとに突き飛ばし、男達と同時に複数の方向からラミーに切りかかった。
「ラミー!」
ラミーは剣が振り下ろされるその瞬間まで動く素振りを見せなかった。だがティマがその名を叫んだ瞬間、ラミーは空中に飛んでいた。そして一回転をし、ダンの目の前に着地する。だが、そのまま立ち止まることはしない。岩壁に立てかけられていたダンの刀が横に払われ、ラミーは慌ててその場にしゃがんでやり過ごした。赤髪が少しハラハラと散ったのを見て、ラミーは舌打ちを打った。
「ちょっと、乙女の髪に何してくれんだよ?」
「ふん。すばしっこい奴だ。」
ダンは構わず刀を振り下ろす。背後からドレスらも切りかかってくる。一見逃れられそうにない状況。ダンらはラミーの死を確信し、ラミーの顔に汗が伝った。剣が振り下ろされる瞬間、ラミーは一か八か右へ飛んだ。そこにいた男はがら空きとなった胴にタックルを受け、呻き声をあげて倒れた。意外にもあっさりと上手くいき、ラミーはなるほど、という風に笑って見せた。
「そこまで戦い慣れてはいないってか?ま、商人ばかり狙ってりゃ戦う必要ねぇもんな。」
言いながら、向かってきた別の男の剣をやり過ごす。男はラミーの素早い動きについていけず、その細身の体から繰り出された強烈な回し蹴りを顔面にくらってしまった。力であれば、子供であるラミーが勝てる可能性は低いだろう。だが戦闘経験とスピードならこの大人達に負ける気はしない。甘いことに人質を放してしまった彼らに、ラミーは遠慮などしない。例え武器がなくとも身体1つで戦う事はできる。普段は短剣で繰り出す攻撃の型を両の拳で繰り出す。だがさすがに剣を素手で受け止めるわけにはいかず、剣で防御に出られると、なんとかそれをかわさなければいけない。そうは言ってもたやすくできる技ではない。ラミーはそうしたカウンターに何度かやられ、自身の血を流す羽目になった。ティマはその間、マリーとチャークの前に立ち、戦況を見ていた。そして奪われた二人の武器へ視線を向ける。武器は、あのドレスという女の近くに置かれている。なんとか取り戻せればティマも戦える。ティマは意を決して飛び込んだ。だがそれに気付いたドレスは刀をティマ目掛けて一閃させた。ティマは慌てて飛び退くが、ドレスの攻撃はかすかにティマの腹を切り裂いた。大した傷ではないが、ティマにとっては痛手だった。おかげでドレスに目をつけられてしまった。下手に動けば武器どころではない。ティマに向けられる冷たい殺気。おそらくドレスは戦い慣れている人間だ。その様子にラミーも気がつく。だが、ラミーの打撃では一瞬相手の動きを止める程度の攻撃にしかならない。モンクのように、素手で相手を叩きのめすほどの威力は持っていないのだ。おかげで男達から攻撃の雨を受け続けている。ティマ達を助けに向かう余裕などない。
(ロイン…!)
ティマはペンダントを強く握りしめた。
「…ティマ?」
ロインは突然足を止め、呟いた。同時に、ロインの後ろを走っていたカイウスとルビアの足も止まる。
「どうした?」
「…いや。行くぞ。」
ロインはそう答え再び走り出した。だが、またすぐに足を止める。目の前に魔物の姿を見つけたからだ。しかし、魔物はロインらに目を向けても襲ってこない。それどころか、背を向けて奥へと消えていってしまった。
(なんだ、今の…)
ロインは何故かその魔物の行動が気にかかった。別に人間を見かけても襲い掛かってこないことだってある。不思議な光景ではないはず…だった。
「! なんだ、あれ!?」
そう叫んだのはカイウス。彼が見たのは一箇所に群がっていく何十体もの、それも様々な魔物だった。同種の魔物が群れをなして行動することはあるだろう。だが、ここまでバラバラの魔物が同時に動くなどそうそうないはず。カイウス達の背後からも数体がその群れに加わっていく。カイウスらに目もくれず、だ。さすがにこの光景は異様だった。
「…まさか、チャークがまた騒いで呼び集めちゃったんじゃ。」
「それならオレ達にも反応するはずだ。…けど、呼び集められてるって言うのはありえそうだ。そうでもなきゃ異常だぜ、これは。」
「おい、行くぞ!」
そう言ってロインは魔物達の後を追った。カイウスとルビアもすぐ後に続いた。