CROSS CAPTURE19 「選択の先」
城にある庭園で、アクアは一人顔を俯かせていた。
そうして、少し前に起きた記憶を蘇らせる。
『――分かった。私もすぐに向かおう』
クウを探し庭園を見回っていた際に爆発が起き、少しして毘羯羅が誰かと連絡を取っていた。
やがて通信を切るのを見計らい、何が起こっているのかを聞いた。
『一体何があったんですか?』
『クウと言う男を見つけた、が…どう言う訳か、無轟が襲っているそうだ』
『どうして!?』
『それを今から確かめに行く。お前はここに残れ』
その毘羯羅の指示に、納得がいかず詰め寄ってしまう。
『何故ですか!?』
『お前には迷いが見える。僅かな疑心は、時に大きな過ちを生み出すぞ』
『っ!?』
まるで心の内を覗かれたような言葉に、思わず動きを止めてしまう。
その隙を突く様に、毘羯羅は背を向けると更に言葉を述べた。
『ここで一度、自身の心を見つめ直せ。その迷いが消えたと感じたのなら、修練場に来るがいい』
それだけ言うと毘羯羅は去って行き、一人庭園に取り残された。
ここまでの記憶を蘇らせると、アクアはお守りを取り出して見つめる。
「マスター…私は、どうすれば良いのですか…?」
小さく呟き、自身の迷いに思いを巡らせる。
闇を宿しているが、クウやスピカが悪い人ではないのは分かる。だから、いなくなってしまったクウを探そうとした。
だが、闇は存在してはならないと言うマスターの教えも忘れた訳じゃない。本来の時代で旅してた時も闇の住人がテラとヴェンを狙っていたし、今回の旅の敵だって闇を宿している。
何故、無轟はこのような事を起したのだろうか…。
「アクアー!!」
そうして考え込んでいた時、大声で呼びかけられる。
急いで振り向くと、そこにはヴェンとテラが近づいていた。
「ヴェン、それにテラも!? 動いて大丈夫なの!?」
「ある程度はな。それよりアクア、どうしてここに?」
「そうだよ! 今はクウが大変なんだ、アクアも早く行かないと!」
ヴェンが急かす様に詰め寄ると、アクアの顔が僅かに引き攣った。
「二人とも…」
僅かながらもアクアの迷いに気付いたのか、ヴェンが悲しげな表情を浮かべる。
「アクア…クウの事、やっぱり疑ってる? 前のテラみたいに…」
「違うの!! 私は――!!」
「アクア、聞いてくれないか?」
誤解を解こうとするアクアに、不意にテラが口を開く。
突然のテラの言葉に、アクアだけでなくヴェンも口を閉ざして注目する。
そんな二人の視線を浴びながら、テラは自分の掌を見つめながら話し出した。
「アクアの言う通り…俺は、闇の力に手を染めた」
「「テラ…!?」」
突然の告白に、二人が息を呑む。
だが、テラは怯む事無く話を続ける。
「だから、俺は闇と向き合う事にした。闇に落ちるのではなく、闇を自分の力にしようとしたんだ。そんな中でいろんな人に出会って…いろんな事を教えられた。例え闇に身を染めても…変わらぬ心の事をな」
「変わらぬ、心…」
アクアが呟くと、テラは笑いながらポケットに手を入れる。
そこから取り出したのは、オレンジで作った星の形をしたお守り。
承認試験の前日に渡した物だ。
「アクア、ヴェン…俺達は、まだ繋がってるよな?」
何処か確信を持ちながら、テラは『つながりのお守り』を二人に見せる。
そんなテラに、ヴェンもポケットに手を入れる。
「当たり前だろ!! テラもアクアも…俺の大事な友達だ!!」
ヴェンも『つながりのお守り』を取り出し、テラと同じように前に差し出す。
まるで最初にお守りを渡した時のように見えて、アクアも手に持ってたお守りを同じように見せ合う。
ふと二人の顔を見ると、こちらを見て笑っている。この光景に、アクアの中にあった迷いが晴れた。
「テラ、ヴェン…ごめんなさい。仲間も信じられないなんて…私、マスター失格ね」
そう言うと、心の蟠りが取れたのか穏やかに笑いかける。
一度は亀裂が出来て別れても、こうして繋がっていた。誰かを信じる事。誰かと繋がっている事を忘れなければ、きっと大丈夫なのに…どうして忘れてしまってたのだろう?
