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Re:開闢の宴 SPIRAL TALE/Chronice Key

NANA&夢旅人

INDEX

  • あらすじ
  • 01 CROSS CAPTURE1 「各々の暇」
  • 02 CROSS CAPTURE2 「飛来するもの」
  • 03 CROSS CAPTURE3 「廻りあうものたち」
  • 04 CROSS CAPTURE4 「目覚めた思い」
  • 05 CROSS CAPTURE5 「謁える意思を」
  • 06 CROSS CAPTURE6  「絶望が齎す傷跡」
  • 07 CROSS CAPTURE7 「思わぬ出会い」
  • 08 CROSS CAPTURE8 「曙ける想い」
  • 09 CROSS CAPTURE9 「空白の記録 変わらぬ優しさ」
  • 10 CROSS CAPTURE10 「言葉の意味」
  • 11 CROSS CAPTURE11 「信頼と不穏」
  • 12 CROSS CAPTURE12 「見据える先」
  • 13 CROSS CAPTURE13 「惑う心」
  • 14 CROSS CAPTURE14 「安堵する心」
  • 15 CROSS CAPTURE15 「動き出す意思」
  • 16 CROSS CAPTURE16 「託すと言う事」
  • 17 CROSS CAPTURE17 「無轟の布告」
  • 18 CROSS CAPTURE18 「選択」
  • 19 CROSS CAPTURE19 「選択の先」
  • 20 CROSS CAPTURE20 「新たな力」
  • 21 CROSS CAPTURE21 「Epic Man」
  • 22 CROSS CAPTURE22 「戦いの末に」
  • 23 CROSS CAPTURE23 「休息−1」
  • 24 CROSS CAPTURE24 「休息−2」
  • 25 CROSS CAPTURE25 「休息−3」
  • 26 CROSS CAPTURE26 「晩餐の語らい」
  • 27 CROSS CAPTURE27 「刻印」
  • 28 CROSS CAPTURE28 「神の助言」
  • 29 CROSS CAPTURE29 「黒と白が起こす災厄」
  • 30 CROSS CAPTURE30 「急接近/チェルの苦悩」
  • 31 CROSS CAPTURE31 「始まりの予兆」
  • 32 CROSS CAPTURE32 「器師・伽藍」
  • 33 CROSS CAPTURE33 「互いの経緯」
  • 34 CROSS CAPTURE34 「アスラ・ロッテの工房」
  • 35 CROSS CAPTURE35 「僅かな一幕 その2」
  • 36 CROSS CAPTURE36 「僅かな一幕 その3」
  • 37 CROSS CAPTURE37 「僅かな一幕 その4」
  • 38 CROSS CAPTURE38 「生まれる希望」
  • 39 CROSS CAPTURE39 「混沌世界へ」
  • 40 CROSS CAPTURE40 「混沌世界へその2/それぞれの動静」
  • 41 CROSS CAPTURE41 「混沌の深淵」
  • 42 CROSS CAPTURE42 「混沌女神」
  • 43 CROSS CAPTURE43 「アルヴァ」
  • 44 CROSS CAPTURE44 「復讐の陶酔 1」
  • 45 CROSS CAPTURE45 「復讐の陶酔 2」
  • 46 CROSS CAPTURE46 「三剣解説 1」
  • 47 CROSS CAPTURE47 「三剣解説 2」
  • 48 CROSS CAPTURE48 「芽生える渇望」
