CROSS CAPTURE8 「曙ける想い」
「!!」
気楽に、しかし、確実に言い放った炎産霊神の言葉に、凛那を初めに神無らも言葉を失い、驚愕の表情を見せる。
その様子を見て、炎産霊神は陽気に笑い、無轟はいたって平静に彼の笑いを諌めるように言う。
「だったらどうした。こちら側の凛那は壮健で何よりな話だ」
『あ、そう。じゃあ、そっちも自己紹介してよ」
「あ……ああ」
彼の言葉に、言葉を詰まらせる神無。直ぐに凛那を見抜いた洞察力を想って、神無は名乗る勇気を要した、が自身が言った言葉を思い返す。
確りと受け止める。臆せずしっかりと目の前の無轟を見据えると。目の前に居る男は、父(むごう)ではない、無轟だ。
「――俺は、神無」
「かんな……?」
神無の名乗り、呆気のような声を零す無轟に続けてツヴァイらの自己紹介を交えた。
結果、無轟は呆気から苦笑をつくり、しかし、安堵にも似た微笑を最後に浮かべる。
「なるほど、こちらのお前はそこまで大きく成長していたか」
我が息子もいづれはこうなるのだろうか、と内心想いつつ、話を続ける。
「……しかし、残念だ。こちらの俺はもう居ないのだ…と」
「っ」
何かを言い返そうとした凛那は言葉を詰まらせ、直ぐに身を翻す。
小さく俯いて、彼女はか細く言ったと同時に素早く歩き出した。
「…失礼する」
「あ、待って凛那」
その様子に不安を懐いたツヴァイが慌てて連れ添うように出て行った。
神無も神月も心配そうに目で追い、無轟も失言したと想って頭を下げた。
そんな中、炎産霊神が出て行った凛那を不思議そうに見つめながら、無轟らに言う。
『あの凛那が居るって事は、こちらの側にも彼がいるのかな』
「彼……ああ、もしかすると奴か」
「奴?」
妙に得心する無轟に対し、神月が怪訝に問うた。
「器師、伽藍……ですよね」
だが、その問いかけを二人ではなく王羅が答えたのだった。
その答えに二人は頷いた。
理由は簡単だった。こちらに『無轟』という存在がいた、更には同じ過程を経て作られたであろう『明王・凛那』が在る。
これらの要素から、こちらの世界にも『伽藍』という男が存在し、こちらの無轟らと接触している筈であった。
神無はその男についてうろ覚えに覚えていた。父の葬式、特に誰にも報せずに執り行っていた時に何人もの男女が父の死を知り、駆けつけてきた。
その中に、包帯で素顔を隠した異様な風体をした男性――伽藍と名乗っていた事を。そして、確かに『凛那は俺が作ったものだ』と教えてくれたのだった。
「……つまり、伽藍がいるならそれが直せるってことか」
『そういう事。でも、あの人ってさー……もしかすると』
「あちこちの世界を渡り歩く気ままな人ですよ」
ある種の被害者であった彼女、苦笑紛れに王羅が言った。それを聞いた炎産霊神はショボンと落ち込んだ。
数少ない希望が限りなく果たせなくなったものだと、落胆する。
『もう駄目だ、凛那がないと無轟がー』
「一々嘆くな。そうなるならそうと戦えば――」
「問題ないですよ」
無轟の言葉を王羅が今度は喜色を込めて言う。神無らの視線が彼女へ向く中、彼女は話を続ける。
「こちら側の伽藍さんの連絡は取れます。今からなら明日かそれくらいにでも来ますよ」
「おいおい、話を聞く限りじゃあろくな住居を構えない放浪癖がありそうな奴の連絡がとれるってのか」
「実は…以前にあの人と再会して、『個人的な用事』を済ました折に……」
そういうと、彼女は何処からか、ベルのついた小さなオブジェを取り出し、ベルを指で弾いた。
透明に済んだ音色が響き、そして静まる。その動作を終えて、王羅は再びオブジェをコートの中に納める。
説明求めるといった様子の彼らに王羅が応じて、返答する。
「さっきのは彼を此処に呼びつける為の発信音だよ。後はあちらが此処にやってきて貰えばいいだけ」
『…ほんとに来るの?』
「これは自分が気に入った人とかにまたご利用してもらう為に渡しているんだって。…まあ、つい最近だけど。
一度鳴らせばこれがビーコンみたいになってやって来れるわけです」
