CROSS CAPTURE13 「惑う心」
それから負傷したウィドたちのいる部屋では徐々に目覚めた者達が出始める。
しかし、同時に先のクウらの件から心苦しい、重たげな空気が漂っていた。
そんな彼らの面倒を見ているのは今はビラコチャから神無らになった。それでもビラコチャは部屋の隅で腕を組み、座ったまま休んでいのだった。
「……先ほどは、失礼しました」
自棄から暴れかけたウィドは王羅の手によって眠らされたが、目覚めて消沈した声と頭を下げ、王羅に謝する。
頭を下げている彼に、王羅は優しく微笑み返す。
「いえ、気になさらないで。さ、もう上げてください」
「……はい。私は、ウィド…」
頭を上げ、会話を切り出そうと思って、まずは自分の名を明かす。
「ええ。はじめまして、私は王羅といいます」
「王羅…さん、色々と尋ねたいのですがす」
「はい。お互いに」
笑顔で話してくれた王羅は真面目な表情となる。ウィドの様子を察し、応じたものだった。
小さく頷いたウィドは様々な状況を尋ねた。まず一つ目は、彼女の胸から現れ、自分に向けた不思議な力を宿した剣だ。
「あの時、自暴自棄な私を不思議な剣を取り出して、抑え込んだ……あれは、いったい…?」
「ああ、『心剣』の事だね。心の剣……心剣だよ」
そう言って、再び胸に手を当て、呼応するように柄が出現する。それを引き抜き、披露した。
綻びの一切ない純白の剣、それは確かに自分に向けて抑え込んだものだった。美しさ、異様さに言葉を失っていたウィドを微笑み、彼女は再び剣を虚空へ消す。
「まあ、この取り出し方は好きだけどやっぱ隙を減らすなら手から出すべきだよね」
そういった、虚空から今度は先の聖剣とは異なる雰囲気をした刀を手に取る。そして、直ぐに虚空へ消す。
まるで手品のような技術に眼を丸くするウィドだが、はっと正気になり、冷静に心剣を思考する。
「……心剣。私たちが居た世界には無いものだ……」
「へえ、意外……はは、ごめん。この世界には心剣以外の特殊な剣があるんだ。それはまた別の機会に」
「次に……此処は、何処でしょうか?」
「ビフロンスという世界、此処はそのお城の一室ですよ」
「異世界に飛ばされてきたという事…か」
「ええ」
ウィドは声を小さく呟き、状況を推し量る。王羅は彼の中にある憎しみがまた爆発してしまうのではないか、そう思って彼の対応を担った。
そして、ウィドは周囲を見た。目覚め始めたリクたちが王羅の仲間であろう男性や青年と会話しているのを。
「王羅さん、二人ほど姿が見えないものがいるようですが…」
「! ……ええ」
「何処に…居るのですか…?」
次第にウィドの声に気力が蘇っている。
それは治療による回復だからではない。あくまでも燻っていた憎しみがまた滾りはじめていたのだ。
王羅は表情を崩さず、冷静に考えて、言葉を選択する。
クウが逃げ出したと言ったなら、恐らく彼はクウを追いかけるだろう。小さく呼吸を整え、口火を切った。
「クウさん、シャオくんは今別室で治療中です。今は面会とかは出来ないし、部屋も教える事は出来ない」
「そう……ですか」
そう言われたウィドは俯き、沈黙する。これ以上のやり取りは不要になったのだろうと王羅は一息ついて、彼を横にさせた。
「それじゃあ僕は失礼します。何かあれば僕や他の方を呼んでください」
「…………ええ」
王羅は微笑み返してウィドのベッドから離れた。
神無は、無轟の面倒を受けていた。その傍には凛那もいた。
そして、無轟も一眠りから醒め、ベッドから立ち上がるほど回復はした。
『無轟、もう立てるの?』
普段の衣装を着直し終えた彼を心配そうに見る炎産霊神に、小さく笑んで、神無らへ振り向いて、言った。
「ああ。神無たちのお陰だ」
「何、アンタの治りが早いんだよ…」
「…………」
陽気に話し合う無轟と神無を凛那は黙して静かに見据えて佇んでいる。
そこに炎産霊神が、声をかけてきた。だが、彼は神無らと話をし合っていた。
『どうかしたの、凛那』
その声は心に話しかけるものだった。無轟らには聞こえていない様子であった。
凛那は瞼を閉じ、視線の先にいる炎産霊神の声に心の声で驚きを隠した応じた。
(……何よ、急に声をかけてきて)
『ああ、良かった。聞こえたみたいで』
『凛那』にとって、炎産霊神は力の核だった。それは人で例えるなら血の様な不可欠な繋がり。
しかし、目の前の炎産霊神はこちら側の凛那とは別の存在。伝わる可能性は低かった。が、問題なく応答する事ができた。
それを喜ぶ声で行った彼は続けて言う。
『でも、ずっと無轟を見てるよね』
(うるさい)
あちらの炎産霊神もきっとこんな性格だったろうと薄々感じてはいた。
やはり応じるのをやめようかと思い、一息つくと共に、炎産霊神が話を続ける。
『君なら、無轟の力になれる』
(何を…言っている?)
