第7章 トガビト W
辿り付いた火山の最深部。中央遥か下にはマグマの泉があり、沸騰したお湯のようにグツグツと音を立てている。また、遥か頭上には火口があり、そこへむかって黒煙が立ち上っている。そんな場所に例のドラゴンはいるという。5人は細心の注意を払って歩みを進める。辺りは静まり返り、ドラゴンも身を潜めているのか姿は見えない。
「まさか、本当に食べられちゃったとか…」
嫌な想像だけが浮かぶ。少なくとも、火山の入り口からここまでの道はひとつしかない。行き違いになったとは考え難い。絶望を押し込め、5人は里長の姿を求めて周囲を探し回った。そして
「皆、こっちに誰かいるわ!」
ルビアの声が聞こえた。急いで駆けつけると、そこには切り立った岩の間に眠るように倒れていた男がいた。銀色の長髪に黄色で縁取られた茶色のベストを着ている。そのどちらも一部分が赤く染まっていた。それを見た途端、ルビアは目の色を変えて治癒術を施す。
「べディー!大丈夫か?しっかりしろ!」
ラミーが男の体を大きく揺さぶる。どうやら彼が探し人のようだ。傷は治癒術によってふさがれたが、意識はまだ回復しない。もしかすると、岩か壁に強く体を打ちつけたのかもしれない。
「ひとまず里へ戻ろう。おい、ロイン、手伝ってくれ。」
カイウスはベディーの腕を自分の肩へとまわす。ロインも黙ってその反対側へ回った。暑さと疲労の中をカイウス一人で彼を運ぶのは難しそうだし、だからと言って女性に手伝わせるわけにはいかないからだ。そしてカイウスの合図でベディーを支えて立ち上がった、まさにその時だった。
「キャッ!?」
「な…何だ!?」
突然足元が揺れだし、マグマの中央が大きく盛り上がりを見せた。そしてそれは巨大な火柱へと姿を変え、中から黒い巨大な影が姿を現した。全身は黒く、背に巨大な翼を持つ巨大なドラゴン。火柱が消え、その姿が一行の前にはっきりと現れた時、鋭い歯を覗かせる口から咆哮が響き渡った。それは音の衝撃波となって火山内部を揺らし、ロイン達はたじろぎ、その姿に恐怖したティマは腰を抜かしてその場にペタリと座り込んでしまった。
「…ヤバイな、これは。」
ドラゴンはこちらをじっと見つめている。苦笑するロインはそっとベディーから離れ、右手を剣の柄へ回した。カイウスも同様に、ベディーを戦闘に巻き込まないように岩陰に隠して剣を抜いた。ラミーは舌打ちをし、ルビアは黙って、各々武器を構える。ティマも恐怖を堪え、足を震わせながらも、長杖を支えにしてゆっくり立ち上がる。お互い戦闘態勢が整うと、ラミーが銃口をドラゴンに向け先手を取った。
「食らえ!セッシブバレット!!」
弾丸はドラゴンの体に向かって直進する。しかし、硬い鱗に阻まれ大きなダメージにはならない。ドラゴンが翼を大きくはばたかせ、5人に向かって急降下してくる。それを散り散りにかわし、ドラゴンが地面に激突した瞬間に2人の剣士が間合いを一気に詰める。
「秋沙雨!!」
「魔神連牙斬!!」
鱗に覆われた部分を避け、突きと斬撃の雨を食らわせる。すると、今度は苦痛の悲鳴をあげ、口から黒い煙を吐き出した。
「! 2人とも、それを吸っちゃダメ!!」
ルビアの声が聞こえ、慌てて口を抑えて煙から離れる。その隙にドラゴンは空中へと舞い上がっていく。その風圧で煙は拡散し、辺り一帯を包む黒い霧と化した後、数秒後に見えなくなった。恐る恐る呼吸しながら2人はドラゴンへ視線を戻す。空中を旋回し、ティマが放ったアイスニードルを華麗に避けていた。
「ルビア!今のは…?」
カイウスが離れた位置にいるルビアに大声で尋ねる。ルビアは詠唱の準備をしながらカイウス達へ目を向ける。
