第7章 トガビト X
「「「ルビアッ!!?」」」
紅蓮の炎に見えなくなった少女の姿。ティマ、カイウス、ラミーが絶叫した。脳裏に浮かぶのは骨まで焼き尽され、跡形もなくなってしまった少女の末路。だが炎がやんだ時、彼らが目にしたのは違った未来だった。焦げた地面の向こう側に、伏すように倒れていた2つの影。それは炭とならず、今までどおりの姿でそこにあった。
「…っ、大丈夫か?」
ルビアの上にのっかった形で安否を確認するロイン。あの瞬間、ロインが咄嗟にルビアを突き飛ばし、炎から助けていたのだ。
助かった
その思いでルビアと他の3人はほっと胸をなでおろした。その直後、再び咆哮が響き渡った。全員がその主へと目を向けると、ドラゴンは空中で突然動きを止め、そしてまたマグマの中に沈んでいった。今度は、もうあがってくることはなかった。
「ルビア、大丈夫?」
「ティマ。ええ、平気よ。」
ティマの手をとり、ルビアは立ち上がった。そしてロインの方を見る。
「ありがとう、ロイン。助かったわ。」
笑顔で礼を述べた。だがロインは相変わらずそっぽを向き、何事も無かったかのように振舞う。そんな彼をカイウスが腕をまわして頭をクシャクシャにした。彼なりの感謝を表した行動だったのだが、ロインは嫌がっている。少女達はそれを微笑みながら眺め、止めようとはしなかった。
「や…止めろ!止せ、おい……カイウス!!」
ロインは思わず叫んだ。すると、ぴたっと動きが止まり、4人の視線がロインに注がれた。
「な、なんだよ…?」
「…ロイン、今…『カイウス』って…」
そう指摘されて、ロインはその時初めて自分が何を言ったのか気がついたようだった。そして再び黙り込むと、カイウスの頭クシャクシャ攻撃が再開された。
「〜〜っ!やめろって!!何だよ一体!?」
ロインはさすがに頭にきたのか、カイウスの腹に肘鉄砲を食らわせるという反撃に出た。それはちょうど急所に入ったらしく、カイウスは苦しそうに膝をつき、しかしそれでも笑顔で口を開いた。
「へへ…だって、やっと名前で呼んでくれたんだぜ?嬉しいに決まってるだろ。」
「そ、それは…」
「そう言えば、さっきあたしを助けた後にも、『ルビア』って呼んでくれてたわよね?」
「!」
聞こえてたのか、とでも言うような顔をし、ロインは更に動揺する。そんな彼の顔を、ティマが微笑みながら覗き込んだ。
「もう、いいんじゃない?2人を名前で呼んであげても。」
「ティマ…。」
ティマの優しく諭すような声に、ロインの心は揺らいだ。
信じることを恐れた。心を開かぬよう、近づけぬよう、冷えた面を被り続けてきた。名前を呼ぶということは、相手を認めること。あの日以来、家族以外でそれを許したのは目の前の少女とその養母だけだった。カイウス達は同じ痛みを知っているから、対等に見ることを許していた。それ以上に心を開くことに、まだ恐怖があった。だが、その恐怖以上の感情が現れ始めていたのも事実。彼らと出会ったことで、再びそれを受け入れたいと思い始めたのも事実。ただそれらの事実を、自分の本当の気持ちを受け入れなければならない時が来ただけなのかもしれない…。
「ったく、うるせぇよ。…『カイウス』、『ルビア』、帰りはケンカするなよ?」
ロインは仕方ない、というように僅かに微笑んで見せ、少しだけ荒っぽく仲間を呼んでみた。
「…うっ…うう……」
「! べディー、気がついたか?」
火山から脱出した直後、ベディーの意識が戻った。ロインとカイウスがそっと離れると、彼は少しボーっとしながらもきちんと立ってみせた。
「僕は一体…おや?ラミーか?なんでこんなところに…」
「『なんで』って、あんたを迎えに来たんだよ、べディー。そしたら、火山の奥で倒れてたから驚いたぜ。」
ラミーの言葉を聞き、ベディーは自分の身に何が起きたか思い出したようだ。
「そっか。ドラゴンの鱗を採りに行って、それで気絶したのか。」
言いながら、右手に握られている数枚の鱗を見つめた。それを見た5人は目を見開く。
「べディー!あんた、それ、どうやって…!?」
5人がかりで撃退するのに精一杯だっただけに、彼が1人で鱗を持ち帰ったことは驚愕だった。そしてそれだけに、この直後に返ってきた言葉には全員が呆然とした。
「いや、あの場についたら、ドラゴンの奴イビキかいて寝てたんだ。だからその隙に鱗を採って…で、目覚めた時に吹っ飛ばされて、そのまま気絶したみたいだ。」
((((何だそれっ!!?))))