閉ざそうとした意識を振り向かせるには充分な言葉を聞かされた凛那は表情を険しく作った。
『伽藍が新しい凛那を作るその時まででいい……彼の力になってほしいんだ』
(……)
直ぐに言葉を返せなかった。
目の前にいる男は無轟。自分の主と同じ名、同じ風貌、同じ精神、同じ箇所を多いけれど、こうして彼の刀として戦う事に湧き上がる感情はなんだ。
深い疑問なのだろうか。自分に対しての、疑問を。力になれるのだろうか、と。
(私、は……)
『出来れば今は直ぐに協力して欲しいんだよね』
(何故だ。何を、する気だ!)
『何、僕は何も企ててないさ。考えがあるのは無轟だよ』
「―――神無、すまないがクウを探し出すのを協力させて欲しい」
「お、おい。急になんだよ」
唐突に言い寄られた神無は驚きながらも、ビラコチャに視線を向けた。
彼は視線に気づき、小さな動作を取った。その動作から、彼はこう言っている。
『誰かと 一緒に 行動させろ』
その言葉を理解して、困ったように無轟らに言う。
「探し出すのに協力してくれるのはありがたいぜ? だけどよ、無轟一人で城内を動き回るのは無理だ。俺か、他のやつらと一緒にいかせてもらう」
「それでもいい。誰が一緒に来るのだ」
『凛那、頼む…!』
(……)
慌てて、内なる声で必死に呼びかける炎産霊神。凛那は無轟の様子、炎産霊神の様子、双方を見て、決断を下す。
「――私が、一緒に行く」
「え、凛那?」
今まで黙りこくっていた彼女が口を開いたのだった。驚く神無を他所に、無轟は頷き返して、
「なら、凛那。よろしく頼む」
「え……ええ」
頬を薄く赤に染めながら彼女は了承した。炎産霊神もその様子にほっと胸を撫で下ろす。
神無はその様子を小さく訝るも、自分が、ビラコチャが言った言葉に従う様に凛那へ小さな声で釘を刺した。
「凛那、無轟に無理させないように見ていてくれよ? 回復したばかりで、本調子には戻っていないからな」
「……解っている。皆まで言うな」
「解った。頼んだぜ?」
そう言って、無轟は笑顔で返して、無轟に振り向いて頷いた。
「なら、今から探しに行こう。頼むぜ、無轟」
「ああ、クウのことは私たちも心配だからな」
『任せてちょうだいな!」
頷き返した彼は立ち上がって、炎産霊神、凛那と共に部屋を出て行った。そして、すぐに、部屋へやって来ていたカイリたち、ミュロスたちと鉢合わせとなった。
「あ、無轟さん…?」
驚くカイリたち、ミュロスらは無轟が行動できる事を知らされていない。
まして、クウ、シャオが飛び出したことを聞き、新たな奔走者と誤解するようにミュロスが警戒の姿勢を作って無轟に言い寄った。
「あなた、何処に行こうというの? おとなしく……」
「彼は動けるまでに回復している。クウの捜索に協力してもらっている」
言い寄るミュロスに、無轟を庇うように凛那が前に出て、誤解を解くべく説得する。
ミュロスはじっと凛那を見つめ、ため息を大きく吐いた。
「もう、皆勝手に動き回る……頭痛くなってきた」
そう言いながら彼女はカイリらを部屋に入らせていき、自身も部屋へと入った。
そうして、凛那と無轟は改めて、クウの捜索を開始した。
一方、部屋へと入ったカイリたちに神無は驚くように声をかけた。
「おいおい、無轟の次はお嬢ちゃんたちかい……まあ、いいか。寝ている奴もいるから静かに頼むぜ」
「はい。解りました」
神無の注意を了解した3人はそれぞれ負傷した面々に歩み寄った。アクアだけはテラやヴェンの方に足を運んだ。
