第9章 影と真と T
数日後、アレウーラ大陸に上陸した一行は、港町「ヤスカ」から北へと進み続けた。かつて大陸中を旅したことのあるカイウスとルビアが先頭を歩き、まずは「北の門」と呼ばれる場所を目指す。そこから東へ向かうと、巨大な山が聳え立っている。そこが目的地である「アール山」だ。そこは、カイウスとルビアにとって、2年前の旅の終着の地でもある。「ヤスカ」からのその道のりは遠く、先を急ぐロイン達にとって、その旅路はストレスを感じずにはいられないものだった。また、道中はサイノッサスやゴブリンといった魔物に足止めを食うことも少なくなかった。彼らは「北の門」で十分に準備を整え、その後にようやく「アール山」へ辿り着いたのであった。
「奴の部下が待ち構えているはずだ。気を引き締めて行こう。」
ベディーの言う通り、山の麓やその山道の途中に、青い鎧を身にまとった兵士の姿があった。彼らはロイン達を頂上へ近づけまいと、持っている武器を向けて迫ってくる。
「てめぇらに構ってる暇はねぇ!!」
ロインはそう短く叫び、敵兵を迷いもなく切り捨てていく。時には、ルビアのプリセプツやラミーの銃撃が敵の足元を狙うことで、彼らの動きを封じ、その間に頂上めがけて走っていく。それまでの旅路でかかった分を取り戻すかのように、ロイン達はほとんど足を止めることなく、一気に上まで駆け上がっていった。
「見えたぞ!もうすぐだ!」
やがて、建築物の屋根らしい部分が彼らの視界に入ってくると、カイウスが声を上げた。それに、他の4人も気合を入れ直す。だが、その時だった。
「止まりな。ここから先には行かせねぇよ!」
一行の前方に現れた2人の男女が行く手を塞いだ。その瞬間、ロイン達はそれまで動かし続けていた足を止め、焦りの表情を浮かべた。剣を片手に、一行と対峙するのはフレアとセイル。今まで蹴散らしてきた連中とは、格が違う。これまでのように、簡単に振り切れる相手ではない。
「やっぱり、そう簡単にはいかねえか。」
ロインは舌打ちをしながら、2人を睨みつけ、剣を構えた。その時、カイウスがすっとロインの前に立った。手を伸ばし、ロインに手を出すなと告げる。
「ここはオレが相手する。だから、お前はティマのところに行け。」
「そうはさせないよ!」
フレアやセイルの耳に入らないよう、小声で告げたカイウス。しかし、それを聞き取った少女が、彼よりも先に2人に飛びかかっていく。地面を蹴り、空中へ飛び上がったラミーは、そのままセイルのもとへ短剣を振り下ろしながら落下していった。セイルはその攻撃を読んでいたように、にやっと口を歪ませながら、その一撃を受け止める。この突然の行動に驚いたのは、むしろ味方の方であった。
「ラミー!?」
「悪いけど、こいつの相手はあたいって決まってんの。手出ししないでくれよ!」
ロイン達を背にそう言って、再びセイルと武器を交える。その口元はセイル同様につりあがり、仲間達が介入を断念するしかないよう、休む暇なく技を繰り出していく。だが、その攻撃はセイル1人にのみ向けられている。彼の後衛を務めるフレアが、プリセプツの詠唱を終えていた。
「怒りを矛先に変え、前途を阻む障害を貫け!ロックブレイク!」
突如発生した岩が、ラミー目掛けて襲い掛かる。そこへ割り込んでくるひとつの影。頑丈な岩を、気を込めた拳で木っ端微塵に砕き、そのままフレアに向かって拳を振るう。彼女は急いでバックステップでそれをかわし、直撃を免れた。
「ここは僕とラミーで抑える!行くんだ!」
ベディーがフレアに攻撃を続けながら叫んだ。セイルもラミーの相手をしているために、ロイン達にかまう余裕はない。今がチャンスだった。ロイン、カイウス、ルビアの3人は互いの顔を見て頷き、4人の横を走り抜けて行った。
「頼むぞ、2人共!」
一度だけ後ろを見て、ロインはラミーとベディーに声をかけていった。2人はそれに対し、ニッと歯を見せて笑って見せた。
「くっ!セイル、さっさと終わらせてガルザ隊長の元に行くわよ!」
フレアは横を走っていく3人を見て、しまった、という表情を見せた。そしてセイルに強い口調で言うと、彼は一端ラミーから距離を置き、フレアのそばまで後退した。ラミーも同様にベディーの横に並び、目の前の2人を見据えた。
「はいはい。…ま、今回は真面目にやらなきゃお叱りも受けますしね。せいぜいフレア先輩の足を引っ張らないよう頑張らせていただきますよ。」
