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Re:開闢の宴 SPIRAL TALE/Chronice Key

NANA&夢旅人

INDEX

  • あらすじ
  • 01 CROSS CAPTURE1 「各々の暇」
  • 02 CROSS CAPTURE2 「飛来するもの」
  • 03 CROSS CAPTURE3 「廻りあうものたち」
  • 04 CROSS CAPTURE4 「目覚めた思い」
  • 05 CROSS CAPTURE5 「謁える意思を」
  • 06 CROSS CAPTURE6  「絶望が齎す傷跡」
  • 07 CROSS CAPTURE7 「思わぬ出会い」
  • 08 CROSS CAPTURE8 「曙ける想い」
  • 09 CROSS CAPTURE9 「空白の記録 変わらぬ優しさ」
  • 10 CROSS CAPTURE10 「言葉の意味」
  • 11 CROSS CAPTURE11 「信頼と不穏」
  • 12 CROSS CAPTURE12 「見据える先」
  • 13 CROSS CAPTURE13 「惑う心」
  • 14 CROSS CAPTURE14 「安堵する心」
  • 15 CROSS CAPTURE15 「動き出す意思」
  • 16 CROSS CAPTURE16 「託すと言う事」
  • 17 CROSS CAPTURE17 「無轟の布告」
  • 18 CROSS CAPTURE18 「選択」
  • 19 CROSS CAPTURE19 「選択の先」
  • 20 CROSS CAPTURE20 「新たな力」
  • 21 CROSS CAPTURE21 「Epic Man」
  • 22 CROSS CAPTURE22 「戦いの末に」
  • 23 CROSS CAPTURE23 「休息−1」
  • 24 CROSS CAPTURE24 「休息−2」
  • 25 CROSS CAPTURE25 「休息−3」
  • 26 CROSS CAPTURE26 「晩餐の語らい」
  • 27 CROSS CAPTURE27 「刻印」
  • 28 CROSS CAPTURE28 「神の助言」
  • 29 CROSS CAPTURE29 「黒と白が起こす災厄」
  • 30 CROSS CAPTURE30 「急接近/チェルの苦悩」
  • 31 CROSS CAPTURE31 「始まりの予兆」
  • 32 CROSS CAPTURE32 「器師・伽藍」
  • 33 CROSS CAPTURE33 「互いの経緯」
  • 34 CROSS CAPTURE34 「アスラ・ロッテの工房」
  • 35 CROSS CAPTURE35 「僅かな一幕 その2」
  • 36 CROSS CAPTURE36 「僅かな一幕 その3」
  • 37 CROSS CAPTURE37 「僅かな一幕 その4」
  • 38 CROSS CAPTURE38 「生まれる希望」
  • 39 CROSS CAPTURE39 「混沌世界へ」
  • 40 CROSS CAPTURE40 「混沌世界へその2/それぞれの動静」
  • 41 CROSS CAPTURE41 「混沌の深淵」
  • 42 CROSS CAPTURE42 「混沌女神」
  • 43 CROSS CAPTURE43 「アルヴァ」
  • 44 CROSS CAPTURE44 「復讐の陶酔 1」
  • 45 CROSS CAPTURE45 「復讐の陶酔 2」
  • 46 CROSS CAPTURE46 「三剣解説 1」
  • 47 CROSS CAPTURE47 「三剣解説 2」
  • 48 CROSS CAPTURE48 「芽生える渇望」
  • 49 CROSS CAPTURE49 「思いがけぬ同行者」
  • 50 CROSS CAPTURE50  「それぞれの歩み」
  • 51 CROSS CAPTURE51 「帰郷」
  • 52 CROSS CAPTURE52 「浸透する闇」
  • 53 CROSS CAPTURE53 「奪った心とKR」
  • 54 CROSS CAPTURE54 「暇と鍛錬」
  • 55 CROSS CAPTURE55 「意思を持て歩き出せ」
  • 56 CROSS CAPTURE56 「思わぬ衝突」
  • 57  CROSS CAPTURE57 「思わぬ衝突・2」
  • 58  CROSS CAPTURE58 「和解への追いかけっこ」
  • 59 CROSS CAPTURE59 「和解の菓子」
  • 60 CROSS CAPTURE60 「リクへの感情と因縁」
  • 61 CROSS CAPTURE61 「崩壊の目覚め」
  • 62 CROSS CAPTURE62 「優しさ、勇気、決意」
  • 63 CROSS CAPTURE63 「衝突・1」
  • 64 CROSS CAPTURE64 「衝突・2」
  • 65 CROSS CAPTURE65 「新たな目標と仲間」
  • 66 CROSS CAPTURE66 「占いの予言」
  • 67 CROSS CAPTURE67 「煌王・凛那」
  • 68 CROSS CAPTURE68 「一合一剣」
  • 69 CROSS CAPTURE69 「夢の世界へ、純粋な影」
  • 70 メモリー編1 「記憶の歪み」
  • 71 メモリー編2 「名前に込めた思い」
  • 72 メモリー編3 「残酷な親友の姿」
  • 73 CROSS CAPTURE70 「素材探索」
  • 74 メモリー編4 「師、クロトスラル」
