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モンスターハンター 無法者が行く旅路

からん

INDEX

  • あらすじ
  • 01 旅立ち ―プロローグ―
  • 02 Ro.01 ―無法者の狩人―
  • 03 Ro.02 ―謎の乱入者―
  • 04 Ro.03 ―旧友―
  • 05 Ro.04 ―初クエスト―
  • 06 Ro.05 ―遭遇―
  • 07 Ro.06 ―交戦―
  • 08 Ro.07 ―夕暮れ時―
  • Ro.01 ―無法者の狩人―

    街は人込みで溢れていた。
    道を歩く人々は様々である。麻の服を着る者、上等な外套を纏う者、木箱を抱えている者、鉄の鎧を身に着けた者。

    いつのまにか生まれた流れに沿うように右あるいは左、または前か後ろに向かって人が流れていく。
    道の端の店舗から商人による客寄せの声が上がれば、隣りでは風呂敷を広げた行商人が客と話している。

    突如として地面が光り輝く。否、人込みが割れたことで石畳が陽の光を反射したのだ。
    上から見れば光で出来たような道を竜車が進んでいく。荷車を引く草食竜(アプトノス)は目を光でやられないよう目隠しをされていた。

    御者台では男が手を影にして道順を確かめている。時折目の前の人込みに向かって怒声を上げれば地面に新たな道が生まれ、通り過ぎれば再び影に包まれる。

    延々と続くその光景を、荷台の上から眺め続ける。当初存在した街への興奮も、今ではすっかり冷めてしまっていた。
    どうしてこの街はこんなに暑いのか、答えはきっと自己主張の激しい奴がいるからだ。そんなことを頭の中で考える。

    この蒸し暑い中をひたすら耐え続けるのは苦痛である。何か気を紛らわせるものはないかと辺りを見回せばそこは人の波。
    自然と視線の行く先は人々に向かう。麻の服を着る半裸の者、上等な外套を暑そうに纏う者、木箱を必死に抱える者、道半ばで倒れた鉄の鎧。

    そして、一瞬見えた黒い影。

    事前に記憶していた特徴と同じ影。確かめようと思うその前に人込みに紛れて見えなくなる。
    けれど、見えなくなっただけとも言える。

    御者へ伝える言葉は一言で充分、すぐに荷台を降りて影に向かって走り出す。
    小柄な体では人込みをかき分けるのは難しく、人と人の隙間に体を滑り込ませて前に進む。

    遠くに見える影に向かって進んで進んで進み続け、

    「あなたのことを許しません」

    強固な意志を持って口にされたその言葉は、影に向かって放たれた。


    【Root.01 無法者の狩人】


    「あなたが無法者(アウトロー)ですか?」

    街を歩いていると後ろから名を呼ばれた。歩みを止めて振り返れば、そこにいたのはいわゆる『ハンター』だった。

    「……まあ、そう呼ばれていないこともないが」

    はっきりと断定しないのは相手が誰なのか分からないからだ。疑惑の籠った視線を感じたのか、リーダーらしき若者が口を開く。

    「ボクの名はラインハルト、猟団『竜尾噛』の団長を任されている、よろしく」

    若者、ラインハルトがにかっと笑う。その瞬間頭の中で警鐘が鳴らされた、こいつは非モテの敵である、と。
    着ている装備はおそらく火竜リオレウスのもの、頭にヘルムが無いが代わりに綺麗なピアスをしているため何かの恩寵品だろうと推測する。

    背中には銀色の大剣が背負われており、どことなくレッドウィングに似ている。少なくとも自分の知らない武器であるのは確かだ。
    そして、何よりも凶悪だと感じたのはその顔である。にかっと笑った瞬間、道を歩いていた女性たちが次々と黄色い悲鳴を上げたのだ。

    こいつはとんでもないやつが現れたものだ、内心では戦々恐々としながらもこちらも名乗り返す。

    「オレの名はアモス、ただの一般ソロハンターだ」

    「ただのハンターが無法者なんて言われないでしょ」

    「んだんだ」

    ラインハルトの後ろにいたハンターがいかにも呆れたといった声を出した。確かにその通りではあるが、少しイラッとした。
    文句の一つや二つ言っても構わないだろうと思っていると、ラインハルトが真剣な顔つきで口を開いた。

    「無法者、いやアモスさん、あなたにギルドから勧告が来ています、ギルド本部までご同行お願いできますか?」

    「はあ? オレ何かしたか?」

    「何かしたんだから呼ばれたんでしょーがっ!!」

    「んだんだ」

    特に身に覚えはないなー、とアモスが頭を掻いているとラインハルトの後ろにいる女が叫んだ。どうやらアモスの態度が琴線に触れたらしい。
    あと、もう一人呑気そうな顔をした大男が頷いているが、無視しておこう。

