第7章 トガビト ]
真っ暗闇の中を、茂みをかきわけ、木々の間を駆け抜け、ルビアは進んでいく。しかし、いつしか求めいていた影は見えなくなり、道もわからなくなってしまっていた。ルビアは途方にくれ、立ち止まって空を見上げた。見えるのは夜空に輝く無数の星、そして少し欠けた満月に近い月。その月に影となって飛んでいる鳥が見えた。よく見てみると、小鳥やカモメというよりは大型の猛禽に近いシルエットをしている。
(もしかして、トクナガ?)
そう思ったルビアは、その鳥の影を追いかけて行く。すると、次第に吹く風の様子が、聞こえてくる音が変わってきた。浜辺が近くなってきたのだろう。ルビアの足はだんだんゆっくりになっていく。
もしかすると、ギルド内で会議でもあるのかもしれない。
上空のトクナガを見ながら、そう推測する。そうは思っても引き返す気になれず、なんとなくそのまま浜辺へと向かって行く。すると、木々の合間から浜辺と船の影が見えてくる。そして、複数の灯りと奇妙な声まで確認できるようになってきた。思わず近くにあった木に隠れ、様子を窺う。
「…………だよ…!は……し…ぇよ!!」
ラミーの叫び声が聞こえる。距離があるせいで、何を話しているのかはっきりとわからない。しかし、その声には怒りや焦りに近いものが表れていた。可能な限り気配をし、全神経を現場へ向ける。すると、何者かに動きを封じられているラミーが見え、どこかで聞いたことのある低い男声が聞こえてきた。こちらも何を言っているかは聞き取り難い。だが、その姿を目にした途端、ルビアは仰天した。そして、なるべく音を立てないよう注意しながら、急いでその場を離れる。慎重に、周囲を警戒しながら後退し、そして、ある程度離れると、そこから一気に駆け出した。
「皆、起きて!!」
勢いよく扉が開き、ルビアが飛び込んできた。突然夢の世界から帰って来たカイウス達は、その大声に驚くものの、何が起きたのかわからず馬鹿みたいにボーっとしている。欠伸し、目をこすりながらルビアを見ると、彼女は部屋の明かりをつけ、無理矢理にでも3人の目を覚まそうとしている。
「ふぁあ。どうしたの、ルビア?」
突然明るくなり、眩しそうにするティマ。その時、初めてルビアが焦りの表情を浮かべているのが目に入った。
「大変なの!ラミーが捕まって…それに、あの人がこの島にいるの!!」
「…今、なんて言った?」
まだ寝ぼけているカイウスは、半信半疑の目でルビアを見つめた。彼女はしっかりして、とさらに声を大きくする。
「だから、ラミーがあの人に…ルーロで戦ったあの兵士に捕まったのよ!」
その言葉を聞いた途端に、ロインが文字通り飛び起き、ルビアに駆け寄った。
「ルビア、それは本当か!?」
ロインはルビアの肩を痛いほど掴み、物凄い形相で問い詰めた。ルビアは身体をわずかに硬直させながらも、首を振り肯定する。するとロインは舌打ちをし、ルビアを突き飛ばすようにして離すと、自分の剣を取り外へ飛び出していった。カイウスらが呼び止めるも、無駄だった。急いで武器を取り、3人もロインを追って家を飛び出た。
「カイウス!ティマと一緒にロインを追ってちょうだい!」
「お前は何処行くんだよ?」
「ベディーさんにこの事を伝えに行くわ。」
「わかった!」
ルビアは2人から離れ、里長の家へ向かった。その姿が一気に見えなくなると、ティマは驚きの溜息をついた。
「ルビア、すごい。あんなカッコなのに…。」
思わずティマは口にし、カイウスは苦笑してしまった。しかし、あの動き難そうな花のスカートをはいていながら、あれだけ速く走れるのだ。誰でも突っ込まずにはいられないだろう…。
里から浜辺へ続く森の手前。ロインは殺気をまといながら駆け続けていた。
(くっ!なんでアイツがこんなところに…!?)
