第7章 トガビト ]T
戦闘が始まり、数分が経過した。ロインとカイウスの足元には戦闘不能となった兵士達が倒れ、地面は血で染めあがりだしている。ロイン目掛け、一人の兵士が雄叫びと共に戦斧を振り上げた。ロインはその一撃をかわし、斧は地面に食い込む。その隙を狙って斬りつけようとした。だが、別の方角から中てられた衝撃で横に吹き飛ばされてしまう。左手と両の足でブレーキをかけ、なんとか遠くまで飛ばずに済んだ。代わりに、先程の斧使いが旋回しながら斬りつけてくる。冷や汗を浮かべながら、地面に伏すことでそれをかわす。そして再び斧が自分に向かってくるまでの瞬間に、その態勢から斬り上げた。鮮血が噴き出し、兵士は遠心力に身体を任せ、そのまま倒れた。しかしその時、力がなくなった手から抜け出た戦斧がロインに襲い掛かった。
「がぁっ!」
柄の部分がロインを直撃し、再びその場から吹き飛んでいく。斧も遠くへ飛んでいき、何もないところに着地し、ガランと音を立てて動かなくなる。その数メートル手前までロインは転がり、強く打った頭に手を当てながらよろよろと立ち上がる。ひどく出血し、左眼の視界をふさがれていた。ロインは血をざっと手の甲で拭い取ると、痛みを無視して戦いの場へと駆け戻る。
「ロイン、大丈夫!?」
気付いたティマが駆け寄ってくる。その背後には、彼女を狙って追いかけてくる4・5人の兵士。ロインは舌打ちをし、剣を振った。
「ティマ、よけろっ!魔神剣・双牙!!」
ロインの叫びと同時に、剣から対の衝撃波が放たれ、ティマに向かって疾っていく。ティマはうわぁ!と悲鳴をあげながら横によけ、後方にいた兵士たちに魔神剣がぶつかる。ティマはそのまま頬を膨らませながらロインの後ろについた。
「ちょっとお!私に当てる気!?」
「それ、自分が攻撃を回避できないようなノロマだって言いたいのか?だいたい、狙われてんのに動き回るな!守る側の身にもなれよ!」
「生憎、ただ守られてるだけってのは性に合わないのよ!それより、今治癒術を…」
「いい!」
そう言い終わるか終わらないか、ロインは再び地面を蹴って兵士達へ立ち向かっていく。そこにカイウスも加わり、次々と敵を倒していく。反撃され、満身創痍になろうが構わない。ひたすら自分達に向かってくる兵を薙倒していく。その残党があと10人程度となった、その時だった。
「! いやぁあ!!」
背後から聞こえた悲鳴。振り返ると、いつの間にか、ティマの後ろにフレアの姿があった。杖を落とし、両腕を後ろに回され、拘束されている。
いつの間に…!?
ロイン達はそう驚きながらも、すぐにフレアに向かって剣を構えた。だが、
「動かないでください。この子が、怪我をしますよ。」
感情を殺した目をロイン達に向け、フレアは小刀をティマの顔の横に突き出した。ティマは小さく悲鳴をあげ、ロイン達全員の動きが止まる。仲間の兵士達が武器を向けながら、ゆっくりティマとロイン達を引き離していく。手を出すことが出来ず、ただガルザ達を睨みつけるロイン。切れそうなくらい唇をかみ締め、武器を握る手は怒りでカタカタと震えている。そんな彼を他所に、ガルザはフレアとは別の女性兵に何かを探すよう命じている。ティマは相手を睨みつけながら、可能な限り抵抗を続ける。しかし、間もなくして、彼らの目的の物は見つかってしまった。兵がそれをガルザに手渡した時、ロインとティマの表情が凍りついた。思わずカイウスが声をあげる。
「あれは…ティマの宝物のペンダントじゃないか!?」
バオイの丘で一度紛失し、オスルカ山の洞窟で謎の光を発した、虹色の輝きを放つ貝殻のペンダント。ガルザはそれを受け取ると、にやりと口元を歪ませた。そして、それを渾身の力で投げつけ、貝殻を粉々にしてしまった。その行動に皆驚き、そして、目を見張った。それは、ガルザがティマの宝物を破壊したからではない。砕けた貝殻の中から、なんと白く輝く結晶が姿を現したのだ。
