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モンスターハンター 無法者が行く旅路

からん

INDEX

  • あらすじ
  • 01 旅立ち ―プロローグ―
  • 02 Ro.01 ―無法者の狩人―
  • 03 Ro.02 ―謎の乱入者―
  • 04 Ro.03 ―旧友―
  • 05 Ro.04 ―初クエスト―
  • 06 Ro.05 ―遭遇―
  • 07 Ro.06 ―交戦―
  • 08 Ro.07 ―夕暮れ時―
  • Ro.07 ―夕暮れ時―

    薄暗い森の中を飛び交う赤い線のような光。それが一つ大きく曲がる度、銀色の輝きが宙をかける。
    二つの光は時に盛大に音を鳴らし、時に静かに交差する。まるでそこにだけ規則性があるかのように金属音が森に響く。

    音はそれだけではない。地を蹴り土が抉れる音、身体が空気を押しのけ小さな突風となる音、腹の内から湧き出る言葉にならない声。
    彼らは合唱しているわけではない。踊っているわけでもない。彼らは今、戦っていた。

    「らぁっ!!」

    すれ違い様に黒尽くめが、アモスが闇色の大鎌を振るう。鈍い輝きを放つ刃が黒い毛並みに突き刺さり、掻っ切る様にして鱗を削いでいく。
    大鎌はその独特の形状がゆえにモノを斬る際少々コツが必要だ。剣を振る際の動作が振り上げと振り下ろしの二つに対し、鎌はそこへ引くという動作が加わる。

    最初の一撃で刃を相手に食い込ませ、刃を引っ張ることで相手を引き裂く。あるいは自身の身体を回転させながら相手を掻っ切るように斬り裂く。
    特に難しい動作ではない。結局のところ獣が獲物に爪を突き立てるよう、鎌という爪を獣に突き立てれば良い話なのだ。

    引き裂かれた箇所からは赤い肉が見え、同時に熱い滴が溢れ出す。けれど黒い飛竜、迅竜ナルガクルガはそんなことでは止まろうとしない。
    前足が地面についた瞬間、黒い身体が反転してアモスの背後を視界に映す。

    「ッッ!?」

    死角から狙われる危機感がアモスを前方に向かって飛び込ませる。視界が上下逆さまになった状態で見たのは迅竜の突進する姿だ。
    硬質化して刃のようになった翼が地面に振り下ろされ、ドンッという炸裂音と共に土が吹き飛ぶ。咄嗟に腕で飛んでくる土から顔を守る。

    視界が塞がった状態のまま地面に落ちると続けざまに身体を横へ転がす。瞬間、アモスがいた場所に再び凶悪な翼が叩きこまれた。
    地面が容易く爆裂する音に若干の冷や汗を感じつつ、迅竜が勢い余って体勢を崩しているうちに身体を起こす。

    一度大きく息を吐いて呼吸を整える。そして迅竜が振り向こうとした瞬間に全力で駆けだす。
    視界に入る前に鎌を横に一閃。強固な翼に当たったために刃が耳障りな音を立てて弾かれるが、けれどアモスにとっては充分な一撃だった。

    (気刃化ッ)

    瞬間、大鎌の刃から血が溢れ出す、否、紅い光が溢れ出す。紅い光は悠々と大鎌の周りへ纏わりついて刃に凶悪な煌きを宿す。
    紅い光の正体は気力というものだ。生命が活動する際に生み出す身体を動かすための燃料、あるいは超常的原理による不可解な力の源等と世間ではいわれている。

    それを人の手によって物理的な力へと昇華したモノを錬気という。大鎌から溢れ出す光もまたアモスによって錬気されたものだ。
    気力を錬気した時の恩恵は様々ある。破壊力の上昇や筋力の底上げ、体力の向上や致死に耐えうる身体等その恩恵は測り知ることができない。

    アモスが行った錬気は武器の切れ味上昇だ。先程よりも凶悪な雰囲気を放つようになった大鎌が再び迅竜へと振るわれる。
    今度は抵抗なく迅竜の翼に刃が食い込む。刀剣のように硬くなった翼がバキバキと乾いた音を立てて崩壊し、大枝がへし折れたような音と共に鎌が振り抜かれる。

