外伝2 募る想い実らん… U
数時間後、雨は止んだ。ティルキスは消えたアーリアを探し回った。だが、姿は全く見えず、時間だけが過ぎていく。ティルキスの顔に焦りが表れ始め、もはや薬草どころではなくなっていた。
「アーリア、どこにいる!?返事をしてくれ……うぉわぁあああ!?」
その時、突然足元が崩れ、ティルキスは斜面を滑り落ちていった。とは言っても、すぐ下に平坦な地面があり、大した怪我にはならずに済んだ。しかし、そこからもとの場所によじ登るには骨が折れそうだった。ティルキスは服についた土を払うと、仕方なく、その道を進む事にした。
相変わらず、魔物や熊などの獣は出現し、時折ティルキスに襲い掛かってくる。それをかわしたり、動きを封じたりしながら進む。小さな傷が増えるばかり。グミの類は持ってきていなかったからだ。本来であれば、この程度ならアーリアさえいれば問題はなかった。しかし、今はいない。傷自体はどれもたいした事はないが、微妙に痛み、ティルキスの動きを鈍らせるのだ。
(はぁ…何やってんだろうな、俺。)
手を額に当てながら思う。先程思わず取ってしまった行動が恥ずかしくなってくる。それと同じくらい、アーリアのことが心配でたまらない。あまりに心配しすぎているせいか、幻聴まで聞こえてきたようだ。彼女と同じ声が、必死に何かに抗っている。おまけにプリセプツを詠唱し、何か相手に放っている音も聞こえてきた……?
「! アーリア!?」
はっと我に帰り、ティルキスはその音がする方向へ駆け出した。すると数十メートル先で、プチプリやマンドラゴラといった植物系の魔物に取り囲まれているアーリアの姿が見えた。あまりにも接近を許してしまったせいでプリセプツを詠唱することができず、長杖で敵を叩きつけて戦っていた。ティルキスはすぐさまその間に踊り出て、魔物に大剣を振るった。
「ティルキス!?」
「大丈夫か、アーリア!一気に片付けるぞ!!」
突然のティルキスの登場に驚いたアーリア。しかし、すぐさま気持ちを切り替え、後衛に徹底する。
「アルテミスダンス!!」
高速で魔物を斬りつける。ティルキスはその勢いを止めず、更に加速して魔物を斬りつけていく。ティルキスの必殺技であるコズミック・レイだ。続けてヘラクロスブロウを食らわし、広範囲への斬撃を行う。この連撃で、あらかたの魔物は絶命したか吹き飛ばされていった。そのキレは、アレウーラ大陸を旅していた頃と変わらない。そして、残った魔物にアーリアが追い討ちをかける。
「切り裂け!エアブレイド!!」
巨大な風の刃が、一瞬で魔物を両断した。まだ数体残っていたが、2人の力に恐怖したのか、森の中へ逃げていった。2人は安堵し、武器を収めながら息を整えた。
「ふぅ…。アーリア、大丈夫か?」
「え、ええ。そうだ。ティルキス、これを見て。」
そう言ってアーリアが指差した場所を見ると、そこには探し求めていた薬草があった。ティルキスの表情が明るくなる。
「良かった!これで父上も元気になるぞ…」
「! ティルキス!」
突然足をふらつかせ、ガクッと膝をついてしまったティルキス。アーリアは悲鳴をあげながら、彼を慌てて抱きかかえた。
「あ、あれ?…ははは。ほっとしたら、力が抜けたみたいだ。」
アーリアに抱きかかえられながら、ティルキスはそうけらけらと笑った。身体に異状があるわけではないとわかると、アーリアも力が抜けたらしく、へなへなと膝をついた。そして、少し膨れた顔でティルキスに言った。
「もう、紛らわしいんだから。それに傷だらけよ。…ファーストエイド。」
杖先から優しい光が放たれ、ティルキスの怪我は全て癒えた。ティルキスは礼を述べると、ゆっくりと立ち上がり、薬草を摘んだ。そしてアーリアに手を差し出し、彼女が立ち上がると、笑顔で来た道を戻ろうとした。その時だった。
「待って、ティルキス。」
ふとアーリアが呼び止める。首を傾げながら彼女を見ると、アーリアは静かに口を開いた。
「…ごめんなさい。」
「ん?ああ、突然飛び出していったことか?気にしてないよ。そもそも、変なことを言い出した俺が悪いんだし。」
アーリアは首を振った。
「わたしは、いつまでもあなたの隣にいられないと思う。わたし自身が、まだそれを許せないから…。」
告げられた中身に、ティルキスはそうか、と納得するだけだった。もしかすると、答えがわかりきっていたからなのかもしれない。本当ならば、それは彼にとって悲しいものであるはずなのに、しかし、ティルキスは少しもそういう表情を見せなかった。
それならば、限られた時間を大切にしよう…。
いつの間にか彼の中で出た結論。数秒間目を閉じ、そして何かを言おうとした。しかし、その口は突然何かによって塞がれてしまう。雪のようにふんわりとした、アーリアの唇だった。驚き、目を見開いたティルキスだったが、すぐにその目を静かに閉じ、優しく彼女の唇を押し返した。
2人は照れくさそうに微笑みあうと、手を握ってドロテの山を下りた。
ティルキスとアーリア、この2人がいつまで一緒にいられるのかは、誰にもわからない。
だが、今の2人にとって、それはどうでもいいことだった。
事実として、お互いに気持ちを寄せ合っている。
それだけで、十分だった…。
「アーリア、どこにいる!?返事をしてくれ……うぉわぁあああ!?」
その時、突然足元が崩れ、ティルキスは斜面を滑り落ちていった。とは言っても、すぐ下に平坦な地面があり、大した怪我にはならずに済んだ。しかし、そこからもとの場所によじ登るには骨が折れそうだった。ティルキスは服についた土を払うと、仕方なく、その道を進む事にした。
相変わらず、魔物や熊などの獣は出現し、時折ティルキスに襲い掛かってくる。それをかわしたり、動きを封じたりしながら進む。小さな傷が増えるばかり。グミの類は持ってきていなかったからだ。本来であれば、この程度ならアーリアさえいれば問題はなかった。しかし、今はいない。傷自体はどれもたいした事はないが、微妙に痛み、ティルキスの動きを鈍らせるのだ。
(はぁ…何やってんだろうな、俺。)
手を額に当てながら思う。先程思わず取ってしまった行動が恥ずかしくなってくる。それと同じくらい、アーリアのことが心配でたまらない。あまりに心配しすぎているせいか、幻聴まで聞こえてきたようだ。彼女と同じ声が、必死に何かに抗っている。おまけにプリセプツを詠唱し、何か相手に放っている音も聞こえてきた……?
