CROSS CAPTURE14 「安堵する心」
一方のアクアはテラ、ヴェンのほうを様子を見ていた。
二人ともリクのようにベッドから身を起こしている状態だった。
歩み寄って着た彼女に気づき、テラは話しかける。
「アクア、無事だったか」
こくりと小さく頷いた彼女は二人を見て、一先ずは安心した吐息を零す。
「此処の皆に助けてもらったんだ。皆、いい人だよ」
ヴェンが明るい笑顔でいい、テラも頷き返し、アクアへ向いて言う。
「クウたちの事は聞いてるか? 彼らを探し出すのを手伝って欲しいんだ。
俺たちはまだ足を引っ張る。此処まで来たってことは回復しているという事……」
「……」
ヴェンは不安そうにテラに視線を向ける。闇に対して危険視する彼女だが、彼は信じていた。
不安げな彼に小さく頷き、テラは彼女の答えを再確認した。
「駄目か?」
「――……ええ、任されたわ」
しっかりと頷き返した彼女を見て、二人は安心したように笑みを向けた。
「また自由行動?」
すると、アクアにミュロスが声をかけてきた。先ほどのクウ捜索の事とテラたちは思った。
「あ…お願いします。私もクウたちを探すのを手伝わてもいいでしょうか?」
「………はあ」
ミュロスは一つ大きなため息を吐いて、手元に持っている栞を一つ手渡した。
それを不思議そうに見るアクアに、続けて彼女は説明した。
「これは通信機と同じものと思えばいいわ。念じたら私と応答できるから、見つかったら見つかったって報告でも何でもしなさいよ。
私、馬鹿みたいに疲れたから部屋戻って寝る。毘羯羅、後はお願いしていい?」
ミュロスの見た先には顔に無数の傷が走っている女性、毘羯羅が佇んでおり、彼女は静かに頷いて了承した。
そうして、彼女は部屋を疲れた様子で足早に出て行った。
アクアはそれを見届けてから、テラたちへ振り向いた。
「それじゃあ、彼を探しに行くわ」
「すまない、頼んだ」
「頑張って!」
二人の言葉を受け取り、アクアはカイリらに話をつけてから、毘羯羅と共に部屋を出て行った。
下層城内の廊下を歩む無轟、凛那はクウの捜索の最中だった。
だが、無轟の足取りは凛那の案内無しで迷い無く進んでいる。
『まるで目的地を知っているかのよう』に、凛那は疑問に思って彼に問いただす。
「無轟、クウという男の居場所を知っているのか?」
「どうしてそう思う?」
歩みを止めず返す無轟に、凛那はそのままの歩調で言葉を続けた。
「こんな広い城の中を迷わず動いている時点で、知っているとしかいえないわ。さっきも、通りかかった仲間に質問もしなかった」
「なるほどな。……簡単だ、『力の気配』を探り出すだけさ」
全員が全員、異なる力の気配を宿し、無意識に放っている。気配を感じ取る、というのはそれと同じ意味だ。
この旅で無轟はクウらの大体の力の気配を認識し、憶えている。
そして、今、彼がいるだろう場所は―――。
「この塔か」
城内に聳える塔、入り口の扉は既に開かれた後がある。この塔の上にクウがいると無轟は認識した。
そして、塔に踏み入る手前、凛那にとある頼み事を打ち明かした。
「それは本気でいっているのか…?」
「本気だ」
はっきりと言い切った無轟は塔を仰ぎながら、凛那へ言葉を続ける。
「俺の手にあの『凛那』が戻ってくる間だけでいい。お前を、『明王・凛那』として振るわせて欲しい」
「……」
『無轟、流石に無理じゃあないかな』
彼の傍から火の粉が渦巻き、炎産霊神が現出する。その表情は困ったような顔色で彼を見ていた。
『僕が頑張って同伴に協力してもらったけど、刀として振るわせるまでは……』
「凛那……こちら側の無轟はもうこの世に居ないのだったな」
無轟は引こうとせず、彼女へグレーな質問を問うた。
それの問いかけに凛那は鋭い眼差しと言葉を突きつける。
「そうよ。だからって、私が貴方の刀(もの)という訳じゃない……私は、明王凛那……無轟の為に、作られた刀よ。
此処に貴方が現れて、出会ったとき……言いしがたい衝撃と気持ちになった」
凛那は胸元に手を当て、言葉を続ける。
「色んな感情が、私の中に溢れた。どうしようもない気持ちで胸が一杯になった」
「……」
『凛那……』
刹那、凛那の姿が茜色の焔を纏い、形を変え、武器としての姿『明王・凛那』となっていた。
無轟は手前まで歩み寄り、手を伸ばす。すると、刀から凛那の静かな声が放たれる。
「無轟。私を手にする覚悟はありや、なしや」
「無論、在る。伽藍がこちらの世界にも居るならきっと我が『凛那』を救う術がある筈だ。俺はその可能性、希望を信じる。そして、その僅かな合間だけ、力を貸してくれ。
――――『明王・凛那』よ、『無轟』よ」
彼は柄を握り締めた。炎産霊神が心配な眼差しのまま見つめ、様子を窺っていた。
静寂の末に、明王・凛那を握り締めた手を下ろす。身を焦がす熱も何もなかった。
小さく刀を鞘から抜き取り、再び納める。キンという音と共に、無轟は塔へと歩みだした。
「礼を言う、『明王・凛那』」
「それはこちらの言葉だ」
無轟は歩みだす中で、手にした明王・凛那へ語りかけ、安堵に満ちた彼女の声が返って来た。
■作者メッセージ
修正とかありかも。未定。次回も、未定