「くくく。やはりそうか。ウルノアの『白晶の首飾』、まさかこんな物に姿を変えていたとはな。」
真の姿を見せたペンダントを拾い上げ、ガルザは高笑いをあげた。
「やめて!それを返して!!」
ティマは必死に取り返そうと暴れるが、フレアに拘束された腕を振り解くことは出来ない。ロインも我慢しきれず、地面を強く蹴ってガルザに剣を向けて走り出す。その時、電光石火の速さで何かがロインの前に立ちはだかり、彼の鳩尾に強烈な一撃を叩き込み、空中へと投げ出した。
「「「ロインっ!!!」」」
カイウス達の悲鳴に近い声が響き、ロインはドサッと無防備に地面へ落ちていった。胸を抑え、ガハッと血反吐を吐く。衝撃で何本か骨が折れたのかもしれない。急いでルビアが駆け寄り、治癒術を施す。その間、カイウスはロインを殴り飛ばした者の姿を確認した。その正体は、彼にとって、いや、ガルザとその部下以外の者にとっては信じられないものだった。
「なっ…!レイモーンの民!?」
ベアとウルフの間に近い姿をした一人の獣人。それがロインを襲った者の正体だった。レイモーンの民に対して、あまり友好的ではないマウディーラの事情を考えれば、それはありえないことだった。しかし、べディーはその姿に心当たりはなかった。アルミネの里にいる者ではない。
「いいぞ、ヴォイド。そのまま奴らを足止めしろ。」
ヴォイドの後ろで、ガルザは余裕の笑みを浮かべ続けている。そして、ラミーの両耳からピアスを奪うと、彼女を乱暴に突き飛ばした。ラミーは「きゃっ!」と小さく悲鳴をあげ、地面に倒れた。
「ご苦労だったな、ラミー・オーバック。…いや、姫を偽る大罪人よ。」
ガルザはラミーを見下し、冷淡に言葉を放った。それにラミーはもちろん、ティマやカイウス、べディー、そしてロインの治療を続けるルビアが一斉にガルザを見た。そして、ラミーに疑いの視線が向けられる。
「なっ…!?どういうことなの!?」
「ラミー、お前まさか…!」
「ほう?全く疑われることなく奴らに同行できたのか。小娘といえど、やるものだな。」
ラミーは何も言い返さなかった。ただティマやカイウス達から顔を逸らし、ガルザを険しい顔で睨みつける。
「そんなことより、どういうつもりだ!?こっちはあんたの条件を飲んだんだ!次はそっちが約束を守る番だろ!?」
「…ああ。そうだったな。約束どおり、解放してやろう。」
見下すようにラミーを一瞥し、ガルザは部下に合図した。すると、何か布で包まれた物がラミーの前に放り投げられる。不審に思いながらも、それを拾い上げ、布の中の物を取り出してみる。刹那、ラミーは悲鳴をあげてそれを地面に落としてしまった。ティマもそれを見て顔を青ざめた。ガルザがラミーに渡したもの、それは人の片腕だった。肩に近い部分から引きちぎられており―――少なくとも剣で切り落とされたという切断面ではない―――、すでに腐敗が進み、表皮はボロボロになっている。ティマは目を背け、ラミーは恐怖で逆にそれに目が釘付けとなっている。何か言おうとしても、言葉にならない声が漏れるだけ。
「おや、あまりの嬉しさで声も出ないのか?…無理もない。久々の再会なのだからな。」
「どういうことだ?」
言葉に出来ないラミーに代わって、カイウスが問うた。すると、ガルザはカイウスを見て答えた。
「コレはこの娘の父、ヴァニアス・オーバックの左腕だよ。本当は全身を持ってきてやりたいところだが、生憎、魔物の餌となってしまって、コレしか残らなかったのでな。悪いが、これで勘弁してくれ。」
「なんだと!!?」
それを聞いたべディーが、怒りと驚愕の雑じった声をあげた。ガルザは高らかに笑い声をあげるだけだった。
「…うそだろ?」