    「依頼人への恐喝、支給品の持ち帰り、契約金の踏み倒し、複数武器の所持、ギルド職員への暴力未遂、外部関係者との協力、贋作の納品、武具の無断譲渡……」

    不意にポツポツとラインハルトが言葉を連ねていく。先程までの友好的な態度とは全く違う様子に、アモスも首を傾げる。
    周りでは徐々に人だかりができている。その視線というのは好奇心であったり、憧れであったり、冷めたものであったりと様々だ。

    しかも黒尽くめの男に向かって話すラインハルト達の姿は、まるで犯人を追いつめる探偵のようである。俳優がカッコいいハンターであれば尚更だ。
    そしてラインハルトの淡々とした口調は、徐々に熱を持ち始める。まるで我慢していた怒りが溢れ始めているといった風に。

    「国の騎士団とは何度も揉め事を起こし、特に狩り場では生態系が壊れる程にモンスターを狩っているそうですね……」

    ラインハルトの視線がアモスに縫いつけられる。その表情から読み取れるのは怒りと悲しみと、あとは後悔といったところか。
    さて、本当に自分は何か恨まれるようなことをしたのか、アモスは昔の記憶を少し漁る。

    まあ、分からないことは聞けば良いか。

    「そんで? まあギルドの呼び出しはさすがに断れんけどよ、それよりオレ何かお前らにしたっけか?」

    「あなたは!!」

    声が荒れた。何か胸の内にある感情をのせるようにして、もう一度声を上げた。

    「あなたは! 生態系が崩れることで周辺にどんな影響を与えるのか、分かってるんですか!?」

    「あー、まあある程度の予想はつくけど」

    「なら、その影響によって外から新たな生き物がやってくるのは分かりますか?」

    ラインハルトが尋ねる。それくらいは大体予想できる、とアモスは頷く。
    ならば、とそう言って、ラインハルトは指を立てる。今や周りの野次馬達は観衆となり、辺りは静まりかえっている。

    それはまさしく探偵が真実を告げるような光景であった。

    「外から強いモンスターがやってきて、そこに食べ物が無かったらどうなるか、分かりますか?」

    その言葉を聞いてアモスは一つの推測に辿り着き、そして目を見張った。ようやく彼らが一体何者なのか、分かったからだ。

    「餌を求めて人の村にやってくる」

    「そうです、そして実際にそれは起きてしまった」

    かつてアモスがやった生態系の破壊。それによってモンスターが現れ、そして村は襲われた。
    言い換えればアモスのせいでモンスターが現れたとも言える、そうラインハルト達は告げているのだ。

    なるほど、確かにそれなら恨まれても仕方ないのだろう。自分の行為によって誰かが傷ついたのだから。
    ただ、少なくとも。

    「それで誰かが死んだとしても、そいつが弱かっただけだと思うがねぇ」

    たったの一言であったが、それだけで場が凍った。観衆も聞き耳立てていた獣人も大男も女性も、もちろんラインハルトも。
    弱かったから死んだ、強かったら死ななかった。この世界では最も当たり前の言葉であり、故に最も嫌悪される言葉だ。

    それを平然と口にしたアモスに周囲の人々は嫌悪の感情と侮蔑の言葉を心に籠めた。きっと大勢の人が負の感情を抱いたに違いない。
    しかしそれよりも、目の前で徐々に殺気を増している人物に注目が行く。

    ラインハルトに視線が集まる。

    「ボクは……あなたを許しません」

    明確な殺意、いや殺人を起こすようなマネはしないだろうが、だがこの場でアモスを切りつけるのに何の躊躇いもない表情ではあった。
    恐らくそれだけの理由が彼にはあるのだろう。ただそれがどういったものかまでは分からないが。

    さてどうしたものか、とアモスは青色の柄にそっと手を添える。あくまで添えるだけだ。
    街中での戦闘、狩猟用武器の使用、加えて暴力沙汰あるいは刀傷沙汰にでもなればブタ箱行きは確実だ、周囲は人が囲んでいて逃げにくそうである。

    最高はこのまま何事も無くこの場を通り抜けてギルド本部に逃げ込むこと。最低はこのまま目の前の男に斬られること。最悪は剣を抜くことといったところか。
    正直ギルドの本部なんて行きたくないし、斬られるのも嫌だ。かといって剣を抜けば治まりがつかなくなる。

    徒手空拳で倒すか、いや忘れてはいけない、相手は三人いる。それに無駄に正義感のある奴が乱入してくる可能性も捨てきれない。
    考える、この場を切り抜ける方法を。いや切ってはいけない。この場を潜り抜けて去る方法を。

    静寂が場を包む。もはや誰もが目の前の光景を見守るしかなかった。
    ここで一つ、アモスはある一つの可能性を忘れていた。

    今の彼は悪役である。しかし、もしもそのことを知らずにいる者がいたとしたら?
    もしもそれが、無駄に正義感のあるやつだったら?

    「ちょっ、ちょっと待ったー!!」

    もしもそいつが、自分を助けようとしたら?

    12/07/30 01:19 からん   

    ■作者メッセージ
    主人公の描写が「黒尽くめ」の一言のみ、どういうことだ……?
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