自分の失態に若干落ち込むアクアに、二人は何処かおかしそうに笑い出した。
「マスターになって、頭が余計に固くなったんじゃない?」
「確かに、アクアは真面目すぎる所があるからな」
「もう、二人とも!?」
ヴェンとテラの言葉に、すかさずアクアが叱り付ける。
それでも笑う二人に、怒ってたアクアも釣られるように笑ってしまった。
「ハハッ…それじゃあ、行こう!!」
三人が一頻り笑うと、ヴェンが元気よく声をかける。
そして、テラとアクアも大きく頷いた。
天空に聳えたつ塔の上空。
そこで『干将・莫耶』の力で桃色の羽衣を纏った紗那が、天を舞っていた。
「――ハッ!」
否、塔の壁を一歩一歩蹴りながら下の城へとゆっくり降りている。
そんな紗那の背中にはレイアが背負われ、隣には羽衣に巻かれたヴァイもいる。
「もー、塔を上ってた途端にこんな騒ぎがあるなんてー!!」
「でも、ある意味で丁度良かったわ。それよりレイアちゃん、大丈夫?」
空中を羽根のように緩やかに降りながら、紗那は背負うレイアに声をかける。
「すみま、せん…本当に…!」
息を途切れさせつつも、どうにか言葉を返すレイア。
先程よりも顔色が悪いレイアに、ヴァイは不安を浮かべた。
「…ねえ、本当にいくの? おじ…無轟さん、とっても強いんだよ? 今の状態じゃ、あなたが死んじゃうかもしれない…」
「分かって、ます…一緒に、旅しましたから…」
身体を気遣うヴァイに、レイアは拳を握り締めながら真っ直ぐに煙の上がる修練場に目を向ける。
「それでも…決めたんです。どんな時でも、クウさんの傍にいるって…!!」
例え拒絶させられても、危険な場所でも、彼の傍にいる。それが、今自分が出来る唯一の事だから。
そうこうしていると、紗那は思いっきり塔の壁を蹴って城の屋根へと着地する。すると、そこから大きく跳躍して屋根伝いに移動する。
屋根伝いに移動すれば、城の廊下と違いほぼ一本道となる。こうして時間短縮し、三人は目的の場所に近づく。
「お前ら、止まれ!!」
だが、突然男性の声が響くと共に目の前に土の壁が現れる。
さすがの紗那も空中で停止し、修練場の入口から少し離れた地点で地面に降り立つ。その間に、ヴァイは声のした方を見た。
「刃沙羅さん!? それに、アレスティアさんも…!?」
目の前には、刃沙羅とアレスティアの二人が険しい目でこちらを見ている。
「ここから先は危険よ。あなた達だけじゃどうにもならない」
「ここは俺らに任せて、お前らはすぐに救援を呼んでくれ」
「退いてください!! あの中に、クウさんが…!!」
進路を塞ぐ二人に、背負われるレイアが堪らず叫ぶ。
必死なレイアに僅かに顔を歪めるが、すぐに厳しい言葉を浴びせた。
「悪いが、お前を通す事は出来ない。まだ体調が良くないだろ?」
「それに、クウって人はエンと言う人物なのでしょう? 例え中身が別人でも、信用は出来ない」
「クウさんは…そんな人じゃ、ありません!! だから、退いてください!!」
カルマと組んでいる敵である事に疑いをかけるアレスティアに、堪らずレイアが否定した時だ。
「レイアっ!!」
一人の少女の声が響き、全員が視線を向ける。
そこには今しがた来たのか、カイリがいた。後ろにはリクとオパールもいる。
「あんたらは…!?」
怪我人が来た事に、刃沙羅の表情が更に険しくなる。
すると、オパールが対抗するように刃沙羅を睨んで近づき、やがて向かい合う形で足を止めた。
「退いて」
「お前まで何を――」
「いいから…――さっさと退けぇ!!!」
怒鳴るなり、オパールは刃沙羅の両足の間に足を思いっきり振り上げ―――会心の一撃を振り翳した。
ドガァ!!!
