第7章 トガビト V
とりあえずスディアナ事件に関わっていたレイモーンの民を探すことにした一行。近くにいる里の人々に声をかけていくが、なかなかいい答えは返ってこない。それどころか何も言わずして去っていく人もいた。ロイン達がそういった人々の行動を不思議に思っていると、ラミーが気にするな、と声をかけた。
「前に言っただろう?ここの連中は一度裏切られてる。簡単に言や、ロインみたいな奴が多いんだよ。自分の事は話したがらないし、誰を信じていいのかわからずに困ってるのが多いんだ。実際、あたいもここの大半の事情は知らないしね。同じ傷を持つ奴だから心を許せるって奴もいるしな。」
「? ロインがそういう奴だって話したことあったか?」
「いや。けど戦い方でわかる。ロインは自分に害為す相手と思ったら容赦しねぇし、最初に剣向けてきたルビアは、あたいを抹殺しないと気がすまないくらいの勢いだったしね。それだけでも、どういう生き方してきたか想像つくよ。」
ラミーは笑っていたが、出会った頃の話を出され、ルビアは少し顔を赤くした。カイウスはそれを気にせず、ラミーの言葉に関心を持ち、興味深そうに聞き入っていた。ティマも面白そうに耳を傾けていたが、また別の住人を見かけると声をかけに行った。
「…若いレイモーンの民の男?“レイモーンの民”って?」
「あれ、“リカンツ”って奴の正式な呼び方じゃなかったか?」
「あー、アレウーラから来た奴か!確か、一番若いのはベディーだったよな?べディー・モルレイ。」
「次に若いのはナブ・ルックバーンだな。あいつは確か32だったか?」
ティマが声をかけた二人の男は、そう会話しながら答えてくれた。その内容にティマの表情が明るくなる。
「そのべディーとナブってのは今どこにいる?」
いつの間にかロインがティマの横に並び、その男達に質問した。すると、そのうちの片方が快く答えてくれた。
「ベディーは今の里長だから、里長の家に行けば居ると思うぞ。ナブはニックのところだな。2日前から寝込んでる。」
「ベディーか、今の里長は!」
それを聞いたラミーが声をあげた。ロインやティマはそれに驚き、彼女の方を振り返った。
「ラミー、知り合い?」
「そりゃ、ここはあたいの故郷だから皆顔見知りだよ。ベディーは確かに若いけど、まだ26だったはずだ。逆算したら、スディアナ事件の時は11歳だぜ?いくらレイモーンの民でも、そりゃナイだろ。」
確かに常識で考えればその通りである。カイウスとルビアもその意見に賛成し、そのナブという男に会うことを2人に薦めた。ロインとティマは頷き、その2人の男に礼を述べると、ラミーにニックの元までの案内を頼んだ。
「あ〜ダメだよ。病気がうつったら面倒だからな。」
ニックにナブとの面会を求めるとそう断られた。白衣に身を包んだその男に、4人は昨晩の印象からかやや不審な目を向けていた。ラミーはそれに気付くことなく、話だけでもできないかと聞くが、ニックは左手を大きく横に振った。
「ダメダメ。高熱でうなされてるから、それどころじゃないよ。今、里長がドラゴンの鱗採りに行ってるから、帰ってくるまで待つんだね。」
「ベディーか…。出かけてからどれくらい経つ?」
「昨日の昼間からだな。」
のん気に頭を掻きながら答えるニック。対して5人は衝撃を受け、目と口を大きく開けた。
「いくらなんでも遅いだろ!あたい、様子を見に行ってくる!!」
ラミーが真っ先にそう言って飛び出し、4人は慌ててその後を追った。そんな彼らの背を見ながら、ニックはひとつ欠伸した。
「ん〜…もしかしたら食われてるかもな?あの若造。」
ニックはボソッとそう呟き、診療所の中へと戻っていった。
火山は『アルミネの里』からそう遠くなかった。現在噴火活動はしていないそうだが、中には火属性の魔物がうじゃうじゃといた。ルビアやティマが水属性のプリセプツを放ち、弱ったところを前衛陣が剣や銃で仕留めるという戦法を主にして魔物を倒しながら、例のドラゴンがいるという最深部まで進んでいく。奥に進むにつれ、あたりの暑さは増していく。その事によって特に体力を消耗していったのはルビアだった。マウディーラ全体が温暖な地域のためなのか、ロインやティマ、ラミーは薄着姿であり、カイウスはマフラーをしてはいるが、全体からすると厚着という服装ではない。ルビアは花を模したふんわりとしたスカートに、長袖の上に白の上着という格好である。これで彼らより暑くないわけがなかった。そして暑さに耐えられないようで、時間が経つにつれ段々機嫌が悪くなっていく。それを魔物相手にぶつけるならまだマシで、カイウスがそばにいるといつにもましてケンカ腰になるのだった。
「お前な、暑いのは皆同じなんだから少し我慢しろよ。」
「そんな事言ったって暑いもんは暑いのよ!カイウスのバカー!」
「なんでオレなんだよ!?」
「バカップルうるせぇぞ!斬られてぇか!?」