憎悪の気持ちに支配され、冷静さを欠いていたと思われたロイン。しかし、仇敵の思わぬ登場は腑に落ちていなかった。ただの偶然か、それとも何か目的があって訪れたのか。それを考えていると、目の前から人が近づく物音が聞こえた。足を止め、右手を剣の柄へまわす。
「ロイン!やっと追いついた!」
その時、ようやくティマとカイウスが追いつき、ロインの横に並んだ。
「だ〜か〜ら!一人で勝手に行くなって言ってるだろ…っ!」
カイウスがロインに怒鳴る声が響く。が、それは最後まで言いきらずに途切れた。それは、ロイン同様、何者かが里のすぐそこまで来ていることに気付いたからであった。少し遅れてティマも気配に気がつき、身構える。その直後、青い鎧をまとった集団が彼らの前に姿を現した。そこには、ルビアの言う通り、囚われのラミーの姿もあった。そして、彼女の傍にはガルザが立っている。ロインの目が、いっそうきつくなる。黙ったまま剣を抜き、ガルザへ真っ直ぐ向ける。が、ガルザは鼻で笑い、全く気にしない様子だ。
「ロインか。エルナの森で再会してからは、これでもかというほど見かけるな?」
「ふん。てめえに用はなくても、こっちにはあるんでな!」
そう言いながら地面を蹴る。ガルザと一気に距離を縮め、突きを食らわそうとした。だが、それは彼の部下によって阻まれ、ロインは後ろに突き飛ばされてしまう。受身をとることで態勢を立て直し、歯をギリッと鳴らす。
「ガルザ!あなたの目的は何!?ラミーを離して!!」
ティマはそう言い、ガルザを睨みつける。杖先からはかすかに光が放たれている。今の瞬間に詠唱を完了させ、いつでも放てるようにしていたのだ。そのことは大して気にとめていないようだったが、ガルザはティマを一瞥すると、ふっと微笑を浮かべながら答えた。
「目的…そうだな。具体的にあげるのであれば……君だよ。」
「え!?」「「!!」」
「や、やめろぉーーーっ!!」
思いもしなかったガルザの一言。それを合図に、青い鎧の集団はロイン達に刃を向けて駆け出し、ラミーの叫びが響いた。戸惑いを隠せないロインとカイウスだったが、ティマの盾となるように陣を組み、近づけさせまいと剣を振るった。容赦なく斬りつけてくる兵士達に、2人は遠慮しない。相手の太刀をかわし、鎧の隙を突き、あるいは鎧ごと切り裂いていく。響く断末魔の叫びと舞い散る血飛沫を目にし、ようやくティマも戦闘へと加わる。すでに詠唱を終えていたプリセプツを放つと、兵士達の真中で闇の亜空間が開き、敵を飲み込んでいく。そこへ、べディーを引き連れたルビアも参上し、ティマの横に立って詠唱の態勢に入る。
「! ルビア!べディーさん!」
「もう里まで来てたなんてね…。ティマ、さっさと追い返しちゃいましょ!」
強気な姿勢で構えるルビア。それに心強さを感じ、ティマは微笑みながら頷き、杖を構えなおす。
「あれは…」
その時、べディーはガルザとラミーを見つめ、何かを思い出したようにその場に立ち尽くしていた。
(もしかして、トクナガ?)
そう思ったルビアは、その鳥の影を追いかけて行く。すると、次第に吹く風の様子が、聞こえてくる音が変わってきた。浜辺が近くなってきたのだろう。ルビアの足はだんだんゆっくりになっていく。
もしかすると、ギルド内で会議でもあるのかもしれない。
上空のトクナガを見ながら、そう推測する。そうは思っても引き返す気になれず、なんとなくそのまま浜辺へと向かって行く。すると、木々の合間から浜辺と船の影が見えてくる。そして、複数の灯りと奇妙な声まで確認できるようになってきた。思わず近くにあった木に隠れ、様子を窺う。
「…………だよ…!は……し…ぇよ!!」
ラミーの叫び声が聞こえる。距離があるせいで、何を話しているのかはっきりとわからない。しかし、その声には怒りや焦りに近いものが表れていた。可能な限り気配をし、全神経を現場へ向ける。すると、何者かに動きを封じられているラミーが見え、どこかで聞いたことのある低い男声が聞こえてきた。こちらも何を言っているかは聞き取り難い。だが、その姿を目にした途端、ルビアは仰天した。そして、なるべく音を立てないよう注意しながら、急いでその場を離れる。慎重に、周囲を警戒しながら後退し、そして、ある程度離れると、そこから一気に駆け出した。
「皆、起きて!!」
勢いよく扉が開き、ルビアが飛び込んできた。突然夢の世界から帰って来たカイウス達は、その大声に驚くものの、何が起きたのかわからず馬鹿みたいにボーっとしている。欠伸し、目をこすりながらルビアを見ると、彼女は部屋の明かりをつけ、無理矢理にでも3人の目を覚まそうとしている。