  • 75 メモリー編5 「偽の記憶、絶望の記憶」
  • 76 メモリー編6 「パンドラの箱」
  • 77 蒼湖編第一話「ツェーラス湖」 / 霊窟編第一話「カムラン霊窟」
  • 78 メモリー編7 「もう一つのセカイについて・1」
  • 79 メモリー編8 「物語の始まり・前編」
  • 80  蒼湖編第二話「水面の女」
  • 81 霊窟編第二話「至鋼の少女」
  • 82 メモリー編9 「物語の始まり・後編」
  • 83 メモリー編10 「揺らぐ闇」
  • 84 メモリー編11 「“終わり”と“始まり”の記憶」
  • 85 メモリー編12 「明かされる事実」
  • 86 メモリー編13 「信じる強さ」
  • 87 蒼湖編 第三話「イリシアの覚悟」
  • 88 蒼湖編 第四話「イリシアの逆撃」
  • 89 霊窟編 第三話「キルレストの覚悟」
  • 90 メモリー編14 「流れる記憶」
  • 91 心剣世界編 第一話「アルカナの提案」
  • 92 心剣世界編 第二話「鏡の深謀」
  • 93 メモリー編15 「14番目の記憶・1」
  • 94 メモリー編16 「14番目の記憶・2」
  • 95 メモリー編17 「もう一つのセカイについて・2」
  • 96 CROSS FRAGMENT1 「闇に染まりし勇者」
  • 97 CROSS FRAGMENT2 「闇祓いし者達」
  • 98 心剣世界編 第三話「対鏡贋物(ミラーレプリカ)・1」
  • 99 蒼湖編 第四話「イリシア覚醒」
  • 100 メモリー編18 「善か悪か」
  • 101 メモリー編19 「14番目の記憶・3」
  • 102 メモリー編20 「もう一つのセカイについて・3」
  • 103 霊窟編 第四話「日を臨むもの」
  • 104 心剣世界編 第四話「対鏡贋物・2」
  • 105 メモリー編21 「もう一つのセカイについて・4」
  • 106 CROSS CAPTURE71 「素材探索、帰還」
  • 107 メモリー編22 「科せられた負荷」
  • 108 メモリー編23 「理なき存在」
  • 109 メモリー編24 「シャオの正体」
  • 110 メモリー編25 「決断と決裂」
  • 111 メモリー編26 「消えた存在、響く声」
  • 112 CROSS CAPTURE72 「3日目夕餉・1」
  • 113 CROSS CAPTURE73 「3日目夕餉・2」
  • 114 CROSS CAPTURE74 「無垢なる剣」
  • 115 CROSS CAPTURE75 「粋な運命」
  • 116 メモリー編27 「愁傷する心」
  • 117 メモリー編28 「ソラの人形(レプリカ)」
  • 118 メモリー編29 「SPHILIA」
  • 119 メモリー編30 「痛みに捧ぐ光と祈り」
  • 120 メモリー編31 「双龍の指輪」
  • 121 メモリー編32 「スピカの助言」
  • 122 メモリー編33 「夢の理」
  • 123 メモリー編34 「憎悪に隠した本心」
  • 124 メモリー編35 「兄妹の絆」
  • 125 メモリー編36 「夢の目覚め」
  • 126 CROSS FRAGMENT3 「襲撃の火種」
  • 127 CROSS CAPTURE76 「ありのままに」
  • 128 CROSS CAPTURE77 「現実への帰還」
  • 129 CROSS CAPTURE78 「恋人と弟の対話」
  • 130 CROSS CAPTURE79 「張り詰める緊張」
  • 131 CROSS CAPTURE80 「差し伸べる言葉」
  • 132 CROSS CAPTURE81 「始まりの烽火」
  • 133 CROSS CAPTURE82 「心器」
  • 134 CROSS CAPTURE83 「因縁の襲来・1」
  • 135 CROSS CAPTURE84 「アル・セカンド防衛戦・1」
  • 136 CROSS CAPTURE85 「因縁の襲来・2」
  • 137 CROSS CAPTURE86 「因縁の襲来・3」
  • 138 CROSS CAPTURE87 「アル・セカンド防衛戦・2」
  • 139 CROSS CAPTURE88 「アル・サード防衛戦・1」
  • 140 CROSS CAPTURE89 「アル・サード防衛戦・2」
  • 141 CROSS CAPTURE90 「アル・ファースト防衛戦・1」
  • 142 CROSS CAPTURE91「許されぬ本心、密かな策」
  • 143 CROSS CAPTURE92 「囚われた者達の叫び」
  • 144 CROSS CAPTURE93 「アル・ファースト防衛戦・2」
  • 145 CROSS CAPTURE94 「因縁の襲来・4」
  • 146 CROSS CAPTURE95 「本領発揮」
  • 147 CROSS CAPTURE96 「ミラー・モード」
  • 148 CROSS CAPTURE97 「開花する力」
  • 149 CROSS CAPTURE98 「エクスカリバー」
  • 150 CROSS CAPTURE99 「クリムゾンブリッツ」
  • 151 CROSS CAPTURE100 「犠牲を糧に」
  • 152 CROSS CAPTURE101 「黒翼」
  • 153 CROSS CAPTURE102 「光の絆」
  • 154 CROSS CAPTURE103 「翼(ツバサ)」
  • 155 CROSS CAPTURE104 「最後の足掻き」
  • 156 CROSS CAPTURE105 「敗北、そして…」
  • メモリー編24 「シャオの正体」