そう呟くラミーに、恐怖の感情は消えていた。かわりに胸の奥から絶望がこみ上げ、顔がだんだん歪んでいく。そっと腐敗した腕に手を伸ばし、両腕で抱きしめる。もはや冷たくなり、不気味な感触しか感じさせないその腕に、ラミーはどんどん力をこめていく。
「……そ………うそ…うそ、うそうそうそうそうそうそうそっっっ!!!!いやぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!!」
天を仰ぎ、絶叫が木霊するほど響き渡る。怒りで顔を真っ赤にしたカイウスとべディーが、同時にガルザ目掛けて走り出す。だが、またしてもヴォイドが立ちふさがり、2人の進路を塞ぐ。「くそっ!」と苛立ちの声をあげるカイウス。ガルザはそれを満足げな顔で見た後、ティマの前に跪いた。
「申し訳ありませんが、もうしばらく、我々に協力していただきますよ。…ティマリア姫様?」
その発言に、再びカイウス達の表情が凍りついた。ティマも、何を言っているの?という顔でガルザを見ている。すると、またガルザの口から薄気味悪い笑い声が聞こえ出した。
「これはこれは…自覚がないとは思わなかったな。」
「だって、私は『白晶の耳飾』なんて着けてないわ!それで私が姫だって確証がどこにあるの!?」
「それがあるんですよ。代々王家の人間が持つ『特殊な能力』、貴女はそれを使ったそうじゃないですか?」
「え…?」
心当たりがなく、ただ戸惑うばかりのティマ。その時だった。
「……放せよ…」
荒い息をあげながら、まだ痛む胸を抑えながら、ロインはよろよろと立ち上がった。それを見たガルザは、少しだけ不愉快な顔になる。
「ティマを…放しやがれっ!ガルザぁああ!!」
力を振り絞り、ロインは駆け出す。ヴォイドが雄叫びを上げ立ちふさがろうとする。だが、その雄叫びに対抗するかの如く、別の獣人の咆哮が響きをあげる。そして、獣人化し小型のベアのような姿になったカイウスと、美しい銀毛の豹のような姿のべディーが、2人がかりでヴォイドを抑えにかかった。さすがに2人の同族の力を押さえつけることは出来ず、ヴォイドはロインに向かっていくことが出来ない。ロインはそのまま、地面にうずくまり続けているラミーの横を走り抜け、ガルザへ剣を振るった。
「がぁっ!」
柄の部分がロインを直撃し、再びその場から吹き飛んでいく。斧も遠くへ飛んでいき、何もないところに着地し、ガランと音を立てて動かなくなる。その数メートル手前までロインは転がり、強く打った頭に手を当てながらよろよろと立ち上がる。ひどく出血し、左眼の視界をふさがれていた。ロインは血をざっと手の甲で拭い取ると、痛みを無視して戦いの場へと駆け戻る。
「ロイン、大丈夫!?」
気付いたティマが駆け寄ってくる。その背後には、彼女を狙って追いかけてくる4・5人の兵士。ロインは舌打ちをし、剣を振った。
「ティマ、よけろっ!魔神剣・双牙!!」
ロインの叫びと同時に、剣から対の衝撃波が放たれ、ティマに向かって疾っていく。ティマはうわぁ!と悲鳴をあげながら横によけ、後方にいた兵士たちに魔神剣がぶつかる。ティマはそのまま頬を膨らませながらロインの後ろについた。
「ちょっとお!私に当てる気!?」
「それ、自分が攻撃を回避できないようなノロマだって言いたいのか?だいたい、狙われてんのに動き回るな!守る側の身にもなれよ!」
「生憎、ただ守られてるだけってのは性に合わないのよ!それより、今治癒術を…」
「いい!」
そう言い終わるか終わらないか、ロインは再び地面を蹴って兵士達へ立ち向かっていく。そこにカイウスも加わり、次々と敵を倒していく。反撃され、満身創痍になろうが構わない。ひたすら自分達に向かってくる兵を薙倒していく。その残党があと10人程度となった、その時だった。
「! いやぁあ!!」
背後から聞こえた悲鳴。振り返ると、いつの間にか、ティマの後ろにフレアの姿があった。杖を落とし、両腕を後ろに回され、拘束されている。
いつの間に…!?