「今のブレス、多分毒性を含んでるわ。リカバーで回復できるかもしれないけど、できるだけ吸い込まないで。」
それを聞いた他の2人も頷く。だがすぐに毒性がなくなったところをみると、おそらく毒としての効果が持続する時間は長くない。あのブレスを吐き出されたら、しばし呼吸を我慢する方が良さそうだ。気を引き締めて武器を構えなおす。そうしていると、ドラゴンの顔がこちらを向き、今度は口から炎が吐き出される。悲鳴をあげながらそれをかわし、お互いの無事を確認しあう。プリセプツや銃撃はかわされるか鱗が盾となるために効果が薄い。剣で攻めたいが、ドラゴンは空中から降りようとする気配を見せない。遠距離からの炎や毒のブレスを吐く攻撃でロイン達を苦しめ続けている。そんな状態がしばらく続く。当然逃げ回るロイン達には疲れがたまり、次第に回避速度も遅くなっていく。
「ルビア!魔法でこっちに誘き出せないか!?」
また吐き出された炎をかわし、偶然背を寄せ合う形になったルビアにラミーが問うた。しかし
「落ち着いて魔法を放てないのよ!動きが止まってくれればいいんだけど…」
そう答えが返ってくる間に今度は毒のブレスが吐き出され、直後にルビア達目掛けてドラゴンの鋭い牙と爪が襲い掛かる。ラミーが反射的にルビアを突き飛ばし、自身も反動で後退し直撃を避けた。その時。
「セッシブバレット!!」
攻撃を回避しながら鱗で覆われていない腹の部分目掛けて射撃する。見事的中し、ドラゴンは再び苦痛に満ちた声をあげ動きを止める。しかし、その時まだ毒のブレスの効果は持続していた。ラミーはそれを吸い込み、顔色が青くなり始めていた。ルビアが慌てて回復魔法をかけようとした。
「バカ!チャンスを作ってやったんだ!無駄にすんなっ!!」
途端にラミーの怒声が響いた。胸を抑え苦しそうにしている。だがルビアは、拳を強く握り締め彼女から目を逸らした。見れば、まだドラゴンは動きを止めている。すぅっと息を吸い込み、一気に詠唱を完了させる。
「スプレッド!!」
噴水の如く噴き出した大量の水がドラゴンに直撃する。それを嫌がり、ドラゴンは横へそれようとする。だが
「逃がさないわよ!ネガティブゲイト!!」
続けてティマの詠唱が完了し、亜空間がドラゴンの行く手を阻む。唯一の突破口は地面へ向かう道だけ。そこにはロインとカイウスが待ち構えている。ドラゴンもただではやられまいと炎を吐きだすが、先程のダメージが大きかったのか、狙いは2人から外れていた。その好機を2人は逃さなかった。
「決めるぜ!!天翔連牙撃!!」
「くたばれ!!裂空斬!!」
地面へと下りてきたドラゴンへ容赦なく奥義を食らわすカイウス。そしてドラゴンの顔へ、ロインがとどめの一撃をお見舞する。ドラゴンはこれまで以上の悲鳴をあげ、マグマの中へ落ちていった。大きな火柱をあがり、それが静まると、最初にこの場に足を踏み入れた時と同じ静けさが訪れた。しかし先程と違い、ドラゴンの攻撃を回避し続け、疲労がたまったロイン達の荒い呼吸音が聞こえてくる。ラミーはやっとルビアからリカバーをかけてもらい、体から毒が抜けたところだった。
「…あのドラゴン、死んだの?」
恐る恐る下を見ながらティマが口に出す。ラミーは首を横に振った。
「致命傷は与えられなかったと思う。それに、きっとマグマの中で傷を癒してるはずさ。」
「長居は無用ってことか。なら、今の内に引きあげようぜ。」
皆がカイウスの言葉に頷いた。男子2人は再びベディーの傍に行き、連れ出す準備を始める。ルビアは緊張の糸が切れたのか、地面に座って休んでいた。ティマは毒から回復したばかりのラミーの横に立ち、様子を窺っている。その時だった。
「グォオオオオオオオッッ!!!!!」
