CROSS CAPTURE85 「因縁の襲来・2」
日が昇ったばかりだというのに、城内のあちこちで戦闘が起こる。
それは美しく手入れされている中庭も同じだった。
「だあぁ!!」
宙を舞うハートレスに接近し、ナイフで胴体を切り裂く。
最後の一匹をやっつけると同時に、オパールは軽やかに地面に着地した。
「とりあえず、終わった…!」
息を切らしつつ、ナイフを腰の鞘に仕舞う。それでも辺りを睨んで警戒は怠らない。
そんなオパールの近くには、一人の侍女が蹲っている。襲撃の際に、逃げ遅れたか逸れてしまったのだろう。
「あ、あの…お怪我は?」
「あたしは平気。それより、早く避難して」
そう声をかけると、侍女は頭を下げて一礼し、避難の為にそそくさと走り去っていく。
一般人が中庭から出るまで見送ると、オパールはポーチから予め合成で作っておいた魔石を幾つか取り出す。手の中で弄るとジャラリ、とまるで宝石がぶつかり合う音を奏でる。
「気持ちを整理する暇もない、か…」
さっきまで荒ぶっていた心は襲撃と言う大きな出来事を受けてか、不気味なほどに静まり返り冷静さを取り戻している。おかげで十分に戦える。
魔石を手に、オパールも中庭を出ようとする。だが、急に背後から重圧な気配がした。
「新手っ!?」
即座にナイフを引き抜き、振り返り構える。
「こいつ――は…!?」
敵の姿を目にした瞬間、オパールは目を見開く。
全身が青と黄色で構成された鎧。KRと呼ばれる存在が握る手には、キーブレードが握られている。
悪魔と羽をモチーフにした鍵が。
「リクの…キーブレード?」
鎧が持つ武器は紛れもなく彼のキーブレード、ウェイトゥザドーンだ。見間違うはずがない。だが、何故この鎧が持っている?
目の前の鎧に固まっていると、背後から螺旋状の光弾が襲い掛かった。
「きゃあ!?」
不意打ちの攻撃と共に爆発に巻き込まれ、オパールは地面に倒れる。
痛みを堪えて顔を上げると、金色と赤の鎧と赤みかかった二体の鎧が立っている。一方にはソラの、もう一体には色取り取りの花を象ったキーブレードが握られている。
三番目の鎧が持つキーブレードは見た事ない。なのに、オパールの脳裏にはカイリの顔が駆け巡る。
「何で…どう、して…!?」
敵が持つキーブレードに訳が分からなくなり、思考が掻き乱される。
固まったオパールに、三体は何も言わず襲い掛かる。
「――騎光槍龍波!!」
「青羽槍・嵐旒!!」
しかし、光と共に誰かが金の鎧に突っ込み、更に辺り一帯に風の刃が地面を叩きつけて砂埃のカーテンを作る。
そうして作られた煙幕の中、槍を持って突撃したであろう青年、ラクラが声をかけた。
「無事か!?」
「あ…うん」
どうにか頷きを返すと、目晦ましを行ったであろうフェンデルがすぐ傍で着地する。
更に、騒ぎを聞きつけたのかイオンとペルセも武器を持って砂埃の中に現れる。
「それにしても、見られちゃったね」
「まさか本当にぶつけてくるなんて…!!」
ペルセは淡々と言う横で、イオンは焦りを浮かべて鎧がいるであろう方向を睨みつける。
誰もが戦闘態勢を取る中で、ようやくオパールの思考が沈静し今までの状況を全て脳内で受け入れる。
「ちょっと、なんの会話してるの!? 何であいつら、ソラ達のキーブレード持ってるの!?」
「単刀直入に言えば、あれは『この世界』の父さん達なんです! カルマの策で、心だけ抜かれてKRにされているんです!」
「父さんって、あんた…!」
イオンの話に何かに気づきかけるが、ペルセがオパールの前へと割り込むように剣を見せつける。
「オパールさん、頼みがあります。私達はここでKRとなったソラさん達と戦います。あなたはここにリクさん達を来させないように誘導してください! お願いします!」
「関係者であるあなたが困惑していたんですもの。本人が見たら、ショック受けかねないでしょ?」
これから始まる戦闘の気配を感じ取り、フェンデルも槍を構える。
自分の為に、皆が離脱の一手を作ってくれる。それが伝わり、オパールは重要な何かに駆られて頷いた。
「わ、分かった! あたしが何とかする!」
「それじゃあ…行くよ!!」
イオンの合図と共に、砂埃が払われる。同時に、ラクラ、フェンデル、ペルセがそれぞれ目の前の鎧三体に先手必勝とばかりに激突する。
これから始まる彼らの戦いを背に、オパールは急いでその場から離脱した。
「大丈夫か、アルカナ?」
「すまないな、アルビノーレ。本来なら私も戦いに参加するべきなのに…」
