第7章 トガビト ]U
全力でガルザ目掛け、剣を一閃させる。しかし、剣は空を切るだけだった。突如発生したつむじ風に飲まれ、ガルザとその部下達の姿はその場から消えていた。ロインはたたらを踏み、周囲を見回す。
「今はお前の相手をしている暇はない。ヴォイド、代わりに遊んでやれ。」
「くそっ!待て、ガルザ!!ティマぁああーーーーーッ!!」
どこからかガルザの声が聞こえ、そして風と共に消えていく。ティマの姿も消えてない。ロインはこみ上げる悔しさを叫び、その場に膝をつき、天を仰いだ。そんなロインとは対照的に、カイウスらは緊迫した状況になっている。まるで血に飢えた獣の如く、ヴォイドは牙を剥き、鋭い爪をもってカイウスらに襲い掛かってきたのだ。獣人化したカイウスとべディーは、その攻撃を別々の方向にかわし、挟み撃ちにする。カイウスは拳を突き出し、べディーは高く跳躍し、爪で切り裂いた。2対1で不利に見えるヴォイド。だが、彼もただではやられない。カイウスの拳を受け止めると、カウンターでカイウスの顔面に重い一撃を食らわせる。
「ぐあっ!」
「カイウス!」
そのまま殴り飛ばされ、地面に激突した。それに気をとられたべディーにも一瞬の隙ができ、それを逃すまいとヴォイドが拳を入れる。べディーの顔面をとらえようとした瞬間、突如2人の間に光の球体が出現した。
「やらせないわよ!フォトン!!」
ルビアの声と共に、光はその場で小爆発を起こし、ヴォイドは後方に吹き飛ばされた。
「ゲホゲホッ…!ヒトめ、よくも…!」
声を荒げるヴォイド。そんな彼の背後からロインがかけてくる。
「食らいやがれ!虎牙連斬!!」
ガルザにティマを連れて行かれた怒りをぶつけるように、しかし確実に剣を一閃させ、そして先程の借りを返すように、腹を強く蹴り飛ばす。力のこもった攻撃にヴォイドは再び飛ばされ、地面に手をつく。切り裂かれた部位を、血で滲む服ごと乱暴につかんで立ち上がる。反撃に出ようとすると、また背後から、今度はカイウスが拳を握り締めて駆けてくる。ヴォイドはそれに気付くが、少し遅かった。カウンターで脇に蹴りを入れたものの、かなりの力で殴りつけられ、地面が陥没する。まだやれる、そう言うように咆哮をあげながら立ち上がる。だが、その時にはもう、獣人化を解いたべディーが距離を縮めていた。
「とどめだ!双撞掌底破!!」
両手から放たれた気は、凄まじい音を立て、ヴォイドを里を取り囲む一本の木に激突させた。その衝撃で木の幹は陥没し、ヴォイドは気絶し、地面に倒れた。同時に獣人化が解かれ、顔全体に刺青を入れた若者が姿を現した。
ヴォイドはまもなく、里の人たちによって拘束された。太い木に身体を寄せ、腕を後ろに回して固く縛る。
力の強いレイモーンの民が本気になれば、これくらいではすぐ解かれてしまうのではないか?