「! アーリア!?」
はっと我に帰り、ティルキスはその音がする方向へ駆け出した。すると数十メートル先で、プチプリやマンドラゴラといった植物系の魔物に取り囲まれているアーリアの姿が見えた。あまりにも接近を許してしまったせいでプリセプツを詠唱することができず、長杖で敵を叩きつけて戦っていた。ティルキスはすぐさまその間に踊り出て、魔物に大剣を振るった。
「ティルキス!?」
「大丈夫か、アーリア!一気に片付けるぞ!!」
突然のティルキスの登場に驚いたアーリア。しかし、すぐさま気持ちを切り替え、後衛に徹底する。
「アルテミスダンス!!」
高速で魔物を斬りつける。ティルキスはその勢いを止めず、更に加速して魔物を斬りつけていく。ティルキスの必殺技であるコズミック・レイだ。続けてヘラクロスブロウを食らわし、広範囲への斬撃を行う。この連撃で、あらかたの魔物は絶命したか吹き飛ばされていった。そのキレは、アレウーラ大陸を旅していた頃と変わらない。そして、残った魔物にアーリアが追い討ちをかける。
「切り裂け!エアブレイド!!」
巨大な風の刃が、一瞬で魔物を両断した。まだ数体残っていたが、2人の力に恐怖したのか、森の中へ逃げていった。2人は安堵し、武器を収めながら息を整えた。
「ふぅ…。アーリア、大丈夫か?」
「え、ええ。そうだ。ティルキス、これを見て。」
そう言ってアーリアが指差した場所を見ると、そこには探し求めていた薬草があった。ティルキスの表情が明るくなる。
「良かった!これで父上も元気になるぞ…」
「! ティルキス!」
突然足をふらつかせ、ガクッと膝をついてしまったティルキス。アーリアは悲鳴をあげながら、彼を慌てて抱きかかえた。
「あ、あれ?…ははは。ほっとしたら、力が抜けたみたいだ。」
アーリアに抱きかかえられながら、ティルキスはそうけらけらと笑った。身体に異状があるわけではないとわかると、アーリアも力が抜けたらしく、へなへなと膝をついた。そして、少し膨れた顔でティルキスに言った。
「もう、紛らわしいんだから。それに傷だらけよ。…ファーストエイド。」
杖先から優しい光が放たれ、ティルキスの怪我は全て癒えた。ティルキスは礼を述べると、ゆっくりと立ち上がり、薬草を摘んだ。そしてアーリアに手を差し出し、彼女が立ち上がると、笑顔で来た道を戻ろうとした。その時だった。
「待って、ティルキス。」
ふとアーリアが呼び止める。首を傾げながら彼女を見ると、アーリアは静かに口を開いた。
「…ごめんなさい。」
「ん?ああ、突然飛び出していったことか?気にしてないよ。そもそも、変なことを言い出した俺が悪いんだし。」
アーリアは首を振った。
「わたしは、いつまでもあなたの隣にいられないと思う。わたし自身が、まだそれを許せないから…。」
告げられた中身に、ティルキスはそうか、と納得するだけだった。もしかすると、答えがわかりきっていたからなのかもしれない。本当ならば、それは彼にとって悲しいものであるはずなのに、しかし、ティルキスは少しもそういう表情を見せなかった。
それならば、限られた時間を大切にしよう…。
いつの間にか彼の中で出た結論。数秒間目を閉じ、そして何かを言おうとした。しかし、その口は突然何かによって塞がれてしまう。雪のようにふんわりとした、アーリアの唇だった。驚き、目を見開いたティルキスだったが、すぐにその目を静かに閉じ、優しく彼女の唇を押し返した。
2人は照れくさそうに微笑みあうと、手を握ってドロテの山を下りた。
ティルキスとアーリア、この2人がいつまで一緒にいられるのかは、誰にもわからない。
だが、今の2人にとって、それはどうでもいいことだった。
事実として、お互いに気持ちを寄せ合っている。
それだけで、十分だった…。