「ふぁあ。どうしたの、ルビア?」
突然明るくなり、眩しそうにするティマ。その時、初めてルビアが焦りの表情を浮かべているのが目に入った。
「大変なの!ラミーが捕まって…それに、あの人がこの島にいるの!!」
「…今、なんて言った?」
まだ寝ぼけているカイウスは、半信半疑の目でルビアを見つめた。彼女はしっかりして、とさらに声を大きくする。
「だから、ラミーがあの人に…ルーロで戦ったあの兵士に捕まったのよ!」
その言葉を聞いた途端に、ロインが文字通り飛び起き、ルビアに駆け寄った。
「ルビア、それは本当か!?」
ロインはルビアの肩を痛いほど掴み、物凄い形相で問い詰めた。ルビアは身体をわずかに硬直させながらも、首を振り肯定する。するとロインは舌打ちをし、ルビアを突き飛ばすようにして離すと、自分の剣を取り外へ飛び出していった。カイウスらが呼び止めるも、無駄だった。急いで武器を取り、3人もロインを追って家を飛び出た。
「カイウス!ティマと一緒にロインを追ってちょうだい!」
「お前は何処行くんだよ?」
「ベディーさんにこの事を伝えに行くわ。」
「わかった!」
ルビアは2人から離れ、里長の家へ向かった。その姿が一気に見えなくなると、ティマは驚きの溜息をついた。
「ルビア、すごい。あんなカッコなのに…。」
思わずティマは口にし、カイウスは苦笑してしまった。しかし、あの動き難そうな花のスカートをはいていながら、あれだけ速く走れるのだ。誰でも突っ込まずにはいられないだろう…。
里から浜辺へ続く森の手前。ロインは殺気をまといながら駆け続けていた。
(くっ!なんでアイツがこんなところに…!?)
憎悪の気持ちに支配され、冷静さを欠いていたと思われたロイン。しかし、仇敵の思わぬ登場は腑に落ちていなかった。ただの偶然か、それとも何か目的があって訪れたのか。それを考えていると、目の前から人が近づく物音が聞こえた。足を止め、右手を剣の柄へまわす。
「ロイン!やっと追いついた!」
その時、ようやくティマとカイウスが追いつき、ロインの横に並んだ。
「だ〜か〜ら!一人で勝手に行くなって言ってるだろ…っ!」
カイウスがロインに怒鳴る声が響く。が、それは最後まで言いきらずに途切れた。それは、ロイン同様、何者かが里のすぐそこまで来ていることに気付いたからであった。少し遅れてティマも気配に気がつき、身構える。その直後、青い鎧をまとった集団が彼らの前に姿を現した。そこには、ルビアの言う通り、囚われのラミーの姿もあった。そして、彼女の傍にはガルザが立っている。ロインの目が、いっそうきつくなる。黙ったまま剣を抜き、ガルザへ真っ直ぐ向ける。が、ガルザは鼻で笑い、全く気にしない様子だ。
「ロインか。エルナの森で再会してからは、これでもかというほど見かけるな?」
「ふん。てめえに用はなくても、こっちにはあるんでな!」
そう言いながら地面を蹴る。ガルザと一気に距離を縮め、突きを食らわそうとした。だが、それは彼の部下によって阻まれ、ロインは後ろに突き飛ばされてしまう。受身をとることで態勢を立て直し、歯をギリッと鳴らす。
「ガルザ!あなたの目的は何!?ラミーを離して!!」
ティマはそう言い、ガルザを睨みつける。杖先からはかすかに光が放たれている。今の瞬間に詠唱を完了させ、いつでも放てるようにしていたのだ。そのことは大して気にとめていないようだったが、ガルザはティマを一瞥すると、ふっと微笑を浮かべながら答えた。
「目的…そうだな。具体的にあげるのであれば……君だよ。」
「え!?」「「!!」」
「や、やめろぉーーーっ!!」
思いもしなかったガルザの一言。それを合図に、青い鎧の集団はロイン達に刃を向けて駆け出し、ラミーの叫びが響いた。戸惑いを隠せないロインとカイウスだったが、ティマの盾となるように陣を組み、近づけさせまいと剣を振るった。容赦なく斬りつけてくる兵士達に、2人は遠慮しない。相手の太刀をかわし、鎧の隙を突き、あるいは鎧ごと切り裂いていく。響く断末魔の叫びと舞い散る血飛沫を目にし、ようやくティマも戦闘へと加わる。すでに詠唱を終えていたプリセプツを放つと、兵士達の真中で闇の亜空間が開き、敵を飲み込んでいく。そこへ、べディーを引き連れたルビアも参上し、ティマの横に立って詠唱の態勢に入る。
「! ルビア!べディーさん!」
「もう里まで来てたなんてね…。ティマ、さっさと追い返しちゃいましょ!」
強気な姿勢で構えるルビア。それに心強さを感じ、ティマは微笑みながら頷き、杖を構えなおす。
「あれは…」
その時、べディーはガルザとラミーを見つめ、何かを思い出したようにその場に立ち尽くしていた。