    かつて壊れることのなかったモノが壊れ、迅竜が絶叫をあげる。しかしアモスは構うことなく次の一撃を振るう。
    狙いは黒く細い迅竜の尻尾。大鎌を逆袈裟に斬り上げ、同じ所をなぞるようにして斬り下ろす。黒い毛が拡散し、熱い滴が宙に舞う。

    このまま尻尾を切り取るか、そうアモスが考えていると突然迅竜の姿が消えた。実際には消えていないのだが、アモスにはそう見えた。
    後ろか左右か、けれどアモスが取った行動はただの前進。次の瞬間、漆黒が落ちてくる。

    森全体が震えたと思えるほどの轟音。地面の土が一斉に宙へ舞い、辺りの木々から窺っていた小動物の気配が一切消えた。
    轟音を立てたその正体は、迅竜の尻尾だ。空高くから鞭のように尻尾をしならせ振り下ろした一撃を大地に叩きつけたのだ。

    文字通り必殺の一撃を放ち満足そうに鳴く迅竜。しかし舞っていた土が晴れた時に見えたのは地面にめり込んだ己の尻尾のみ。
    必殺の一撃が当らなかった。その事に迅竜が気付いたとしても既にアモスは死角から大鎌を構え、前に脚を踏み出していた。

    「喰らえ」

    瞬間黒の竜巻となって迅竜に迫り、スパッ、と巨円の軌跡が漆黒を刈り取った。

    Ro.07 ―夕暮れ時―

    アモスが尻尾を担いで少女の下に辿りつくと、そこには真っ赤に染まった空間(地獄絵図)があった。

    「……何をしている?」

    「あっ! ようやく来た!」「がぶがぶ」

    アモスの問いかけに笑顔で反応する美少女、ただし血塗れ。その姿が余りにも痛々しすぎて、アモスは思わず彼女が血塗れである理由に視線を送る。
    そこにあるのは一匹の群れ長だったものの哀れな姿だ。毛皮はひん剥かれ牙は抜き取られ襟が除かれ爪を剥がされた挙句、太ももに歯形までついている。

    狩りを終えたハンターは仕留めた獲物から素材を剥ぎ取るものだ。そしてその素材を使って己の武器防具を強化したり金策に使ったりする。
    なので、別に彼女はハンター的には間違ったことはしていないのだが、しかし………。

    「あー……お前が仕留めたのか、そいつ」

    「うん!」「がぶっ」

    「あ、そう」

    改めてドスジャギィの死体を観察すれば胴に巨大な刀痕がある。恐らくそれが致命に至った傷であり少女がつけた傷だろう。
    まあ、自分が貸したあの青い剣さえあれば当然の結果だろうとアモスは思う。あの剣ならばド素人でも岩を両断できると思う。

    それよりも注目すべきはその解体された跡だ。素材を剥いだのは分かるが、腹が大きく切り開かれており何かがごっそり抜き取られた跡がある。
    いや、何が抜き取られているのかは分かる、分かってしまう。なぜならアモスもまたやったことがあるからだ。念のために確認しておく。

    「お前、誰に解体教えて貰った?」

    一瞬、少女は目を見開いてきょとんとすると、何で聞かれたのかが分からないといった風に首を傾げてのたまった。

    「レヴァンさんだよ?」「がー?」

    瞬間、アモスの脳裏を一人のおっさんの顔が駆け抜ける。ああ、あのおっさん懲りずにまた教えたのか。思わずアモスは天を仰いだ。
    かつて義親に生き物の解体技術を教えてもらった時を思い出す。嬉々とした表情でドスジャギィと同じくらいの大きさの獲物を一緒に捌いた記憶だ。

    真っ赤に染まった顔で食べると美味しいお肉を教えてくれる笑顔の義親。何の疑いも無く信じてしまった無垢な子ども、もとい哀れな自分。
    一応役に立つ技術ではあるが、普通は肉食獣から生肉なんて取らない。その事を知らずに新米の頃張り切って披露したら周りの人間に引かれたのは黒い歴史である。

    頭を振って昔のことを忘れようとしていると、不意に少女が何かを持ってくる。ピンクっぽい赤みを帯びた柔らかくもクセの強そうな四方を切り落とされた謎の物体。
    簡潔に言おう、肉だ。

    「カルビあるけど食べる? それともハラミ、なんこつ、レバーに砂肝、ロースとかホルモンとか、あ、ぼんじりもあるけどっ?」「がうがう」

    肉類が好きなのか、少女は華が咲いたように嬉々とした表情で(暗くて見にくいが)取れたての食材を見せながら話しだす。
    それを見てアモスは悟る。あ、この子もう手遅れだ、と。