「なら気長に待つか。……何から何まですまないな」
「いえ、お気になさらず」
王羅は笑顔で返し、安心した無轟はベッドに横になる。休眠の様子を察してか神無らも一旦、部屋を出ることにした。
出る前に、念のため、ビラコチャに確認の問いかけをする。
「ビラコチャ、そっちは大丈夫か?」
「問題はない。また何かあればすぐ呼ぶ」
相変わらず短く返した彼に神無は苦笑で頷き、神無は息子と王羅と共に出て行った。
彼らが部屋を出て行くのをわざと瞼と閉じ、休眠の様子でいた無轟が瞼を閉じたまま口だけを動かす。
「炎産霊神」
『ん、何?』
そろそろ消えて、自分も休もうとしたその時に無轟に声をかけられた彼はやや眠気を抑えた声で返す。
その声音に小さく笑んだ無轟だったが、不安げに表情を険しくし、言った。
「クウが心配だ」
『僕もさ。彼は今独りだからね』
無轟も、炎産霊神も孤独の苦しみを知っていた。自分らが安堵することが出来るのは、こちら側の神無らの存在があった。
彼らの心優しさに心身ともに傷ついた体も癒される想いだ。
だが、今、彼は、クウは違う。周りの優しさを拒み、向き合うべきものも拒み、ついには寄り添うものも拒んで、飛び出した。
そんな彼は孤独と言わずしてなんだろうか。
「……俺は、少々手厳しい方法で奴を正そうと想う」
『いいんじゃない? それが無轟らしいし』
静かな決意の言葉を、炎産霊神は陽気に同意する。薄く開いた無轟の瞳に、熱い意思が刹那に燈し、静かに彼は眠りについた。
そんな彼を尻目に、傍に居続ける炎産霊神は心の中で呟いた。
『僕に出来るのは、一緒にいてあげることくらいだ。だから、思い切り、自由に愉しもう、行動してくれ……無轟』
眠る彼へ笑顔を向け、彼も火の粉を散らして眠りつくと共に消えた。
一方、紗那とヴァイはレイアと共に負傷した女性たちの居る部屋に戻ろうとしたが、あえて別の場所で休息をとることにした。
それはヴァイの判断だったが、紗那は反論せず従う。辿り着いたゼロボロスたちがいた庭園、用意された長椅子に腰掛けていた。
「ここならちょっとは落ち着けるかも?」
「大丈夫……な、わけないか」
紗那は椅子にかけず、レイアの傍で心配そうに佇んでいる。
心配に想って問いかけようとヴァイは声をかけたが途中でやめる。
そんな彼女にレイアは小さく明らかに無理をしている慰めの微笑を返す。
「いえ、だいじょうぶ……です」
「嘘よ。無理してる」
「ええ。無理をしていますわ」
紗那の言葉に続いてきた声、それは庭園の方へ姿を現した女性。
半神キサラ。かつては光、今は光と闇を司る半神の彼女が断言する。
ヴァイと紗那は慌てて、キサラに駆け寄って頭を下げる。
「ごめんなさい!」
「ごめんなさい…すぐに部屋に戻るべきなんだろうけど……すみません」
負傷した彼女を部屋まで連れて行き、本来戻るべき部屋へ戻さず此処につれて来た事への詫びを。
キサラは優しく下げた頭をそれぞれ撫で、気にしないでいいと言って、二人を過ぎった。
そして、レイアに歩み寄り、屈んで彼女の手を包むように自分の手を添えた。
「……」
その様子にレイアは口を噤んだ。憂いや悲しみに言葉が出なかったからだった。
それを察して、キサラは優しく言葉を紡ぎだした。
「大切な人に拒まれる痛み、私もかつてありましたわ」
それは遠い過去。光と闇それぞれの半神として、対の存在だった彼を思い返す。
「あんなに想いあっていたのに、あんなに解りあえていたはずなのに…」
決別してしまったあの日を。それから長い年月が過ぎ、彼が死した報告を知らされる。
「…まだ、貴女には出来る筈よ」
あの時、戦いに臆せず真っ向から向き合っていれば、彼を喪わずにいられたのかもしれない。
「彼を助ける事のできる人は貴女、皆だから」
喪った彼が残した力を受け継ぎ、自分は生まれ変わった。
「そして、私が今出来るのはこんなことくらいね……」
小さく暖かな微笑を零すと、包む手が淡い光を放つ。
「!」