    「あった」

     進んでいた途中から整備された道は途切れ、道らしき道を歩いて数刻。激しいがけ崩れの起きた場所に新たな記憶の歪みを見つけた。
     イリアが足を止めると、後ろにいたイオンとペルセも歩みを止める。歪みに入る前に、二人は軽く辺りを観察した。

    「大きく崩れてる…大雨が降った影響みたい」

    「この記憶、見ておくべきかな? 話にあった桜の木ってここにはないようだけど?」

     ペルセが崖崩れを調べる中、イオンはこの付近に桜の木が無い事に気付く。
     それをイリアに指摘するとふむ、と軽く頷く。

    「少なくとも、見ておいて損はないだろう。それに、あの先に道はないようだし」

    「本当だ、靄がかかって先が見えませんね」

     ここから先は白い靄が不自然なほど深く包み込んでいる。こんな所を無理に進めば迷子になってしまいそうな雰囲気だ。ここは諦めて目先の事に向けた方がいいようだ。
     イリアのアドバイスもあって方針を決めていると、上空から羽ばたく音が響いた。

    「どうにか間に合ったようだな」

     その声と共に、囮となって別行動をとっていたクウがその場に舞い降りた。

    「「クウさん!」」

     着地して翼を消すと、先程イリアが投げた黒い羽根を握ってイオンとペルセに笑いかけるクウ。表情だけ見れば余裕を保っているが、身体は攻撃を受けたのかボロボロになっていた。

    「どうしたんですか、その傷!?」

    「あー、ちょっとヘマしてな。あいつらはどうにか足止めしておいた」

    「回復しますから、じっとしてください!」

     そう言うと、イオンはすぐに回復魔法をかける。
     見る見るうちにクウの傷が癒えていく中、ペルセは安心したように微笑んだ。

    「でも良かった、無事で」

    「へぇ、俺の事心配してくれたのか? お世辞でも嬉しいぜ…」

    「ク・ウ・さ・ん?」

    「悪い、冗談だからキーブレードは仕舞ってくれ」

     回復の手を止めて武器を握るイオンに、折角治りかけた傷が開くのを恐れてクウは即座に謝りを入れる。ついでにペルセに伸ばしていた手も途中で止める。
     渋々だが武器を仕舞って回復を終えると、イオンは不機嫌そうにペルセの手を握った。

    「心配して損しましたよ! さっさと行こう、ペルセ!」

    「うん」

     イオンに手を引かれるまま、ペルセも歪みへと一緒に入っていく。
     そんな二人をクウが見ていると、イリアが無表情のまま視線を送る。しかし、向けられる視線は若干冷ややかだ。