ルビアは内心不安になったが、それを見透かしたように、べディーが微笑みながら彼女に言った。
「ルビア、大丈夫だ。僕以外の同族にこいつを見張らせるから。」
ルビアの肩をポンと優しく叩くと、べディーは前に進み出た。そこには、縄で縛られ、すっかり生気を失くしたラミーがいる。彼は私情を殺し、冷淡な顔でラミーに言った。
「アルミネの掟その一、裏切り者は決して許さない。ただし、事情を説明する機会を与え、その上で厳罰に処する。…これから、ラミー・オーバックにその機会を与える。正直に告白せよ。」
この騒ぎで目を覚まし、彼らを取り巻いている里の住人たちは、静かにラミーを見つめた。べディーから聞いているのか、ラミーと、その横に転がっている左腕を見て同情の視線を向けている。ロイン、カイウス、ルビアもその中にはいり、共にラミーをじっと見つめる。しかし、ラミーは俯いたまま、ボソッと呟くだけだった。
「…もう、何でもいい。さっさと裁いてよ……。」
それを聞いたべディーは、「そうか…」と静かに目を閉じ、しばし沈黙した。そして、意を決すると、目を開け、宣言した。
「ラミー・オーバック。ロイン・エイバス一行を欺き、敵対する兵士ガルザに情報を流し、結果一人の少女が連れ去られた。また、その事によって招かれざる者を里に導き、場合によっては里の住人の命に危険が及ぶ事態を引き起こした。以上の点を踏まえ、お前を処刑する!」
「なんだって!!」
下された判決に、その場に居た皆―――べディーとラミー、そしてロインを除く―――が動揺の声を上げた。
(…これでいい。先代のそばに行けるなら…。)
ラミーは心の奥で呟き、静かに目を閉じた、次の瞬間だった。
「待ってくれ!!」
突如聞こえた覚えのある声。思わずラミーははっと顔を上げ、その声がした方向を見た。すると、『女神の従者』の10人の仲間達がこちらに駆け寄ってくるではないか。ラミーは驚き、思わず怒鳴り声を上げそうになり、慌てて感情を抑えた。
「なっ!?お、お前らなんで!?っていうか、無事だったのか!?」
その意味深げな発言に、べディーは眉をピクッと動かした。一行はそれに気付かず、アインスを先頭にラミーのそばに駆け寄る。
「ええ。奴らはガルザの命令で引き上げていきました。」
「それより!なんで首領(ボス)何も言わないんですか!?あたし怒りますよ?」
気の強そうな、ガンホルダーを身に着けた女性船員がラミーに言う。途端に、ラミーは視線を下げ、黙ってしまう。
「…べディー、だったか?ラミー様の代わりに、簡単にだが、私に事情を話させてくれないか。」
「! アインス、てめぇ何を…!」
「首領は黙ってる!」
アインスはべディーをまっすぐ見据え、そう切り出した。ガンホルダーの女性がラミーを黙らせ、べディーは首を振って許可した。
「…7年前、グレシア・エイバスが亡くなった後、先代のヴァニアス様は一人でスディアナや城内に潜入するようになったのです。彼女の死と、スディアナ事件の“裏”について調べるために。ある時、先代は私を同行させ、その調査に行きました。…そして、ガルザの部隊に見つかり、捕まってしまったのだ。」
そこまで話すと、アインスの横にアハトが立ち、話を引き継いだ。
「奴はアインスを引き連れて我らの前に現れました。そして、ラミー様が身に着けているピアスの存在に気付いてしまった。奴はヴァニアス様とアインス、そして、マウディーラ中のレイモーンの民を人質にとった。そして、2人の解放と、レイモーンの民に手を出さないことを条件に、ラミー様を従わせたのです。」
