第9章 影と真と V
ホールの中央で剣士たちはぶつかり合う。ロインとカイウスの2人を相手に、ガルザは一時も休むことなく動き続けている。だが、そこに苦戦の色は一切ない。
「獅子王滅砕!」
獅子の形の闘気をぶつけ、その直後に斬り上げる技。ロインとカイウスは辛うじて回避に成功し、左右別々の方向から同時に攻撃を仕掛ける。だが、ガルザはそれを見透かしていたように冷静に構えた。
「旋鳳衝!」
回転斬りが2人を襲う。ロイン達はその場から弾かれ、受け身をとり、或いは転がりながらも手を床についてブレーキをかけ、遠くまで飛ばされまいと踏ん張る。
「イラプション!」
そこへ入れ替わるようにして、ルビアの炎のプリセプツが発動する。ガルザは炎に包まれるが、咄嗟に発動させた粋護陣により、外傷はある程度抑えられた。ガルザを包む炎が鎮火すると、カイウスが上空へと飛びあがり、ガルザ目掛けて剣を突き出し、一気に降下する。
「飛天翔駆!」
「舐めるな!閃空裂破!」
2人の剣は交差し、弾き合う。しかし、ルビアのプリセプツで多少なりともダメージを負ったせいだろうか、ガルザの顔はわずかに歪んでいる。そこへ休む間もなく、ロインの剣が彼を狙う。ガキィンと音が響き、2人は剣をぶつけ合いながら立ち止まる。
「…何故剣を向けてくる、ロイン?」
ガルザがそう尋ねるとほぼ同時に、ロインはバックステップで彼と距離をとる。そして、自分を見つめる赤い瞳に憎悪を込めた翡翠色の瞳が睨みつける。
「はっ!怖気づいたのか?てめぇが気にくわねぇから倒す。それで十分だ!」
床を蹴り、再びガルザと剣を交える。そんなロインのことを、ガルザは哀れなものを見るような目で見つめた。
「子供だな。俺には為すべき事がある。それだけの理由なら、できるなら引いてもらおう。」
「…なら、オレの為すべき事は、ティマを取り戻すことと、今ここでてめぇに復讐をすることだ。オレ達家族を裏切ったこと、後悔させてやる!!」
「解せないな。」
ガルザは言いながら、横から斬りかかってくるカイウス目掛けてロインを突き飛ばした。カイウスはそれにドキッとしたものの、すぐにロインを受け止め、態勢を整えさせる。ガルザはゆっくりと、そんな2人のほうに身体を向ける。
「お前の母の仇だということは、まぁ、よしとしよう。だが、ティマリア様については、お前達が口出しできることではない。あの方は一国の姫。対してロイン、お前は姫の何だ?ただの友人だと言うのならば」
「違うな。」
ガルザの言葉を遮り、ロインは言い放った。
「誓ったからだ。例え何が起きても、オレはあいつの傍であいつを守る。だから、ティマに得体の知れないことをさせる気なら、オレはお前を許さない!」
「それだけじゃない。」
続いて、カイウスが口を開く。
「ガルザ、あんたは罪もない人たちを傷つけすぎた。それは、到底許されることじゃない。」
そう言う彼の瞳には怒りが宿っている。イーバオやルーロの住人達。彼らは、突然家族や命を奪われた。その怒りや悲しみを考えれば、当然の事と言えた。今のガルザを許すことは断じてない、カイウスはそう瞳から語っていた。少年2人の後ろで杖を構えているルビアも、同感だというようにきつい目つきでガルザを見る。
「『再生』を望む?何の『再生』か知らないけど、あなたがしてきたことは、ただの『破壊』だわ!」
杖をビシッとガルザに向け、ルビアは言った。だが、
「…話にならない。」
ガルザは彼らの言葉をあしらうばかりだった。嫌悪を込めた冷たい視線を、彼らへ向ける。
「全ては『再生』のため。この計画が終われば、その犠牲さえ救えるというのに…。所詮、目先のものしか考えられぬ子供か。そんなに邪魔をしたければ、好きにしろ。跡形もなく滅してやろう!」
その時、突然ガルザの纏うオーラが変貌した。今までのそれが、まるでままごとか何かであったように思えるほど、重く、そして禍々しいものになったのだ。その気に、3人は一瞬圧倒されるものの、すぐに気持ちを切り替え、武器を構えなおし、ガルザと対峙した。
―――これがレイモーンの民の力!?
