CROSS CAPTURE12 「見据える先」
アイネアスの執務室にて。
アルカナの連絡、取り計らいでこの部屋には彼ともう二人の人物が既にいる。
一人はアイネアスの妻で、このビフロンスを創った女性サイキ。
一人は同じく感情を司る半神のシュテン。彼は普段から自前の酒を飲みながら、来るであろう彼らをイスに座って待っていた。
「……やれやれ、皆は私の言う事をあまり聞いてくれないものだ」
アルカナの連絡より少し前にミュロスからの連絡も入っていた。
負傷した女性らが仲間の部屋に向かうと聞き、次は先に部屋を飛び出した少年がオルガらと一緒に此処へ来ると。
隠すように苦笑いを零す彼へサイキは微笑みながら、言う。
「今回に関しては眼を瞑ってあげましょう?」
「ハッハッハ! いいじゃないか、いいじゃないか!」
気楽に笑うシュテンはそう言って手にした瓢箪から酒をあおる。
そんな様子にアイネアスは一つ深いため息を零した。
「それにしても、どんなものを持ってくるのかしら…?」
「確か…お守りだったか? 気になるねえ…」
シャオらを待つ中、どんなものを持ってくるのか気になるサイキ、シュテンは聊か訝しげに酒をあおった。
「もう直ぐ来るんだ、すぐに解るさ」
すると、扉へとノックする音が鳴った。直ぐに青年の声が放たれる。
「失礼します、オルガです。アイネアスさん、いますかー?」
「ああ。入りたまえ。……ほら、来た」
くすりとサイキへ微笑み返し、彼らを招き入れた。
「――ふんっ! はぁっ! たあぁっ!!」
一方、城を出て直ぐにとある神殿のようなものが小さく聳えていた。
そこは戦う者たちの修練をする場所として用意されたもので、いくつかの部屋と大きな修練広間のみの構造をしている。
カルマの一件から作り出すことになり、奪還後に完成したのだった。
それからクウらがやって来る間を修練し、カルマとの戦いに備えていた。
しかし、今はクウらがやって来た知らせで此処にいた者たちも城に戻っていた――筈だった。
なぜだか、連絡を聞いても城に戻らなかったものがいた。
「ふんっ! せぃっ! はあっ!!」
紅い髪をした、白い衣装を身に纏い、幅広の両刃剣を振る勇ましい声を出す女性。
炎を司り、半神らの中でも高い戦闘能力を持つ『四属半神』が一人ブレイズだった。
気合の一声と共に素振りする彼女は熱心に修練に勤しんでいる。そんな彼女を気だるく見ている女性がいた。
緑の髪色に女学生の衣装に似たものを着た女性シムルグだ。
「ねえ、良かったの? 変な人間たちが此処に飛び込んできたって連絡あったけど」
シムルグは連絡を聞いた後、此処へとやって来て連絡を告げたのだった。
そんな中で唯一人、ブレイズだけが城に戻ろうとせずに修練に勤しんでいた。
「ふんっ! 知らん、なっ!」
「はぁ……ブレイズは相変わらずねえ……もう」
姉妹とも呼べる仲のシムルグは強情な彼女に呆れた様子で呟いた。
(奪還の後からずっと此処で修練しているから………相当、アレね)
半神という存在に生まれ、優れた存在であると威光を示していたブレイズはある日唐突に打ち砕かれる。
一人の人間との仕合によって……神無らの協力に、ならば力を示せ、とブレイズは彼に挑み――敗れる。
その敗北が彼女の心の根幹を揺らがすことになったのだった。
「はぁっ! ―――城には……ビラコチャたちがいる。治療などやつらに任せればいい」
ようやく素振りを終えて、呼吸を整えながらブレイズがシムルグへ睨んで言葉を返す。
「それも、そうねえ」
睨まれながらも気楽にシムルグは笑って返した。
そんなブレイズの中でも、徐々に人に対する姿勢は変わりつつあった。
聖域レプセキアの奪還で、辛苦を乗り越えて勝ち取った時、ブレイズは歓喜の表情を人間らに見せていただから。
このまま人と交流を続けていけば変われるだろう、と姉たるシムルグは気楽に想っていたが。
(とはいえ、コレに関しては予想外か)
恐らく、ブレイズは負けたことに深いショックを受けたとシムルグは見計らった。
それからというもの修練する時間も多くなった。此処(修練場)を作るようにアイネアスへ進言したのは彼女が最初だ。
きっと彼女は彼らとの交流から更に打ち解けあえていく。
だが、彼らの交流よりも、修練を選び続けるだろう。
(あ、妹ながら面倒ねえ)
そんな素直になれない強情な妹に姉たる彼女は複雑な想いを胸に懐き、一つため息を零した。