アハトが話し終えると、ラミーは顔を背けて「余計なことを…」と呟いた。他の仲間達は首を縦に振り、それが真実であることを示す。語られた事実に、それを聞いていた皆が呆然としている時だった。
「…くだらねぇ。」
静寂を破り、ロインが前に歩み出た。そしてラミーの目の前に立つと、すっと剣を抜き、彼女の顔の横に突き出した。誰かが悲鳴をあげたのが耳に入る。
「ロイン、何を…!?」
焦りの表情を浮かべ、カイウスとルビアも人ごみの中から飛び出した。ロインは彼らを一瞥すると、ラミーに視線を戻した。べディーは静かに事を見ている。
「人質をとられて、言いなりにされて、あげく約束は果たされず、親父は死んで帰ってきた。それにショックを受けて、親父のそばに行きたい、とか考えてるんじゃねぇだろうな?…ふざけるなよ。」
冷たい視線。温もりのない言葉。ロインは剣を高く振り上げた。ラミーは何も言わずに銀色の刃を見つめ、静かに頭を垂れ、目を閉じた。
「…いい加減にしろよ!?」
怒りのこもったその言葉と共に、剣は勢いよく振り下ろされた。
「今はお前の相手をしている暇はない。ヴォイド、代わりに遊んでやれ。」
「くそっ!待て、ガルザ!!ティマぁああーーーーーッ!!」
どこからかガルザの声が聞こえ、そして風と共に消えていく。ティマの姿も消えてない。ロインはこみ上げる悔しさを叫び、その場に膝をつき、天を仰いだ。そんなロインとは対照的に、カイウスらは緊迫した状況になっている。まるで血に飢えた獣の如く、ヴォイドは牙を剥き、鋭い爪をもってカイウスらに襲い掛かってきたのだ。獣人化したカイウスとべディーは、その攻撃を別々の方向にかわし、挟み撃ちにする。カイウスは拳を突き出し、べディーは高く跳躍し、爪で切り裂いた。2対1で不利に見えるヴォイド。だが、彼もただではやられない。カイウスの拳を受け止めると、カウンターでカイウスの顔面に重い一撃を食らわせる。
「ぐあっ!」
「カイウス!」
そのまま殴り飛ばされ、地面に激突した。それに気をとられたべディーにも一瞬の隙ができ、それを逃すまいとヴォイドが拳を入れる。べディーの顔面をとらえようとした瞬間、突如2人の間に光の球体が出現した。
「やらせないわよ!フォトン!!」
ルビアの声と共に、光はその場で小爆発を起こし、ヴォイドは後方に吹き飛ばされた。
「ゲホゲホッ…!ヒトめ、よくも…!」
声を荒げるヴォイド。そんな彼の背後からロインがかけてくる。
「食らいやがれ!虎牙連斬!!」
ガルザにティマを連れて行かれた怒りをぶつけるように、しかし確実に剣を一閃させ、そして先程の借りを返すように、腹を強く蹴り飛ばす。力のこもった攻撃にヴォイドは再び飛ばされ、地面に手をつく。切り裂かれた部位を、血で滲む服ごと乱暴につかんで立ち上がる。反撃に出ようとすると、また背後から、今度はカイウスが拳を握り締めて駆けてくる。ヴォイドはそれに気付くが、少し遅かった。カウンターで脇に蹴りを入れたものの、かなりの力で殴りつけられ、地面が陥没する。まだやれる、そう言うように咆哮をあげながら立ち上がる。だが、その時にはもう、獣人化を解いたべディーが距離を縮めていた。
「とどめだ!双撞掌底破!!」
両手から放たれた気は、凄まじい音を立て、ヴォイドを里を取り囲む一本の木に激突させた。その衝撃で木の幹は陥没し、ヴォイドは気絶し、地面に倒れた。同時に獣人化が解かれ、顔全体に刺青を入れた若者が姿を現した。
ヴォイドはまもなく、里の人たちによって拘束された。太い木に身体を寄せ、腕を後ろに回して固く縛る。
力の強いレイモーンの民が本気になれば、これくらいではすぐ解かれてしまうのではないか?