  • 49 CROSS CAPTURE49 「思いがけぬ同行者」
  • 50 CROSS CAPTURE50  「それぞれの歩み」
  • 51 CROSS CAPTURE51 「帰郷」
  • 52 CROSS CAPTURE52 「浸透する闇」
  • 53 CROSS CAPTURE53 「奪った心とKR」
  • 54 CROSS CAPTURE54 「暇と鍛錬」
  • 55 CROSS CAPTURE55 「意思を持て歩き出せ」
  • 56 CROSS CAPTURE56 「思わぬ衝突」
  • 57  CROSS CAPTURE57 「思わぬ衝突・2」
  • 58  CROSS CAPTURE58 「和解への追いかけっこ」
  • 59 CROSS CAPTURE59 「和解の菓子」
  • 60 CROSS CAPTURE60 「リクへの感情と因縁」
  • 61 CROSS CAPTURE61 「崩壊の目覚め」
  • 62 CROSS CAPTURE62 「優しさ、勇気、決意」
  • 63 CROSS CAPTURE63 「衝突・1」
  • 64 CROSS CAPTURE64 「衝突・2」
  • 65 CROSS CAPTURE65 「新たな目標と仲間」
  • 66 CROSS CAPTURE66 「占いの予言」
  • 67 CROSS CAPTURE67 「煌王・凛那」
  • 68 CROSS CAPTURE68 「一合一剣」
  • 69 CROSS CAPTURE69 「夢の世界へ、純粋な影」
  • 70 メモリー編1 「記憶の歪み」
  • 71 メモリー編2 「名前に込めた思い」
  • 72 メモリー編3 「残酷な親友の姿」
  • 73 CROSS CAPTURE70 「素材探索」
  • 74 メモリー編4 「師、クロトスラル」
  • 75 メモリー編5 「偽の記憶、絶望の記憶」
  • 76 メモリー編6 「パンドラの箱」
  • 77 蒼湖編第一話「ツェーラス湖」 / 霊窟編第一話「カムラン霊窟」
  • 78 メモリー編7 「もう一つのセカイについて・1」
  • 79 メモリー編8 「物語の始まり・前編」
  • 80  蒼湖編第二話「水面の女」
  • 81 霊窟編第二話「至鋼の少女」
  • 82 メモリー編9 「物語の始まり・後編」
  • 83 メモリー編10 「揺らぐ闇」
  • 84 メモリー編11 「“終わり”と“始まり”の記憶」
  • 85 メモリー編12 「明かされる事実」
  • 86 メモリー編13 「信じる強さ」
  • 87 蒼湖編 第三話「イリシアの覚悟」
  • 88 蒼湖編 第四話「イリシアの逆撃」
  • 89 霊窟編 第三話「キルレストの覚悟」
  • 90 メモリー編14 「流れる記憶」
  • 91 心剣世界編 第一話「アルカナの提案」
  • 92 心剣世界編 第二話「鏡の深謀」
  • 93 メモリー編15 「14番目の記憶・1」
  • 94 メモリー編16 「14番目の記憶・2」
  • 95 メモリー編17 「もう一つのセカイについて・2」
  • 96 CROSS FRAGMENT1 「闇に染まりし勇者」
  • 97 CROSS FRAGMENT2 「闇祓いし者達」
  • 98 心剣世界編 第三話「対鏡贋物(ミラーレプリカ)・1」
  • 99 蒼湖編 第四話「イリシア覚醒」
  • 100 メモリー編18 「善か悪か」
  • 101 メモリー編19 「14番目の記憶・3」
  • 102 メモリー編20 「もう一つのセカイについて・3」
  • 103 霊窟編 第四話「日を臨むもの」
  • 104 心剣世界編 第四話「対鏡贋物・2」
  • 105 メモリー編21 「もう一つのセカイについて・4」