    「私、忠告した筈よ。『積み重なればどうにも出来なくなる』って」

    「…悪い」

     番人であるハートレスを倒した事を見抜かれてしまい、クウは申し訳なさそうに頭を下げる。

    「でも、あなたらしい選択ね」

     まるで仕方ないと言ったように呟くと、そのままクウの脇を通り過ぎる。
     てっきりお咎めの言葉でも飛ぶだろうと身構えていた分、あっさりと話を切り上げたイリアに驚きの目を向ける。
     その視線に気づき、イリアは足を止めると振り返った。

    「来なさい。その為にここにいるのでしょう」

    「ああ」

     そうして二人も記憶の中へと足を踏み入れた。



     記憶の中に入ると、同じ地点だが夜になっていた。
     雨が降った後なのか、地面のあちこちに水溜りが出来ている。

    「ダイジョブ…こわくない、こわくない…!」

     そんな薄暗い夜道を一人の子供が歩いている。その子は先程のように、輪郭はぼやけてはいなかった。
     その姿は肩まである銀髪に水色の瞳。白いワンピースを着た、まだ幼い少女だった。
     雨で濡れて地面がぬかるんでいる所為か、少女は何処かおぼつかない足取りで先に進む。

    「『―――』!」

     すると背後から呼びかける様な何かが聞こえ、振り返る。
     そこには、幼いシャオが息を荒くしながら少女を睨んでいた。

    「お兄ちゃん…?」

    「『―――』、やっぱりここに来てたんだね! 家にもいないからみんな探してるよ! さ、帰るよ――」

     咎めるように話しながら、シャオは少女の手を握る。
     そのまま引っ張って返ろうとするが、少女は意外にも抵抗した。

    「やー! 『―――』もサクラ見るの!」

     ばっとシャオの手を払い除け、逃げるようにその場から駆けた。

    「だめだ、『―――』!!」

     シャオが後を追いかけるが、少女は嫌だとばかりに走り続ける。
     そうして曲り道に差し掛かった瞬間、少女が足を踏み入れた影響かまるで巻きこむ様にして崖崩れが起こった。

    「ぇ…?」

    「『―――』ァ!!」

     崖から落ちようとする少女に、急いでシャオが駆け寄って手を伸ばして掴む。
     だが、幼子の力では到底持ち上げる事は叶わず、二人して崖から落ちてしまった…。



     記憶は途切れ元の場所に戻るが、今見た光景にイオンとペルセの顔色は蒼白になっていた。

    「シャオ…!?」

    「い、今…二人が…!」

    「この下に行くぞ! 続きがある筈だ!」

     焦燥を隠しきれない様子でクウが叫ぶなり、翼を展開させながらイオンとペルセを両脇に抱えた。

    「うわわっ!?」「きゃ!」

     二人の悲鳴が耳に入ってないのか、そのまま崖から飛び降りるクウ。イリアも浮遊してそれに続く。
     こうして崖の下へと移動すると、落下地点らしき場所にさっきと同じ歪みを見つけた。

    「イリア! このまま「構わない」よしっ!」

     即座に貰った返答に、クウは二人を抱えながら歪みへと一気に飛びこんだ。

    『どうせダメって言っても飛び込むくせに…』

     その行動にレプキアが呆れながら呟くのを聞きつつ、後に続きながらイリアも歪みの中に入った。



     三人が飛びこんだ先は、先程と同じで夜となっている。
     崖の下に崩れて出来た土砂の上で、シャオが少女を抱えたまま倒れていた。

    「…ぅ…」

     やがて少女は目を覚まし、擦り傷だらけの身体を起こす。
     少女が起きた際に身体を動かしたからか、シャオも瞼を開ける。
     しかしその目に生気は無く、頭を強く打ったからか血を流している。

    「『―――』…ぶじ…?」

    「お兄ちゃん…?」

     さすがに一目でシャオが危ない状況だと見抜き、少女が震えながら手を伸ばす。
     シャオも伸びてくる小さな手を掴もうと腕を上げる。
     だが、その手は力尽きたように地面に落ち、少女の手を掴む事は叶わなかった。