その頃、城の三階ではアルビノーレがアルカナを肩に担ぎながら移動をしていた。先の戦闘で負傷したアルカナを安全な場所に避難させるためだ。
「それにしても、昨日の今日で敵が襲い掛かるとは…アルカナ、お得意の占いで何か分かる事はあるか?」
このアルビノーレの問いかけに、アルカナは一枚のタロットカードを差し出す事で答える。
カードに描かれた絵は『愚者』。そして逆向きだ。
「愚者…逆位置か?」
「このカードは逆向きだと無責任・無計画と取るが、相手はこれまで幾多の策をしてきたのだ。恐らく意味は衝動的だろう。さすがに何が起きたかまでは分からないが…」
「知らなくて構いません。あまりにも馬鹿げた理由ですので」
聞き覚えのある声と共に、二人の周りに黒い石が四つ。正方形を形作るように浮遊する。
すると、瞬く間に黒い煙のような結界を張られてしまい、中に閉じ込められてしまった。
「これは!?」
「『テトラ・スモーキークォーツ』。事が終わるまでは、この結界にいて貰いますよ?」
結界の外から再び声が聞こえ、虚空から歪むように誰かが現れる。
それは水晶をぶら下げた梟型ノーバディ―――スパイを肩に止まらせたクォーツ。どうやら、隠密の力を使って隠れていたようだ。
「貴様!」
アルビノーレが担いでいたアルカナを下すと、槍を取り出して結界を破壊しようとする。だが、伸ばした矛先は結界を貫く事が出来ずに弾かれてしまう。
その様子を外から眺め、クォーツは満足そうに笑う。
「その結界内にいる限り攻撃は出来ません。まあ、逆にこちらも攻撃は出来ませんが…足止めには十分でしょう?」
「なら、結界を作っているその石を壊せば出てこられるのよね?」
直後、幾つもの光弾が飛来し結界を作っていた四つの石が破壊された。
「なに!?」
「はあっ!」
更にアトスがクォーツに一閃を与えようと剣を振るう。
しかし、直前で半透明な結界が前方に現れて斬撃が弾かれてしまった。
「くっ!」
「わざわざ丸腰にはなりません。ちゃんとこちら用の護符は身に着けています。使い捨てでしたが…」
お守り替わりだったのか、粉々に破壊されたカット水晶を取り出す。それは役割を終えたとばかりに空気に溶けるように消えてしまう。
弾かれたアトスは空中で体制を立て直し、アルビノーレ達と逆方向にいたクェーサーの元に着地する。こうする事で、互いにクォーツを挟む形を取る。
クェーサーのおかげで結界から脱出したアルビノーレは、クォーツへ矛先を向けた。
「さて、戦えずに逃げたお前が再度歯向かおうとしているのだ。消える準備は出来たか?」
「…確かに私は戦闘に関して不向き。ですが――戦えない訳ではありませんよ!!」
色取り取りの石を浮かべ、クォーツは戦闘態勢に入る。
そんなクォーツに感化するように、肩にいるスパイも羽ばたき甲高い鳴き声を上げた。
「んんぅ…」
ベットから身じろきながら、レイアは目を覚ます。
不思議な夢を見ていた気がする。内容は、確か――そこまで思い出しかけた時、廊下から大きな物音が聞こえてくる。
音の正体を確かめようと目を擦りながら起き上がり、寝ぼける頭を振りながら廊下に出る。
そこで広がっていた光景に、レイアは一気に目が覚める。
「何ですか、これ…!」
先程まで綺麗だった筈なのに、なぜかあちこち壊されている。しかも辺りから戦っている音までも聞こえてくる。
平和だった景色が一変し、レイアの中で不安が広がる。段々と不安になる心を沈めようとした時、ある物を思い出しポケットに手を入れた。
取り出したのは黒い羽根。羽根をそっと両手で握りしめ、その闇の力を感じ取る。
(大丈夫…私には、クウさんがいる。一人じゃない――)
そう自分に言い聞かせ、気持ちを落ち着かせる。たった一人きりで戦乱の地に放り込まれた中、彼を感じられるのはとてもありがたい。
まずは行動しよと、誰かいないか探そうとレイアは通路の分かれ道へと向かう。
パタパタと足音を響かせてもう少しとなった時、その道を進むように一人の女性が現れた。
顔の上半分を覆った白黒の仮面を付け、黒い細剣を携えて。
「スピカ――さん…!」
前の世界で別れた、クウの昔の恋人。その人物の姿に、レイアは足を止めて名を呟く。
名前を呼ばれ、スピカは足を止めて顔を向ける。レイアに…次に手に握る羽根へと。
「その羽根、何故あなたが?」
「っ、あ…!」
羽根の事を指摘され、沈めた筈の不安が一気に恐怖に変わる。
足が動かない。
手の震えが止まらない。