「ぐおああああああああっ!!!??」
「だ、大丈――!?」
百戦錬磨の刃沙羅でも耐え切れない激痛なのか、その場で蹲り悶え苦しむ。
これにはレイアも回復魔法をかけようとするが、その前にオパールが紗那の腕を掴んだ。
「ほら、行くわよ!!」
「急いで!!」
「え、ええっ!!」
「ふぇええええっ!?」
オパールだけでなくカイリも声をかけると、紗那は困惑しながらもレイアとヴァイを連れて先を急ぐ。
走り去りながらレイアの悲鳴が上がる中、残されたのは顔を引き攣らせるリクとアレスティア、そしての苦悶の声を上げて蹲る刃沙羅だった。
「…とりあえず回復させとくから、誰か呼んで来てくれ」
「わ、分かったわ…」
男として放って置けないのかリクが指示を出すと、アレスティアもそれに従う。
そんな中、女子五人が障害を突破して神殿の入口へと入っていると、レイアがオパールに質問した。
「オパールさん、どうして…!?」
「あんたの彼氏がピンチなんでしょ!! だったら急ぐ!!」
「あの…!? クウさんの事、信じてくれるんですか…!?」
「信じるも何も、あいつとは別人なんでしょ!? なら、それでいいじゃない!! そんな事いちいち気にしてたら、リクと一緒になんていないんだから!!」
「オパールさん…!!」
乱暴に言いつつも、クウの事を信じてくれるオパールにレイアは涙ぐむ。
そんなレイアに、横にいるカイリが笑いかけた。
「大丈夫。みんな、進むべき道を取り戻し始めてる。レイアと同じようにね」
「…はい!」
「つぅ…!!」
灼熱の空間に耐えながら、小人サイズになったクウを頭に乗せながら斬り込もうとするシャオ。
だが、無轟の握る刀と爆炎に憚られ攻撃が届かない上に近づけない。
(『マスターキー・モード』になればって思ったけど、考えが甘かった…!)
戦えない状態のクウをこうして自分の手元に置き、自分の持つ最大の力で一気にケリをつける。
考えとしてはいい線だったが、実行に移した際に一つだけ誤算があった。
戦う相手が強すぎる。
「そこだ!!」
「ぐぁ!」
そんな事を考えていた隙を突き、無轟が一気に斬り込んできた。
シャオは辛うじて防御するが、クウと共に思いっきり吹き飛ばされてしまう。
その時、『ミニマム』の効果が切れたのかクウが元の大きさに戻った。
「魔法が…!?」
「終いだぁ!!」
すぐに自分の身体を確認するクウに、無轟が『炎産霊神』を放つ。
刀に炎熱を纏い、斬り込んだ…寸前、目の前で庇うようにシャオが二刀でその刃と炎熱を受け止めた。
「ぐうぅ…!!」
「シャオ、もう止めろっ!?」
「嫌、だよ…助けるって、決めたんだ…!!」
無轟との鍔迫り合いで押されながらも、シャオは頑なに引く事をしない。
劣勢な状況でも戦おうとするシャオを見て、クウの心が揺れる。
「どいつも、こいつも…俺なんかの、為に…!!」
スピカは俺達を信じたから、『Sin化』を受け入れた。
シルビアもエンが自分のノーバディと知ってても、俺を信じてテラ達を導く役目を任せた。
ソラも暴走を止めてくれただけでなく、エンの攻撃から俺を助けてくれた。
そして、今。シャオが俺を信じてくれている。
「しまっ…うあああああっ!!?」
シャオの悲鳴が響き渡り、我に返る。
見ると、『モード・スタイル』の効果が切れたのか武器が二刀から最初のキーブレードに戻り、灼熱の炎に呑まれている。
クウはとっさに手を伸ばし、炎の濁流からシャオを守る様に腕に抱き込んだ。
「う、ぐあぁ…!!」
「師匠…っ!?」
シャオだけでも守ろうと抱え込むが、周りの炎が無慈悲に自分達を燃やし尽くそうと迫りくる。
もはやどうにも出来ない状況に、クウは歯を食い縛る。
(俺には、もう戦う力はない…だけど…“あの力”が、まだ残っているのなら…!!)
焼き尽くす炎の中で、僅かな希望と共に右手に力を込める。
(頼む…もう一度だけでいい。俺に――)
(――俺に、守る力を貸せぇ!!!)