    「おにい、ちゃん…お兄ちゃん…!!」

     閉じてしまう瞳に、少女は無我夢中でシャオの身体を揺する。
     だが、どんなに呼びかけてもシャオの目は開く事はない。

    「『―――』がわるいの…? 『―――』がやくそくまもらなかったから…お兄ちゃん、しんじゃうの…?」

     フルフルと首を揺すっていると、急に少女は全ての動きを止めた。

    「…やだ…」

     今にも掻き消えそうな声が口から漏れる。

    「やだ…やだよ…!」

     吐き出される思いに感化するように、少女の周りから闇が溢れる。
     そうして闇は広がり、二人を包み込む。

    「やあああぁぁぁーーーーーー!!!」

     悲鳴じみた叫びと共に、画面がブツリと切れるように周りがブラックアウトする。
     同時に、四人に得体の知れない浮遊感が起こる。

    「この感覚は…っ!?」

    「落ち着いて。最深部へ続く記憶を見つけただけ」

     突然の事にイオンが慌てるが、イリアが宥める。
     そんな中、クウが神妙な面付きで二人には聞こえない音量で話しかけた。

    「……イリア、シャオの中にいる奴の正体だが」

    「ええ。あなたが思っている通りでしょうね」

     何の迷いもなく答えるイリアに、クウは苦虫を噛んだように顔を俯かせる。
     やがて浮遊感が収まり、一面が真っ暗な場所へと移動した。下には透明なステンドガラスで出来た床がある。
     その奥には、尋常な闇のオーラに包まれながらあの少女が蹲って泣いている。

    「うぇ…ひっく…」

    「あの子、さっきの!」

    「この子が、シャオの意思を蝕んでいたんですか?」

    「――そうだよ、イオン先輩」

     声のした方を振り返ると、そこにはさっきイオン達と会合したシャオが立っていた。

    「シャオ…」

    「お前…本当にシャオ、なのか?」

    「うん、ボクはシャオだよ」

     イオンとクウが警戒をして聞くと、シャオは笑顔で頷く。
     だが、その態度に彼らはより警戒は増す。

    「そんな言葉、信じられない…!」

    「ペルセの言う通りだよ。だって、あの記憶が正しければ――君は《死んでる存在》じゃないか。君は本当は誰なの?」

     念を押してイオンが再度問うと、シャオは頭を下げて口を閉ざした。
     だんまりを決めこんだシャオに、成り行きを見ていたイリアが動いた。

    「言いたくないなら、私から説明してもいいわよ?」

     直後、シャオに向かって突然蒼い影が伸びて頭部を掴みあげる。
     この光景を初めて見たクウは驚くが、そんな反応を気にせず今度は蹲っている少女にも同じように蒼い影を伸ばし、そのまま消してしまった。

    「なんだよ、今の…!」

    「既にあなたとこの子の記憶は取り入れた。これでシャオにあった空白の記憶、あなたが昏睡した理由も理解出来た」

    「っ…!」

    「イリア、言いたい事はいろいろあるが…説明してくれ。全部」

     もう気にしたら負けとばかりに頭を押えつつ、クウは無理矢理現実に目を向ける。そんな彼に同じ被害にあったイオンとペルセは気持ちは分かると言わんばかりに、同情の目を向ける。
     そんな事を知らずにイリアは一つ頷くと、シャオを見据えながら説明を始めた。

    「まず、単刀直入に言うわ。シャオの正体は、あそこで蹲っているあの少女よ」

     会合一番にそんな事を言い放つが、誰もが予想を立てていた事もあり特に驚きの声は上がらなかった。

    「あの事故現場で彼が完全に事切れる前に、あの子がシャオの記憶を全て《吸収》した。兄を存在させる為に無意識に行った行動。そしてそれは成功してこの子は“シャオ”として生まれ変わった」

     そう言うと、今度はシャオから少女へと視線を移す。

    「だけど、幼さ故に完璧に能力を扱う事は出来なかった。微弱ながらも彼女の自我は残ってしまったから、何かしら自分の記憶に綻び――違和感を感じれば、記憶に破綻が起こる。些細な引っ掛かり、すぐに忘れる様な軽い物ならまだいい。けど、今回起きたのは『偽の記憶による破綻』だった。あなたの両親が《ナミネ》によって作り出した家出した記憶に違和感を覚え、壊れた事で本当の記憶まで蘇った。ありとあらゆる矛盾に心が追いつかず、あなたは昏睡してしまった」