「無駄口は結構。“いつもの”でいくわよ。」
嫌悪感を露にした口調でセイルを突き放す。もともと戦いを好まない性格であるフレアは、セイルに対して好い感情を抱いていない。そこはセイルも同感らしいが、肩をすくめ、剣を構えなおす。そして、2人は互いの私情を殺し、ただのガルザの部下となる。ラミーとベディーも構えなおし、4人は戦闘へと突入した。
「奴の部下が待ち構えているはずだ。気を引き締めて行こう。」
ベディーの言う通り、山の麓やその山道の途中に、青い鎧を身にまとった兵士の姿があった。彼らはロイン達を頂上へ近づけまいと、持っている武器を向けて迫ってくる。
「てめぇらに構ってる暇はねぇ!!」
ロインはそう短く叫び、敵兵を迷いもなく切り捨てていく。時には、ルビアのプリセプツやラミーの銃撃が敵の足元を狙うことで、彼らの動きを封じ、その間に頂上めがけて走っていく。それまでの旅路でかかった分を取り戻すかのように、ロイン達はほとんど足を止めることなく、一気に上まで駆け上がっていった。
「見えたぞ!もうすぐだ!」
やがて、建築物の屋根らしい部分が彼らの視界に入ってくると、カイウスが声を上げた。それに、他の4人も気合を入れ直す。だが、その時だった。
「止まりな。ここから先には行かせねぇよ!」
一行の前方に現れた2人の男女が行く手を塞いだ。その瞬間、ロイン達はそれまで動かし続けていた足を止め、焦りの表情を浮かべた。剣を片手に、一行と対峙するのはフレアとセイル。今まで蹴散らしてきた連中とは、格が違う。これまでのように、簡単に振り切れる相手ではない。
「やっぱり、そう簡単にはいかねえか。」
ロインは舌打ちをしながら、2人を睨みつけ、剣を構えた。その時、カイウスがすっとロインの前に立った。手を伸ばし、ロインに手を出すなと告げる。
「ここはオレが相手する。だから、お前はティマのところに行け。」
「そうはさせないよ!」
フレアやセイルの耳に入らないよう、小声で告げたカイウス。しかし、それを聞き取った少女が、彼よりも先に2人に飛びかかっていく。地面を蹴り、空中へ飛び上がったラミーは、そのままセイルのもとへ短剣を振り下ろしながら落下していった。セイルはその攻撃を読んでいたように、にやっと口を歪ませながら、その一撃を受け止める。この突然の行動に驚いたのは、むしろ味方の方であった。
「ラミー!?」
「悪いけど、こいつの相手はあたいって決まってんの。手出ししないでくれよ!」
ロイン達を背にそう言って、再びセイルと武器を交える。その口元はセイル同様につりあがり、仲間達が介入を断念するしかないよう、休む暇なく技を繰り出していく。だが、その攻撃はセイル1人にのみ向けられている。彼の後衛を務めるフレアが、プリセプツの詠唱を終えていた。
「怒りを矛先に変え、前途を阻む障害を貫け!ロックブレイク!」
突如発生した岩が、ラミー目掛けて襲い掛かる。そこへ割り込んでくるひとつの影。頑丈な岩を、気を込めた拳で木っ端微塵に砕き、そのままフレアに向かって拳を振るう。彼女は急いでバックステップでそれをかわし、直撃を免れた。
「ここは僕とラミーで抑える!行くんだ!」
ベディーがフレアに攻撃を続けながら叫んだ。セイルもラミーの相手をしているために、ロイン達にかまう余裕はない。今がチャンスだった。ロイン、カイウス、ルビアの3人は互いの顔を見て頷き、4人の横を走り抜けて行った。
「頼むぞ、2人共!」
一度だけ後ろを見て、ロインはラミーとベディーに声をかけていった。2人はそれに対し、ニッと歯を見せて笑って見せた。
「くっ!セイル、さっさと終わらせてガルザ隊長の元に行くわよ!」
フレアは横を走っていく3人を見て、しまった、という表情を見せた。そしてセイルに強い口調で言うと、彼は一端ラミーから距離を置き、フレアのそばまで後退した。ラミーも同様にベディーの横に並び、目の前の2人を見据えた。
「はいはい。…ま、今回は真面目にやらなきゃお叱りも受けますしね。せいぜいフレア先輩の足を引っ張らないよう頑張らせていただきますよ。」
「無駄口は結構。“いつもの”でいくわよ。」
嫌悪感を露にした口調でセイルを突き放す。もともと戦いを好まない性格であるフレアは、セイルに対して好い感情を抱いていない。そこはセイルも同感らしいが、肩をすくめ、剣を構えなおす。そして、2人は互いの私情を殺し、ただのガルザの部下となる。ラミーとベディーも構えなおし、4人は戦闘へと突入した。