驚くレイアだったが、すぐに自然に安堵する。彼女の光が、とても心地よく優しい光だった。
やがて光が収まり、キサラは屈むのをやめ、立ち上がった。そして、レイアへ手を差し伸べる。
「さあ、行きましょう」
「……はい!」
応じるように彼女の手を握り返す笑顔を見せたレイア。その手を握り、ゆっくりと引っ張り立ち上がらせる。
レイアは心の中で驚いた。此処に来て、一度たりとも重苦しい体への重圧が嘘のようであったのだ。
「でも、大丈夫かな」
キサラとレイアが一緒に歩みだす中、遅れてヴァイと紗那がついていく。そんな中、ヴァイが不安げに言う。
紗那も彼女の言葉が気にかかり、すぐに応じる。
「何か、不安?」
「ビラコチャさんが言ってたでしょ……『彼の問題は彼自身で答えないといけない』って」
「あー…」
複雑な状況、問題から紗那は重く項垂れる。ビラコチャの言葉も正鵠を射抜き、キサラの導きも正しきを得ていたのだ。
これら双方の答えの軋轢が不安を引き起こしそうで彼女は心配になったのだ。
「大丈夫、です」
レイアの確たる声が返ってきた。
小さく話し合っていたことがバレて驚く二人だが、彼女が浮かべた本当の微笑に安堵する。
「クウさんの答えはクウさん自身で答えないといけない……それでも、私……一緒に居て、助けたいんです」
「ふふ。なら問題ないわね」
キサラがくすりと笑んだ。続けて、
「あくまで答えを導くのは彼自身でしょう? なら、そばに一人や二人一緒に居ても問題ないわ」
「はは……そういうのかなー?」
「いいんじゃない? ああ、でも……彼は今何処なのかな……」
「あ…」
肝心な事を欠落していた4人は互いに笑いあった。
「なら、ゆっくりと探しましょうか」
「ええ」
「そうしよー! 手伝うわ!」
「はい…!」
そうして、4人はクウを探し出すべく庭園を後にしていった。
気楽に、しかし、確実に言い放った炎産霊神の言葉に、凛那を初めに神無らも言葉を失い、驚愕の表情を見せる。
その様子を見て、炎産霊神は陽気に笑い、無轟はいたって平静に彼の笑いを諌めるように言う。
「だったらどうした。こちら側の凛那は壮健で何よりな話だ」
『あ、そう。じゃあ、そっちも自己紹介してよ」
「あ……ああ」
彼の言葉に、言葉を詰まらせる神無。直ぐに凛那を見抜いた洞察力を想って、神無は名乗る勇気を要した、が自身が言った言葉を思い返す。
確りと受け止める。臆せずしっかりと目の前の無轟を見据えると。目の前に居る男は、父(むごう)ではない、無轟だ。
「――俺は、神無」
「かんな……?」
神無の名乗り、呆気のような声を零す無轟に続けてツヴァイらの自己紹介を交えた。
結果、無轟は呆気から苦笑をつくり、しかし、安堵にも似た微笑を最後に浮かべる。
「なるほど、こちらのお前はそこまで大きく成長していたか」
我が息子もいづれはこうなるのだろうか、と内心想いつつ、話を続ける。
「……しかし、残念だ。こちらの俺はもう居ないのだ…と」
「っ」
何かを言い返そうとした凛那は言葉を詰まらせ、直ぐに身を翻す。
小さく俯いて、彼女はか細く言ったと同時に素早く歩き出した。
「…失礼する」
「あ、待って凛那」
その様子に不安を懐いたツヴァイが慌てて連れ添うように出て行った。
神無も神月も心配そうに目で追い、無轟も失言したと想って頭を下げた。
そんな中、炎産霊神が出て行った凛那を不思議そうに見つめながら、無轟らに言う。
『あの凛那が居るって事は、こちらの側にも彼がいるのかな』
「彼……ああ、もしかすると奴か」
「奴?」
妙に得心する無轟に対し、神月が怪訝に問うた。
「器師、伽藍……ですよね」
だが、その問いかけを二人ではなく王羅が答えたのだった。
その答えに二人は頷いた。
理由は簡単だった。こちらに『無轟』という存在がいた、更には同じ過程を経て作られたであろう『明王・凛那』が在る。
これらの要素から、こちらの世界にも『伽藍』という男が存在し、こちらの無轟らと接触している筈であった。