何か言わなきゃいけないのに、声が出せない。
怖い。向き合うのが。
自ら行った卑怯さに、敵となったスピカに。
「クウ、さん…!」
「頼るのね、あの人の事」
謝る事も、言い訳する事も出来ず、ようやく出した言葉。それに対し、スピカは冷たく言い放つ。
それは仮面の力なのか、本心なのか分からない。分からないから、怖い。
体が金縛りにあったように動かなくなる。そんなレイアに、スピカは何を思ったか淡々と声をかける。
「消す前に聞いて置きたい事があるわ。あなたはクウの何?」
「…それ、は…」
「大切な人?」
「…そう、です」
「それは守るべきものとして? 愛すべき存在として?」
「………」
答えられなかった。
大事だと思っていたモノが、根本から否定された気分だ。
クウが自分に向けてくれる感情は、愛情だと信じてる…信じてる、筈なのに。
「確かにあの人は優しい。そして甘い。そんな心を、私は傍で感じていた」
スピカの語る思いがぶつかり、自身の思いが揺らぐ。戸惑ってる。
これまで女性に手や口を出すが、クウが本気でないのは分かっていた。それでも口説かれて好意を向ける女性に釈然としない苛立ちを感じ、クウを攻撃する事で苛立ちを解消してた。
なのに、今までと違いクウやスピカに対して釈然としない苛立ちが湧き上らない。
ううん、本当は分かってる。
私は、この人に勝てない。
力とか、魔力とか、それもあるけど、そう言う事じゃない。
ちゃんとクウの事を知って――ちゃんと心から愛している。
「消えて」
言いたい事は語ったとばかりに、手に持つ細剣を振り上げる。
レイアは動けない。そんな少女へ無慈悲にも、刃を下す。
「ラスト――ノヴァ!!!」
その時、スピカを中心に激しい爆発が起こった。
爆風の中でスピカが『シェル』の魔法で防御すると、今度は黒い何かが前に出る。
「ディスノア・ラスチェ!!!」
何者かが巨大な黒い腕を振り、スピカを殴りつけ通路の奥へと吹き飛ばす。
何が何だか分からないレイアに、二人の少女が駆け寄った。
「レイア、大丈夫!?」
「おうら…さん…!」
その内の一人、王羅が駆け寄った事で安心したのか、レイアは糸が切れたようにその場に座り込む。
そうこうしていると、スピカは不利と感じたのかその場から引くように退散する。それを神月とゼツが追いかける。
この一部始終をレイアが呆然と見ていると、入れ替わるようにキルレスト達が現れた。
「キルレストさん達、丁度いい所に! 彼女を頼みます!」
「あ、あの!」
思わずレイアが声をかけると、シェルリアと王羅は安心させようと笑いかける。
「大丈夫、スピカって人は必ず私達が助けるわ」
「君はみんなと一緒にいて。危険なら安全な場所に避難してもいいから」
そう言うと、二人も彼らの後を追いかける。
後に残されたのは、神月の激しい攻撃で崩れ去った壁。自分を助け起こそうとするキルレスト達だった。
それは美しく手入れされている中庭も同じだった。
「だあぁ!!」
宙を舞うハートレスに接近し、ナイフで胴体を切り裂く。
最後の一匹をやっつけると同時に、オパールは軽やかに地面に着地した。
「とりあえず、終わった…!」
息を切らしつつ、ナイフを腰の鞘に仕舞う。それでも辺りを睨んで警戒は怠らない。
そんなオパールの近くには、一人の侍女が蹲っている。襲撃の際に、逃げ遅れたか逸れてしまったのだろう。
「あ、あの…お怪我は?」
「あたしは平気。それより、早く避難して」
そう声をかけると、侍女は頭を下げて一礼し、避難の為にそそくさと走り去っていく。
一般人が中庭から出るまで見送ると、オパールはポーチから予め合成で作っておいた魔石を幾つか取り出す。手の中で弄るとジャラリ、とまるで宝石がぶつかり合う音を奏でる。
「気持ちを整理する暇もない、か…」
さっきまで荒ぶっていた心は襲撃と言う大きな出来事を受けてか、不気味なほどに静まり返り冷静さを取り戻している。おかげで十分に戦える。
魔石を手に、オパールも中庭を出ようとする。だが、急に背後から重圧な気配がした。
「新手っ!?」
即座にナイフを引き抜き、振り返り構える。
「こいつ――は…!?」
敵の姿を目にした瞬間、オパールは目を見開く。
全身が青と黄色で構成された鎧。KRと呼ばれる存在が握る手には、キーブレードが握られている。
悪魔と羽をモチーフにした鍵が。
「リクの…キーブレード?」
鎧が持つ武器は紛れもなく彼のキーブレード、ウェイトゥザドーンだ。見間違うはずがない。だが、何故この鎧が持っている?