二人はそれを止めずにリクへと様子を窺う。彼は眼を覚まし、ベッドから身を起こしており、傍には神月が居いた。
「リク…!」
「良かった。無事みたいで」
「ああ……カイリたちこそ」
安心の喜びを洩らすカイリ、安堵に笑顔を浮かべるオパールにリクははにかんだ微笑を返し、直ぐに表情を険しくする。
「だが……この有様さ」
戦いに負けた無念さ、ソラを助けれなかった悲痛をかみ締め、隣のベッドに視線をそらす。
隣のベッドには彼のレプリカ、瓜二つの容貌をしたルキルが眠りについている。
その事に関して、神月が口を開き、事情を説明した。
「ルキル……っていうのか。そこの彼はずっと眠りについている。どういうわけだかな」
「ずっと、なの?」
「そうだな。ずっとだ」
神月は近くにあった時計を見て、頷き返した。そして、リクは消沈した様子で項垂れる。
彼の様子に、オパールは声を荒げて詰め寄り、彼の両肩を掴んで揺さぶった。
「リク、アンタらしくないわよ! しっかりしなさい…!」
「……ッ」
「其処までだ。親父から静かにしろって言われたばかりだろ」
「親父…?」
「俺の親父さ」
そして、神月は一息ついてから、彼らに言う。
「今は落ち着いて、ゆっくり休むだな」
「……ああ」
「……いこ、カイリ」
手を離しオパールはカイリと共にリクから他の仲間たちの様子を見に行った。
二人が去るのを見てから、リクは俯き、か細く小さな声で呟いく。
「すまない……二人とも」
そして、その無念の声を神月は察し、何も言わずに一息ついた。
しかし、同時に先のクウらの件から心苦しい、重たげな空気が漂っていた。
そんな彼らの面倒を見ているのは今はビラコチャから神無らになった。それでもビラコチャは部屋の隅で腕を組み、座ったまま休んでいのだった。
「……先ほどは、失礼しました」
自棄から暴れかけたウィドは王羅の手によって眠らされたが、目覚めて消沈した声と頭を下げ、王羅に謝する。
頭を下げている彼に、王羅は優しく微笑み返す。
「いえ、気になさらないで。さ、もう上げてください」
「……はい。私は、ウィド…」
頭を上げ、会話を切り出そうと思って、まずは自分の名を明かす。
「ええ。はじめまして、私は王羅といいます」
「王羅…さん、色々と尋ねたいのですがす」
「はい。お互いに」
笑顔で話してくれた王羅は真面目な表情となる。ウィドの様子を察し、応じたものだった。
小さく頷いたウィドは様々な状況を尋ねた。まず一つ目は、彼女の胸から現れ、自分に向けた不思議な力を宿した剣だ。
「あの時、自暴自棄な私を不思議な剣を取り出して、抑え込んだ……あれは、いったい…?」
「ああ、『心剣』の事だね。心の剣……心剣だよ」
そう言って、再び胸に手を当て、呼応するように柄が出現する。それを引き抜き、披露した。
綻びの一切ない純白の剣、それは確かに自分に向けて抑え込んだものだった。美しさ、異様さに言葉を失っていたウィドを微笑み、彼女は再び剣を虚空へ消す。
「まあ、この取り出し方は好きだけどやっぱ隙を減らすなら手から出すべきだよね」
そういった、虚空から今度は先の聖剣とは異なる雰囲気をした刀を手に取る。そして、直ぐに虚空へ消す。
まるで手品のような技術に眼を丸くするウィドだが、はっと正気になり、冷静に心剣を思考する。
「……心剣。私たちが居た世界には無いものだ……」