    「家出の記憶が偽物、って…どういう事だよ?」

     途中から思わぬ話になってクウが質問をすると、イリアは答える。

    「そのままの意味。シャオは両親と喧嘩してなどいない、その記憶を受けつけられて思い込まされたの。【両親と喧嘩したから家出したのだ】とね」

    「何でそんな事!」

    「あとで教えるわ――今はそんな場面ではない」

     そうイオンに口約束すると、またシャオに視線を戻す。その目は何か遠くを映しているかのように虚ろだ。

    「彼は死んでいたとは言え、シャオでもある。彼が“彼”として目覚める方法は一つ――この子の存在を消して記憶を消去する事」

    「待ってください! あの子、シャオの妹でしょ? 幾ら何でもそんな事出来ない!」

    「ペルセ…」

     感情的になるペルセを見て、イオンは思わず彼女に関わる過去を思い出す。
     クウも何も言わず黙り込む中、今まで黙っていたシャオが口を開いた。

    「悪いけど、ボクが目覚めるにはそれしかないんだ。ボクは知っちゃったから、自分が死んでいる事。ボクが本当はシャオじゃない事も。そんな記憶が残っている限りボクは目覚めても絶望しか残らないよ――自分が【偽物】の存在だったなんて知りたくなかった…!」

    「シャオ…」

     悲しみを滲ませながら話すシャオに、イオンは何と声をかければいいのか分からなくなってしまう。
     真実によって抱いてしまったそれぞれの思いに誰もが口を閉ざす中、シャオは決意にも似た目で四人を見る。

    「ボクは師匠達と戦う事を決めた。ちゃんと家族の所に帰るって誓った。このまま何も出来ないなんて嫌なんだ」

     そして、シャオは奥にいる少女を睨みつける。

    「偽物のボクじゃ、あの子を消す事は出来ない。お願いだよ、みんな」

     記憶で出来た少年は、告げる。
     現状を打開する、残酷な言葉を。



    「あいつを消して」


    15/03/30 23:55 NANA&夢旅人   

    ■作者メッセージ
     クウ「………さて、説明して貰おうか?」
     NANA「ひ、久々にここを使ったと思えばいきなり何を…」
     クウ「何をじゃねぇぇぇ!!! シャオが実は女で死んでたとかお前どう言う設定作ったんだぁぁぁ!!?」
     シャオ「そうだよ!! 結局ボクって一体何者なのさ!?」
     NANA「ああもううるさーーーい!!! 説明する!! 読者の人も訳分からんと思ってここで詳しく説明してやるから落ち着けやぁぁぁ!!!」


     しばらくお待ちください。


     NANA「――と言う訳で、今回の話の補足をここでいろいろとさせて貰います。まず、最初の質問から」
     シャオ「まずさ、ボク男の子だよね? 女じゃないよね?」
     NANA「はい、性別で言えばシャオは立派な男性です。これは確かです」
     シャオ「でも、ボクって本当は妹だって…」
     NANA「作中でも説明したでしょう。『元々女だったけど、シャオとしての記憶を取り込んだ事でシャオ本人として作り変えた』って。取り込んだ相手が男なんだから、体もそうなるのは当然でしょう。そもそも、そう言った設定のフラグはずっと前から出しているし」
     クウ「お前、要は女から男に変わったって事だろ? とんでもない設定になってるぞそれ」
     NANA「失礼な!! 大体この設定はあるKHキャラから直々に取った設定だ!! 文句あるならそのキャラに言いやがれ!!」
     クウ「はぁ? 女から男になったキャラなんて…――あ…」(察し)
     シャオ「師匠、どうしたの? 急に遠い目なんかして?」
     クウ「あー、なー…いたな、そう言う女性キャラ…」
     シャオ「うそ!? 誰なのそれ!?」
     クウ「…分かる奴には分かると言って置く。俺からも質問だが、確か誕生日企画で出たシャオは女だったよな。って事は…」
     NANA「どうでしょうかねー。身体は元に戻ったけど、中身は妹の人格を完全に消して本来のようにシャオとしての記憶しかないかもしれないし、実はシャオの記憶は消えていて妹としての人格が残っているシャオの記憶を頼りに演じているだけかもしれない。両方の人格が消える事無く二重にある可能性もあれば、どちらの記憶も存在しているかもしれない。けどまあ、それは今後のクウ達の選択で決める事です。いやー、リラさんにはこう言う設定話していたけど、上手い具合にその部分覆い隠してくれて良かったよー」
     クウ「うっ…! 何気に重要な選択肢の場面に差し掛かっているのか、俺達? 間違った内容選ぶと後味悪いバッドエンドってか…?」(青褪め)
     シャオ「バッドエンドって程じゃないと思うけど、仲間の命が掛かってるかの話だよね。でも大丈夫、ボクは師匠を、先輩達を信じているから!」(純粋で期待を込めた眼差し)
     クウ(た、唯でさえプレッシャーかかってるのに更にハードルが上がっただと…!? 俺、大丈夫か…!?)(滝汗)
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