  • 106 CROSS CAPTURE71 「素材探索、帰還」
  • 107 メモリー編22 「科せられた負荷」
  • 108 メモリー編23 「理なき存在」
  • 109 メモリー編24 「シャオの正体」
  • 110 メモリー編25 「決断と決裂」
  • 111 メモリー編26 「消えた存在、響く声」
  • 112 CROSS CAPTURE72 「3日目夕餉・1」
  • 113 CROSS CAPTURE73 「3日目夕餉・2」
  • 114 CROSS CAPTURE74 「無垢なる剣」
  • 115 CROSS CAPTURE75 「粋な運命」
  • 116 メモリー編27 「愁傷する心」
  • 117 メモリー編28 「ソラの人形(レプリカ)」
  • 118 メモリー編29 「SPHILIA」
  • 119 メモリー編30 「痛みに捧ぐ光と祈り」
  • 120 メモリー編31 「双龍の指輪」
  • 121 メモリー編32 「スピカの助言」
  • 122 メモリー編33 「夢の理」
  • 123 メモリー編34 「憎悪に隠した本心」
  • 124 メモリー編35 「兄妹の絆」
  • 125 メモリー編36 「夢の目覚め」
  • 126 CROSS FRAGMENT3 「襲撃の火種」
  • 127 CROSS CAPTURE76 「ありのままに」
  • 128 CROSS CAPTURE77 「現実への帰還」
  • 129 CROSS CAPTURE78 「恋人と弟の対話」
  • 130 CROSS CAPTURE79 「張り詰める緊張」
  • 131 CROSS CAPTURE80 「差し伸べる言葉」
  • 132 CROSS CAPTURE81 「始まりの烽火」
  • 133 CROSS CAPTURE82 「心器」
  • 134 CROSS CAPTURE83 「因縁の襲来・1」
  • 135 CROSS CAPTURE84 「アル・セカンド防衛戦・1」
  • 136 CROSS CAPTURE85 「因縁の襲来・2」
  • 137 CROSS CAPTURE86 「因縁の襲来・3」
  • 138 CROSS CAPTURE87 「アル・セカンド防衛戦・2」
  • 139 CROSS CAPTURE88 「アル・サード防衛戦・1」
  • 140 CROSS CAPTURE89 「アル・サード防衛戦・2」
  • 141 CROSS CAPTURE90 「アル・ファースト防衛戦・1」
  • 142 CROSS CAPTURE91「許されぬ本心、密かな策」
  • 143 CROSS CAPTURE92 「囚われた者達の叫び」
  • 144 CROSS CAPTURE93 「アル・ファースト防衛戦・2」
  • 145 CROSS CAPTURE94 「因縁の襲来・4」
  • 146 CROSS CAPTURE95 「本領発揮」
  • 147 CROSS CAPTURE96 「ミラー・モード」
  • 148 CROSS CAPTURE97 「開花する力」
  • 149 CROSS CAPTURE98 「エクスカリバー」
  • 150 CROSS CAPTURE99 「クリムゾンブリッツ」
  • 151 CROSS CAPTURE100 「犠牲を糧に」
  • 152 CROSS CAPTURE101 「黒翼」
  • 153 CROSS CAPTURE102 「光の絆」
  • 154 CROSS CAPTURE103 「翼(ツバサ)」
  • 155 CROSS CAPTURE104 「最後の足掻き」
  • 156 CROSS CAPTURE105 「敗北、そして…」
  • メモリー編28 「ソラの人形(レプリカ)」