二人を包んでいた炎が、一気に膨張して天井にも届く火柱となる。
この光景は神無達だけでなく、入ってきたレイア達も目撃していた。
「クウ…!?」
「クウ、さん…?」
この光景にカイリとレイアが茫然となる中、遠くで見ていたブレイズと神無も息を呑んだ。
「このような終わり方…あるのか?」
「親父…」
「――人を、勝手に…殺してんじゃ…ねぇよ…!!」
誰も言葉を失う中、二人を呑み込んだ火柱から声が発せられる。
同時に、火柱が一気に爆発し火の粉となって霧散した。
そうして、少し前に起きた記憶を蘇らせる。
『――分かった。私もすぐに向かおう』
クウを探し庭園を見回っていた際に爆発が起き、少しして毘羯羅が誰かと連絡を取っていた。
やがて通信を切るのを見計らい、何が起こっているのかを聞いた。
『一体何があったんですか?』
『クウと言う男を見つけた、が…どう言う訳か、無轟が襲っているそうだ』
『どうして!?』
『それを今から確かめに行く。お前はここに残れ』
その毘羯羅の指示に、納得がいかず詰め寄ってしまう。
『何故ですか!?』
『お前には迷いが見える。僅かな疑心は、時に大きな過ちを生み出すぞ』
『っ!?』
まるで心の内を覗かれたような言葉に、思わず動きを止めてしまう。
その隙を突く様に、毘羯羅は背を向けると更に言葉を述べた。
『ここで一度、自身の心を見つめ直せ。その迷いが消えたと感じたのなら、修練場に来るがいい』
それだけ言うと毘羯羅は去って行き、一人庭園に取り残された。
ここまでの記憶を蘇らせると、アクアはお守りを取り出して見つめる。
「マスター…私は、どうすれば良いのですか…?」
小さく呟き、自身の迷いに思いを巡らせる。
闇を宿しているが、クウやスピカが悪い人ではないのは分かる。だから、いなくなってしまったクウを探そうとした。
だが、闇は存在してはならないと言うマスターの教えも忘れた訳じゃない。本来の時代で旅してた時も闇の住人がテラとヴェンを狙っていたし、今回の旅の敵だって闇を宿している。
何故、無轟はこのような事を起したのだろうか…。
「アクアー!!」
そうして考え込んでいた時、大声で呼びかけられる。
急いで振り向くと、そこにはヴェンとテラが近づいていた。
「ヴェン、それにテラも!? 動いて大丈夫なの!?」
「ある程度はな。それよりアクア、どうしてここに?」
「そうだよ! 今はクウが大変なんだ、アクアも早く行かないと!」
ヴェンが急かす様に詰め寄ると、アクアの顔が僅かに引き攣った。
「二人とも…」
僅かながらもアクアの迷いに気付いたのか、ヴェンが悲しげな表情を浮かべる。
「アクア…クウの事、やっぱり疑ってる? 前のテラみたいに…」
「違うの!! 私は――!!」
「アクア、聞いてくれないか?」
誤解を解こうとするアクアに、不意にテラが口を開く。
突然のテラの言葉に、アクアだけでなくヴェンも口を閉ざして注目する。
そんな二人の視線を浴びながら、テラは自分の掌を見つめながら話し出した。
「アクアの言う通り…俺は、闇の力に手を染めた」
「「テラ…!?」」
突然の告白に、二人が息を呑む。
だが、テラは怯む事無く話を続ける。
「だから、俺は闇と向き合う事にした。闇に落ちるのではなく、闇を自分の力にしようとしたんだ。そんな中でいろんな人に出会って…いろんな事を教えられた。例え闇に身を染めても…変わらぬ心の事をな」
「変わらぬ、心…」
アクアが呟くと、テラは笑いながらポケットに手を入れる。
そこから取り出したのは、オレンジで作った星の形をしたお守り。
承認試験の前日に渡した物だ。
「アクア、ヴェン…俺達は、まだ繋がってるよな?」
何処か確信を持ちながら、テラは『つながりのお守り』を二人に見せる。
そんなテラに、ヴェンもポケットに手を入れる。
「当たり前だろ!! テラもアクアも…俺の大事な友達だ!!」
ヴェンも『つながりのお守り』を取り出し、テラと同じように前に差し出す。
まるで最初にお守りを渡した時のように見えて、アクアも手に持ってたお守りを同じように見せ合う。
ふと二人の顔を見ると、こちらを見て笑っている。この光景に、アクアの中にあった迷いが晴れた。
「テラ、ヴェン…ごめんなさい。仲間も信じられないなんて…私、マスター失格ね」
そう言うと、心の蟠りが取れたのか穏やかに笑いかける。
一度は亀裂が出来て別れても、こうして繋がっていた。誰かを信じる事。誰かと繋がっている事を忘れなければ、きっと大丈夫なのに…どうして忘れてしまってたのだろう?