「へえ、意外……はは、ごめん。この世界には心剣以外の特殊な剣があるんだ。それはまた別の機会に」
「次に……此処は、何処でしょうか?」
「ビフロンスという世界、此処はそのお城の一室ですよ」
「異世界に飛ばされてきたという事…か」
「ええ」
ウィドは声を小さく呟き、状況を推し量る。王羅は彼の中にある憎しみがまた爆発してしまうのではないか、そう思って彼の対応を担った。
そして、ウィドは周囲を見た。目覚め始めたリクたちが王羅の仲間であろう男性や青年と会話しているのを。
「王羅さん、二人ほど姿が見えないものがいるようですが…」
「! ……ええ」
「何処に…居るのですか…?」
次第にウィドの声に気力が蘇っている。
それは治療による回復だからではない。あくまでも燻っていた憎しみがまた滾りはじめていたのだ。
王羅は表情を崩さず、冷静に考えて、言葉を選択する。
クウが逃げ出したと言ったなら、恐らく彼はクウを追いかけるだろう。小さく呼吸を整え、口火を切った。
「クウさん、シャオくんは今別室で治療中です。今は面会とかは出来ないし、部屋も教える事は出来ない」
「そう……ですか」
そう言われたウィドは俯き、沈黙する。これ以上のやり取りは不要になったのだろうと王羅は一息ついて、彼を横にさせた。
「それじゃあ僕は失礼します。何かあれば僕や他の方を呼んでください」
「…………ええ」
王羅は微笑み返してウィドのベッドから離れた。
神無は、無轟の面倒を受けていた。その傍には凛那もいた。
そして、無轟も一眠りから醒め、ベッドから立ち上がるほど回復はした。
『無轟、もう立てるの?』
普段の衣装を着直し終えた彼を心配そうに見る炎産霊神に、小さく笑んで、神無らへ振り向いて、言った。
「ああ。神無たちのお陰だ」
「何、アンタの治りが早いんだよ…」
「…………」
陽気に話し合う無轟と神無を凛那は黙して静かに見据えて佇んでいる。
そこに炎産霊神が、声をかけてきた。だが、彼は神無らと話をし合っていた。
『どうかしたの、凛那』
その声は心に話しかけるものだった。無轟らには聞こえていない様子であった。
凛那は瞼を閉じ、視線の先にいる炎産霊神の声に心の声で驚きを隠した応じた。
(……何よ、急に声をかけてきて)
『ああ、良かった。聞こえたみたいで』
『凛那』にとって、炎産霊神は力の核だった。それは人で例えるなら血の様な不可欠な繋がり。
しかし、目の前の炎産霊神はこちら側の凛那とは別の存在。伝わる可能性は低かった。が、問題なく応答する事ができた。
それを喜ぶ声で行った彼は続けて言う。
『でも、ずっと無轟を見てるよね』
(うるさい)
あちらの炎産霊神もきっとこんな性格だったろうと薄々感じてはいた。
やはり応じるのをやめようかと思い、一息つくと共に、炎産霊神が話を続ける。
『君なら、無轟の力になれる』
(何を…言っている?)
閉ざそうとした意識を振り向かせるには充分な言葉を聞かされた凛那は表情を険しく作った。
『伽藍が新しい凛那を作るその時まででいい……彼の力になってほしいんだ』
(……)
直ぐに言葉を返せなかった。
目の前にいる男は無轟。自分の主と同じ名、同じ風貌、同じ精神、同じ箇所を多いけれど、こうして彼の刀として戦う事に湧き上がる感情はなんだ。
深い疑問なのだろうか。自分に対しての、疑問を。力になれるのだろうか、と。
(私、は……)
『出来れば今は直ぐに協力して欲しいんだよね』
(何故だ。何を、する気だ!)