目の前の鎧に固まっていると、背後から螺旋状の光弾が襲い掛かった。
「きゃあ!?」
不意打ちの攻撃と共に爆発に巻き込まれ、オパールは地面に倒れる。
痛みを堪えて顔を上げると、金色と赤の鎧と赤みかかった二体の鎧が立っている。一方にはソラの、もう一体には色取り取りの花を象ったキーブレードが握られている。
三番目の鎧が持つキーブレードは見た事ない。なのに、オパールの脳裏にはカイリの顔が駆け巡る。
「何で…どう、して…!?」
敵が持つキーブレードに訳が分からなくなり、思考が掻き乱される。
固まったオパールに、三体は何も言わず襲い掛かる。
「――騎光槍龍波!!」
「青羽槍・嵐旒!!」
しかし、光と共に誰かが金の鎧に突っ込み、更に辺り一帯に風の刃が地面を叩きつけて砂埃のカーテンを作る。
そうして作られた煙幕の中、槍を持って突撃したであろう青年、ラクラが声をかけた。
「無事か!?」
「あ…うん」
どうにか頷きを返すと、目晦ましを行ったであろうフェンデルがすぐ傍で着地する。
更に、騒ぎを聞きつけたのかイオンとペルセも武器を持って砂埃の中に現れる。
「それにしても、見られちゃったね」
「まさか本当にぶつけてくるなんて…!!」
ペルセは淡々と言う横で、イオンは焦りを浮かべて鎧がいるであろう方向を睨みつける。
誰もが戦闘態勢を取る中で、ようやくオパールの思考が沈静し今までの状況を全て脳内で受け入れる。
「ちょっと、なんの会話してるの!? 何であいつら、ソラ達のキーブレード持ってるの!?」
「単刀直入に言えば、あれは『この世界』の父さん達なんです! カルマの策で、心だけ抜かれてKRにされているんです!」
「父さんって、あんた…!」
イオンの話に何かに気づきかけるが、ペルセがオパールの前へと割り込むように剣を見せつける。
「オパールさん、頼みがあります。私達はここでKRとなったソラさん達と戦います。あなたはここにリクさん達を来させないように誘導してください! お願いします!」
「関係者であるあなたが困惑していたんですもの。本人が見たら、ショック受けかねないでしょ?」
これから始まる戦闘の気配を感じ取り、フェンデルも槍を構える。
自分の為に、皆が離脱の一手を作ってくれる。それが伝わり、オパールは重要な何かに駆られて頷いた。
「わ、分かった! あたしが何とかする!」
「それじゃあ…行くよ!!」
イオンの合図と共に、砂埃が払われる。同時に、ラクラ、フェンデル、ペルセがそれぞれ目の前の鎧三体に先手必勝とばかりに激突する。
これから始まる彼らの戦いを背に、オパールは急いでその場から離脱した。
「大丈夫か、アルカナ?」
「すまないな、アルビノーレ。本来なら私も戦いに参加するべきなのに…」
その頃、城の三階ではアルビノーレがアルカナを肩に担ぎながら移動をしていた。先の戦闘で負傷したアルカナを安全な場所に避難させるためだ。
「それにしても、昨日の今日で敵が襲い掛かるとは…アルカナ、お得意の占いで何か分かる事はあるか?」
このアルビノーレの問いかけに、アルカナは一枚のタロットカードを差し出す事で答える。
カードに描かれた絵は『愚者』。そして逆向きだ。
「愚者…逆位置か?」
「このカードは逆向きだと無責任・無計画と取るが、相手はこれまで幾多の策をしてきたのだ。恐らく意味は衝動的だろう。さすがに何が起きたかまでは分からないが…」
「知らなくて構いません。あまりにも馬鹿げた理由ですので」
聞き覚えのある声と共に、二人の周りに黒い石が四つ。正方形を形作るように浮遊する。
すると、瞬く間に黒い煙のような結界を張られてしまい、中に閉じ込められてしまった。
「これは!?」
「『テトラ・スモーキークォーツ』。事が終わるまでは、この結界にいて貰いますよ?」