「そういや、君たちは誰だい?見たことないけど…。」
ベディーはロイン達4人の顔をじっと見つめた。その淡紫の瞳に見つめられた時、ティマはその瞳にどこか懐かしさを感じ、不思議に思った。
「あ、ああ。あたいの客人さ。それより、そんな話は後だよ。ニックに届けるんだろ?ナブのために。」
ラミーが鱗を見ながらそう言うと、ベディーはああ、と頷いた。すでに日は傾き始めている。暗くならないうちに、そう思いながら、6人は『アルミネの里』へ帰還した。
紅蓮の炎に見えなくなった少女の姿。ティマ、カイウス、ラミーが絶叫した。脳裏に浮かぶのは骨まで焼き尽され、跡形もなくなってしまった少女の末路。だが炎がやんだ時、彼らが目にしたのは違った未来だった。焦げた地面の向こう側に、伏すように倒れていた2つの影。それは炭とならず、今までどおりの姿でそこにあった。
「…っ、大丈夫か?」
ルビアの上にのっかった形で安否を確認するロイン。あの瞬間、ロインが咄嗟にルビアを突き飛ばし、炎から助けていたのだ。
助かった
その思いでルビアと他の3人はほっと胸をなでおろした。その直後、再び咆哮が響き渡った。全員がその主へと目を向けると、ドラゴンは空中で突然動きを止め、そしてまたマグマの中に沈んでいった。今度は、もうあがってくることはなかった。
「ルビア、大丈夫?」
「ティマ。ええ、平気よ。」
ティマの手をとり、ルビアは立ち上がった。そしてロインの方を見る。
「ありがとう、ロイン。助かったわ。」
笑顔で礼を述べた。だがロインは相変わらずそっぽを向き、何事も無かったかのように振舞う。そんな彼をカイウスが腕をまわして頭をクシャクシャにした。彼なりの感謝を表した行動だったのだが、ロインは嫌がっている。少女達はそれを微笑みながら眺め、止めようとはしなかった。
「や…止めろ!止せ、おい……カイウス!!」
ロインは思わず叫んだ。すると、ぴたっと動きが止まり、4人の視線がロインに注がれた。
「な、なんだよ…?」
「…ロイン、今…『カイウス』って…」
そう指摘されて、ロインはその時初めて自分が何を言ったのか気がついたようだった。そして再び黙り込むと、カイウスの頭クシャクシャ攻撃が再開された。
「〜〜っ!やめろって!!何だよ一体!?」
ロインはさすがに頭にきたのか、カイウスの腹に肘鉄砲を食らわせるという反撃に出た。それはちょうど急所に入ったらしく、カイウスは苦しそうに膝をつき、しかしそれでも笑顔で口を開いた。
「へへ…だって、やっと名前で呼んでくれたんだぜ?嬉しいに決まってるだろ。」
「そ、それは…」
「そう言えば、さっきあたしを助けた後にも、『ルビア』って呼んでくれてたわよね?」
「!」
聞こえてたのか、とでも言うような顔をし、ロインは更に動揺する。そんな彼の顔を、ティマが微笑みながら覗き込んだ。
「もう、いいんじゃない?2人を名前で呼んであげても。」
「ティマ…。」
ティマの優しく諭すような声に、ロインの心は揺らいだ。
信じることを恐れた。心を開かぬよう、近づけぬよう、冷えた面を被り続けてきた。名前を呼ぶということは、相手を認めること。あの日以来、家族以外でそれを許したのは目の前の少女とその養母だけだった。カイウス達は同じ痛みを知っているから、対等に見ることを許していた。それ以上に心を開くことに、まだ恐怖があった。だが、その恐怖以上の感情が現れ始めていたのも事実。彼らと出会ったことで、再びそれを受け入れたいと思い始めたのも事実。ただそれらの事実を、自分の本当の気持ちを受け入れなければならない時が来ただけなのかもしれない…。
「ったく、うるせぇよ。…『カイウス』、『ルビア』、帰りはケンカするなよ?」
ロインは仕方ない、というように僅かに微笑んで見せ、少しだけ荒っぽく仲間を呼んでみた。
「…うっ…うう……」
「! べディー、気がついたか?」
火山から脱出した直後、ベディーの意識が戻った。ロインとカイウスがそっと離れると、彼は少しボーっとしながらもきちんと立ってみせた。
「僕は一体…おや?ラミーか?なんでこんなところに…」
「『なんで』って、あんたを迎えに来たんだよ、べディー。そしたら、火山の奥で倒れてたから驚いたぜ。」
ラミーの言葉を聞き、ベディーは自分の身に何が起きたか思い出したようだ。
「そっか。ドラゴンの鱗を採りに行って、それで気絶したのか。」
言いながら、右手に握られている数枚の鱗を見つめた。それを見た5人は目を見開く。
「べディー!あんた、それ、どうやって…!?」
5人がかりで撃退するのに精一杯だっただけに、彼が1人で鱗を持ち帰ったことは驚愕だった。そしてそれだけに、この直後に返ってきた言葉には全員が呆然とした。
「いや、あの場についたら、ドラゴンの奴イビキかいて寝てたんだ。だからその隙に鱗を採って…で、目覚めた時に吹っ飛ばされて、そのまま気絶したみたいだ。」
((((何だそれっ!!?))))
