第9章 影と真と U
巨大な入り口をくぐると、広々とした空間が目の前に現れた。青く彩られたホールらしい空間の正面と両脇に、玉座へと続く長い階段があり、その先に2人の人影があった。『白晶の装具(クリスタル・トゥール)』を身につけ、意識のないティマがその席に座らされ、横にはガルザが立っている。
「ティマ!」
その姿を見つけたロインが、大声で彼女の名を呼んだ。しかし、まぶたは硬く閉ざされ、ピクリとも動かない。その反応に舌打ちをし、キッとガルザを睨みつける。そのガルザも、ロイン達3人の姿を忌々しそうに見つめながら、ゆっくりと階段を下りてくる。
「お前らも暇なものだな。何故邪魔をする?そんなに姫が愛しいのか?」
「はっ!てめぇみたいな荒々しいエスコートしかできない奴に、大事な姫様を任せられるかってんだよ。」
「ガルザ、あなたの目的は何?ティマを還して!」
ロインに続き、ルビアがガルザに向かって叫ぶ。ロイン達と同じ階まで下りたガルザは、両の手を大きく広げ、その問いに答えた。
「我が望みは復讐と再生!すでに1つは果たした。残るは再生のみ!そして、それを実現するためには、どうしても姫の協力がいるのだよ。」
「復讐と再生、だと?」
カイウスが怪訝そうな表情で聞き返す。答えるガルザの声は、興奮を増していく。
「そうだ。我が父は、突然命を失うこととなった。世間一般には、リカンツに殺されたと言われているがな。だが、そうではなかった。父上はロイン!お前の母に斬り殺されたのだ!」
「「「!?」」」
その発言に驚愕した3人は、「まさか」と叫びそうになった。だが次の瞬間、ふと思い当たる節があることに気がつく。『リカンツに殺されたと言われている』ということは、グレシアがその人物を斬った時、その場にレイモーンの民がいた可能性がある。今度は違う感情のこもった「まさか」がこぼれそうになる。そして、3人の予想は的中した。
「俺は剣を学び、己を鍛えた。我が父、『サーム・ペトリスカ』の仇を討つために!…そして、その過程でまた知ったのだ。父上を―――いや、罪無き命全てを取り戻せる方法を、な。その為には、『白晶の装具』と王家の人間が必要だった。始めのうちは王に協力願おうと思っていたのだが、お前たちのおかげでその手間が省けた。礼を言おう。」
そう言って、復讐者ガルザは笑みを浮かべた。対照的に、思いもしなかった繋がりに、彼らはただ愕然としていた。カイウスとルビアは、復讐が復讐を生んだこの結果を、なんとも言えない表情で見つめていた。
「…つまり、そういうことかよ。」
そんな中、ロインの怒りのこもった声が飛んだ。
「てめぇは最初から、『復讐』のためにオレ達に近づいて、『再生』のために『白晶の首飾(クリスタル・ペンダント)』を奪おうとしてたってわけか!?」
最初から騙されていた。その想いが、ガルザが復讐者であるという事実よりも、ロインの頭を支配した。兄のように優しく、超えるべき背のひとつとして尊敬していたガルザ。家のことも手伝い、家族同然のように笑顔を見せていたガルザ。それが、すべて演技だった。それまで慕っていた分だけ、ロインの中に憎しみが生まれる。ロインは感情に任せて、ガルザにその意を問うた。しかし、ガルザはそれに対して何も言わず、視線をふと逸らした。それは、肯定ともとれる行動だった。ロインの拳が固く握られる。カイウスとルビアも、彼の怒りに同調して、キッとガルザを睨みつけ、身構える。そうしてわずかな間、沈黙が場を支配した。
「我らの計画に協力してくれた礼だ。お前たちに今、ここで選ばせてやろう。その場で静かに事を見守るか、或いは我が剣で塵と消えるか。」
静寂を破り、ガルザは剣を抜きながらロイン達を真っ直ぐ見据えて言った。その瞳は、彼の意思を量っているようでもあった。
「…決まってるだろ。」
ロインの低い声が答え、腰にある剣に手が伸びる。
「オレはお前を倒す!復讐のためだろうがなんだろうが、それまで猫被ってやがったてめぇが気にくわねぇ。それに…ティマに手出しすんじゃねぇよ!!」
言い終わると同時に、ロインは床を強く蹴り、ガルザめがけて駆け出した。少し遅れて、カイウスとルビアも武器をとり、ロインに続く。
「…残念だよ、ロイン!」
ガルザは一瞬瞳を伏せ、そして、戦いの場に立つ者の眼を持って、ロイン達へと向かっていった。
山の上の方は、標高が高いためだろうか、未だに雪が残っている。そんな中、銃声が、プリセプツが、剣を振る音が、雄叫びが響き渡る。ラミーとベディーは共に前衛。セイルはその2人を1人で相手し、フレアがその後衛を務めている。兵士2人組は、完全にバランスの取れた戦い方をしていた。フレアがプリセプツを唱え、その攻撃をかわそうとしたラミー達に生じた隙をセイルが狙っていく。彼の剣速はとても速く、ラミーはともかく、ベディーがそれに追いつけずに苦戦していた。そうしてセイルが攻撃を仕掛けている間に、再びフレアの攻撃術が完成していく。その意気は、直前に嫌味を言い合っていた、あのぎすぎすした関係からは想像できないほど投合している。