それを聞き逃さなかったブレイズは剣尖を彼女へ向け、鋭く問いただす。
「何故、ため息を零した」
「誰にだって悩みは在るわよ。……あなたみたいにね」
そう言われたブレイズは剣を下ろす。その表情は落ち込んだ憂いのあるものだった。
「…うるさい」
「まあまあ、そんなに落ち込まないことね」
ふわりと風を纏い、距離をつめたシムルグは彼女の肩をぽんぽんと軽く叩いて、頭を撫でる。
真っ直ぐとした真剣味に優しい微笑みを込めて、彼女へという。
「アナタは強いわ。だから、一度の敗北で自分を責めない事ね」
「! 私は……」
「違わないでしょ」
「……」
「いいじゃない。さあ、さっさとシャワーして今日は城に戻りましょーね。
久々の姉妹水入らず。ふふふ…」
妹の手を引っ張りながら、シムルグはシャワー室へと向かった。
そんな自由奔放な風たる彼女を妹のブレイズでは止めることも出来ない。
再び、城内ではレイア、紗那、ヴァイの3人はクウを探していた(キサラはカイリらの様子を見る為、3人と別れた)。
ゼツたちから城からは抜け出していないということから城内を巡っている。
下層を調べたが、見かけたものは少なかった。居たとしても止める間もなく走りぬかられたのだから仕方が無かった。
次に中層へと足を運び、ロビーに休憩と共に腰を下ろす。
「クウさん……何処に……?」
下層を歩き回った疲労、まして無理に回復呪文で治癒した体には負担が大きい。
肩で息するレイアを座らせて、紗那もヴァイもどうするか思案するように会話する。
「紗那さん、どうします…?」
「むー……このまま続けるとレイアちゃんの身が心配だわ。いっそのこと、背負ってでも回ろうかしら」
「……」
そんな二人の会話の様子をレイアは疲れながらも聞いていた。唇をきゅっと締め、自身を奮い立たせる。
「だ、大丈夫です…! はやく、クウさんを見つけないと…!」
「でも……」
「無理は駄目よ。もう少し座って休んでなさい」
立ち上がろうとする彼女を慌てて紗那が駆け寄って、宥める。
必死な気持ちは痛いほど伝わる。だからこそ、こちらも必死に押さえなければならない。
「ねえ」
ヴァイはふと、思い出したように二人に声をかける。
その問いかけに二人は振り向き、紗那は小さく首をかしげて窺う。
「どうかしたの、ヴァイ」
「そういえばさ……この城って大きいし、広いよね」
「……当たり前でしょ。もう、何を言ってるの」
唐突な話、しかも当たり前のような内容に紗那はやや困った表情を浮かべる。
レイアも黙ってヴァイを見据えていた。
二人に呆れかけたヴァイは慌てて、口火を切った。
「じゃなくて! 此処って城なのに、色んなものがあるじゃん!」
「色んなもの……」
「そういえば、そうですね…」
ヴァイの言葉にレイアも不思議と頷いた。この城には様々な設備や場所が用意されていた。
もっと目立つもの、際立つものがあった。それは。
「塔だよ! 城の内側に塔が聳えてる」
「……あ!!」
やっと気がついた紗那は大きな声を洩らす。そして、ヴァイは言葉を続ける。
「もしかすると、塔にクウさんがいるかもしれないわ」
「どうして、解るんです…?」
「女の勘、って言いたいけどやっぱりアレだよね」
ヴァイが苦笑いを零して、すぐに真面目な、しかし、どこか悲しげな様子で説明する。
「やっぱり、辛いとさ……一人で居たくなると想うんだよね。どんなに、自分を解ってくれる人がいたとしても。
でも、この城には私たち以外に城で働く人たちが大勢、いる。そうなると人が少なそうな塔が怪しい……と見た」
「そうね。あそこって人がいる気配は少ないし」
ヴァイも紗那もこの三日間で城の大体を案内され、塔についても案内を受けていた。
基本的に『塔』にはアイネアスらが使う事が多いが、無人にしてあるという。
彼がいるとしたら其処しかない、それがヴァイの見解であった。
「…じゃあ、塔に行くんですか?」
「レイアちゃんの体力も考えてそこが最後ね」
「うん。レイアちゃん…動ける?」
「はい、頑張ります…!」
レイアは頷き返し、3人は塔へと向かう事になった。
塔からは再び下層から向かわなければならない。そして、高く聳える内部を登らなければならない。
ヴァイと紗那は其処にクウがいると信じて、塔を上る際は二人がそれぞれレイアを背負って向かう事を決意した。
■作者メッセージ
修正するかもしれない。しないかもしれない。続けて書くかもしれない。
待て、次回
待て、次回