ロイン達はそう驚きながらも、すぐにフレアに向かって剣を構えた。だが、
「動かないでください。この子が、怪我をしますよ。」
感情を殺した目をロイン達に向け、フレアは小刀をティマの顔の横に突き出した。ティマは小さく悲鳴をあげ、ロイン達全員の動きが止まる。仲間の兵士達が武器を向けながら、ゆっくりティマとロイン達を引き離していく。手を出すことが出来ず、ただガルザ達を睨みつけるロイン。切れそうなくらい唇をかみ締め、武器を握る手は怒りでカタカタと震えている。そんな彼を他所に、ガルザはフレアとは別の女性兵に何かを探すよう命じている。ティマは相手を睨みつけながら、可能な限り抵抗を続ける。しかし、間もなくして、彼らの目的の物は見つかってしまった。兵がそれをガルザに手渡した時、ロインとティマの表情が凍りついた。思わずカイウスが声をあげる。
「あれは…ティマの宝物のペンダントじゃないか!?」
バオイの丘で一度紛失し、オスルカ山の洞窟で謎の光を発した、虹色の輝きを放つ貝殻のペンダント。ガルザはそれを受け取ると、にやりと口元を歪ませた。そして、それを渾身の力で投げつけ、貝殻を粉々にしてしまった。その行動に皆驚き、そして、目を見張った。それは、ガルザがティマの宝物を破壊したからではない。砕けた貝殻の中から、なんと白く輝く結晶が姿を現したのだ。
「くくく。やはりそうか。ウルノアの『白晶の首飾』、まさかこんな物に姿を変えていたとはな。」
真の姿を見せたペンダントを拾い上げ、ガルザは高笑いをあげた。
「やめて!それを返して!!」
ティマは必死に取り返そうと暴れるが、フレアに拘束された腕を振り解くことは出来ない。ロインも我慢しきれず、地面を強く蹴ってガルザに剣を向けて走り出す。その時、電光石火の速さで何かがロインの前に立ちはだかり、彼の鳩尾に強烈な一撃を叩き込み、空中へと投げ出した。
「「「ロインっ!!!」」」
カイウス達の悲鳴に近い声が響き、ロインはドサッと無防備に地面へ落ちていった。胸を抑え、ガハッと血反吐を吐く。衝撃で何本か骨が折れたのかもしれない。急いでルビアが駆け寄り、治癒術を施す。その間、カイウスはロインを殴り飛ばした者の姿を確認した。その正体は、彼にとって、いや、ガルザとその部下以外の者にとっては信じられないものだった。
「なっ…!レイモーンの民!?」
ベアとウルフの間に近い姿をした一人の獣人。それがロインを襲った者の正体だった。レイモーンの民に対して、あまり友好的ではないマウディーラの事情を考えれば、それはありえないことだった。しかし、べディーはその姿に心当たりはなかった。アルミネの里にいる者ではない。
「いいぞ、ヴォイド。そのまま奴らを足止めしろ。」
ヴォイドの後ろで、ガルザは余裕の笑みを浮かべ続けている。そして、ラミーの両耳からピアスを奪うと、彼女を乱暴に突き飛ばした。ラミーは「きゃっ!」と小さく悲鳴をあげ、地面に倒れた。
「ご苦労だったな、ラミー・オーバック。…いや、姫を偽る大罪人よ。」
ガルザはラミーを見下し、冷淡に言葉を放った。それにラミーはもちろん、ティマやカイウス、べディー、そしてロインの治療を続けるルビアが一斉にガルザを見た。そして、ラミーに疑いの視線が向けられる。
「なっ…!?どういうことなの!?」
「ラミー、お前まさか…!」
「ほう?全く疑われることなく奴らに同行できたのか。小娘といえど、やるものだな。」
ラミーは何も言い返さなかった。ただティマやカイウス達から顔を逸らし、ガルザを険しい顔で睨みつける。
「そんなことより、どういうつもりだ!?こっちはあんたの条件を飲んだんだ!次はそっちが約束を守る番だろ!?」