あのドラゴンの咆哮と共にマグマが破裂する。そして再び姿を現したドラゴンはあたり構わず炎を吐き出した。そしてその炎は、座っていたために素早い回避ができない状態のルビアを襲った。
「まさか、本当に食べられちゃったとか…」
嫌な想像だけが浮かぶ。少なくとも、火山の入り口からここまでの道はひとつしかない。行き違いになったとは考え難い。絶望を押し込め、5人は里長の姿を求めて周囲を探し回った。そして
「皆、こっちに誰かいるわ!」
ルビアの声が聞こえた。急いで駆けつけると、そこには切り立った岩の間に眠るように倒れていた男がいた。銀色の長髪に黄色で縁取られた茶色のベストを着ている。そのどちらも一部分が赤く染まっていた。それを見た途端、ルビアは目の色を変えて治癒術を施す。
「べディー!大丈夫か?しっかりしろ!」
ラミーが男の体を大きく揺さぶる。どうやら彼が探し人のようだ。傷は治癒術によってふさがれたが、意識はまだ回復しない。もしかすると、岩か壁に強く体を打ちつけたのかもしれない。
「ひとまず里へ戻ろう。おい、ロイン、手伝ってくれ。」
カイウスはベディーの腕を自分の肩へとまわす。ロインも黙ってその反対側へ回った。暑さと疲労の中をカイウス一人で彼を運ぶのは難しそうだし、だからと言って女性に手伝わせるわけにはいかないからだ。そしてカイウスの合図でベディーを支えて立ち上がった、まさにその時だった。
「キャッ!?」
「な…何だ!?」
突然足元が揺れだし、マグマの中央が大きく盛り上がりを見せた。そしてそれは巨大な火柱へと姿を変え、中から黒い巨大な影が姿を現した。全身は黒く、背に巨大な翼を持つ巨大なドラゴン。火柱が消え、その姿が一行の前にはっきりと現れた時、鋭い歯を覗かせる口から咆哮が響き渡った。それは音の衝撃波となって火山内部を揺らし、ロイン達はたじろぎ、その姿に恐怖したティマは腰を抜かしてその場にペタリと座り込んでしまった。
「…ヤバイな、これは。」
ドラゴンはこちらをじっと見つめている。苦笑するロインはそっとベディーから離れ、右手を剣の柄へ回した。カイウスも同様に、ベディーを戦闘に巻き込まないように岩陰に隠して剣を抜いた。ラミーは舌打ちをし、ルビアは黙って、各々武器を構える。ティマも恐怖を堪え、足を震わせながらも、長杖を支えにしてゆっくり立ち上がる。お互い戦闘態勢が整うと、ラミーが銃口をドラゴンに向け先手を取った。
「食らえ!セッシブバレット!!」
弾丸はドラゴンの体に向かって直進する。しかし、硬い鱗に阻まれ大きなダメージにはならない。ドラゴンが翼を大きくはばたかせ、5人に向かって急降下してくる。それを散り散りにかわし、ドラゴンが地面に激突した瞬間に2人の剣士が間合いを一気に詰める。
「秋沙雨!!」
「魔神連牙斬!!」
鱗に覆われた部分を避け、突きと斬撃の雨を食らわせる。すると、今度は苦痛の悲鳴をあげ、口から黒い煙を吐き出した。
「! 2人とも、それを吸っちゃダメ!!」
ルビアの声が聞こえ、慌てて口を抑えて煙から離れる。その隙にドラゴンは空中へと舞い上がっていく。その風圧で煙は拡散し、辺り一帯を包む黒い霧と化した後、数秒後に見えなくなった。恐る恐る呼吸しながら2人はドラゴンへ視線を戻す。空中を旋回し、ティマが放ったアイスニードルを華麗に避けていた。
「ルビア!今のは…?」
カイウスが離れた位置にいるルビアに大声で尋ねる。ルビアは詠唱の準備をしながらカイウス達へ目を向ける。
「今のブレス、多分毒性を含んでるわ。リカバーで回復できるかもしれないけど、できるだけ吸い込まないで。」