結界の外から再び声が聞こえ、虚空から歪むように誰かが現れる。
それは水晶をぶら下げた梟型ノーバディ―――スパイを肩に止まらせたクォーツ。どうやら、隠密の力を使って隠れていたようだ。
「貴様!」
アルビノーレが担いでいたアルカナを下すと、槍を取り出して結界を破壊しようとする。だが、伸ばした矛先は結界を貫く事が出来ずに弾かれてしまう。
その様子を外から眺め、クォーツは満足そうに笑う。
「その結界内にいる限り攻撃は出来ません。まあ、逆にこちらも攻撃は出来ませんが…足止めには十分でしょう?」
「なら、結界を作っているその石を壊せば出てこられるのよね?」
直後、幾つもの光弾が飛来し結界を作っていた四つの石が破壊された。
「なに!?」
「はあっ!」
更にアトスがクォーツに一閃を与えようと剣を振るう。
しかし、直前で半透明な結界が前方に現れて斬撃が弾かれてしまった。
「くっ!」
「わざわざ丸腰にはなりません。ちゃんとこちら用の護符は身に着けています。使い捨てでしたが…」
お守り替わりだったのか、粉々に破壊されたカット水晶を取り出す。それは役割を終えたとばかりに空気に溶けるように消えてしまう。
弾かれたアトスは空中で体制を立て直し、アルビノーレ達と逆方向にいたクェーサーの元に着地する。こうする事で、互いにクォーツを挟む形を取る。
クェーサーのおかげで結界から脱出したアルビノーレは、クォーツへ矛先を向けた。
「さて、戦えずに逃げたお前が再度歯向かおうとしているのだ。消える準備は出来たか?」
「…確かに私は戦闘に関して不向き。ですが――戦えない訳ではありませんよ!!」
色取り取りの石を浮かべ、クォーツは戦闘態勢に入る。
そんなクォーツに感化するように、肩にいるスパイも羽ばたき甲高い鳴き声を上げた。
「んんぅ…」
ベットから身じろきながら、レイアは目を覚ます。
不思議な夢を見ていた気がする。内容は、確か――そこまで思い出しかけた時、廊下から大きな物音が聞こえてくる。
音の正体を確かめようと目を擦りながら起き上がり、寝ぼける頭を振りながら廊下に出る。
そこで広がっていた光景に、レイアは一気に目が覚める。
「何ですか、これ…!」
先程まで綺麗だった筈なのに、なぜかあちこち壊されている。しかも辺りから戦っている音までも聞こえてくる。
平和だった景色が一変し、レイアの中で不安が広がる。段々と不安になる心を沈めようとした時、ある物を思い出しポケットに手を入れた。
取り出したのは黒い羽根。羽根をそっと両手で握りしめ、その闇の力を感じ取る。
(大丈夫…私には、クウさんがいる。一人じゃない――)
そう自分に言い聞かせ、気持ちを落ち着かせる。たった一人きりで戦乱の地に放り込まれた中、彼を感じられるのはとてもありがたい。
まずは行動しよと、誰かいないか探そうとレイアは通路の分かれ道へと向かう。
パタパタと足音を響かせてもう少しとなった時、その道を進むように一人の女性が現れた。
顔の上半分を覆った白黒の仮面を付け、黒い細剣を携えて。
「スピカ――さん…!」
前の世界で別れた、クウの昔の恋人。その人物の姿に、レイアは足を止めて名を呟く。
名前を呼ばれ、スピカは足を止めて顔を向ける。レイアに…次に手に握る羽根へと。
「その羽根、何故あなたが?」
「っ、あ…!」
羽根の事を指摘され、沈めた筈の不安が一気に恐怖に変わる。
足が動かない。
手の震えが止まらない。
何か言わなきゃいけないのに、声が出せない。
怖い。向き合うのが。
自ら行った卑怯さに、敵となったスピカに。
「クウ、さん…!」
「頼るのね、あの人の事」
謝る事も、言い訳する事も出来ず、ようやく出した言葉。それに対し、スピカは冷たく言い放つ。
それは仮面の力なのか、本心なのか分からない。分からないから、怖い。