「そういや、君たちは誰だい?見たことないけど…。」
ベディーはロイン達4人の顔をじっと見つめた。その淡紫の瞳に見つめられた時、ティマはその瞳にどこか懐かしさを感じ、不思議に思った。
「あ、ああ。あたいの客人さ。それより、そんな話は後だよ。ニックに届けるんだろ?ナブのために。」
ラミーが鱗を見ながらそう言うと、ベディーはああ、と頷いた。すでに日は傾き始めている。暗くならないうちに、そう思いながら、6人は『アルミネの里』へ帰還した。
■作者メッセージ
おまけスキット
【名前を呼んで】
カイウス「なあ、ロイン。」
ロイン「なんだ。」
カイウス「『なんだ』じゃなくてさ、もう一回名前呼んでくれよ。な?」
ロイン「うるさい。誰が呼ぶか。」
カイウス「いいじゃねえか、減るもんじゃないし。」
ロイン「黙れ。溶岩に突き落とすぞ。」
カイウス「なんだよ。冷たいな。」
ルビア「ちょっと2人とも!いつまでも無駄口叩いてないで、さっさと行きましょう!もうこんな暑いとこ、さっさと出たいんだから!」
ロイン「ちっ。だとよ。また文句言われないうちに行くぞ、カイウス。」
カイウス「そうだな。…あ!ロイン、今のもう一回」
ロイン「うるせぇ!」
【いつの日か…】
ラミー「なあ、ロイン。あたいの事も名前で呼んでくれてもいいんだぜ?」
ロイン「誰が呼ぶか。」
ラミー「な!そんな即答しなくたっていいだろ!?おい、ロイン!」
ティマ「もう、ロインったら…。でも、すぐには難しいかもね。」
ラミー「ふん。いいさ。あたいの事も、そのうち名前で呼ばせてやるから!」
ティマ「ふふ。うん、そうなるといいね。」
【名前を呼んで】
カイウス「なあ、ロイン。」
ロイン「なんだ。」
カイウス「『なんだ』じゃなくてさ、もう一回名前呼んでくれよ。な?」
ロイン「うるさい。誰が呼ぶか。」
カイウス「いいじゃねえか、減るもんじゃないし。」
ロイン「黙れ。溶岩に突き落とすぞ。」
カイウス「なんだよ。冷たいな。」
ルビア「ちょっと2人とも!いつまでも無駄口叩いてないで、さっさと行きましょう!もうこんな暑いとこ、さっさと出たいんだから!」
ロイン「ちっ。だとよ。また文句言われないうちに行くぞ、カイウス。」
カイウス「そうだな。…あ!ロイン、今のもう一回」
ロイン「うるせぇ!」
【いつの日か…】
ラミー「なあ、ロイン。あたいの事も名前で呼んでくれてもいいんだぜ?」
ロイン「誰が呼ぶか。」
ラミー「な!そんな即答しなくたっていいだろ!?おい、ロイン!」
ティマ「もう、ロインったら…。でも、すぐには難しいかもね。」
ラミー「ふん。いいさ。あたいの事も、そのうち名前で呼ばせてやるから!」
ティマ「ふふ。うん、そうなるといいね。」