「このっ、食らいやがれ!バイティングエッジ!スナイプゲイト!」
得意のスピードを生かし、素早い斬撃を行う。そして至近距離から闇属性をまとった銃弾が連射される。バイティングエッジでセイルはフレアのそばまで後退し、そこへラミーはスナイプゲイトを2人めがけて放つ。2人は銃撃とそこから発生した闇の亜空間を別々の方角へかわし、セイルはラミーの隙をぬってベディーへと駆け出して行った。ベディーはセイルの斬撃を籠手で受け止めるが、速さに加えて重たいその攻撃は、そう何度も受け止めることはできない。
「くっははははは!どうした、リカンツ!ついてこれねぇか?」
言いながら剣を横へ一閃させる。ベディーはしゃがみこんでそれを回避し、その姿勢から地面を蹴って反撃に出ようとした。だが、
「やらせません。ロックブレイク!」
フレアのプリセプツが完成し、彼の足もとから突如岩塊が飛び出し、行く手を塞いだ。怯んでいる間に、再びセイルの剣が襲い掛かってくる。舌打ちをし、防御の構えをとった、その時だった。
「あたいを無視してんじゃねぇよ!」
セイルがその声で振り返れば、ピコピコハンマーを繰り出すラミーの姿がそこにあった。ピコハンは、その玩具のような外見に反し、威力は大きい。それを身を持って知っているセイルは闘気を放ち、周囲へとそれらを吹き飛ばした。が、その間にラミーは上空へと飛びあがり、そこから短剣を振り下ろしてくる。全身を使って放たれる、華奢な少女の重たい一撃。セイルはそれを剣で受け止め、双方は弾けるように後退し、互いのパートナーの横に並ぶ。
「ベディー、あの後ろの女を狙いな。セイルはあたいが相手する。」
チャキッと武器を構えなおし、ラミーはそう指示する。
「ああ。それが一番良さそうだね。」
相手がヒトの女だからだろうか、ベディーは一瞬躊躇の様子を見せたものの、すぐに気持ちを切り替え、彼女に同意した。そんな彼に、ラミーはふっと鼻で笑った。
「できれば、獣化してさっさと片付けてほしいけどね!」
そんな冗談を口にして、セイル目掛けて駆けだす。
「そうしないで終われば、一番いいんだがな。」
フッと微笑を浮かべ、ベディーも少し遅れてフレア目掛けて走り出す。
「ティマ!」
その姿を見つけたロインが、大声で彼女の名を呼んだ。しかし、まぶたは硬く閉ざされ、ピクリとも動かない。その反応に舌打ちをし、キッとガルザを睨みつける。そのガルザも、ロイン達3人の姿を忌々しそうに見つめながら、ゆっくりと階段を下りてくる。
「お前らも暇なものだな。何故邪魔をする?そんなに姫が愛しいのか?」
「はっ!てめぇみたいな荒々しいエスコートしかできない奴に、大事な姫様を任せられるかってんだよ。」
「ガルザ、あなたの目的は何?ティマを還して!」
ロインに続き、ルビアがガルザに向かって叫ぶ。ロイン達と同じ階まで下りたガルザは、両の手を大きく広げ、その問いに答えた。
「我が望みは復讐と再生!すでに1つは果たした。残るは再生のみ!そして、それを実現するためには、どうしても姫の協力がいるのだよ。」
「復讐と再生、だと?」
カイウスが怪訝そうな表情で聞き返す。答えるガルザの声は、興奮を増していく。
「そうだ。我が父は、突然命を失うこととなった。世間一般には、リカンツに殺されたと言われているがな。だが、そうではなかった。父上はロイン!お前の母に斬り殺されたのだ!」
「「「!?」」」
その発言に驚愕した3人は、「まさか」と叫びそうになった。だが次の瞬間、ふと思い当たる節があることに気がつく。『リカンツに殺されたと言われている』ということは、グレシアがその人物を斬った時、その場にレイモーンの民がいた可能性がある。今度は違う感情のこもった「まさか」がこぼれそうになる。そして、3人の予想は的中した。
「俺は剣を学び、己を鍛えた。我が父、『サーム・ペトリスカ』の仇を討つために!…そして、その過程でまた知ったのだ。父上を―――いや、罪無き命全てを取り戻せる方法を、な。その為には、『白晶の装具』と王家の人間が必要だった。始めのうちは王に協力願おうと思っていたのだが、お前たちのおかげでその手間が省けた。礼を言おう。」
そう言って、復讐者ガルザは笑みを浮かべた。対照的に、思いもしなかった繋がりに、彼らはただ愕然としていた。カイウスとルビアは、復讐が復讐を生んだこの結果を、なんとも言えない表情で見つめていた。