「ロインまで熱くならないでよ〜!」
「ちょっと!騒いでたら日が暮れるよ?」
2人のケンカでイライラを増したロインが抜刀しかけ、ティマが慌てて取り押さえる始末。ラミーが騒ぎの原因となっているルビアとカイウスの間に割って入り、なんとか落ち着かせようとする。その額には暑さによるもの以外で出た汗もにじんでいた。とりあえず、またケンカで足止めを食わないようカイウスを先に行かせ、ルビアと距離をつくる。替わりにラミーがその横につき、ルビアが暑さでバテないよう注意を払いながら一緒に歩いた。すると、それからは、ルビアは多少イラつきを見せてもカイウスにあたることはなくなった。ラミーのフォローのおかげで、冷静さを保つことができているらしい。ロイン達はルビアがラミーの手におえなくなる前に、と急いで先を進んでいく。
「ねぇ、例のドラゴンってどんなやつ?」
最深部の少し手前まで来た時、ふとティマが尋ねた。途端にラミーの顔は引きつり、嫌な笑みを浮かべた。
「結論から言うと、凶暴な人食い竜って言われてる。ウチの先代も戦ったことあるらしいんだけど、そん時は立つのも精一杯ってくらいのケガを負ったらしいよ。…あ。言っとくけど、先代はあの里の中で最強だったからね?」
「え゛!?」
それを聞くティマは、ゾーっという効果音が聞こえてきそうな様子だった。カイウスはその様子に苦笑し、ロインは呆れて溜息をつく。
「ティマ。お前、あんなすごい魔法が使えるんだから平気だろ?何ビビってんだよ。」
「だって、一瞬でガブッて殺られちゃうかもしれないんだよ!?むしろ、なんでロインはそんな冷静なのよ?」
「殺されねぇよ。いざとなったら、腹の中から斬ってやる。」
「だからなんでそんなこと言えるの!?」
「…ティマが動揺しすぎなんだよ。」
もはやティマは涙目になり、可能ならここから去りたいという気持ちが顔に出ていた。ロインは溜息をつきながらティマの頭をよしよしと撫でる。それを見る他の2人は笑い声を押し殺し、ルビアはそれを気にかける余裕はないようで、息を切らしながらひたすら歩きつづけている。だがふいに、
「そのべディーって人、殺られちゃってないわよね?」
と口に出した。すると途端にティマの顔から動揺が消え、かわりに焦りが表れる。人食い竜を恐れて立ち止まっている場合ではない事を理解したらしい。さっきとまでは逆に、ロインの手を引っ張り、先を急ごうと駆け出そうとする。その態度の変わりようにロインはまた溜息をつき、引っ張られながらその後を追った。カイウスとラミーも、ルビアの手を引きながら2人を追って奥へと進んでいった。
「前に言っただろう?ここの連中は一度裏切られてる。簡単に言や、ロインみたいな奴が多いんだよ。自分の事は話したがらないし、誰を信じていいのかわからずに困ってるのが多いんだ。実際、あたいもここの大半の事情は知らないしね。同じ傷を持つ奴だから心を許せるって奴もいるしな。」
「? ロインがそういう奴だって話したことあったか?」
「いや。けど戦い方でわかる。ロインは自分に害為す相手と思ったら容赦しねぇし、最初に剣向けてきたルビアは、あたいを抹殺しないと気がすまないくらいの勢いだったしね。それだけでも、どういう生き方してきたか想像つくよ。」
ラミーは笑っていたが、出会った頃の話を出され、ルビアは少し顔を赤くした。カイウスはそれを気にせず、ラミーの言葉に関心を持ち、興味深そうに聞き入っていた。ティマも面白そうに耳を傾けていたが、また別の住人を見かけると声をかけに行った。
「…若いレイモーンの民の男?“レイモーンの民”って?」
「あれ、“リカンツ”って奴の正式な呼び方じゃなかったか?」
「あー、アレウーラから来た奴か!確か、一番若いのはベディーだったよな?べディー・モルレイ。」
「次に若いのはナブ・ルックバーンだな。あいつは確か32だったか?」
ティマが声をかけた二人の男は、そう会話しながら答えてくれた。その内容にティマの表情が明るくなる。
「そのべディーとナブってのは今どこにいる?」
いつの間にかロインがティマの横に並び、その男達に質問した。すると、そのうちの片方が快く答えてくれた。
「ベディーは今の里長だから、里長の家に行けば居ると思うぞ。ナブはニックのところだな。2日前から寝込んでる。」
「ベディーか、今の里長は!」
それを聞いたラミーが声をあげた。ロインやティマはそれに驚き、彼女の方を振り返った。
「ラミー、知り合い?」
「そりゃ、ここはあたいの故郷だから皆顔見知りだよ。ベディーは確かに若いけど、まだ26だったはずだ。逆算したら、スディアナ事件の時は11歳だぜ?いくらレイモーンの民でも、そりゃナイだろ。」
確かに常識で考えればその通りである。カイウスとルビアもその意見に賛成し、そのナブという男に会うことを2人に薦めた。ロインとティマは頷き、その2人の男に礼を述べると、ラミーにニックの元までの案内を頼んだ。