ベディーの度重なる拳を剣で受けながら、フレアは驚愕していた。彼は獣人化などしていない。だが、その筋肉質とはいえない体格で、次々と重い打撃を放ってくる。セイルも似た体格をしているが、ここまで強い拳は放てないだろう。くっ、と顔を歪ませ、思いっきり剣を横へ振るう。ベディーはそれを空中へ飛んで回避し、直後に彼女の背後をとり、そのまま身体をひねらせて右の拳をお見舞いした。フレアはその動きに対応できず、前方に突き出される形で吹き飛ばされた。
「くっ…すごい力ね。レイモーンの民って、皆そうなのかしら?」
痛む身体に鞭打って、フレアは態勢を立て直す。強気な表情でそう言葉を発した彼女に、ベディーは意外だ、というような驚いた表情を見せた。
「“リカンツ”とは言わないのか?」
その質問に、今度はフレアが戸惑った顔になる。
「…その呼び方は、あまり好きじゃないの。あなた達だって、私達ヒトとそう変わらない。全部のヒトが、あなた達をそんな風に見ていると思ったら、それは間違いよ。」
フレアは、やや口を尖らせて答えた。それを聞いたベディーは苦笑し、「それは失礼」と言葉を放つ。
「そう思ってくれているなら、貴女の質問は思い違いだよ。僕はこうして拳で戦うことを選び、これまで修行を重ねてきた。だから貴女が思うような戦いができるだけさ。」
そう言うと、フレアは納得した表情を見せ、「あら、それはごめんなさい」とベディーと同じ調子で言った。
「なら、やっぱりあなた達もヒトとそう変わらないのね?変に気負わなくていいわ。ライトニング!」
「ぐぅ!」
油断していたつもりはなかった。だが、フレアのプリセプツに反応が遅れ、ベディーは雷の攻撃を受けてしまった。ビリビリと痺れ、思うように身体を動かせない。そこへフレアは第二撃目の準備を整え、火球をベディー目掛けて放った。突進してくるそれをかわそうとするが、体は言うことを聞かない。
「何してんだ、ベディー!」
そこへラミーの声が飛んでくる。気がつけば、その主が彼の身体を突き飛ばし、フレアのファイヤーボールからその身を守ってくれた。だが、それだけでは終わらない。ラミーを追ってきたセイルの剣が2人を襲う。ラミーはすぐに振り返り、短剣で攻撃を受け止めた。そこへベディーの拳が割り込み、セイルの胸目掛けて一撃が放たれる。不意の攻撃に、彼はそのまま吹き飛ばされ、少し地面を転げたあと、フレアのそばで止まった。
「ラミー、たすか…!」
ベディーは少女に礼を述べようとしたが、思わずその言葉は途切れてしまう。なぜなら、ラミーは彼が少し目を離していた間に、全身のあちこちに刀傷を負い、出血で赤く染まっていたのだ。特に額に負った怪我のせいで、左目は出血でうまく開けられずにいた。対するセイルにも目を向けると、彼もかなりの傷を負っていた。彼の場合、左腕に負った怪我がひどいのか、右腕に比べると力が入っていなかった。2人の戦いの凄まじさを思わせる。そんな2人の様子に、フレアも目を見開いていた。
「無駄口もいいけどさ、ベディー?今の状況わかってんのか?」
ペッと血反吐を地面に吐き出し、呆れた口調でラミーが言う。
「別に遊んでいたわけじゃないんだがな…。」
ベディーがそうこぼすも、ラミーは聞いていない。武器を構えなおし、不気味に笑い声をあげているセイルを見ている。
「くくく…いいな、お前。その年でそんなに強いなんてな。隊長も惜しいことしたな。こんな強いガキ、捨てずにとっとけば色々楽ができたろうに。」
褒め言葉なのか挑発なのか、セイルはラミーを見ながら言った。対するラミーは、やや不機嫌な顔になる。気のせいか、額に怒りマークが浮かんでいるようにも見える。
「あんた、本当に性格悪いよな。黙ってりゃ、それなりにいい男なのによ?」
売り言葉に買い言葉。彼女もそう挑発ととれる言葉を投げかける。だが、セイルはそれを知ってか知らずか特に表情を変えることなく、地面を強く蹴った。
「余計なお世話なんだよ!」
「てめぇがなっ!」