それを聞いた他の2人も頷く。だがすぐに毒性がなくなったところをみると、おそらく毒としての効果が持続する時間は長くない。あのブレスを吐き出されたら、しばし呼吸を我慢する方が良さそうだ。気を引き締めて武器を構えなおす。そうしていると、ドラゴンの顔がこちらを向き、今度は口から炎が吐き出される。悲鳴をあげながらそれをかわし、お互いの無事を確認しあう。プリセプツや銃撃はかわされるか鱗が盾となるために効果が薄い。剣で攻めたいが、ドラゴンは空中から降りようとする気配を見せない。遠距離からの炎や毒のブレスを吐く攻撃でロイン達を苦しめ続けている。そんな状態がしばらく続く。当然逃げ回るロイン達には疲れがたまり、次第に回避速度も遅くなっていく。
「ルビア!魔法でこっちに誘き出せないか!?」
また吐き出された炎をかわし、偶然背を寄せ合う形になったルビアにラミーが問うた。しかし
「落ち着いて魔法を放てないのよ!動きが止まってくれればいいんだけど…」
そう答えが返ってくる間に今度は毒のブレスが吐き出され、直後にルビア達目掛けてドラゴンの鋭い牙と爪が襲い掛かる。ラミーが反射的にルビアを突き飛ばし、自身も反動で後退し直撃を避けた。その時。
「セッシブバレット!!」
攻撃を回避しながら鱗で覆われていない腹の部分目掛けて射撃する。見事的中し、ドラゴンは再び苦痛に満ちた声をあげ動きを止める。しかし、その時まだ毒のブレスの効果は持続していた。ラミーはそれを吸い込み、顔色が青くなり始めていた。ルビアが慌てて回復魔法をかけようとした。
「バカ!チャンスを作ってやったんだ!無駄にすんなっ!!」
途端にラミーの怒声が響いた。胸を抑え苦しそうにしている。だがルビアは、拳を強く握り締め彼女から目を逸らした。見れば、まだドラゴンは動きを止めている。すぅっと息を吸い込み、一気に詠唱を完了させる。
「スプレッド!!」
噴水の如く噴き出した大量の水がドラゴンに直撃する。それを嫌がり、ドラゴンは横へそれようとする。だが
「逃がさないわよ!ネガティブゲイト!!」
続けてティマの詠唱が完了し、亜空間がドラゴンの行く手を阻む。唯一の突破口は地面へ向かう道だけ。そこにはロインとカイウスが待ち構えている。ドラゴンもただではやられまいと炎を吐きだすが、先程のダメージが大きかったのか、狙いは2人から外れていた。その好機を2人は逃さなかった。
「決めるぜ!!天翔連牙撃!!」
「くたばれ!!裂空斬!!」
地面へと下りてきたドラゴンへ容赦なく奥義を食らわすカイウス。そしてドラゴンの顔へ、ロインがとどめの一撃をお見舞する。ドラゴンはこれまで以上の悲鳴をあげ、マグマの中へ落ちていった。大きな火柱をあがり、それが静まると、最初にこの場に足を踏み入れた時と同じ静けさが訪れた。しかし先程と違い、ドラゴンの攻撃を回避し続け、疲労がたまったロイン達の荒い呼吸音が聞こえてくる。ラミーはやっとルビアからリカバーをかけてもらい、体から毒が抜けたところだった。
「…あのドラゴン、死んだの?」
恐る恐る下を見ながらティマが口に出す。ラミーは首を横に振った。
「致命傷は与えられなかったと思う。それに、きっとマグマの中で傷を癒してるはずさ。」
「長居は無用ってことか。なら、今の内に引きあげようぜ。」
皆がカイウスの言葉に頷いた。男子2人は再びベディーの傍に行き、連れ出す準備を始める。ルビアは緊張の糸が切れたのか、地面に座って休んでいた。ティマは毒から回復したばかりのラミーの横に立ち、様子を窺っている。その時だった。
「グォオオオオオオオッッ!!!!!」
あのドラゴンの咆哮と共にマグマが破裂する。そして再び姿を現したドラゴンはあたり構わず炎を吐き出した。そしてその炎は、座っていたために素早い回避ができない状態のルビアを襲った。