     頭を押さえ、深く深呼吸する。
     剣の鍛錬でも時たまやる、精神を落ち着かせる独自の呼吸法。いつもなら少ししただけで落ち着いて効果が出るのに、ざわめく心は静まらない。

    「ねえさん…ルキル…!」

     リュウドラゴンを斬った時に聞こえた声。あれは確かに成長した姉の声だった。
     だが、あれは姉ではない。姉を思うあまり自分が作った幻聴だろう。
     そう思いたいのに…縋りたくなる。
     自分を止めようとする声に。

    「わたし、は…!」

     そんな思いでルキルを救えると思っているのか。オパールの厳しい声が蘇る。
     憎しみが揺らぐ。ダメだ。あいつは許せない存在。姉さんを見捨てた。姉さんを救えなかった。ルキルだって見捨てようと…本当に? いや、今はルキルを助けないと。そうだ、元凶の、あの人形、を…。
     出来るのか? 彼と同じ人形を、私は――斬れるのか?



    《出来るさ》



     直後、脳裏に低い男性の声が響いた。

    「え?」

     周りを見回すが、記憶の歪みだけで人の姿は見えない。

    《心のままに赴けばいい。何も考える必要なんてないんです》

    「…だれ…?」

    《今貴方が抱くべき想いは? “胸に手を当てて”思い出してみなさい》

    「…て、を…」

     不思議とその声に不信感は感じない。言われるままに右手を手に当てる。
     黒い、底の見えない深い何かが蠢いている。それが一つになって収縮していく。
     段々と胸の中心に何かが集まる。途方も無く強い力が――。

    「ウィド?」

     名前を呼ばれ、意識が現実に戻って我に返る。それに合わせるように集っていた何かも引いてしまった。

    「シー…ノ?」

    「えと、だいじょうぶ? 気分はどう?」

    「…どう、にか」

     気遣う様に問いかけるシーノに、思わず顔を逸らす。
     今の出来事を忘れようと、思いっきり息を吸い込んで妙な感情と共に一気に吐き出した。

    (今の力、何だ?)

     そうして気分を変えようとするウィドに対し、シーノは内心で警戒を浮かべる。
     彼の中で生まれようとした危険な力を。



     もう見慣れてしまったトライライトタウンの時計台。
     あのアイスを食べながら、同じようにアイスを食べて笑っているロクサスとアクセルを見て、夕日に目を向ける。

    「綺麗な夕日…」

     ぽつりと漏れた呟きのように、時計塔から見渡せる街が――目に見える景色全てが夕焼け色に染まっている。

    「今までずっと見てきた同じ夕日なのに、今日は特別綺麗に見える」

     そんな彼女の声は、何だか清々しく聞こえる。
     だが、すぐに顔を俯かせた。

    「ずっとこうやって三人でいられればいいのに…」

     口にする願い。でも、辿った記憶を知った今は分かる。
     それが叶わぬ願いだと。彼女はきっと分かった上で言っているのだと。

    「――なあ、三人でどっか行っちゃわないか?」

    「え?」

    「そしたら、きっと、ずっと一緒にいられる」

     思わぬロクサスの提案に考え込む。だが、すぐにまた顔を俯かせた。

    「そんな事…できないよ…」

    「そっか…そうだよな…」

     悲しげな表情で提案を切り捨てられたからか、ロクサスも同じように俯かせる。
     逆に二人の空気が暗くなる中、黙っていたアクセルが口を開く。

    「大切なのは、みんなで毎日会う事じゃなくて――」

    「一緒にいなくてもお互いの事を考える事だよね」

     アクセルの言葉に続けるように笑いながら答えると、ジッと視線を向ける。

    「ちゃんと記憶してるよ、アクセル」

    「…そっか」

     そう言いつつも、注がれる視線にアクセルは目を合わせる事無く夕日を見つめたままアイスを齧る。
     そんなアクセルに習う様に、再び夕日を見る。

    「ずっと、記憶してるよ。あたし…忘れない」

    「俺も、忘れない」

     ロクサスも夕日に目を向ける。何も言わず、三人は一緒に夕日を眺める。
     脳裏に、記憶に焼き付けるように最後までじっと夕日を見つめていた。



    「一緒にいなくても、お互いの事を考える…か」

     アクセルの語った言葉に、リクは感傷深く呟く。
     それはかつて、ロクサスの記憶で作った偽のトワイライトタウンでハイネが自慢げに語っていたものだ。アクセルとの思い出がああいった形で現れていたとは思いもしなかった。
     垣間見た思い出に笑っていると、オパールが不思議そうにこちらに振り返った。

    「リク?」

    「ああ、何でもない」

    「…そう」

     どことなく素っ気なく返すと、すぐに顔を俯かせるオパール。
     リクは声をかけようとするが先程の妙な行動を思い返し、ここはグッと堪えてハナダニャンに振り返った。