「あ〜ダメだよ。病気がうつったら面倒だからな。」
ニックにナブとの面会を求めるとそう断られた。白衣に身を包んだその男に、4人は昨晩の印象からかやや不審な目を向けていた。ラミーはそれに気付くことなく、話だけでもできないかと聞くが、ニックは左手を大きく横に振った。
「ダメダメ。高熱でうなされてるから、それどころじゃないよ。今、里長がドラゴンの鱗採りに行ってるから、帰ってくるまで待つんだね。」
「ベディーか…。出かけてからどれくらい経つ?」
「昨日の昼間からだな。」
のん気に頭を掻きながら答えるニック。対して5人は衝撃を受け、目と口を大きく開けた。
「いくらなんでも遅いだろ!あたい、様子を見に行ってくる!!」
ラミーが真っ先にそう言って飛び出し、4人は慌ててその後を追った。そんな彼らの背を見ながら、ニックはひとつ欠伸した。
「ん〜…もしかしたら食われてるかもな?あの若造。」
ニックはボソッとそう呟き、診療所の中へと戻っていった。
火山は『アルミネの里』からそう遠くなかった。現在噴火活動はしていないそうだが、中には火属性の魔物がうじゃうじゃといた。ルビアやティマが水属性のプリセプツを放ち、弱ったところを前衛陣が剣や銃で仕留めるという戦法を主にして魔物を倒しながら、例のドラゴンがいるという最深部まで進んでいく。奥に進むにつれ、あたりの暑さは増していく。その事によって特に体力を消耗していったのはルビアだった。マウディーラ全体が温暖な地域のためなのか、ロインやティマ、ラミーは薄着姿であり、カイウスはマフラーをしてはいるが、全体からすると厚着という服装ではない。ルビアは花を模したふんわりとしたスカートに、長袖の上に白の上着という格好である。これで彼らより暑くないわけがなかった。そして暑さに耐えられないようで、時間が経つにつれ段々機嫌が悪くなっていく。それを魔物相手にぶつけるならまだマシで、カイウスがそばにいるといつにもましてケンカ腰になるのだった。
「お前な、暑いのは皆同じなんだから少し我慢しろよ。」
「そんな事言ったって暑いもんは暑いのよ!カイウスのバカー!」
「なんでオレなんだよ!?」
「バカップルうるせぇぞ!斬られてぇか!?」
「ロインまで熱くならないでよ〜!」
「ちょっと!騒いでたら日が暮れるよ?」
2人のケンカでイライラを増したロインが抜刀しかけ、ティマが慌てて取り押さえる始末。ラミーが騒ぎの原因となっているルビアとカイウスの間に割って入り、なんとか落ち着かせようとする。その額には暑さによるもの以外で出た汗もにじんでいた。とりあえず、またケンカで足止めを食わないようカイウスを先に行かせ、ルビアと距離をつくる。替わりにラミーがその横につき、ルビアが暑さでバテないよう注意を払いながら一緒に歩いた。すると、それからは、ルビアは多少イラつきを見せてもカイウスにあたることはなくなった。ラミーのフォローのおかげで、冷静さを保つことができているらしい。ロイン達はルビアがラミーの手におえなくなる前に、と急いで先を進んでいく。
「ねぇ、例のドラゴンってどんなやつ?」
最深部の少し手前まで来た時、ふとティマが尋ねた。途端にラミーの顔は引きつり、嫌な笑みを浮かべた。
「結論から言うと、凶暴な人食い竜って言われてる。ウチの先代も戦ったことあるらしいんだけど、そん時は立つのも精一杯ってくらいのケガを負ったらしいよ。…あ。言っとくけど、先代はあの里の中で最強だったからね?」
「え゛!?」
それを聞くティマは、ゾーっという効果音が聞こえてきそうな様子だった。カイウスはその様子に苦笑し、ロインは呆れて溜息をつく。
「ティマ。お前、あんなすごい魔法が使えるんだから平気だろ?何ビビってんだよ。」
「だって、一瞬でガブッて殺られちゃうかもしれないんだよ!?むしろ、なんでロインはそんな冷静なのよ?」
「殺されねぇよ。いざとなったら、腹の中から斬ってやる。」
「だからなんでそんなこと言えるの!?」
「…ティマが動揺しすぎなんだよ。」
もはやティマは涙目になり、可能ならここから去りたいという気持ちが顔に出ていた。ロインは溜息をつきながらティマの頭をよしよしと撫でる。それを見る他の2人は笑い声を押し殺し、ルビアはそれを気にかける余裕はないようで、息を切らしながらひたすら歩きつづけている。だがふいに、
「そのべディーって人、殺られちゃってないわよね?」
と口に出した。すると途端にティマの顔から動揺が消え、かわりに焦りが表れる。人食い竜を恐れて立ち止まっている場合ではない事を理解したらしい。さっきとまでは逆に、ロインの手を引っ張り、先を急ごうと駆け出そうとする。その態度の変わりようにロインはまた溜息をつき、引っ張られながらその後を追った。カイウスとラミーも、ルビアの手を引きながら2人を追って奥へと進んでいった。