体が金縛りにあったように動かなくなる。そんなレイアに、スピカは何を思ったか淡々と声をかける。
「消す前に聞いて置きたい事があるわ。あなたはクウの何?」
「…それ、は…」
「大切な人?」
「…そう、です」
「それは守るべきものとして? 愛すべき存在として?」
「………」
答えられなかった。
大事だと思っていたモノが、根本から否定された気分だ。
クウが自分に向けてくれる感情は、愛情だと信じてる…信じてる、筈なのに。
「確かにあの人は優しい。そして甘い。そんな心を、私は傍で感じていた」
スピカの語る思いがぶつかり、自身の思いが揺らぐ。戸惑ってる。
これまで女性に手や口を出すが、クウが本気でないのは分かっていた。それでも口説かれて好意を向ける女性に釈然としない苛立ちを感じ、クウを攻撃する事で苛立ちを解消してた。
なのに、今までと違いクウやスピカに対して釈然としない苛立ちが湧き上らない。
ううん、本当は分かってる。
私は、この人に勝てない。
力とか、魔力とか、それもあるけど、そう言う事じゃない。
ちゃんとクウの事を知って――ちゃんと心から愛している。
「消えて」
言いたい事は語ったとばかりに、手に持つ細剣を振り上げる。
レイアは動けない。そんな少女へ無慈悲にも、刃を下す。
「ラスト――ノヴァ!!!」
その時、スピカを中心に激しい爆発が起こった。
爆風の中でスピカが『シェル』の魔法で防御すると、今度は黒い何かが前に出る。
「ディスノア・ラスチェ!!!」
何者かが巨大な黒い腕を振り、スピカを殴りつけ通路の奥へと吹き飛ばす。
何が何だか分からないレイアに、二人の少女が駆け寄った。
「レイア、大丈夫!?」
「おうら…さん…!」
その内の一人、王羅が駆け寄った事で安心したのか、レイアは糸が切れたようにその場に座り込む。
そうこうしていると、スピカは不利と感じたのかその場から引くように退散する。それを神月とゼツが追いかける。
この一部始終をレイアが呆然と見ていると、入れ替わるようにキルレスト達が現れた。
「キルレストさん達、丁度いい所に! 彼女を頼みます!」
「あ、あの!」
思わずレイアが声をかけると、シェルリアと王羅は安心させようと笑いかける。
「大丈夫、スピカって人は必ず私達が助けるわ」
「君はみんなと一緒にいて。危険なら安全な場所に避難してもいいから」
そう言うと、二人も彼らの後を追いかける。
後に残されたのは、神月の激しい攻撃で崩れ去った壁。自分を助け起こそうとするキルレスト達だった。
■作者メッセージ
新年初の本編での投稿となりました。番外編のクリスマスに旅館が間に合わず急いで書いた新年企画で、しばらくの間お待たせしてしまってすみません。
個人的にレイアvsスピカの対決は書きたいと思っていたシーンで、纏めるのに時間がかかりましたが楽しかったです。え? 対決って割には戦闘してない? やめてください(レイアが)死んでしまいます。
新年から二日連続投稿。この調子で、執筆を進めては行きたい――と言いたいところですが、毎年行うリラ様の誕生日企画で、今年もまた長めの作品を書く事になりまして…まあ、主に私らの悪ノリが原因なんですけど(遠目
どんな作品かは…誕生日をお楽しみに。
個人的にレイアvsスピカの対決は書きたいと思っていたシーンで、纏めるのに時間がかかりましたが楽しかったです。え? 対決って割には戦闘してない? やめてください(レイアが)死んでしまいます。
新年から二日連続投稿。この調子で、執筆を進めては行きたい――と言いたいところですが、毎年行うリラ様の誕生日企画で、今年もまた長めの作品を書く事になりまして…まあ、主に私らの悪ノリが原因なんですけど(遠目
どんな作品かは…誕生日をお楽しみに。