「…つまり、そういうことかよ。」
そんな中、ロインの怒りのこもった声が飛んだ。
「てめぇは最初から、『復讐』のためにオレ達に近づいて、『再生』のために『白晶の首飾(クリスタル・ペンダント)』を奪おうとしてたってわけか!?」
最初から騙されていた。その想いが、ガルザが復讐者であるという事実よりも、ロインの頭を支配した。兄のように優しく、超えるべき背のひとつとして尊敬していたガルザ。家のことも手伝い、家族同然のように笑顔を見せていたガルザ。それが、すべて演技だった。それまで慕っていた分だけ、ロインの中に憎しみが生まれる。ロインは感情に任せて、ガルザにその意を問うた。しかし、ガルザはそれに対して何も言わず、視線をふと逸らした。それは、肯定ともとれる行動だった。ロインの拳が固く握られる。カイウスとルビアも、彼の怒りに同調して、キッとガルザを睨みつけ、身構える。そうしてわずかな間、沈黙が場を支配した。
「我らの計画に協力してくれた礼だ。お前たちに今、ここで選ばせてやろう。その場で静かに事を見守るか、或いは我が剣で塵と消えるか。」
静寂を破り、ガルザは剣を抜きながらロイン達を真っ直ぐ見据えて言った。その瞳は、彼の意思を量っているようでもあった。
「…決まってるだろ。」
ロインの低い声が答え、腰にある剣に手が伸びる。
「オレはお前を倒す!復讐のためだろうがなんだろうが、それまで猫被ってやがったてめぇが気にくわねぇ。それに…ティマに手出しすんじゃねぇよ!!」
言い終わると同時に、ロインは床を強く蹴り、ガルザめがけて駆け出した。少し遅れて、カイウスとルビアも武器をとり、ロインに続く。
「…残念だよ、ロイン!」
ガルザは一瞬瞳を伏せ、そして、戦いの場に立つ者の眼を持って、ロイン達へと向かっていった。
山の上の方は、標高が高いためだろうか、未だに雪が残っている。そんな中、銃声が、プリセプツが、剣を振る音が、雄叫びが響き渡る。ラミーとベディーは共に前衛。セイルはその2人を1人で相手し、フレアがその後衛を務めている。兵士2人組は、完全にバランスの取れた戦い方をしていた。フレアがプリセプツを唱え、その攻撃をかわそうとしたラミー達に生じた隙をセイルが狙っていく。彼の剣速はとても速く、ラミーはともかく、ベディーがそれに追いつけずに苦戦していた。そうしてセイルが攻撃を仕掛けている間に、再びフレアの攻撃術が完成していく。その意気は、直前に嫌味を言い合っていた、あのぎすぎすした関係からは想像できないほど投合している。
「このっ、食らいやがれ!バイティングエッジ!スナイプゲイト!」
得意のスピードを生かし、素早い斬撃を行う。そして至近距離から闇属性をまとった銃弾が連射される。バイティングエッジでセイルはフレアのそばまで後退し、そこへラミーはスナイプゲイトを2人めがけて放つ。2人は銃撃とそこから発生した闇の亜空間を別々の方角へかわし、セイルはラミーの隙をぬってベディーへと駆け出して行った。ベディーはセイルの斬撃を籠手で受け止めるが、速さに加えて重たいその攻撃は、そう何度も受け止めることはできない。
「くっははははは!どうした、リカンツ!ついてこれねぇか?」
言いながら剣を横へ一閃させる。ベディーはしゃがみこんでそれを回避し、その姿勢から地面を蹴って反撃に出ようとした。だが、
「やらせません。ロックブレイク!」
フレアのプリセプツが完成し、彼の足もとから突如岩塊が飛び出し、行く手を塞いだ。怯んでいる間に、再びセイルの剣が襲い掛かってくる。舌打ちをし、防御の構えをとった、その時だった。
「あたいを無視してんじゃねぇよ!」
セイルがその声で振り返れば、ピコピコハンマーを繰り出すラミーの姿がそこにあった。ピコハンは、その玩具のような外見に反し、威力は大きい。それを身を持って知っているセイルは闘気を放ち、周囲へとそれらを吹き飛ばした。が、その間にラミーは上空へと飛びあがり、そこから短剣を振り下ろしてくる。全身を使って放たれる、華奢な少女の重たい一撃。セイルはそれを剣で受け止め、双方は弾けるように後退し、互いのパートナーの横に並ぶ。
「ベディー、あの後ろの女を狙いな。セイルはあたいが相手する。」
チャキッと武器を構えなおし、ラミーはそう指示する。
「ああ。それが一番良さそうだね。」
相手がヒトの女だからだろうか、ベディーは一瞬躊躇の様子を見せたものの、すぐに気持ちを切り替え、彼女に同意した。そんな彼に、ラミーはふっと鼻で笑った。
「できれば、獣化してさっさと片付けてほしいけどね!」
そんな冗談を口にして、セイル目掛けて駆けだす。
「そうしないで終われば、一番いいんだがな。」
フッと微笑を浮かべ、ベディーも少し遅れてフレア目掛けて走り出す。