神無はその男についてうろ覚えに覚えていた。父の葬式、特に誰にも報せずに執り行っていた時に何人もの男女が父の死を知り、駆けつけてきた。
その中に、包帯で素顔を隠した異様な風体をした男性――伽藍と名乗っていた事を。そして、確かに『凛那は俺が作ったものだ』と教えてくれたのだった。
「……つまり、伽藍がいるならそれが直せるってことか」
『そういう事。でも、あの人ってさー……もしかすると』
「あちこちの世界を渡り歩く気ままな人ですよ」
ある種の被害者であった彼女、苦笑紛れに王羅が言った。それを聞いた炎産霊神はショボンと落ち込んだ。
数少ない希望が限りなく果たせなくなったものだと、落胆する。
『もう駄目だ、凛那がないと無轟がー』
「一々嘆くな。そうなるならそうと戦えば――」
「問題ないですよ」
無轟の言葉を王羅が今度は喜色を込めて言う。神無らの視線が彼女へ向く中、彼女は話を続ける。
「こちら側の伽藍さんの連絡は取れます。今からなら明日かそれくらいにでも来ますよ」
「おいおい、話を聞く限りじゃあろくな住居を構えない放浪癖がありそうな奴の連絡がとれるってのか」
「実は…以前にあの人と再会して、『個人的な用事』を済ました折に……」
そういうと、彼女は何処からか、ベルのついた小さなオブジェを取り出し、ベルを指で弾いた。
透明に済んだ音色が響き、そして静まる。その動作を終えて、王羅は再びオブジェをコートの中に納める。
説明求めるといった様子の彼らに王羅が応じて、返答する。
「さっきのは彼を此処に呼びつける為の発信音だよ。後はあちらが此処にやってきて貰えばいいだけ」
『…ほんとに来るの?』
「これは自分が気に入った人とかにまたご利用してもらう為に渡しているんだって。…まあ、つい最近だけど。
一度鳴らせばこれがビーコンみたいになってやって来れるわけです」
「なら気長に待つか。……何から何まですまないな」
「いえ、お気になさらず」
王羅は笑顔で返し、安心した無轟はベッドに横になる。休眠の様子を察してか神無らも一旦、部屋を出ることにした。
出る前に、念のため、ビラコチャに確認の問いかけをする。
「ビラコチャ、そっちは大丈夫か?」
「問題はない。また何かあればすぐ呼ぶ」
相変わらず短く返した彼に神無は苦笑で頷き、神無は息子と王羅と共に出て行った。
彼らが部屋を出て行くのをわざと瞼と閉じ、休眠の様子でいた無轟が瞼を閉じたまま口だけを動かす。
「炎産霊神」
『ん、何?』
そろそろ消えて、自分も休もうとしたその時に無轟に声をかけられた彼はやや眠気を抑えた声で返す。
その声音に小さく笑んだ無轟だったが、不安げに表情を険しくし、言った。
「クウが心配だ」
『僕もさ。彼は今独りだからね』
無轟も、炎産霊神も孤独の苦しみを知っていた。自分らが安堵することが出来るのは、こちら側の神無らの存在があった。
彼らの心優しさに心身ともに傷ついた体も癒される想いだ。
だが、今、彼は、クウは違う。周りの優しさを拒み、向き合うべきものも拒み、ついには寄り添うものも拒んで、飛び出した。
そんな彼は孤独と言わずしてなんだろうか。
「……俺は、少々手厳しい方法で奴を正そうと想う」
『いいんじゃない? それが無轟らしいし』
静かな決意の言葉を、炎産霊神は陽気に同意する。薄く開いた無轟の瞳に、熱い意思が刹那に燈し、静かに彼は眠りについた。
そんな彼を尻目に、傍に居続ける炎産霊神は心の中で呟いた。
『僕に出来るのは、一緒にいてあげることくらいだ。だから、思い切り、自由に愉しもう、行動してくれ……無轟』
眠る彼へ笑顔を向け、彼も火の粉を散らして眠りつくと共に消えた。
一方、紗那とヴァイはレイアと共に負傷した女性たちの居る部屋に戻ろうとしたが、あえて別の場所で休息をとることにした。
それはヴァイの判断だったが、紗那は反論せず従う。辿り着いたゼロボロスたちがいた庭園、用意された長椅子に腰掛けていた。
「ここならちょっとは落ち着けるかも?」
「大丈夫……な、わけないか」
紗那は椅子にかけず、レイアの傍で心配そうに佇んでいる。