    「で、次は――ん?」

     視線を足元に落とすと、待っていた筈のハナダニャンがいない。
     すぐに辺りを見回していると、自分達が通って来た通路の方で一声鳴いてから走り出した。

    「来た道を戻ってるな、行こう」

     そう言って、ハナダニャンを追いかけるリク。
     だが、オパールはどう言う訳かその場から動こうとしなかった。

    「どうした、オパール?」

     足を止めて声を駆けるが、何かを考え込んだまま反応を返さない。
     リクが近づくと、足音に気付いておずおずとオパールが顔を上げて口を開いた。

    「ねえ、リク。あたし…仲間だよね?」

    「何を」

    「みんなの中にいてもいいんだよね?」

     発言を遮るように言い切ると、不安げにこちらを見るオパール。その姿は何処か怯えているようにも見て取れる。

    「…俺達といるのが嫌になったのか?」

    「嫌な訳ないでしょ!! 寧ろ、その…一緒にいて凄く楽しいし、いろんな事体験できるし、こうして旅が出来たし、それに」

     堰を切ったように自分の想いを口にするが、途中で口を閉ざすと言葉の代わりに思いっきり溜息が吐き出された。

    「…ごめん、少し不安になっただけ。今の質問ナシ! 忘れてっ!」

    「お、おい!」

     即座に脇をすり抜けて走り去るオパールに、慌てて引き留めようとする。しかし、オパールは振り返る事無くそのまま行ってしまう。
     これには、何だかはぐらかされた気分に陥ってしまった。

    「…オパール」



     無機質な白い回廊を一人で歩く。周りには沢山の記憶の歪みがあるが素通りする。そして、オパールの事を考える。
     ルキルの記憶を辿る筈が、いつの間にかオパールと共にアクセルやサイクスの過去を追う事になっていた。そんな二人と繋がっていた、ロクサスと名前を思い出せない人形。どう足掻いても変えられない悲しき定め。
     もしかしたら彼女をここに連れて来たのは、間違いだったのかもしれない。

    「リクー!」

     気が付けば最奥――この城に初めて来た場所まで戻っていたようで、自分を呼んだであろうシーノが手を振っていた。その後ろにはウィドがいて、いち早く着いたオパールが背を向けるように座り込んでいる。

    「シーノ、ウィド」

    「お帰り。ここに来たと言う事は――君もこれはもう視えていると捉えてもいいかな?」

     そう言い、シーノは体をずらして後方を見せる。
     そこにはノイズでしか視えなかった白黒の記憶の歪みが輪郭を露わにしていた。

    「ああ。ハッキリと見えてる」

    「キュ〜ン…」

     ようやく露わになった入口に頷いていると、ハナダニャンの鳴き声が響く。
     目を向けると、オパールの足元でリュウドラゴンが銅像のようにちょこんと座って項垂れている。

    「リュウドラゴン、まだ怪我が痛むのか?」

     オパールとハナダニャンに心配されるリュウドラゴンを見ていると、何故かシーノは顔を逸らした。

    「…いや、そう言う訳じゃないよ。それより二人とも、この先はいよいよルキルを浸食している元凶との対面だ。覚悟はいい?」

    「そっちそこ心の準備は出来てるのか?」

    「僕は平気さ。何時でも動ける」

    「…私も」

    「ん…大丈夫、いこ」

     逆に問いかけると、シーノは自信ありげに何処からか剣を取る。更には落ち着きを取り戻したのかウィドも剣の柄を握り、座っていたオパールも立ち上がる。

    「あぁ、行こう」

     三人の返事を聞き、リクは最奥への記憶へと振り返る。
     記憶にない人形についていろいろ思う事はある。だが。
     ルキルを助ける。今は、それだけだ。



     あの二匹をその場に残して歪みの中に入ると、今までと違い四人に得体の知れない浮遊感が襲い掛かる。
     地に足はつかないまま、下に落ちているのか、はたまた上に昇っているのかよく分からない。やがて浮遊感が消えると、四人はトライライトタウンのあの時計台にいた。

    「身体が動く? 記憶の中じゃないのか?」

    「って言うか、あたし達何でこんな場所にいるの!?」

    「まるで床ですね…」

     自分の意思で動ける事にリクが身体を見回していると、オパールとウィドが今いる場所に気付く。
     全体的に時計台が見える場所――空中にいる。足元には透明な床があるようで踏む度にガラスのような何かが発光している。
     四人が辺りを見回していると、不意にウィドの視線が止まる。