「…ああ。そうだったな。約束どおり、解放してやろう。」
見下すようにラミーを一瞥し、ガルザは部下に合図した。すると、何か布で包まれた物がラミーの前に放り投げられる。不審に思いながらも、それを拾い上げ、布の中の物を取り出してみる。刹那、ラミーは悲鳴をあげてそれを地面に落としてしまった。ティマもそれを見て顔を青ざめた。ガルザがラミーに渡したもの、それは人の片腕だった。肩に近い部分から引きちぎられており―――少なくとも剣で切り落とされたという切断面ではない―――、すでに腐敗が進み、表皮はボロボロになっている。ティマは目を背け、ラミーは恐怖で逆にそれに目が釘付けとなっている。何か言おうとしても、言葉にならない声が漏れるだけ。
「おや、あまりの嬉しさで声も出ないのか?…無理もない。久々の再会なのだからな。」
「どういうことだ?」
言葉に出来ないラミーに代わって、カイウスが問うた。すると、ガルザはカイウスを見て答えた。
「コレはこの娘の父、ヴァニアス・オーバックの左腕だよ。本当は全身を持ってきてやりたいところだが、生憎、魔物の餌となってしまって、コレしか残らなかったのでな。悪いが、これで勘弁してくれ。」
「なんだと!!?」
それを聞いたべディーが、怒りと驚愕の雑じった声をあげた。ガルザは高らかに笑い声をあげるだけだった。
「…うそだろ?」
そう呟くラミーに、恐怖の感情は消えていた。かわりに胸の奥から絶望がこみ上げ、顔がだんだん歪んでいく。そっと腐敗した腕に手を伸ばし、両腕で抱きしめる。もはや冷たくなり、不気味な感触しか感じさせないその腕に、ラミーはどんどん力をこめていく。
「……そ………うそ…うそ、うそうそうそうそうそうそうそっっっ!!!!いやぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!!」
天を仰ぎ、絶叫が木霊するほど響き渡る。怒りで顔を真っ赤にしたカイウスとべディーが、同時にガルザ目掛けて走り出す。だが、またしてもヴォイドが立ちふさがり、2人の進路を塞ぐ。「くそっ!」と苛立ちの声をあげるカイウス。ガルザはそれを満足げな顔で見た後、ティマの前に跪いた。
「申し訳ありませんが、もうしばらく、我々に協力していただきますよ。…ティマリア姫様?」
その発言に、再びカイウス達の表情が凍りついた。ティマも、何を言っているの?という顔でガルザを見ている。すると、またガルザの口から薄気味悪い笑い声が聞こえ出した。
「これはこれは…自覚がないとは思わなかったな。」
「だって、私は『白晶の耳飾』なんて着けてないわ!それで私が姫だって確証がどこにあるの!?」
「それがあるんですよ。代々王家の人間が持つ『特殊な能力』、貴女はそれを使ったそうじゃないですか?」
「え…?」
心当たりがなく、ただ戸惑うばかりのティマ。その時だった。
「……放せよ…」
荒い息をあげながら、まだ痛む胸を抑えながら、ロインはよろよろと立ち上がった。それを見たガルザは、少しだけ不愉快な顔になる。
「ティマを…放しやがれっ!ガルザぁああ!!」
力を振り絞り、ロインは駆け出す。ヴォイドが雄叫びを上げ立ちふさがろうとする。だが、その雄叫びに対抗するかの如く、別の獣人の咆哮が響きをあげる。そして、獣人化し小型のベアのような姿になったカイウスと、美しい銀毛の豹のような姿のべディーが、2人がかりでヴォイドを抑えにかかった。さすがに2人の同族の力を押さえつけることは出来ず、ヴォイドはロインに向かっていくことが出来ない。ロインはそのまま、地面にうずくまり続けているラミーの横を走り抜け、ガルザへ剣を振るった。