心配に想って問いかけようとヴァイは声をかけたが途中でやめる。
そんな彼女にレイアは小さく明らかに無理をしている慰めの微笑を返す。
「いえ、だいじょうぶ……です」
「嘘よ。無理してる」
「ええ。無理をしていますわ」
紗那の言葉に続いてきた声、それは庭園の方へ姿を現した女性。
半神キサラ。かつては光、今は光と闇を司る半神の彼女が断言する。
ヴァイと紗那は慌てて、キサラに駆け寄って頭を下げる。
「ごめんなさい!」
「ごめんなさい…すぐに部屋に戻るべきなんだろうけど……すみません」
負傷した彼女を部屋まで連れて行き、本来戻るべき部屋へ戻さず此処につれて来た事への詫びを。
キサラは優しく下げた頭をそれぞれ撫で、気にしないでいいと言って、二人を過ぎった。
そして、レイアに歩み寄り、屈んで彼女の手を包むように自分の手を添えた。
「……」
その様子にレイアは口を噤んだ。憂いや悲しみに言葉が出なかったからだった。
それを察して、キサラは優しく言葉を紡ぎだした。
「大切な人に拒まれる痛み、私もかつてありましたわ」
それは遠い過去。光と闇それぞれの半神として、対の存在だった彼を思い返す。
「あんなに想いあっていたのに、あんなに解りあえていたはずなのに…」
決別してしまったあの日を。それから長い年月が過ぎ、彼が死した報告を知らされる。
「…まだ、貴女には出来る筈よ」
あの時、戦いに臆せず真っ向から向き合っていれば、彼を喪わずにいられたのかもしれない。
「彼を助ける事のできる人は貴女、皆だから」
喪った彼が残した力を受け継ぎ、自分は生まれ変わった。
「そして、私が今出来るのはこんなことくらいね……」
小さく暖かな微笑を零すと、包む手が淡い光を放つ。
「!」
驚くレイアだったが、すぐに自然に安堵する。彼女の光が、とても心地よく優しい光だった。
やがて光が収まり、キサラは屈むのをやめ、立ち上がった。そして、レイアへ手を差し伸べる。
「さあ、行きましょう」
「……はい!」
応じるように彼女の手を握り返す笑顔を見せたレイア。その手を握り、ゆっくりと引っ張り立ち上がらせる。
レイアは心の中で驚いた。此処に来て、一度たりとも重苦しい体への重圧が嘘のようであったのだ。
「でも、大丈夫かな」
キサラとレイアが一緒に歩みだす中、遅れてヴァイと紗那がついていく。そんな中、ヴァイが不安げに言う。
紗那も彼女の言葉が気にかかり、すぐに応じる。
「何か、不安?」
「ビラコチャさんが言ってたでしょ……『彼の問題は彼自身で答えないといけない』って」
「あー…」
複雑な状況、問題から紗那は重く項垂れる。ビラコチャの言葉も正鵠を射抜き、キサラの導きも正しきを得ていたのだ。
これら双方の答えの軋轢が不安を引き起こしそうで彼女は心配になったのだ。
「大丈夫、です」
レイアの確たる声が返ってきた。
小さく話し合っていたことがバレて驚く二人だが、彼女が浮かべた本当の微笑に安堵する。
「クウさんの答えはクウさん自身で答えないといけない……それでも、私……一緒に居て、助けたいんです」
「ふふ。なら問題ないわね」
キサラがくすりと笑んだ。続けて、
「あくまで答えを導くのは彼自身でしょう? なら、そばに一人や二人一緒に居ても問題ないわ」
「はは……そういうのかなー?」
「いいんじゃない? ああ、でも……彼は今何処なのかな……」
「あ…」
肝心な事を欠落していた4人は互いに笑いあった。
「なら、ゆっくりと探しましょうか」
「ええ」
「そうしよー! 手伝うわ!」
「はい…!」
そうして、4人はクウを探し出すべく庭園を後にしていった。
■作者メッセージ
あとがき
書くべきところはやったので次回の担当は未定。
名、サブタイのは曙(あける)と読む。けど曙(あ)けるにしたかった。
もしかすると内容を修正するかもしれないです。あしからず
書くべきところはやったので次回の担当は未定。
名、サブタイのは曙(あける)と読む。けど曙(あ)けるにしたかった。
もしかすると内容を修正するかもしれないです。あしからず