少し遅れてラミーも駆け出し、2人はまた高速の戦いの世界へ入っていく。
「獅子王滅砕!」
獅子の形の闘気をぶつけ、その直後に斬り上げる技。ロインとカイウスは辛うじて回避に成功し、左右別々の方向から同時に攻撃を仕掛ける。だが、ガルザはそれを見透かしていたように冷静に構えた。
「旋鳳衝!」
回転斬りが2人を襲う。ロイン達はその場から弾かれ、受け身をとり、或いは転がりながらも手を床についてブレーキをかけ、遠くまで飛ばされまいと踏ん張る。
「イラプション!」
そこへ入れ替わるようにして、ルビアの炎のプリセプツが発動する。ガルザは炎に包まれるが、咄嗟に発動させた粋護陣により、外傷はある程度抑えられた。ガルザを包む炎が鎮火すると、カイウスが上空へと飛びあがり、ガルザ目掛けて剣を突き出し、一気に降下する。
「飛天翔駆!」
「舐めるな!閃空裂破!」
2人の剣は交差し、弾き合う。しかし、ルビアのプリセプツで多少なりともダメージを負ったせいだろうか、ガルザの顔はわずかに歪んでいる。そこへ休む間もなく、ロインの剣が彼を狙う。ガキィンと音が響き、2人は剣をぶつけ合いながら立ち止まる。
「…何故剣を向けてくる、ロイン?」
ガルザがそう尋ねるとほぼ同時に、ロインはバックステップで彼と距離をとる。そして、自分を見つめる赤い瞳に憎悪を込めた翡翠色の瞳が睨みつける。
「はっ!怖気づいたのか?てめぇが気にくわねぇから倒す。それで十分だ!」
床を蹴り、再びガルザと剣を交える。そんなロインのことを、ガルザは哀れなものを見るような目で見つめた。
「子供だな。俺には為すべき事がある。それだけの理由なら、できるなら引いてもらおう。」
「…なら、オレの為すべき事は、ティマを取り戻すことと、今ここでてめぇに復讐をすることだ。オレ達家族を裏切ったこと、後悔させてやる!!」
「解せないな。」
ガルザは言いながら、横から斬りかかってくるカイウス目掛けてロインを突き飛ばした。カイウスはそれにドキッとしたものの、すぐにロインを受け止め、態勢を整えさせる。ガルザはゆっくりと、そんな2人のほうに身体を向ける。
「お前の母の仇だということは、まぁ、よしとしよう。だが、ティマリア様については、お前達が口出しできることではない。あの方は一国の姫。対してロイン、お前は姫の何だ?ただの友人だと言うのならば」
「違うな。」
ガルザの言葉を遮り、ロインは言い放った。
「誓ったからだ。例え何が起きても、オレはあいつの傍であいつを守る。だから、ティマに得体の知れないことをさせる気なら、オレはお前を許さない!」
「それだけじゃない。」
続いて、カイウスが口を開く。
「ガルザ、あんたは罪もない人たちを傷つけすぎた。それは、到底許されることじゃない。」
そう言う彼の瞳には怒りが宿っている。イーバオやルーロの住人達。彼らは、突然家族や命を奪われた。その怒りや悲しみを考えれば、当然の事と言えた。今のガルザを許すことは断じてない、カイウスはそう瞳から語っていた。少年2人の後ろで杖を構えているルビアも、同感だというようにきつい目つきでガルザを見る。
「『再生』を望む?何の『再生』か知らないけど、あなたがしてきたことは、ただの『破壊』だわ!」
杖をビシッとガルザに向け、ルビアは言った。だが、
「…話にならない。」
ガルザは彼らの言葉をあしらうばかりだった。嫌悪を込めた冷たい視線を、彼らへ向ける。
「全ては『再生』のため。この計画が終われば、その犠牲さえ救えるというのに…。所詮、目先のものしか考えられぬ子供か。そんなに邪魔をしたければ、好きにしろ。跡形もなく滅してやろう!」
その時、突然ガルザの纏うオーラが変貌した。今までのそれが、まるでままごとか何かであったように思えるほど、重く、そして禍々しいものになったのだ。その気に、3人は一瞬圧倒されるものの、すぐに気持ちを切り替え、武器を構えなおし、ガルザと対峙した。
―――これがレイモーンの民の力!?