自分の失態に若干落ち込むアクアに、二人は何処かおかしそうに笑い出した。
「マスターになって、頭が余計に固くなったんじゃない?」
「確かに、アクアは真面目すぎる所があるからな」
「もう、二人とも!?」
ヴェンとテラの言葉に、すかさずアクアが叱り付ける。
それでも笑う二人に、怒ってたアクアも釣られるように笑ってしまった。
「ハハッ…それじゃあ、行こう!!」
三人が一頻り笑うと、ヴェンが元気よく声をかける。
そして、テラとアクアも大きく頷いた。
天空に聳えたつ塔の上空。
そこで『干将・莫耶』の力で桃色の羽衣を纏った紗那が、天を舞っていた。
「――ハッ!」
否、塔の壁を一歩一歩蹴りながら下の城へとゆっくり降りている。
そんな紗那の背中にはレイアが背負われ、隣には羽衣に巻かれたヴァイもいる。
「もー、塔を上ってた途端にこんな騒ぎがあるなんてー!!」
「でも、ある意味で丁度良かったわ。それよりレイアちゃん、大丈夫?」
空中を羽根のように緩やかに降りながら、紗那は背負うレイアに声をかける。
「すみま、せん…本当に…!」
息を途切れさせつつも、どうにか言葉を返すレイア。
先程よりも顔色が悪いレイアに、ヴァイは不安を浮かべた。
「…ねえ、本当にいくの? おじ…無轟さん、とっても強いんだよ? 今の状態じゃ、あなたが死んじゃうかもしれない…」
「分かって、ます…一緒に、旅しましたから…」
身体を気遣うヴァイに、レイアは拳を握り締めながら真っ直ぐに煙の上がる修練場に目を向ける。
「それでも…決めたんです。どんな時でも、クウさんの傍にいるって…!!」
例え拒絶させられても、危険な場所でも、彼の傍にいる。それが、今自分が出来る唯一の事だから。
そうこうしていると、紗那は思いっきり塔の壁を蹴って城の屋根へと着地する。すると、そこから大きく跳躍して屋根伝いに移動する。
屋根伝いに移動すれば、城の廊下と違いほぼ一本道となる。こうして時間短縮し、三人は目的の場所に近づく。
「お前ら、止まれ!!」
だが、突然男性の声が響くと共に目の前に土の壁が現れる。
さすがの紗那も空中で停止し、修練場の入口から少し離れた地点で地面に降り立つ。その間に、ヴァイは声のした方を見た。
「刃沙羅さん!? それに、アレスティアさんも…!?」
目の前には、刃沙羅とアレスティアの二人が険しい目でこちらを見ている。
「ここから先は危険よ。あなた達だけじゃどうにもならない」
「ここは俺らに任せて、お前らはすぐに救援を呼んでくれ」
「退いてください!! あの中に、クウさんが…!!」
進路を塞ぐ二人に、背負われるレイアが堪らず叫ぶ。
必死なレイアに僅かに顔を歪めるが、すぐに厳しい言葉を浴びせた。
「悪いが、お前を通す事は出来ない。まだ体調が良くないだろ?」
「それに、クウって人はエンと言う人物なのでしょう? 例え中身が別人でも、信用は出来ない」
「クウさんは…そんな人じゃ、ありません!! だから、退いてください!!」
カルマと組んでいる敵である事に疑いをかけるアレスティアに、堪らずレイアが否定した時だ。
「レイアっ!!」
一人の少女の声が響き、全員が視線を向ける。
そこには今しがた来たのか、カイリがいた。後ろにはリクとオパールもいる。
「あんたらは…!?」
怪我人が来た事に、刃沙羅の表情が更に険しくなる。
すると、オパールが対抗するように刃沙羅を睨んで近づき、やがて向かい合う形で足を止めた。
「退いて」
「お前まで何を――」
「いいから…――さっさと退けぇ!!!」
怒鳴るなり、オパールは刃沙羅の両足の間に足を思いっきり振り上げ―――会心の一撃を振り翳した。
ドガァ!!!