ルビアは内心不安になったが、それを見透かしたように、べディーが微笑みながら彼女に言った。
「ルビア、大丈夫だ。僕以外の同族にこいつを見張らせるから。」
ルビアの肩をポンと優しく叩くと、べディーは前に進み出た。そこには、縄で縛られ、すっかり生気を失くしたラミーがいる。彼は私情を殺し、冷淡な顔でラミーに言った。
「アルミネの掟その一、裏切り者は決して許さない。ただし、事情を説明する機会を与え、その上で厳罰に処する。…これから、ラミー・オーバックにその機会を与える。正直に告白せよ。」
この騒ぎで目を覚まし、彼らを取り巻いている里の住人たちは、静かにラミーを見つめた。べディーから聞いているのか、ラミーと、その横に転がっている左腕を見て同情の視線を向けている。ロイン、カイウス、ルビアもその中にはいり、共にラミーをじっと見つめる。しかし、ラミーは俯いたまま、ボソッと呟くだけだった。
「…もう、何でもいい。さっさと裁いてよ……。」
それを聞いたべディーは、「そうか…」と静かに目を閉じ、しばし沈黙した。そして、意を決すると、目を開け、宣言した。
「ラミー・オーバック。ロイン・エイバス一行を欺き、敵対する兵士ガルザに情報を流し、結果一人の少女が連れ去られた。また、その事によって招かれざる者を里に導き、場合によっては里の住人の命に危険が及ぶ事態を引き起こした。以上の点を踏まえ、お前を処刑する!」
「なんだって!!」
下された判決に、その場に居た皆―――べディーとラミー、そしてロインを除く―――が動揺の声を上げた。
(…これでいい。先代のそばに行けるなら…。)
ラミーは心の奥で呟き、静かに目を閉じた、次の瞬間だった。
「待ってくれ!!」
突如聞こえた覚えのある声。思わずラミーははっと顔を上げ、その声がした方向を見た。すると、『女神の従者』の10人の仲間達がこちらに駆け寄ってくるではないか。ラミーは驚き、思わず怒鳴り声を上げそうになり、慌てて感情を抑えた。
「なっ!?お、お前らなんで!?っていうか、無事だったのか!?」
その意味深げな発言に、べディーは眉をピクッと動かした。一行はそれに気付かず、アインスを先頭にラミーのそばに駆け寄る。
「ええ。奴らはガルザの命令で引き上げていきました。」
「それより!なんで首領(ボス)何も言わないんですか!?あたし怒りますよ?」
気の強そうな、ガンホルダーを身に着けた女性船員がラミーに言う。途端に、ラミーは視線を下げ、黙ってしまう。
「…べディー、だったか?ラミー様の代わりに、簡単にだが、私に事情を話させてくれないか。」
「! アインス、てめぇ何を…!」
「首領は黙ってる!」
アインスはべディーをまっすぐ見据え、そう切り出した。ガンホルダーの女性がラミーを黙らせ、べディーは首を振って許可した。
「…7年前、グレシア・エイバスが亡くなった後、先代のヴァニアス様は一人でスディアナや城内に潜入するようになったのです。彼女の死と、スディアナ事件の“裏”について調べるために。ある時、先代は私を同行させ、その調査に行きました。…そして、ガルザの部隊に見つかり、捕まってしまったのだ。」
そこまで話すと、アインスの横にアハトが立ち、話を引き継いだ。
「奴はアインスを引き連れて我らの前に現れました。そして、ラミー様が身に着けているピアスの存在に気付いてしまった。奴はヴァニアス様とアインス、そして、マウディーラ中のレイモーンの民を人質にとった。そして、2人の解放と、レイモーンの民に手を出さないことを条件に、ラミー様を従わせたのです。」
アハトが話し終えると、ラミーは顔を背けて「余計なことを…」と呟いた。他の仲間達は首を縦に振り、それが真実であることを示す。語られた事実に、それを聞いていた皆が呆然としている時だった。
「…くだらねぇ。」
静寂を破り、ロインが前に歩み出た。そしてラミーの目の前に立つと、すっと剣を抜き、彼女の顔の横に突き出した。誰かが悲鳴をあげたのが耳に入る。
「ロイン、何を…!?」
焦りの表情を浮かべ、カイウスとルビアも人ごみの中から飛び出した。ロインは彼らを一瞥すると、ラミーに視線を戻した。べディーは静かに事を見ている。
「人質をとられて、言いなりにされて、あげく約束は果たされず、親父は死んで帰ってきた。それにショックを受けて、親父のそばに行きたい、とか考えてるんじゃねぇだろうな?…ふざけるなよ。」
冷たい視線。温もりのない言葉。ロインは剣を高く振り上げた。ラミーは何も言わずに銀色の刃を見つめ、静かに頭を垂れ、目を閉じた。
「…いい加減にしろよ!?」
怒りのこもったその言葉と共に、剣は勢いよく振り下ろされた。