『何、僕は何も企ててないさ。考えがあるのは無轟だよ』
「―――神無、すまないがクウを探し出すのを協力させて欲しい」
「お、おい。急になんだよ」
唐突に言い寄られた神無は驚きながらも、ビラコチャに視線を向けた。
彼は視線に気づき、小さな動作を取った。その動作から、彼はこう言っている。
『誰かと 一緒に 行動させろ』
その言葉を理解して、困ったように無轟らに言う。
「探し出すのに協力してくれるのはありがたいぜ? だけどよ、無轟一人で城内を動き回るのは無理だ。俺か、他のやつらと一緒にいかせてもらう」
「それでもいい。誰が一緒に来るのだ」
『凛那、頼む…!』
(……)
慌てて、内なる声で必死に呼びかける炎産霊神。凛那は無轟の様子、炎産霊神の様子、双方を見て、決断を下す。
「――私が、一緒に行く」
「え、凛那?」
今まで黙りこくっていた彼女が口を開いたのだった。驚く神無を他所に、無轟は頷き返して、
「なら、凛那。よろしく頼む」
「え……ええ」
頬を薄く赤に染めながら彼女は了承した。炎産霊神もその様子にほっと胸を撫で下ろす。
神無はその様子を小さく訝るも、自分が、ビラコチャが言った言葉に従う様に凛那へ小さな声で釘を刺した。
「凛那、無轟に無理させないように見ていてくれよ? 回復したばかりで、本調子には戻っていないからな」
「……解っている。皆まで言うな」
「解った。頼んだぜ?」
そう言って、無轟は笑顔で返して、無轟に振り向いて頷いた。
「なら、今から探しに行こう。頼むぜ、無轟」
「ああ、クウのことは私たちも心配だからな」
『任せてちょうだいな!」
頷き返した彼は立ち上がって、炎産霊神、凛那と共に部屋を出て行った。そして、すぐに、部屋へやって来ていたカイリたち、ミュロスたちと鉢合わせとなった。
「あ、無轟さん…?」
驚くカイリたち、ミュロスらは無轟が行動できる事を知らされていない。
まして、クウ、シャオが飛び出したことを聞き、新たな奔走者と誤解するようにミュロスが警戒の姿勢を作って無轟に言い寄った。
「あなた、何処に行こうというの? おとなしく……」
「彼は動けるまでに回復している。クウの捜索に協力してもらっている」
言い寄るミュロスに、無轟を庇うように凛那が前に出て、誤解を解くべく説得する。
ミュロスはじっと凛那を見つめ、ため息を大きく吐いた。
「もう、皆勝手に動き回る……頭痛くなってきた」
そう言いながら彼女はカイリらを部屋に入らせていき、自身も部屋へと入った。
そうして、凛那と無轟は改めて、クウの捜索を開始した。
一方、部屋へと入ったカイリたちに神無は驚くように声をかけた。
「おいおい、無轟の次はお嬢ちゃんたちかい……まあ、いいか。寝ている奴もいるから静かに頼むぜ」
「はい。解りました」
神無の注意を了解した3人はそれぞれ負傷した面々に歩み寄った。アクアだけはテラやヴェンの方に足を運んだ。
二人はそれを止めずにリクへと様子を窺う。彼は眼を覚まし、ベッドから身を起こしており、傍には神月が居いた。
「リク…!」
「良かった。無事みたいで」
「ああ……カイリたちこそ」
安心の喜びを洩らすカイリ、安堵に笑顔を浮かべるオパールにリクははにかんだ微笑を返し、直ぐに表情を険しくする。
「だが……この有様さ」
戦いに負けた無念さ、ソラを助けれなかった悲痛をかみ締め、隣のベッドに視線をそらす。
隣のベッドには彼のレプリカ、瓜二つの容貌をしたルキルが眠りについている。
その事に関して、神月が口を開き、事情を説明した。
「ルキル……っていうのか。そこの彼はずっと眠りについている。どういうわけだかな」
「ずっと、なの?」
「そうだな。ずっとだ」
神月は近くにあった時計を見て、頷き返した。そして、リクは消沈した様子で項垂れる。
彼の様子に、オパールは声を荒げて詰め寄り、彼の両肩を掴んで揺さぶった。
「リク、アンタらしくないわよ! しっかりしなさい…!」
「……ッ」
「其処までだ。親父から静かにしろって言われたばかりだろ」
「親父…?」
「俺の親父さ」
そして、神月は一息ついてから、彼らに言う。
「今は落ち着いて、ゆっくり休むだな」
「……ああ」
「……いこ、カイリ」
手を離しオパールはカイリと共にリクから他の仲間たちの様子を見に行った。
二人が去るのを見てから、リクは俯き、か細く小さな声で呟いく。
「すまない……二人とも」
そして、その無念の声を神月は察し、何も言わずに一息ついた。