    「……帰る」

    「あっ! ちょっと待って!」「がうっ」

    もはや何も言えなくなったアモスが歩きだすと少女も小走りに続く。無論、蒼いのもだ。

    「おい、あんまり近寄るな、血生臭い」

    「女の子に向かって血生臭いはないよ!」「がー!」

    頭巾に隠れて顔は見えないが、もしアモスの素顔が見えていたらきっと眉間にしわを寄せて心底面倒臭そうに顔を歪めているだろう。
    しかし、さすがの少女も血生臭いと言われて黙っているわけにはいかない。蒼いのも抗議の声をすかさず上げた。

    「うるせぇ、もう少しキレイに解体しろ」

    「あんな大きいのは初めてだったんだもの………」「がう?」

    どこか照れくさそうに赤くなった頬を両手で挟み背を丸めたその姿は、恐らくアモスでさえも心の内に花が咲いたかのように可愛らしいと思えるものだろう。
    まあ、暗い森の中ではその顔を窺い知ることは難しく、そも別の意味で顔が赤くなっているのでむしろ見たくないとはアモスの弁。

    とりあえずよく動く口を黙らせるためにタオルを一枚少女に渡しておく。さすがに濡れたままというのは抵抗があるらしく、黙って少女は顔を拭き始めた。
    そうして沈黙に浸りながら目的地のキャンプ周辺まで来た所で、不意に少女が何かに気づいたように声を漏らす。

    すぐさまアモスの方へと顔を向けると同時に不安と期待がない交ぜになったような声で言った。

    「そういえば名前覚えてる? 何度か言ったと思うけど」

    数瞬、その問いに悩む素振りを見せるが、帰ってきた答えは。

    「………知らん」

    「うわ、やっぱり人の話聞いてない、こういう人って面倒臭いよねー?」「がうー」

    うるせーなー、とアモスは悪態をつくが事実なので言い返せない。彼自身興味のない話は全く耳に入ってこないし聞く気にならないのだ。
    まるで拗ねているかのような姿を見て、少女は蒼いのと顔を見合わせると、ぷふっと息を噴きだすように笑った。

    「じゃあもう一回自己紹介するね」

    そう言うや小走りにアモスを追い抜いて行けば、そこは森の終わりであった。
    山の向こう側に半分近くまで姿を隠した太陽が空を朱に染め上げ、広大な河川の水色が空の紅を映し、草色の原っぱが何処までも真っ赤に燃え上がる。

    岸部を行く草食動物達が炎を纏っているように見えれば、空を飛ぶ鳥の影さえ陽炎に飲まれて見える。
    赤く紅く、朱色に燃え上がっては炎の輝きを、何も無い空間を光が照らす。

    大自然の一日の終わり、美しき一時の風景。人の枠を超えて世界へと立った者だけが見ることの出来る鮮紅の景色。
    人によっては美しい思える光景を、アモスはそう思わなかった。赤も紅も朱も炎も全て嫌な記憶しか思い出せないからだ。

    突如、スッと影が視界に差す。無意識に俯けていた顔を上げれば、少女が自分よりも少し高い位置から自分を見ていた。
    肩まで届きそうな色素の薄い金の髪、可愛らしくもありけれど鋭利な印象を与える瑠璃の瞳、一文字に引き伸ばした小さな桜色の唇。

    「わたしの名前は二ーナ。二ーナ・テイル、よろしくっ!!」

    彼女が、にやっと口の端を引き上げて、そう名乗る。
    自然と口が開いてしまった。

    「……アモス、と名乗っている」

    「知ってますっ」

    にこにこと少女、二ーナが笑う。その姿に強烈な違和感と懐かしさをアモスは覚える。
    そのことにほんの少しだけ困惑して、気付いた。分かってしまった。思い出してしまった。

    自分はこの娘と以前に会っていることを。
    あの、赤い記憶と共に思い出した。


    「で、こいつは何時までついてくるんだ?」

    「連れて来ちゃダメ?」「がふっ?」

    12/11/17 03:40 からん   

    ■作者メッセージ
    主人公「アモス」コミュ症鎌使い
    ヒロイン「ニーナ・テイル」頭の緩い新米
    モブ「ジョン」熊男
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