    「あれは…」

     呟きに反応して、三人も向けられた視線の方向に振り返る。
     ロクサスが一人時計台に腰掛け、膝に頭を埋めていた。

    「どこに行けばいいかも、分からないなんて…」

     それなりに距離がある筈なのに、ここまで呟きが聞こえてくる。
     明らかに落ち込んでいるロクサスを見ていると、隣から黒コートを来て深くフードを被った人物が現れた。

    「“―――”!」

     相変わらず言葉は聞こえないが、黒コートの人物――見た目からして少女だろう――は黙って隣に腰かけ、あのアイスを手渡した。

    「ありがとう」

     ロクサスはアイスを受け取ると、一口齧る。同じように少女もアイスを食べ始める。
     何の会話も交わさず、相手を見る事もせず、二人はアイスを食べている。時間だけが穏やかに過ぎていくが、何時しか二人の手に持っていたアイスは無くなってしまった。
     そうして食べ終えたのを皮切りに、少女はアイスの棒を傍らに置く。

    「そろそろ決めなきゃね」

     少女は立ち上がると、被っていたフードを取り払う。

    「「「ッ…!?」」」

     隠していた顔が見えた途端、リク、オパール、ウィドは言葉を失う。
     自分達の知っている顔が、そこにあったからだ。

    「あたしの力はもうすぐ満たされようとしている。器に入った水が零れるみたいに、今あたしの記憶はロクサスから貰ったものでいっぱいになってる」

     静かにロクサスへと語りながら両手を広げ、胸に手を当てる少女――いや“誰か”。例え顔が一緒でも…彼であるはずがない。

    「ロクサスにはあたしがどう言う風に見える? もし、違う男の子の顔になってるなら、それはあたしがもうすぐ人形として完成しようとしているって事」

     夕日を見ながら未だに驚いているロクサスに語ると、笑みを浮かべて振り返る。
     ロクサスに似た“彼”の顔で。

    「ロクサス――これが、“ソラ”だよ」

     少女は教える。ソラの顔で。
     話が終わると、少女はまたフードを深く被り時計台から足を踏み出す。そのまま何もない所を歩いていき、固まっていた自分達をすり抜けていく。
     ある程度ロクサスから距離を取ると、振り返って手を伸ばす。

    「あたしはこれからロクサス自身も取り込まなきゃいけないの」

     すると、少女を中心に闇が渦巻く。
     何かの力を解放しているようで、コートが激しくはためいている。
     フードと闇の合間からソラの瞳がこちらを見る。

    「それが、あたしの生まれた意味…!!」

     少女の叫びと共に、辺りが闇に包まれる。
     しかし、闇は一瞬で掻き消えてしまう。同時に、ソラの姿をした少女も消えていた。

    「えっ…?」

    「消えた?」

    「っ、後ろだぁ!!」

     目の前でいなくなった少女にリクとウィドが呆気に取られていると、突如シーノが叫ぶ。
     急いで三人が振り返ると、時計台をバックにして広がる光景に目を疑った。

    「なっ、何よコレ…!?」

    「これは、ソラ…っ!?」

     身体のパーツが銀色、服の部分が赤や黒の金属。顔にはノーバディの紋章。両手には、歪な形をした巨大なキーブレード。
     ソラの姿をした巨大化した人形が、宙に浮きながらこちらを見ている。

    「“ソラ”になる事が、あたしの目的――誰にも邪魔はさせないっ!!!」

     高らかに宣言すると、四人に向かって両手のキーブレードを振り下ろし広範囲の衝撃波を飛ばした。

    15/06/09 01:01 NANA&夢旅人   

    ■作者メッセージ
    えー、前回忙しさが残っていたためメッセージを書けませんでしたが、どうにか春の大きなイベントが終わり投稿する時間を取り戻しはじめました。
    と言っても、7月にまた大きなイベントが始まりますのですぐに更新のペースはガタ落ちになるかと…。
    とりあえずルキル編もようやく戦闘シーン突入です。ここから二つの話をどう言う順番に投稿するかは分かりませんが、同時に終われる感じには考えています。文字数オーバーしなければ…(オイ
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