「ぐおああああああああっ!!!??」
「だ、大丈――!?」
百戦錬磨の刃沙羅でも耐え切れない激痛なのか、その場で蹲り悶え苦しむ。
これにはレイアも回復魔法をかけようとするが、その前にオパールが紗那の腕を掴んだ。
「ほら、行くわよ!!」
「急いで!!」
「え、ええっ!!」
「ふぇええええっ!?」
オパールだけでなくカイリも声をかけると、紗那は困惑しながらもレイアとヴァイを連れて先を急ぐ。
走り去りながらレイアの悲鳴が上がる中、残されたのは顔を引き攣らせるリクとアレスティア、そしての苦悶の声を上げて蹲る刃沙羅だった。
「…とりあえず回復させとくから、誰か呼んで来てくれ」
「わ、分かったわ…」
男として放って置けないのかリクが指示を出すと、アレスティアもそれに従う。
そんな中、女子五人が障害を突破して神殿の入口へと入っていると、レイアがオパールに質問した。
「オパールさん、どうして…!?」
「あんたの彼氏がピンチなんでしょ!! だったら急ぐ!!」
「あの…!? クウさんの事、信じてくれるんですか…!?」
「信じるも何も、あいつとは別人なんでしょ!? なら、それでいいじゃない!! そんな事いちいち気にしてたら、リクと一緒になんていないんだから!!」
「オパールさん…!!」
乱暴に言いつつも、クウの事を信じてくれるオパールにレイアは涙ぐむ。
そんなレイアに、横にいるカイリが笑いかけた。
「大丈夫。みんな、進むべき道を取り戻し始めてる。レイアと同じようにね」
「…はい!」
「つぅ…!!」
灼熱の空間に耐えながら、小人サイズになったクウを頭に乗せながら斬り込もうとするシャオ。
だが、無轟の握る刀と爆炎に憚られ攻撃が届かない上に近づけない。
(『マスターキー・モード』になればって思ったけど、考えが甘かった…!)
戦えない状態のクウをこうして自分の手元に置き、自分の持つ最大の力で一気にケリをつける。
考えとしてはいい線だったが、実行に移した際に一つだけ誤算があった。
戦う相手が強すぎる。
「そこだ!!」
「ぐぁ!」
そんな事を考えていた隙を突き、無轟が一気に斬り込んできた。
シャオは辛うじて防御するが、クウと共に思いっきり吹き飛ばされてしまう。
その時、『ミニマム』の効果が切れたのかクウが元の大きさに戻った。
「魔法が…!?」
「終いだぁ!!」
すぐに自分の身体を確認するクウに、無轟が『炎産霊神』を放つ。
刀に炎熱を纏い、斬り込んだ…寸前、目の前で庇うようにシャオが二刀でその刃と炎熱を受け止めた。
「ぐうぅ…!!」
「シャオ、もう止めろっ!?」
「嫌、だよ…助けるって、決めたんだ…!!」
無轟との鍔迫り合いで押されながらも、シャオは頑なに引く事をしない。
劣勢な状況でも戦おうとするシャオを見て、クウの心が揺れる。
「どいつも、こいつも…俺なんかの、為に…!!」
スピカは俺達を信じたから、『Sin化』を受け入れた。
シルビアもエンが自分のノーバディと知ってても、俺を信じてテラ達を導く役目を任せた。
ソラも暴走を止めてくれただけでなく、エンの攻撃から俺を助けてくれた。
そして、今。シャオが俺を信じてくれている。
「しまっ…うあああああっ!!?」
シャオの悲鳴が響き渡り、我に返る。
見ると、『モード・スタイル』の効果が切れたのか武器が二刀から最初のキーブレードに戻り、灼熱の炎に呑まれている。
クウはとっさに手を伸ばし、炎の濁流からシャオを守る様に腕に抱き込んだ。
「う、ぐあぁ…!!」
「師匠…っ!?」
シャオだけでも守ろうと抱え込むが、周りの炎が無慈悲に自分達を燃やし尽くそうと迫りくる。
もはやどうにも出来ない状況に、クウは歯を食い縛る。
(俺には、もう戦う力はない…だけど…“あの力”が、まだ残っているのなら…!!)
焼き尽くす炎の中で、僅かな希望と共に右手に力を込める。
(頼む…もう一度だけでいい。俺に――)
(――俺に、守る力を貸せぇ!!!)
二人を包んでいた炎が、一気に膨張して天井にも届く火柱となる。
この光景は神無達だけでなく、入ってきたレイア達も目撃していた。
「クウ…!?」
「クウ、さん…?」
この光景にカイリとレイアが茫然となる中、遠くで見ていたブレイズと神無も息を呑んだ。
「このような終わり方…あるのか?」
「親父…」
「――人を、勝手に…殺してんじゃ…ねぇよ…!!」
誰も言葉を失う中、二人を呑み込んだ火柱から声が発せられる。
同時に、火柱が一気に爆発し火の粉となって霧散した。