ベディーの度重なる拳を剣で受けながら、フレアは驚愕していた。彼は獣人化などしていない。だが、その筋肉質とはいえない体格で、次々と重い打撃を放ってくる。セイルも似た体格をしているが、ここまで強い拳は放てないだろう。くっ、と顔を歪ませ、思いっきり剣を横へ振るう。ベディーはそれを空中へ飛んで回避し、直後に彼女の背後をとり、そのまま身体をひねらせて右の拳をお見舞いした。フレアはその動きに対応できず、前方に突き出される形で吹き飛ばされた。
「くっ…すごい力ね。レイモーンの民って、皆そうなのかしら?」
痛む身体に鞭打って、フレアは態勢を立て直す。強気な表情でそう言葉を発した彼女に、ベディーは意外だ、というような驚いた表情を見せた。
「“リカンツ”とは言わないのか?」
その質問に、今度はフレアが戸惑った顔になる。
「…その呼び方は、あまり好きじゃないの。あなた達だって、私達ヒトとそう変わらない。全部のヒトが、あなた達をそんな風に見ていると思ったら、それは間違いよ。」
フレアは、やや口を尖らせて答えた。それを聞いたベディーは苦笑し、「それは失礼」と言葉を放つ。
「そう思ってくれているなら、貴女の質問は思い違いだよ。僕はこうして拳で戦うことを選び、これまで修行を重ねてきた。だから貴女が思うような戦いができるだけさ。」
そう言うと、フレアは納得した表情を見せ、「あら、それはごめんなさい」とベディーと同じ調子で言った。
「なら、やっぱりあなた達もヒトとそう変わらないのね?変に気負わなくていいわ。ライトニング!」
「ぐぅ!」
油断していたつもりはなかった。だが、フレアのプリセプツに反応が遅れ、ベディーは雷の攻撃を受けてしまった。ビリビリと痺れ、思うように身体を動かせない。そこへフレアは第二撃目の準備を整え、火球をベディー目掛けて放った。突進してくるそれをかわそうとするが、体は言うことを聞かない。
「何してんだ、ベディー!」
そこへラミーの声が飛んでくる。気がつけば、その主が彼の身体を突き飛ばし、フレアのファイヤーボールからその身を守ってくれた。だが、それだけでは終わらない。ラミーを追ってきたセイルの剣が2人を襲う。ラミーはすぐに振り返り、短剣で攻撃を受け止めた。そこへベディーの拳が割り込み、セイルの胸目掛けて一撃が放たれる。不意の攻撃に、彼はそのまま吹き飛ばされ、少し地面を転げたあと、フレアのそばで止まった。
「ラミー、たすか…!」
ベディーは少女に礼を述べようとしたが、思わずその言葉は途切れてしまう。なぜなら、ラミーは彼が少し目を離していた間に、全身のあちこちに刀傷を負い、出血で赤く染まっていたのだ。特に額に負った怪我のせいで、左目は出血でうまく開けられずにいた。対するセイルにも目を向けると、彼もかなりの傷を負っていた。彼の場合、左腕に負った怪我がひどいのか、右腕に比べると力が入っていなかった。2人の戦いの凄まじさを思わせる。そんな2人の様子に、フレアも目を見開いていた。
「無駄口もいいけどさ、ベディー?今の状況わかってんのか?」
ペッと血反吐を地面に吐き出し、呆れた口調でラミーが言う。
「別に遊んでいたわけじゃないんだがな…。」
ベディーがそうこぼすも、ラミーは聞いていない。武器を構えなおし、不気味に笑い声をあげているセイルを見ている。
「くくく…いいな、お前。その年でそんなに強いなんてな。隊長も惜しいことしたな。こんな強いガキ、捨てずにとっとけば色々楽ができたろうに。」
褒め言葉なのか挑発なのか、セイルはラミーを見ながら言った。対するラミーは、やや不機嫌な顔になる。気のせいか、額に怒りマークが浮かんでいるようにも見える。
「あんた、本当に性格悪いよな。黙ってりゃ、それなりにいい男なのによ?」
売り言葉に買い言葉。彼女もそう挑発ととれる言葉を投げかける。だが、セイルはそれを知ってか知らずか特に表情を変えることなく、地面を強く蹴った。
「余計なお世話なんだよ!」
「てめぇがなっ!」
少し遅れてラミーも駆け出し、2人はまた高速の戦いの世界へ入っていく。